じゃあ盗賊だけさくっとやっちゃって
エーシル王国の王都、アース。
エーシル王国領の中央に位置する交通の要衝である。
平原の中央であるため魔物による被害も非情に少なく、王国中からあらゆる人材・物品が集まる、るつぼのような都市でもある。
「一番いい部屋を頼む」
ふふっ、これ言ってみたかったんだよね。
私たちはいま王都で一番いい宿にきている。
ヴァララローグ撃退イベントのおかげで財布にかなり余裕ができたし、これくらいの贅沢は許されるかなと思ったからだ。
案内された部屋はスウィートルーム。
この世界でもやっぱり最上級の部屋の構造はあちらの世界とにた感じで、ベッドルームとリビングルーム、ダイニングルームが一続きになっている。
家具も調度品も格式の高そうな物がふんだんに使われている。
これだけ豪華な部屋だけど二人で一泊あたりお値段たったの銀貨10枚!
いや、リグルーで泊まってた宿が二人で一泊銀貨1枚いかないくらいだから、ものすごく高いねこれ……。
10日泊まれば金貨1枚だし、うん、次の街からはもうちょっと安い宿にしよう。
「おぉ、この布団すごい柔らかいな。ぽんぽん飛べるしなんだか面白いぞこれ」
ロウ君がベッドの上ではしゃいでる。子供かっ!
「はいはい、お布団の上で飛ばないの。ほこりが出るでしょ」
「おっと、すまんすまん。つい面白くてなー」
「まだ昼過ぎで時間も余裕あるし、例の商会さんのところに行こうと思うんだけどいいかな?」
「ん、ああ、あのおっさんのとこか。俺はかまわないよ。というか基本的に行き先はマオに全部任せる」
うーん、せっかく王都にきたのにこの男は見たいところとかないのかなあ。
楽だからいいけどもうちょっと主体性を持ってくれてもいいと思うんだけど。
「なんだよ、俺のことじろじろ見て。なにかついてるのか?」
「いーや、なんでもないよ。じゃあ行こうか」
宿の世話係(この宿にはなんと世話係、つまりコンシェルジュがいた!)に商会名を告げて行き方を教えてもらい、早速向かう。
幸い道順はとても簡単で、大通りを真っ直ぐすすむだけでその店は見つかった。
「でっ、でかい……」
王都の中心あたりにある大きな十字路の一角にたつ巨大な建築物。
日本にあった大型ホームセンターと同じくらいの規模だ。
その軒先にでかでかと「ギムレー商会本店」と書いてあるからここが目的地であることは間違いないだろう。
意を決して店内に足を踏み入れる。
すると真横から、いらっしゃいませ!と元気な声が飛んできた。
どうやら案内係の店員さんが待機していたみたいだった。
優しげな印象のある美人のお姉さんだった。
「あの、ギムレーさんに会いに来たんですけど」
「会長にでしょうか? 失礼ですが面会のお約束などは……?」
む、それもそうか。
でもあの人王都にきたら寄ってくれとしか言ってなかったしなあ。
うーん。名前出したら伝わるかな?
「えーと、そういうのはしてないと思うんですけど、あの、私マオっていいます。なにか会長さんから聞いていませんか?」
「マオさんですか……マオさん……あっ! そういえば言っていた気がします。今確認してきますので少々お待ち下さい」
そう言うと彼女は駆け足で店の奥の方に消えていった。
戻ってくるまで手持ち無沙汰だから店内でも見て回ろうかな、とも思ったけどそれで行き違いになるのも変な話だし、ここでおとなしくしていよう。
しばらくすると、彼女が駆け足で戻ってきた。
走るたびにわずかに揺れるお胸様が愛らしい。
「お待たせしました、マオさんとそれにロウさんで間違いないですよね。
会長がお待ちですのでどうぞこちらへ」
案内されたのは店の奥にある従業員のための小屋だった。
事務作業などはこちらでやってるんだろうな。
小屋の中にある応接室に入ると、奥に素敵なおひげのおじさんが座っている。
「やあやあようこそ、マオさん、ロウさん。
いつぞやは本当にお世話になりました。
ささっ、どうぞこちらへおかけください」
「お久しぶりです、ギムレーさん」
「おっちゃんも元気そうでなによりだ」
おひげのおじさんの名前はギムレー。
王都に来る途中でたまたま出会った商人さんだ。
どうして私たちがこんな風に歓待されているかというと……。
◆ ◆ ◆
「おいマオ、向こうに人がいるぞ」
そのとき私達は王都を目指して街道をのんびり歩いていた。
「何人くらい?」
「ざっと20人だな。止まっているみたいだ」
「ふーん、なんかあったのかな? ちょっと急ごうか」
「了解」
駆け足で向かうと、剣戟の響きが聞こえてきた。
これはひょっとして襲撃イベント!?
くぅー、ワクワクしてきた!
「ロウ君! 誰かが盗賊か何かに襲われてるみたい! 区別つけられるかな?」
「んー、ま、なんとかなるかな」
「じゃあ盗賊だけさくっとやっちゃって!」
「了解」
そういってロウ君は物凄い勢いで駆け出していった。
まだ数百メートルあるけど、あの速度なら数秒でつくかな。
◆ ◆ ◆
「くそっ、数が多すぎるっ!!」
「なんとしてもギムレーさんを守りきるぞっ!!」
ギムレーたちは絶体絶命の危機に陥っていた。
普段であれば護衛として冒険者を十分な数だけ雇い、安全第一で移動している。
しかし、そのときはちょっとした事件のせいで予定が遅れていたことから、速度重視で十分な数の冒険者を雇っていなかった。
めったに野盗なんて出ないから一日に2、3度ほど現れる魔物や亜獣を倒せれば十分だとも思っていた、というのもある。
しかし運の悪いことに、盗賊たちの活動とギムレーたちの移動の日取りが一致してしまったのである。
ああ、ツイてないな、とギムレーは率直な感想を抱いていた。
馬車の数は2台。それぞれに二人ずつ乗せる形で、冒険者を4人雇っていた。
しかし、対する盗賊の数は全部で13人。
実に3倍の人数差がある。
もしも護衛に飛び抜けて強い人物――それこそミスリル級冒険者のような――がいれば、この人数差でも問題なかったに違いない。
けれどよっぽど重要な案件でもない限り、高額なミスリル級冒険者など雇ったりしない。
今回も中堅どころの銀級冒険者でかためているし、普通はそれで十分なのだ。
しかし銀級程度の実力では、圧倒的な人数差を覆すことは出来ない。
それまでの道中で護衛たちの人となりを見ていたギムレーは、気のいい連中なだけにこうなってしまったのは非情に残念なことだと、すでに諦めていた。
この世界に絶対の安全なんてない。
いくら戦争のない平和な世の中になったとしても、食いっぱぐれて野盗に身を落とす連中は後を絶たない。
順調だった商人人生も今日までか、なんてことを思っていた。
その時である。
強い風が吹いた。
巻き上がる砂に目をやられないよう、咄嗟に目を閉じる。
直後、ばたりばたりと、次々と重いものが地面に転がり落ちるような音がした。
一体何が――?
気づけば、先程まで続いていた剣戟の音が止んでいた。
風も収まったようだ。
何が起こったのか確認しようとゆっくりと目をあけていく。
「あ、あなたは一体……」
護衛の冒険者の声が聞こえる。
よかった、味方はどうやら無事なようだ。
あたりを見回せば先程まで自分たちを囲っていたはずの盗賊たちが全員、地に伏していた。
その中で一人、半裸に手甲という奇妙な装いをした長髪の男が立っていた。
武器も持たず、自然体で息一つ乱すことない、悠然とした佇まいだった。
「あんたら、大丈夫か?
賊っぽいのは一応全部殺したつもりだが、間違ってたらすまんな」
「え、ええ。こちらは全員無事なようです。
盗賊共も伏兵がいなければおそらく全滅しているかと……
失礼ですがあなたは一体?」
「潜んでるやつは少なくとも2000メートル以内にはいないな。
あー、俺は旅してるんだが、あー、こういうときはマオがいないとわからんな」
マオ、というのはこの男の連れだろうか。
いろいろと聞きたいがどうにも歯切れが悪いのでそのマオとやらを待ったほうがよさそうだ。
「おっ、ロウ君おわったー? お姫様とかいた?」
「ああ、終わったよ。きっちり盗賊だけやっておいた」
「そうかそうか、うんうん、ご苦労ご苦労」
少し待っていると遅れて女の子がやってきた。
話しぶりからすると男の雇い主だろうか?
それにしても随分幼く見える。
「失礼ですが、あなたがマオさん、でしょうか?」
「あ、そうですよ。私がマオさんです。こっちはロウ君。
私の……うーん、なんだろう、旅の相棒? 護衛? 懐刀?
うん、まあとにかくそういう感じで一緒に旅してる人です」
「なるほど、お二人で旅を」
「ええ、それで歩いていたら遠くで誰かが襲われてそうだったので、微力ながら助太刀させてもらったんですけど、ご迷惑でしたかね?」
「いえいえ、とんでもない。もしロウさんにきていただかなければ今頃われわれは剣の錆になっていたところですよ」
「ああ、それならよかった。
あ、別にお礼にお金とか要らないですからね。
勝手にやったことなので」
「いえいえ、そんなわけには……。
しかしそうですね、お二人はこれから王都へ向かうところですかね?」
この街道はまっすぐ王都につながっている。
途中にいくつか小さな街があるが、時期的にも王都に向かっていると考えるのが妥当だ。
「そうですね、そのつもりです」
「であれば話が早い。私は王都でちょっとした商会を営んでおりまして、よければ王都に着いた際ぜひお越しください。便宜を図らせていただきますよ」
「ええ、そのときは寄ってみますね」
「お待ちしていますよ。そういえばまだ名前を名乗っておりませんでしたね。
私の名前はギムレー。
ギムレー商会の会長をやっております」




