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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第1話 冒険のはじまりは伝説のはじまり? はじまりの街、リグルー
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驚いたのはこっちの方

「その妖魔の男ってのはどんなやつなんだろうな」

「さあね、商隊の護衛が手も足も出なかったっていうし、依頼の報酬のことも考えるとロウ君でも勝てないかもね?」

「そいつは楽しみだな。外の世界にきてから骨のある奴がいなかったから修行になるか不安だったところだよ」

「ふうん、そんな風に思ってたんだ。ちょっと意外だな」


 私達はいま、ヴォークハルトさんに連れられて街道沿いを歩いている。

 街から二時間ほど歩いたところで妖魔の男、ヴァララローグが待ち構えているそうだ。

 一本道だから私達だけ行けばいいところなんだけど、街から近いことだし一部始終を見届けておきたいらしい。

 この人ひょっとしたら暇なのかな、なんて思ったのはここだけの話だ。


「へえ、こいつはすごいな」


 しばらく歩いた頃、ロウ君が突然そんなことを呟いた。


「うん? ロウ君どうしたの?」

「いや、この先にやたらでかい生命がいるみたいでな、ちょっと感心した」

「ほう、この距離で奴の反応を捉えられるとはロウは優れた斥候でもあるんだな」


 ふうん、やっぱそれなりに強いとロウ君の生体感知でも反応の強さに違いが出てくるのかな?

 あ、遠くの方でなんか揺らめいてるな。

 なるほど、こりゃ確かに通れそうもない。

 炎の壁が広範囲に広がってるのがここからでもわかる。


「あの炎の向こうに奴がいる」

「え? じゃあこの炎を抜けないといけないんですか?

 いやですよ熱いのは死んじゃいます」

「安心しろ、声をかけたら道を作ってくれる。どうやら律儀なやつみたいでな」


 あ、そうなんだ。

 なんていうか……悪意があるんだかないんだか、よくわからない人だなあ。

 こちらから手を出さない限りはあちらも手を出さないみたいだし、人質を取るわけでもなく安全な方法で要求してきてるし。

 ただ好きなように生きてるだけでわざわざ人に迷惑をかける事を楽しんでるわけではないのかな。


 そんな事を考えてる間に炎の壁の目の前についた。

 壁は高さ2メートル位あって中が見えない。

 こんだけ燃え盛ってて延焼しないのは不思議だな。これも魔法なのかな。


「じゃ、声をかけるぞ。

 ――おーい! 街で一番強いやつを連れてきたぞ! 開けてくれ!」


 ヴォークハルトさんが大声を出すと、炎の壁が一部鎮火して通り道ができた。

 向こうに腕を組んで仁王立ちしている人影が見える。

 あれがヴァララローグに違いない。


「やっときたかァ! 骨のあるやつを連れてきたンだろうなァ!?」


 彼は妖魔族らしいが、どうみてもヒューマンにしか見えない。

 身長はロウ君と同じくらいだけど、全体的に正反対な印象を受ける。

 ロウ君はぼさっとした印象だけど、彼は全体的に鋭い、一本の剣のように感じる。

 髪は黄金色で肌は白く透き通っている。うん、美形だな。

 目つきは鋭くてちょっと怖いけど、なんか熱い情熱のようなものが滾っている気がする。

 ってこれ気のせいじゃないな、ほんとに瞳の中が燃えてる。

 よく見たら爪も獣みたいに尖ってるし、不敵に笑っている口元からは牙が見え隠れしている。


 うん、これヒューマンじゃないね。

 妖魔族ってよくわからなかったけど、現物見てわかった。

 ()()()()()()()ってことがね。


「こっちの兄ちゃんがお前さんの相手をしてくれる。俺たち二人は付き添いだ」

「じゃ、ロウ君あとは頑張ってね。殺しちゃってもいいけど……話ができそうな相手なら殺さないでね」

「わかった」


 まあ、あとはロウ君に任せましょう。


 ◆ ◆ ◆


 二人が下がって距離をとったのを確認してから、目の前の男の様子を観察する。

 できれば殺さないでくれっていうことだが、さすがに最初から完全に手を抜くわけにはいかなそうだな。


「オメェが今度の相手かァ?

 ずいぶんヒョロっちィみたいだが楽しませてくれるんだろうなァ?」

「生憎だがあんたを楽しませるつもりはないよ。

 殺してもいいってことだからな、さっさと殺させてもらうことにするよ」

「随分威勢がいいみたいじゃねェか!

 そういうのはまずオレの一撃を耐えてから言うんだなァッ!!」


 男はそう叫ぶが否や、猛烈な勢いでこちらに突っ込んでくる。

 その右手にはいつの間に抜いたのか、真っ黒な大剣を握っている。

 下手に受ければ無視できない傷をもらうかもしれないーー。

 そう思い冷静に横薙ぎに振るわれる剣閃を見切り、当たる寸前にその間合いから飛び退く。


 あれだけ重厚な大剣だ。

 並の膂力では振り切ったときに体を引っ張られ体勢を崩しかねない。

 しかし目の前の男は一振りしたあとも体勢を崩すことなく、その勢いを完全に制御して次の一撃に繋げようとしている。


 次の一撃は縦一閃。

 こちらがまだ後方に飛び退いて空中にいるのをいいことに回避不能の一撃を叩きつけてこようとしている。

 男がニヤリと不敵に笑う。


 それなら――【天歩(テンポ)】!


 振り下ろされる直前、中空に足場を生み出し、それを蹴って更に距離を取る。

 するりと抜けた場所では大剣が地面をえぐり、辺りに礫を飛ばしていた。

 流石にあれをまともに食らったら痛そうだな。


「へェ、いまのを避けるかァ! ちったァやるみてェじゃねェの!」

「そういうあんたもなかなかいい腕だな」

「嬉しいねェ!」


 男は再び飛び込んでくる。

 しかし一度みた剣だ、なんの危なげもなく回避していく。

 一撃、二撃、三撃。

 今度は次々と横薙ぎに振るってこちらが回避しきれなくなるのを待つ作戦みたいだ。

 しかしその作戦は意味がない。

 振れば振るほど剣筋を理解し、見切りにも余裕が出てくる。

【天歩】に回数制限などというものはなく、故に回避行動は無制限にできる。


「おらおらおらおらァ! どうしたァ! 避けてばっかりじゃつまんねェぞォ!」


 そろそろ頃合いか。

 相手の力量は把握しきった。

 この勝負――俺に負ける道理はないだろう。


「なら今度はこちらから行かせてもらう」


 相手が剣を振るった直後、今度は後方に飛びぬくことなくその一閃を回避する。

 すなわち、その剣先をくぐり抜け、一気に男に肉薄する。


「なァッ!?」


 おそらく男の目には俺が一瞬消えたように見えただろう。

 驚きの声を上げ、姿を探す。

 わざわざ存在感を消しているわけではないのですぐに見つかってしまうが、一瞬の隙さえ作ることができれば問題ない。


 すでに準備は整っている。

 軽く握った拳を男の体にあて、軽く呼吸する。

 そして全身のあらゆるエネルギーを操り、一点に集約。

 回転させるかのように腕をふるい、密着させた拳から一撃を放つ。


 奥義、【螺旋寸勁(ラセンスンケイ)


 仙術拳法の奥義は全てが一撃必殺。

 なるべく殺すなと言われてたけど、殺さずに無力化するのはちょっと面倒そうだったから諦めた。


「あちゃー、ロウ君殺しちゃったか。まあ仕方ないかあ」

「おいおい、強いとは思ってたがまさかこれほどまでとは……

 認定試験のときは随分手加減してたんだな……」


 奥義をもろに喰らって崩れ落ちた男を見下ろす。

 思ったより大したことなかったけど、やっぱ外の人ってあんま強くないのかなあ。

 たしかこいつの名前はヴァララ……なんだっけ?

 戦う前は結構強そうかななんて思ったけど拍子抜けだったし名前はまあいいか。

 生命力はかなりあるっぽかったんだ、け、……ど……?


 違和感を感じて、咄嗟に倒れた男から距離を取る。

 こいつもしかして……死んでいない!?


「痛てててて……いまのはなかなか効ィたぜおィ!?」


 ()()()()()の男がゆっくりと起き上がりながら愉快そうに告げる。


「まさかこの俺が倒れるなんてなァ、驚いたぜェ!!」

「いやいや、驚いたのはこっちの方さ。【螺旋寸勁ラセンスンケイ】をまともに喰らって立ち上がるとか……不死身なのか?」

「へぇ、今のはラセンスンケイって技なのか。

 なかなかいい技もってるなァ。

 その技に免じて質問に答えてやろゥ。

 答えは()()()()()だァ!」


 不死身、か。そいつは困ったな。

 さすがに不死身のやつを殺す技は仙術にはない。

 どうしたもんかなあ。


「さてェ、この俺を一撃で倒したんだァ、相手にとって不足はねェ。

 ここらで名乗りを上げさせてもらおうかァ!

 俺は炎と影の妖魔、ヴァララローグ!

 世界最強となるべく強者たちを求め世界中を旅する男だァ!」


 名乗りか。

 ってことはこの男は武人として俺と正々堂々と勝負がしたいっていうことだよな。

 ならその流儀に従うのも悪くはない、か。


「俺はロウ。

 クル山脈の最も若き仙術使い、ロウだ。

 世界最強とかにはそれほど興味はないが、俺の仙術がどこまで通用するか、試させてもらおう」

「ロウ、ね。

 よっしゃその名前ばっちり覚えたぞォ!

 遠慮は無用、殺す気でかかってきなァ!!」


 ◆ ◆ ◆


 目の前で二人の武人が互いの全力をぶつけ合っている。

 先程からどちらも一歩も譲らない、互角の戦いだ。


 一方私達はといえば、


「ねえヴォークハルトさん、そろそろお腹が空いてきたんだけど」

「奇遇だな、俺も流石にそろそろ帰って飯が食いたくなってきたところだよ」


 暇を持て余して雑談にふけっていた。

 街を出てきたのが昼前。二時間ほど歩き、ここについた。

 そして現在。時刻は間もなく日が暮れようとしている。


 そう、あの二人はかれこれ5時間近くも戦い続けているのである。

 ヴァララローグの攻撃は決してロウに届かず、ロウの攻撃はヴァララローグに当たりはすれど致命には至らない。

 互いに防御力が高すぎるがゆえに有効打がなく――いわば千日手状態に陥っている。

 当の本人たちはといえば、そんなことは気にしていないのか互いに全力を出し続けられることが楽しいようで、まったく終わらせる気配がない。


 そんな様子に見学組の二人はすっかり辟易して、ため息を付いていた。


「おっとォ、ロウ! 止まれ! 終わりだ!」


 するとどうしたことか、突然ヴァララローグが戦いを止めた。


「ん? どうした? まだ決着はついてないだろ?」

「あァ、決着はついてないが今日のところはここらで終わりだ。

 日が暮れちまうからなァ。

 俺はそろそろ帰らせてもらうぜェ!」


 きょとんとする、というのはまさにこんなときに使う言葉なんだろうな、とマオはなんとなく思っていた。


 あの男……ほんとわけわからないよ……。

 夕方になったから戦うのをやめるって、そんな話聞いたことないよ……。

 あれかな?

 妖魔族っていうのは定時をきっちり守らないと気がすまない公務員かなにかなのかな?


「ま、今回のところは十分楽しませてもらったからなァ!

 約束通りここはどいてやるぜェ!」

「そ、そうか……それはよかったよ。炎の壁もちゃんと消してくれると助かる」


 ヴォークハルトさんもさすがに展開についていけてなくてちょっとしどろもどろだ。

 そうだよね。こんな終わり方拍子抜けしちゃうよね。


「そりゃァもちろんよォ!

 ロウ! 次会うときを楽しみにしてるぜェ!

 じゃァな!」


 ヴァララローグは炎の壁を一瞬で消し去ったかと思うと、まるで影に溶け込むかのようにどこかに消えていってしまった。

 炎と影の妖魔、なんて名乗ってたのは伊達じゃないようだ。


「うーん、なんだか締まらない終わり方だけど、依頼は達成ってことでまあいっか!」

「結局殺せなかったし倒せたともいいにくいけど、いいのか?」

「うん、いいのいいの! ねっ、ヴォークハルトさん?」

「あ、ああそうだな……依頼は奴の撃退だ。

 街道が通れるようになったのだから達成扱いで大丈夫だ」

「さっ、というわけで帰って報酬もらって、今日はぱーっと飲みましょう!」




 さてさて、大金を手にしたロウとマオが次に向かうは王都アース。


 王国中からあらゆる人・物が集まるそこで、はたして二人はどんな事件に巻き込まれるのだろうか。


 二人の物語はまだ始まったばかりである。

――第1話 了


〜次回予告〜


道中でお約束の盗賊イベントをこなしながらも無事王都にたどり着いたロウとマオ。

王都一の商会の品揃えに感動するも、マオの身にかつてない危機が迫る!?

いつもは頼りになるロウも今回ばかりは役に立たず、持ち前の頭脳と知識を駆使してマオは一人奮闘するが果たして――!?


マオ「いよいよ私の知識チートが本領を発揮するときね! あ、これフリじゃないよ! まじだから!」


次回、第2話「乙女の危機と大商会」


お楽しみに!


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