私もそこそこ大きさあるんで!
「こりゃタイラントボアじゃねえか!
石ころの嬢ちゃんがどうしてこんな大物を!?」
タイラントボアを無事に狩り終えた私達は、解体所にきていた。
担当してもらってるのはもちろん、モフンを買い取ってもらったおっちゃんだ。
案の定おどろいてる。
計画通り!
「ふふん、私の手にかかればこんなのちょろいもんだよ!」
「丁寧に血抜き処理までしてあるし傷も最小限で状態もいいな……ほんとにこれ嬢ちゃんがやったのか?」
「……そっ、そうよ!」
「いややったのは俺だが」
ロウ君が口をはさんできた。
こういうことは正直にいわなくていいのに!
あ、ちなみに血抜きはもちろんロウ君にやってもらった。
さすが山ぐらしなだけあって手際がよかったな。
「だ、だよな。いくらなんでも石ころの嬢ちゃんがやれるわけないよな。しかし他に誰もついてきてないみたいだが、これ何人でやったんだ?」
「俺一人だよ」
「一人!? あんちゃん一体……ってその認識票、ミスリルかぁ!?
はー、なるほどねえ。そいつぁ納得だ」
おっちゃんが驚きまくってる。
ふふふ、いい気分だね。
思わずドヤ顔になってしまう。
「よし、査定おわったぞ。
今回は状態がいいから少しおまけもつけて銀貨23枚で買い取ろう。
認識票を出してくれ――おっと、嬢ちゃんじゃなくてあんちゃんのやつな」
ちぇ、さすがに私が倒したことにはしてくれないか。
結構細かいなあ。
◆ ◆ ◆
「いやー、でもすごかったよ、ロウ君!
身動き取れなくなったところに容赦なく奥義で一撃!
いやー、えげつないえげつない。格好良い台詞まで言っちゃってさ。
やればできるじゃん!」
「そりゃどーも」
狩りを切り上げた私達は街に戻って、今は酒場で祝杯を上げていた。
といってもお酒を飲んでいるのは私だけで、ロウ君は果実水だけど。
意外とお子様なんだなあ。
ん、このお酒おいしい。
アルコール控えめだし、さわやかな酸味が癖になる。
なんとなくぶどうジュースに似た風味だけど、薄いオレンジ色だしぶどうを使ってる感じはしないなあ。
これ何が原料なんだろう?
ま、おいしいからいっか。
日本にいたときもお酒の原料とかあんまりきにしてなかったしね。
うん、チャルートね、覚えとこ。
それにしてもこの世界の料理はやっぱりうまい。
誰だ異世界の料理が遅れてるなんていってるやつは。
今日は調査を兼ねて、いろんな料理を頼んでみているんだけどバリエーションも豊か。
煮る、茹でる、焼く、炒める、揚げる。
このあたりの調理法はバッチリ確立されてるみたいだ。
蒸し料理はこの店は扱ってないみたいだけど、こりゃひょっとしたら別の地方なら扱ってるかも。
特に今日の料理の中で私の心を射止めたのはカケットというものだ。
これがどんな料理かというと、サクサクとした食感の香ばしい衣の中に、茹でた芋と挽肉、それと細かく刻んだ野菜を混ぜこんだ物が入っている、というものだ。
要するにコロッケだ。
実際に使われている食材はちょっとずつ異なっていそうだけど、日本人が見れば10人が10人はこれはコロッケだ! と叫ぶと思う。
しかも、めちゃくちゃうまいときた。
なんだろう、衣がおいしいのかな。なんか懐かしい味がするんだよね。
これで一品あたり高いものでもお値段なんと銅貨10枚くらいときた。
10品頼んでも銀貨1枚。
一日で銀貨20枚近く稼げるのになんでこんなに安いのかな、なんて思ったけど、よくよく考えたらタイラントボアって5人がかりで倒すんだよね。
しかもそれでも怪我する可能性があるっていう。
私達はロウ君が一人であっさりと倒しちゃうから安全にボロ儲けできる。
うん、やっぱこの男チートだな。くっそうらやましい。
まあでも、これで少なくとも生活費に関しては心配しなくて良さそうだってことはわかった。
「さてと、じゃあちょっと私は一仕事してこようかな」
「ん? 仕事? なにするんだ?」
「あ、ロウ君はここでご飯食べててくれていいよ。
ま、店から出るわけじゃないから」
そういってお酒を持って立ち上がる。
ロウ君はよくわかってないみたいだけど、首をかしげたあと、まあいいかといって目の前の料理に再び集中し始めた。
店内をぐるりと見回す。
さて、どこかによさそうなグループは……、お、あそこの冒険者っぽい二人組みが良さそうかな。
「ねえねえお兄さんたち、ここいい?」
「ん、なんだお嬢ちゃん。飯でもたかりにきたかあ?」
「やだなあ、ちょっと儲かったから一人で飲むのも勿体無いし、一緒に飲もうって誘ってるだけだよ」
「へえそいつはいいな、もちろんお嬢ちゃんが奢ってくれるってことだろう?」
「そりゃもちろん!」
私の目的はもちろん情報収集だ。
冒険者ってのは奢りと美少女に弱いって相場が決まってる。
え? 自分で美少女とか言うなって?
実際そうなんだから仕方ないよね!
「そういやお前今朝の話聞いたかよ?」
「ん? 今朝の話? なんかあったのか?」
二人のお兄さんと楽しくお酒を飲んでいたらふと思い出したように片方(モブ顔)が切り出した。
モブ顔は続ける。
「ああ、なんでも今朝冒険者登録をした二人組がいるみたいなんだがよ、これがすげえちぐはぐな二人だったそうだ」
「へえ、どんななんだ?」
「男と女だったそうだが、男のほうがあのヴォークハルト氏を瞬殺したそうだ。相当腕が立つみたいで、『月の鬼』の再来だなんて言うやつもでるくらいだ」
「まじかよ……」
「『月の鬼』?」
気になる単語が出てきた。二つ名かな?
「嬢ちゃんはしらないのか? 二年前にふらっと現れた凄腕の冒険者なんだけどよ、まるで月みたいに綺麗な人でな、当時は俺たちも含めてこの街の冒険者みんな骨抜きになっちまってたな」
「たしか彼女もヴォークハルト氏を容赦なく叩きのめしてたよな?」
「ああ、あの戦いは美しかったな。無駄のない動きと洗練された技、そして揺れるおっぱい……最高だった」
おっぱいて。
目の前に乙女がいるんですけどそういう話はやめてもらえますかね。
うわっていうかおっぱい談義に話がそれてるよ、どこどこの娘がなかなかいい形だとかそういう生々しい話は私がいないときにしてください。
「そんなことより」
「ん? なんだい嬢ちゃん。
やっぱり嬢ちゃんもおっきいおっぱいには憧れるのか?」
「いやそうじゃなくて! 私もそこそこ大きさあるんで!
……ってそうじゃなくて!」
「へえ、そいつはぜひ見せてもらいたいな――痛ぇっ! 蹴るなって冗談だから! 冗談だから!」
「これだから男子は……。
えっと、さっき話してた二人組のもう一人はどんな人なの?」
一応どんな噂になってるか聞いてみたい。
「ああ、なんかすっげえ小さい子どもだったらしいが、その男の連れって言うんでみんな期待してたんだけどよ、これが笑っちまうの! 剣すらまともに握れねえド素人だってんだからな! ヴォークハルト氏もこんなのは初めてだっつって逆の意味で騒然としてたらしいぞ」
「なんだそりゃあ? 子供のおままごとか? いいとこのお嬢ちゃんがわがままでも言って遊びに来たって話か」
「そうそう、それでついた二つ名が『転倒姫』よ。認定試験で盛大にコケたもんでそういわれてるそうだ。ホント傑作だよな」
「あはははは、それはおもしろいですねー」
見る人が見ればマオの表情は目が死んでいるとか、ジト目とか、顔が笑ってないとか、そんな風に評したことだろう。
しかしここにいるのはすっかり気分が良くなった酔っぱらい二人と、必死に蹴るのを我慢している当の本人だけである。
「姫さんっていえばさ」
モブ顔ではない方の男(髪の毛がとんがってて一角獣みたいになってる)がひとしきり笑ったあと、次の話題を切り出した。
「来月だっけ? この国のお姫様のお披露目式ってのは」
ほう、お姫様のお披露目式とな?
これはおもしろそう。
「ああ、たしかそうだな。祭も一緒にやるっつってたし時期を合わせて王都まで行くのも悪くないかもな」
「お姫様かあ。ちょっと憧れちゃうな。やっぱり可愛いのかな?」
「おっ、嬢ちゃんもやっぱ女だねえ。可愛いかどうかは王宮の人間くらいしかしらないだろうな。まあ嬢ちゃんのほうが可愛かったりするかもな」
「俺は遠くの美少女よりこうして一緒に飲める可愛い子のほうがいいね!」
「ははは、二人とも、褒めたってお酒奢るくらいしかしてあげないからね?」
「おっと褒めて口説く作戦は失敗か、ははは」
そんなことよりお酒飲みましょう!
そういってまた他愛もない話を続けながら世間一般の常識というものを拾い集めていった。
うん、次の目的地は王都で決まりだね。
お約束どおりの展開なら……面白いことが起きるに違いない!




