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ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第1話 冒険のはじまりは伝説のはじまり? はじまりの街、リグルー
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これもお仕事だから……

「かっ、かわいすぎる……!」


 あのあと親切な冒険者のお兄さんと別れた私達は、街を出て森にきていた。

 狙うのはもちろんモフンだ。

 武器屋で買った新品の短剣を手に、るんるん気分で歩いていたのだけど……目の前にモフンが現れた瞬間、そのあまりの可愛さに愕然としてしまった。


「こんなかわいい生き物を手に掛けるなんてっ!

 私には出来ないよ! できないよロウ君!」


 駆け寄ってモフンを抱き上げ、そのもふもふの感触を確かめながら叫ぶ。

 つぶらな瞳、やわらかな毛並み、丸くて抱き心地の良い体、もふぅ〜という脱力感のある鳴き声。

 ああ、なんて可愛いんだろう。

 こんなにかわいい生き物をなんでこの世界の人々は狩ってしまうのだろう。

 お持ち帰りしてペットにしたい。

 モフンを集めてもふもふパラダイスを作りたい。


「いやでもさっきまで狩り尽くすって意気込んでただろあんた……」

「そうだけど! そうなんだけど!」

「ったくめんどくさいなあんた……いいから早くやってくれよ」

「うぅ……まさかファンタジー世界にこんな罠があったなんて……」


 気持ちを押し殺して、短剣を抜く。

 手が震える。

 こんな無抵抗な子を手にかけなきゃいけないなんて、冒険者稼業、思ってたよりも過酷なんだね……。


「これもお仕事だから……ごめんね、モフ次郎!」


 短剣を突き立て、一気に押し込む。

 意外なことに抵抗はまったくなく、サクリとモフ次郎の体を貫いていった。


「モフ次郎……君のことは一生忘れないよ」


 天に昇るモフ次郎の魂を思い、祈りを捧げる。

 息絶えたモフ次郎の肉体はすでに固くなり始めている。

 っていうかカチコチだ。血も出てないし。

 なんだこれ!?


「いや死後硬直ってもっと時間経ってからでしょ!

 なにこの魔法生物! こわ!」

「モフンってのはどこにでもいる割にどんな生き物なのかよくわかってないんだよな。爺さんたちもよくモフンの謎について議論してたぜ」


 マオは結局その後もモフ三郎、モフ美など実に多くのモフンを狩り殺して周っていった。

 やはりこの女、かなり切り替えが早いようである。


 ◆ ◆ ◆


「さて、袋いっぱいになったし解体所にもっていこっかー」


 この森の入り口には解体所と呼ばれるかなりデカい設備が建っている。

 ここは文字通り採ってきた魔物や亜獣を解体してくれる場所だ。

 冒険者組合と提携している店で、獲物を持ってくれば丸ごと買い取ってくれるし、解体後の部位でほしいものがあれば指定しておけば後日届けてくれる。

 買い取ってもらうときに組合員証を見せれば討伐証明を出してくれるから、冒険者組合への報告はこの討伐証明を提出するだけでよい。


 昔は組合の方で素材の買い取りなどをしていたそうなのだが、それだと持ち運べる量の都合でどうしても無駄が出てしまう。

 丸ごと一匹もってこようもんなら街の中を死体を引きずってくることになり、衛生的にもよくない。

 狩ったその場で解体してきてもらっても冒険者の解体技術では品質が落ちることが多い。

 などなど、多くの理由が重なって、今は大きな狩場なら必ずその狩場に隣接する形で解体所が建てられることになったそうだ。


「こんちはーっ、買い取りお願いしまーす」

「はいよ、獲物はその袋かい? ならこっちに置いてくんな」


 受付をしてくれたのはかなりのベテランっぽいおっちゃんだった。


「へえ、モフンか。最近はあんまり持ち込みがなかったから絶滅したのかと思ってたぜ。はっはっは」

「こんな可愛い生き物が絶滅したら世界の損失ですよー。みんな可愛いから狩らないであげてるんですよ」

「そんなこといったら嬢ちゃんはかなりの鬼畜だな。可愛いとかいっておいてこんだけもってくるたあ」

「これは冒険者として一歩を踏み出した私の洗礼の儀なんですよっ。どんな可愛いものでも容赦せず殺せるようになるための……そう、試練です!」


 ははは、と笑いながらおっちゃんは一匹一匹丁寧に状態を見ていく。

 といっても血も出ない一撃で死ぬ生き物だからどれも綺麗なもんだけど。


「一匹石貨50枚。全部で12匹だから銅貨6枚だ。認識票はあるかい?」


 そう言ってお金をくれたので、首にかけていた認識票を外して渡す。


「なんだ嬢ちゃん石ころかい。まあモフンなんて狩ってんだからそんなもんか。これから頑張りなよ」

「次はでっかいの持ってくるから楽しみにしててくださいよー!」


 ちょっとムキになって宣言すると、ははは、といいながら軽くあしらわれてしまった。

 こうなったらロウ君使ってでっかいの持ってこよう。めっちゃすごいの。

 うん、そうだな、私はそういう方向性で行こう。


 討伐証明も受け取って、解体所を出る。

 時刻はまだ昼前、まだなにかする余裕はあるな。


 それにしてもついに冒険者として初依頼を完了してしまった。

 初依頼によるこの世界初の労働収入。

 金額はわずか銅貨6枚ぽっちと安い一食分くらいにしかならないけど、それでもはじめての収入だ。

 これが嬉しくないはずがない。


 くふふと笑っていると、ロウ君が訝しげな目で見てきた。


「なあそんなに嬉しいのか?」

「あったりまえじゃない! はじめての収入ってのはどんなに少ない額でも紀念になる、特別なものなんだからね! ロウ君も体験してみればわかるよ!」

「ふうん、そんなもんかねえ」


 相変わらずこの男はそういうことに興味が無いみたいだ。


「さて、私は満足したから、あとはちゃんと稼ぎを得るためにロウ君に任せるね。予定通りタイラントボアをお願いね」

「はいはい、その前に飯くおう、飯」


 タイラントボアはデカい猪型の魔物らしい。

 その巨体から繰り出される突進が近づくものを薙ぎ倒し、硬い毛皮は並の攻撃を受け付けない。

 気性も荒く、まさに暴君といったところ。

 危険度は銀級。つまり銀級冒険者が4−5人集まってようやく狩れる強さをもっている。


 狩るのは大変だが、その巨体からとれる食肉の量が非情に多く、また身も引き締まっていてとても美味しいので、高額で買い取ってもらえる。

 泊まりがけで行くほど森の奥地に生息しているわけでもないので、最初に狩るのにちょうどいいと思った次第だ。


「あ、そういえば狩りに行くのはいいんだけどロウ君って獲物の位置わかったりする?」

「ん? ああ、生体感知のことは話したよな。あれを使えば見たことある生き物ならわかるよ。タイラントボアなら山でたまに狩ってたからバッチリだ」

「まったく便利な能力だねー、私なんかよりロウ君のほうがずっとチートっぽいよ!」

「ちいと?」

「こっちの話だよ! さあ行こう!」


 ◆ ◆ ◆


「そろそろだ」


 だいたい二時間くらい森の中を歩いた頃、ロウ君が言った。

 そういえばクル山脈の魔物とここの魔物、どっちがつよいんだろ。

 山じゃロウ君の回し蹴りで一発だったからなあ……。

 うーん、せっかく倒してもらうんだからなんかわかりやすい派手なのを見せてもらいたいな。

 どれくらいロウ君が強いのか未だによくわかんないし、ちょっと色々見てみたいよね。


「ねえねえロウ君、できたらでいいんだけどさ、タイラントボア狩るのになんかこう、ばーっと格好いいド派手な必殺技でやってくれないかな?」

「派手な技か? うーん、仙術は別に見世物じゃないんだがな……」

「だってほら、ここ多分最初の見せ場だよ? お客さんはきっと地味ーな回し蹴りで倒すのより、名前のある技で華麗に倒してくれるのを望んでると思うよ?」

「お客さんってなんだよ……」


 歩きを止め、はあとため息をつくロウ君。

 うわあ、すごい嫌そうだ。

 そんなに嫌かね? 派手なの、すごくいいと思うんだけど。


 じっと熱い眼差しで見ていたら、やがてため息をついて、こちらを振り向く。


「わかったよ、奥義、見せてやるよ」


 そう言って、ゆっくりと私の後ろに向かって歩き出す。

 どうしたのかな? と思って振り返るとその視線の先には巨大な影があった。


 BWOOOOOOOOOOOOOO!


 咆哮。

 縄張りに異物が侵入したことに怒り、暴君が猛っている。

 あれが今回の獲物、タイラントボア。

 前情報どおりの圧倒的巨体。

 相手にとって不足なし。


「さあロウ君、やっておしまいなさい!」

「はいよ、だが奥義を使ってやるとは言ったが、盛り上げてやるつもりはないからな」


 そういっておもむろに敵に向かってあるき出す。

 その様子にますます怒ったのか、暴君は巨体を震わせ、一気に土を蹴り出そうとして――


「おっと、誰も動いていいなんていってないぞ。【瞳術・(バク)】」


 BWO!?!?


 ロウをひき殺そうとしていた巨体は、駆け出すことすら許されなかった。

 一体何をしたのか、まるで四肢の自由を奪われたみたいに、暴君はその場で停止した。

 恐れを知らぬはずの魔物の目に、動揺と恐怖の色がにじみ始める。


「これは仙術技能の一つでな、眼をみた相手の体の自由を奪っちまうっていう身も蓋もない技だ。

 まあそれなりに実力があるやつには効かないもんだが、お前くらい弱い魔物にはよく効くみたいだな」


 そう説明しながら、ゆっくり獲物に近づいていく。

 その歩みはまさに絶対強者のものだ。


「じゃ、一撃で終わらせるぞ」


 ロウはタイラントボアの目の前に立つと、腰を静かに落とし、肘をひいた。

 握った拳をその巨体に押し当てる。

 そして深く呼吸をし、放った。


「奥義、【螺旋寸勁(ラセンスンケイ)】」


 瞬間、荒れ狂う暴力の嵐がタイラントボアの全身を襲った。

 衝撃が肉体を切り裂き、臓物の機能を奪う。

 魔物は叫ぶ暇も与えられず、ただ一瞬で絶命した。


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