表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロウとマオ 〜最強仙術使いと最弱JDの異世界放浪譚〜  作者: にしだ、やと。
第0話 出会いと旅立ちのクル山脈
1/75

異世界……異世界かあ

 不思議な霧のトンネルを抜けると異世界だった。

 視界いっぱいの木。木。木。

 遠くから聞こえる水の音。

 生きとし生けるものたちの匂い。


「うん、これは異世界に迷い込んだな」


 私、神埼真央(かんざきまお)はぴちぴちの女子大生だ。

 いわゆるJDというやつ。

 そんな私がなぜ異世界になんて来ているのか。

 いまからちょっと思い出してみようと思う。


 ◆ ◆ ◆


 秘境、というものをご存知だろうか。

 辞書でひいてみればこんな事が書いてあると思う。

 人の訪れたことのない一般によく知られていない地域。

 まあ要するに山奥ってこと。


 私は秘境を巡るのが趣味だった。


 真央ってだいぶ変わってるよね。そんなことをよく友達に言われる。


 秘境は険しい山道を抜けた更にその先にある。

 だから、「そんな場所に好き好んでいくなんて、現代の若い女の子じゃありえないよ。真央って本当にJD?」とのことだ。


 そんなことを言われても、この趣味ばかりはやめられなかった。

 なぜかって?

 そこにロマンがあるからだ。


 今は夏。

 大学も先週ようやく試験が全て終わり、夏休みに突入した。

 もちろん夏休みの予定は秘境巡りとバイトで埋まっている。

 今日も秘境を目指してとある地域のとある山中を歩いているところだった。


 異変に気づいたのは昼を少し過ぎた頃だろうか。

 標高のおかげでそれなりに涼しいとはいっても、夏は夏。

 結構汗もかいてきて、「あー、降りたら温泉つかりたいなあ」なんて思っていたそんな折。


 最初は汗のせいで湿り気を感じていたのかと思った。

 けれど湿度はどんどん上がってきて――気づけば目の前が白くなっていた。


 深い霧だった。


 山に登っていれば当然霧が発生することはある。

 そういうときは落ち着いて対処すれば問題ない。


 けれどもその霧は、()()()()()()()()()()()()と、そう感じた。


 引き込まれる。

 何かが私をとらえて放さない。

 この先には神々が住まう国がある。

 そんなことを感じていた。


「これは……面白そう」


 誰にともなく呟いた言葉がその時の私の心境を克明に表していたんだと思う。


 思えば昔からこんな感じで色々な事件に首を突っ込んでいた気がする。

 面白そうだなと少しでも感じてしまうと、頭ではわかっていても止まることができないんだ。

 幼馴染にはしょっちゅう怒られていた気がする。

 巻き込まれる身にもなってくれと。

 でもしょうがないじゃないか。

 そこにロマンがあるのだから。


 今回だって危険なのは重々承知している。

 ただでさえ誰も来ない山奥というだけで危険なのだ。

 そのうえ視界のとれない霧のなかを歩くなんて馬鹿げている。


 それでも。


 私、神埼真央はワクワクしていた。

 あの向こうには何かがある。

 私を満足させてくれる何かがある。


 最悪死んだって構わない。

 私を満たしてくれるなら、それで構わない。


 たとえ誰が止めたとしても、この直感だけは信じたい。


「よし、いこう」


 私は霧の向こうに歩み始めた。


 ◆ ◆ ◆


 で、冒頭のシーンに戻る。


 なぜ異世界だと断言できるのかと言うと……実はこれはうまく説明できない。

 ただなんとなく、いやはっきりと前の世界とこの世界とで、世界の法則とでも呼べるものが違っている、と感じ取れた。


「異世界……異世界かあ」


 異世界召喚モノというジャンルを知っている。

 神隠し的な現象にあった末、地球とは異なる惑星、ひいては地球があった宇宙の存在する世界とも異なる法則に従う世界に飛ばされるという話だ。


 今回の私の場合は異世界転移モノといえるだろう。

 まわりに人がいる様子はないし、神的な存在にもあっていない。ただ私だけが勝手に転移した。


 霧の中を歩いているときにちょっと頭痛がした気がするけど、それくらいだ。


「これは多分天文学的に低い確立を引き当てちゃったんだろうなあ」


 歩いてきた方向を振り向く。

 うん、なにもない。木はあるけどそれだけだ。

 今まで歩いてきたはずの霧のトンネルはすっかり霧散してどこかに消えてしまっていた。


「こりゃ帰れそうにない」


 帰れない。


 だけど、悪い気はしない。

 なぜだろう。

 ワクワクしている自分がいる。

 いや、霧のトンネルを抜ける前からワクワクしていたか。


 でも、いまのワクワクはさっきのものとは比べるまでもない。


 面白いもの。

 きっとこの世界には私が求める何かがある気がする。


 できないことを考えても仕方ない。

 前向きさには自信がある。

 帰れないなら帰れないでそれでいい。

 せっかくこれた異世界だし、楽しむ方向でいこう。


 そうと決まれば目下の行動指針を決めないとな。


 まず、今いる地点は山だ。多分中腹くらい。

 ここから日が暮れるまでに人里まで降りるのは難しいだろう。

 幸いなことに山中でも夜を超えられるように一通りの道具は揃っている。

 空にうかぶまん丸い光源――太陽と呼んでしまってよいだろう――の位置を考えるに、今日のところは幕営地をみつけるのがやっとだろうか。


「水の音も聞こえるし、とりあえずそっち目指そう」


 後のことはそれから考えることにして、まずは幕営地を探すため歩き出す。


 少し歩くと、けもの道があった。

 水辺に向かって伸びている。

 どうやらきちんと水を飲む生き物がいるらしい。それもそれなりの大きさの。


 これはちょっと危ないかも……と思いつつ、ほかに選択肢もないので遭遇しないことを祈りつつ、さらに進むことにした。


 そして。


「おお、こりゃいい滝だ」


 轟々と鳴る大きな滝。それが目の前にあった。

 見た目はよく知る水となんら変わりない。

 むしろよく澄んでいてとても美味しそうだ。


「水は……うん、飲めそうだ」


 滝壺から少し離れた流れのある部分から水を掬い取り、ちろりと舐めた感じ、飲み水にも適していそうだった。

 ちなみに舐めて判断するのはあまりよくないんだけど、昔から色々なところの水を飲んで腹を下したりしているうちに舐めただけで飲めるかどうか判るようになってしまった。

 とても便利な無駄スキルである。


 飲み水も確保できたことだし、あたりを確認する。

 この辺りはよくひらけていて、幕営地にぴったりだと思う。

 今夜はここで過ごすのがよさそうだ。

 日も傾いてきた。


 さくさくとテントを張り、夕飯をどうするか考える。

 持っていたのはカップ麺が2個と、うますぎるブロック型の総合栄養食が2箱。

 カップ麺を作ると匂いで何かを呼び寄せてしまう可能性もあるしここは安全重視で総合栄養食の方かな。


 はい、食事終了。


 やることも無いし明かりをつけて余計なものを呼び寄せてもいけないし、今日のところはおとなしく寝よう。


 テントに入り、寝袋に潜り込みながらふと考える。

 これからどうなるのだろう。

 明日はとりあえず山を下って人里がないか探そうか。

 うーん、大丈夫かな、不安になって……こないな。うん。


 そして幾ばくもたたないうちに規則的な寝息が響き始めた。


 ◆ ◆ ◆


「朝だ」


 朝になった。

 どうやら寝ているうちに獣に襲われることもなかったらしい。


 案外この辺は安全なのかもしれない。

 そんなことを思いつつ朝ごはんとなる総合栄養食を平らげる。

「うますぎる!」


 食べて一息ついたところで汗のべとつきが少し気になってきた。

 そういえば霧を抜ける前に温泉はいりたいとか思っていたっけ。


 せっかく目の前にちょうどいい水場があることだしここはひとつ、水浴びでもしていこうか。

 人がいる気はしないし、獣が襲ってきても服をきていようがいまいが関係ないよね。

 むしろ水の中に入る分安全かも。


 そうと決まれば早速ということで、衣服を脱いで水浴びを始めた。

 冷たくて気持ちがいい。生き返るなあ。

 次にいつ水浴びできるかもわからないし、しっかり堪能しておこう。


 さてさて、いつの間にやらフラグを立ててしまったのだろうか。

 すっかり気を抜いた真央が生まれたままの姿で自然を堪能していると、


 ――カサッ。


 不意に後方から物音がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ