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夏休みが開けた。
蒸し暑い季節は終わりを告げ、どこか涼しい風が吹いてくるように感じられる。
そして、秋がやってくる。
「え、あの後帰ってきちゃったの?」
夏祭りの夜のことを伝えると、真琴はとてもおどろいた表情をした。
「・・・一目ぼれって、そんなにダメなことなのかな」
ひまりは真琴にポツンと言った。
「・・・正直ね、私も最初『一目ぼれ』って聞いたから顔を好きになっちゃったんだと思った。でもね、ひまりの話を聞いてたら、そういう『一目ぼれ』もあるんだろうなって思うようになったよ。・・・私はそういう経験がないから分からないけど、きっとそういう不思議なことがあるんだよね、きっと」
「真琴・・・」
「真琴、天宮おはよー」
蓮が教室に入ってきて、そういった。ひまりはどこか違和感を感じ・・・
「・・・あ!成瀬くんが『真琴』って呼んでる!」
「まぁな。やっと付き合い始めたんだから」
「ちょっと、そういう恥ずかしいこと言わないでよ!」
「いいだろ真琴」
「・・・っ!!」
また真琴の顔は赤くなっている。本当に真琴って素直だな~と思いつつ、そんな2人を羨ましそうに見つめるひまり。
「そういえば、最近奏斗の元気がないんだけど、天宮何か知ってる?」
「えっ・・・?」
(私のせい・・・だよね。私があんなこと言ったから)
うつむくひまりを心配そうに見つめた真琴が口を開く。
「でもさ、私は染谷も染谷だと思うんだよね。あいつの周りは顔目当てで寄ってくる女子ばっかりだから、自分に好意を寄せてくる女子がみんな顔目当てだと思ってひねくれてそうじゃん?」
「待って、真琴説明して!天宮と奏斗ってなんかあったの!?」
「蓮うるさい。ひまり、あとで蓮に説明してあげてもいい?」
「い、いいけど・・・」
(私、染谷くんの事情なんてぜんぜん考えてなかった。あれだけモテるんだから、きっと何度も『一目ぼれ』されてきたんだろうな・・・)
「・・・おはよ」
「染谷・・・」「奏斗・・・」
教室に奏斗が入ってきて、どこかぎこちない空気が流れる。
「奏斗!ちょっとこっち」
ひまりと奏斗に何かがあったことを察した蓮が、奏斗を廊下まで引っ張っていった。
「真琴、私・・・しばらく染谷くんと距離をおく」
「・・・なんで?ひまりはそれでいいの?」
「染谷くんのこと、まだ大好きだから・・・でも、私が染谷くんの近くにいたら、きっと染谷くんが嫌な思いをするから。きっと、『一目ぼれ』するんなんてくだらない、って思われてるんだろうね」
「ひまり・・・」
ひまりの思いつめたような表情に、真琴はそれ以上掛ける言葉を見つけることは出来なかった。