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夏祭り当日。

夏休みに入る前に、ひまりは真琴と一緒に勇気を出して「染谷くん、成瀬くん、一緒に夏祭り行かない?」と聞くことができ、さらに二人とも二つ返事で了承してくれた。

(前の私だったら、きっと無理だった)

中学時代は男子が怖くて話しかけることすら難しかったが、今はこうして夏祭りにまで誘えるようになった。

(真琴の言うとおり、私も成長できたんだろうな)

夏祭りは夜の屋台やイベントがメインなので、夕方ごろに集合することになっている。

告白することを想像すると、緊張で逃げ出したくなるけど、今のままじゃだめだと自分に言い聞かせる。ひまりは昨日の夜部屋の良く見えるところに飾った浴衣を見上げた。

(好きな人には、かわいいって思ってもらいたい)

気合を入れるように「よしっ!」と呟き、ひまりは身支度を始めた。



「あ、市ヶ谷に天宮!待った?」

集合場所に十五分以上前についてしまったひまりと真琴は、蓮と奏斗が一緒に向かってくる姿を見つけた。

蓮も奏斗も今日は私服で来ており、ひまりは制服姿とは違った奏斗の姿にドキッとする。

「待ってないよ・・・っていうか、まだ集合五分前だし」

「まぁ、俺も奏斗も楽しみにしてたから」

「・・・そう」

真琴が分かりやすく赤くなるため、ひまりはくすっと笑ってしまう。

「天宮、浴衣に合ってるじゃん」

「・・・染谷くんも、私服かっこいいね」

奏斗にそう言われ、ひまりはとっさにそう返してしまったが、もしかしたらすごく恥ずかしいことを言ったのではないか。

(私、染谷くんに『かっこいい』って言っちゃった・・・どうしよう、変に思われないかな・・・でも事実だし・・・!)

「じゃあ、行こっか」

蓮がそう言い、4人は屋台のほうへ向かった。

奏斗も蓮も一般的に見てかっこいいほうだと思う。そのせいか、周囲の視線がこちらに集まっているように感じる。

(やっぱり、染谷くんはこれだけモテるんだから、好きな人とかいるのかな・・・でも、今更悩んでも仕方ないよね。もし染谷くんに好きな人がいても、私の気持ちは変えられないんだもん)

今隣を歩いている、ひまりより背の高い男子。初めて見たときから、ずっとずっと目で追いかけてきた。話せるようになったのは最近のことだけど、これからはもっと・・・


「なぁ!皆で花火やんない?」

蓮がそう提案してきた。

「楽しそう!やりたい!!」

ひまりがそう言うと、奏斗も真琴も賛成してくれた。

屋台で花火を買い、河川敷まで移動する。この何気ない瞬間すらとても楽しくて、今日が終わらなきゃいいのに・・・と切実に思った。

「やっぱ最初はこれだよね」

そう言って真琴が取り出したのはロケット花火。それを見て、蓮が真琴に言った。

「いいじゃん。市ヶ谷って最初に飛ばすタイプ?」

「そうそう。マラソンとかも最初に頑張りすぎてバテちゃうんだよね」

(やっぱ、この二人って・・・)

傍から見ても、二人だけの空間が出来ているような、他の人は入っていけないような。そんな雰囲気にひまりは見えた。

「天宮、もしかして市ヶ谷と蓮ってさ・・・」

奏斗もひまりと同じようなことを思ったのか、声を小さくして尋ねてきた。

「・・・上手くいくといいよね」

小さな声でひまりも返すと、奏斗は「そうだな」と微笑んだ。

(私が真琴を大切だって思ってるように、染谷くんも成瀬くんを大切に思ってるんだろうな)

「なに2人とも話してんの?ほら、花火やるぞー」

そういって蓮はロケット花火に火をつける。

「わぁ・・・!」

周りの暗さに花火の明るさが良く映え、火花はまるで星のように輝いている。

キラキラと火花が降り注ぎ、四人を包んだ。

「綺麗・・・」

この瞬間が、終わらなければいいのに。何度もひまりはそう思う。皆も同じ気持ちだったらいいのに・・・

その後も4人で線香花火で誰が一番長く持つか競争したり、手持ち花火同士を近づけて「花火リレー」をやったり・・・

「花火、無くなっちゃったね」

真琴がポツリと寂しそうに言った。

「まだ祭りはこれからだぜ?」

蓮が楽しそうに続ける。

「・・・あははっ。成瀬くん、人生楽しんでそう」

「え、俺ってそんな風に見えてんの?」

「ひまりにもそう見えてた?・・・実は私も」

「俺にもそう見えてるんだけど」

「えぇぇマジかよ・・・俺ってそんなお気楽そうなのかよ・・・」

「まぁそんなことより次行こ?」

「そんなことって!!」

そんな他愛ない会話はひまりにとってとても心地よくて。

再び屋台のほうに戻ると、人はさらに増えたようで、少しでも油断するとはぐれてしまいそうになる。

「天宮、大丈夫?」

「うん、なんとか大丈夫かな・・・わっ!」

なれない下駄のせいか、ひまりはつまづきかけ、奏斗の袖にしがみついてしまった。

「ご、ごめんね・・・!」

「・・・ううん。つかまってな」

少しだけ、奏斗の顔が赤く見えたのは気のせいだろうか。

「奏斗ー、天宮ー、俺市ヶ谷借りるから!」

「えっ!?」

人ごみの中から蓮がそう言ってきたので、ひまりは驚いて声を上げてしまった。

(っていうことは・・・染谷くんと・・・2人きりだ・・・)

「やっぱり・・・そういうことだよね」

奏斗がひまりに向かって意味ありげに視線を向けてくる。

「そうだね。成瀬くん頑張ってるね」

(・・・私も、早く伝えなきゃ)

「天宮、どこか見たいところある?」

「・・・うーんと、カキ氷とチョコバナナと綿飴とりんご飴・・・食べたいかな!」

「あはは。天宮って結構食い意地張ってるんだね」

「えっ、ひどいよ!夏祭りで食べるものは何でもおいしいじゃん?」

「にしても、食べすぎ」

「えーっ!?」

「・・・行こうか」

そう言うと、奏斗はひまりの腕をつかみ、引っ張る。

(染谷くんと触れ合ってる・・・夢みたい)

前よりも、距離が近くなって。軽口も言えるようになって。・・・好きだって伝えれば、「俺も」って言ってくれるかな。

・・・でも、今だけはもう少し、夢を見たい。

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