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その日の放課後。
ひまり、真琴、蓮、奏斗の四人は図書室にいた。
「成瀬、勉強しないの?」
「そうだ・・・俺テストで赤点取ったら補習なんだけど・・・部活いけなくなる」
「そんなの漫画か小説の中だけの話かと思ってた。成瀬ってそうとうヤバいんだね」
真琴と蓮はいつも通り楽しそうに話している。ひまりからすれば(もう両思いなんじゃないかな)と思うくらいに。
(私も・・・染谷くんと緊張しないで話せるようになりたい)
「天宮、あいつらほっといて勉強しない?このままじゃいつまでたっても終わんない」
「奏斗、それはひどい・・・俺を見捨てるなんて・・・!」
「成瀬、この間私とひまりがイチャイチャしてた時には染谷との仲は否定してたのに」
奏斗、蓮、真琴の会話は漫才かと思うくらいに合っていて、ひまりはつい吹き出してしまう。
(そっか・・・染谷くんだからって緊張しなくていいのかも。真琴や成瀬くんといる時みたいに接すれば・・・)
今まで悩んでいたことがたいしたことないように感じられ、気持ちが軽くなった。
「ひまり?どうした?」
「ううん!何でもないよ。ほら、早く勉強しよ?」
☆
放課後テスト勉強の習慣はテスト前々日まで続き、ひまりは奏斗と真琴の指導のおかげで学力が格段に上がったように感じられた。
一昨日、結果が張り出されたのだが、奏斗は10位、真琴は15位とかなりの成績を残し、ひまり自身も過去最高の成績を修めていた。
奏斗がひまりに教室内外関係なく話しかけてくれるおかげで、ひまりはいつの間にか奏斗とも普通に話せるようになっていた。
(それに、あのときの染谷くん・・・!)
今思い出しても、ひまりは胸の奥がくすぐったいような感覚になる。
それは、一週間ほど前のこと___。
「染谷くん、ここが分かんないんだけど・・・」
「んー・・・ちょっと待って、言葉じゃ説明し辛いから紙に書く」
そういって奏斗に渡されたルーズリーフの字はとても整っていて。
「染谷くんって字が上手なんだね」
「・・・いーから。それよりこっちに集中してよ」
そういって、奏斗はひまりの頭をコツッ、と叩いた。
(・・・っ!なにこれ、不意打ちすぎ・・・ドキドキする・・・)
「でもさ。天宮の字も上手だし、女の子らしいと思うよ?」
不意打ちからの「女の子」発言。突然のことにひまりの心臓はおさまらず、「ありがとう」と返すのが精一杯だった。
「ねーかなとー。今日遊びに行かない?」
ふと声のするほうを見ると、廊下で女子生徒と奏斗が楽しそうに話していた。
(あぁそっか、久しぶりに見るな、こういうの・・・)
最近は勉強に集中していたせいか、奏斗がモテるということをすっかり忘れていた。
「ごめん、また今度ね」
奏斗はいつもこの手の誘いには乗らない。だから、最近蓮や奏斗と一緒にいるひまりや真琴は他の女子生徒に快く思われてはいないだろう。
(染谷くんはモテるのに、彼女は作らないんだよね・・・)
好き、という気持ちは奏斗と一緒にいるとどんどん大きくなっていく。でも、それを本人に伝えたらきっと他の女子生徒のように振られてしまうだろう。そうすれば、今の4人の関係もきっと崩れてしまう。今までどおりを望むなら、何もしないのがベストだ。
(でも、本当にそれでいいのかな・・・)
このままなら、傷つくこともないだろう。でも、伝えなければずっとこのままの距離感だ。
(・・・好きになった方が伝えなきゃ、何も始まらない。何も変わらない。)
もうすぐ、夏休みがやってくる。休みの期間になれば、今よりは確実に顔を合わせる時間は減ってしまうだろう。
それに、とひまりは思う。
(今伝えなかったら・・・染谷くんが他の人とつき合い始めたときにきっと後悔する)
☆
「えっ、染谷に告白する!?」
「真琴、声が大きい・・・!」
放課後、ひまりと真琴は学校の近くのドーナツ店に寄り道していた。
告白を決心したのはいいものの、恋愛経験が乏しい故にどうしたら良いのか分からないひまりは、真琴に相談することにした。
「そっかぁ・・・でも急になんで?」
「・・・このままじゃ、いけないと思って」
真剣なひまりの言葉に、真琴ははっとしたように顔を上げた。
「私ね、四人で過ごせて本当に楽しかったの。高校生になって友達も出来ずにいた私が、染谷くん、成瀬くん、そして真琴のおかげで、高校生活をこんなに楽しいって思えるようになったの」
ひまりは真琴をきっぱりとした表情で見つめ、続ける。
「でも、今のままだと・・・何も変わらないから。もっと染谷くんと一緒にいたいし、もし染谷に彼女が出来たら、その時は『なんで伝えなかったんだろう』ってきっと後悔するから」
「ひまり・・・」
真琴はしばらく考えるようにうつむいていたが、ひまりを見てにっこりと微笑み、告げた。
「そうだね。私も逃げてばっかりじゃだめだ。ひまりを見て、私も強くならなきゃって今思った」
「もしかして、真琴も・・・」
「ひまり、夏祭り!夏祭りに4人で行こうよ。私、その時に成瀬に告白する」
「夏祭り・・・」
学校の近くの市街地で行われる夏祭りは毎年多くの人で賑わう。いつもは制服姿だけど、浴衣を着た女子が告白するといつもより成功しやすい、と前にテレビで言っていた気がする。
(せっかくなら、浴衣を着て『好きです』って伝えたい)
「・・・うん。真琴、頑張ろうね」