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すれ違いの恋  作者: 瑞樹一
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ー皆川幸人の場合ー

 ドキドキするならそれが恋。


 この言葉を聞いたことがある人は大勢いるだろう。

 恋愛において、まず自身の心を大切に置き、その後に好きの理由としての外見や内面を置くことである。

この言葉を俺は現在までは信じなかった。

 

好みの外見であるからこその一目ぼれがあり、大人になれば好きでもない相手と結婚することなんてざらにあるらしい。

 そのため重ね重ねいうとドキドキするならそれが恋という言葉をさっきまでは信じていなかった。

 ここで重要なのはさっきまでであったということだ。

 

 そう、俺こと皆川幸人(みながわゆきと)は現在恋をしている。

 生まれて初めての恋だ。

 周りでは高校生にもなって初恋がまだなんて遅れていると言われていたのだがそんな俺にも恋をする機会がとうとう来たのである。

 俺は幼馴染に恋をした。



「なんで、今更なんだろうな」

 


 夕食を終えた俺は自室のベットに横たわり彼女のことを考えていた。

 それは幼馴染の芒原すすきばらみなとの事である。


 昨日までは一緒にいることが普通であいつの長い黒髪や大人っぽい顔立ち、俺より少し高い身長などただうざかっただけなのだが、今では彼女の長い黒髪は天使が編んだ絹よりも滑らかな光沢を放ち、大人っぽい顔立ちはこの世界をすべて見通すような聡明な雰囲気を持ち、高い身長はこの世界で一番目立つためにもって生まれたものなのだろうと俺自身が納得してしまった。


 もちろん外見だけが好みなら一目ぼれしていたはずなのだが俺が好きなのはそんな浅はかなものではなく、彼女の子供っぽい性格や困っている人を放ってはおけない世話焼きな内面も含めて彼女であり、俺は彼女の外見と内面すべてを含めた彼女のことが好きなのである。

 彼女のことを考えればドキドキするし、彼女との今までの思い出を振り返っただけで緊張で心臓が張り裂けそうになってしまう。

 そんな彼女にすぐにでも俺の心に収めてはおけないこの思いを彼女に伝えたいのだが困ったことが一つだけある。




 それは俺が昔、みなとに告白されているということだ。




『私は幸人が好き、大好き』



 中学三年生、丁度お互いの志望校の受験が終わり、後は結果を待つだけのある日のこと。

 登校日の為、学校へ行った帰りの道で唐突に彼女に告白された。


 当時は何故今なのかと疑問に思ったのだが、今にして思えばその前日にみなとの入試の自己採点がまずかったのが原因だと思う。

 俺たちは同じ県立の高校を志望しており、みなとの自己採点からはじき出される点数ではその高校を合格することは厳しかったのだ。

 きっと、考えたらすぐ行動してしまうみなとはそこで俺と高校を境に離れ離れになってしまうと考えたのだろう。


 そして、告白当日である。

 俺はその時まで幼稚園の頃から知っているみなとを異性として感じてはおらず、同性の親友みたいに思っていた為みなとが俺のことを異性として好きとは思っていなかった。


 その結果、俺はみなとの告白を断った。


 みなとは似合いもしない涙を目に浮かべその場から走り去ってしまったのだが次の日にはあの告白が無かったかのようにみなとは俺に接してきて、昨日の告白が嘘のように俺たちの仲は元通りになった。

 それはみなと自身の葛藤があったのだろうし、みなとは俺たちの仲を今まで通りに戻すことを選んだのだと思う。


 そして、そんなみなとの選択を無視して、入試の結果、例年まれにみる平均点の低さだったためみなと本人の杞憂虚しく俺と同じ高校に入学することが決まった。


 高校に入学した後も俺とみなとは一緒に登校し、七分の一の確率で俺たちは同じクラスになり、同じ部活という立場で帰り道も一緒にしている。

 入学当時は俺たちに付き合っている疑惑が上がり、俺もみなとも知り合った友達から俺たちの関係を聞かれたのだが事あるごとにお互いが否定した為、現在では俺たちが付き合っていないということが周知の事実となっている。



 みなとは果たして今でも俺のことを好きでいてくれているのだろうか?



 昨晩、今後みなととどう接していいのか分からなくなり、寝るのが朝日を見てからとなった俺は寝坊してしまった。


「おはよう、幸人今日はずいぶんと遅い登校ですな~」


 俺が家を出ると玄関の前にみなとがいた。

 みなとは昨日までと同じように自慢の黒髪を横に流しながら子供っぽい笑みで俺を出迎えてくれた。

 今日のみなとの姿は昨日までとたいして変わっていなかったのだがみなとの髪は天使が編んだ……(以下、割愛)

 何と言っても美しかった。

 昨日夜遅くまで悶々と考え、想像していたみなとより実物は何倍も魅力的だ。


「ちょっとー、ゆきとー、返事してよー、まだ寝ぼけてんの? それならみなとお姉さんが目覚まし代わりのかかと落とし脳天に決めちゃうぞ?」


「おー、ごめんごめん、それならいちょ頼むわ、あれ目覚まし代わりにはちょうどいいんだよな」


「ねえ、ホントに幸人大丈夫?」


「あっ、昨日寝付けなくて勉強してたら寝るタイミング逃して寝たのほとんど朝みたいなもんだったんだよ、悪い悪い、みなとのかかと落としのおかげで目覚めたよ」


「えっ、あたし何にもしてなくない?」


 やばい、かかと落としされながらも拝むことが出来るみなとの下着想像してたら、まさかの現実と妄想が区別できなくなってしまった……

 これはちょっと重症かもしれない、まあ、すべてみなとが可愛いのが悪いんだ。


「重ねて悪い、ちょっと意識が飛んでたわ」


「ねえ、あんたホントに大丈夫? あたしから水津みとちゃん先生に報告しておこうか?」


 ここでみなとの小さい口からこぼれたそこらのアイドルなんて目じゃないぐらいの綺麗な声で出た水津ちゃん先生とは俺たちのクラスの担任の水津美穂みとみほ先生だ。

 いや、そんな事より今考えなければいけないのは俺を心配してくれるみなとの事である。なんていい子なんだろう。昨日までの俺であればそんなみなとの気遣いも馬鹿みたいに流していたのだが今の俺にはそんなことはできなかった。


「みなとはいい奴だよな、俺なんかをそんなに心配してくれるなんて」


「何言ってんの、あたしとあんたの仲でしょ!」


 みなとはそう言うと俺の背中を軽くたたいてきたのだがもう、俺にとってご褒美以上の何物でもなかった。

 あー、みなとの手はちっちゃいなー


「何叩かれてにやけてんのよ、今日の幸人なんか変だよ、ホントに今日は休んだらどう? もし、今日から購買で新発売されるふんわりクリームをサクサク生地で包んだサクサクふんわりクリームパンが食べたいが為に無理していこうとしてるんなら後で届けてあげるからさ、今日は休んどきなよ」


 なんだろう、その美味しそうな食べ物は? 昨日も購買でその名前を聞いたはずなんだけど購買のおばちゃんが話すより全然おいしそうだ。

 むしろみなとがおいしそ……(自主規制)


「あー、そうだな、それじゃあ今日はちょっと休ませてもらうな、なんか頭痛いし」


 もちろん朝からみなとの顔を見ていたせいなのだが。

 この胸のドキドキはきっと病なんだよ、これこそ恋煩いだ!

 これ男が言ってたら大分引くなー


「オッケー、それなら今日はあたしも部活休んで早めに帰ってくるよ。幸人の家昼誰もいないし病院行くならあたしが連れていくから申し訳ないんだけどそれまで待ってね」


 何度も言うが、むしろ何度でも言いたいがなんていい子なんだ、なんで世間はこんな美少女をほっとくのだろう?

 みなとの事だから彼氏とかいたことあるのだろうか? いや、小中高と毎日一緒に登下校しているしバレンタインの時には毎年義理チョコくれてたしそんなはずはない、あってはならない。


「申し訳ないな、多分寝れば治ると思うんだけど今日は行くのやめとくわ、水津ちゃん先生によろしく」


「了解、じゃあ、私は幸人をベットまで送って行ってから行くとしようかね」


 なんて……(以下、略)


「部屋までなんて来なくていいから、みなとは早く学校行きなよ、俺のせいで現在進行形で遅刻させてるのはホントに申し訳ないし」


「今から急いで行っても一限には間に合わないし、幸人をベットに送ってから行きます!」




 みなとはその後素直に学校に向かうのではなく、俺の家を我が物顔で入り、俺をベットに寝かせてから学校に向かった。


「あの時間ならきっと二限には間に合うだろうな」


 確か一限は体育だったし、むしろ行かなくて正解だったかもしれない。

 体育は男子、女子共にサッカーをやっていたと思うし、男子の視線がみなとに釘付けにならなくてよかったのかもしれない。


「どうしようこれからマジで……」


 今後このままみなとと登校もクラスも部活も下校も一緒となると俺は大丈夫なのだろうか?

 もしかしてこのまま一生高校にはいけなくなってしまうのかもしれない。

 そうしたら俺の最終学歴はなんと中卒になってしまう……

 さすがにそれはやばいぞ、何とかしてみなとと一緒にいることを慣れなければ。


「んー、どうしたもんかなー」


 さすがにこのまま引きこもりになってもいつかみなとが俺の部屋に入ってくる確率は高いしなー、何か良い手はないものか?

 布団に入りながら俺の部屋を何気なく見まわしていると俺の目にある物が入ってきた。

 それを見つけたとたん勢い良く布団を飛び出していた。


「そうだ、これがあったじゃないか」


 そう、俺が部屋で見つけたものはアルバムであった。


 そのアルバムには俺とみなとの写真がのっていた。

 そもそも俺とみなとは同じマンションに住んでおり、俺はみなとに初めて会ったのはみなとがこのマンションに引っ越してきた幼稚園生のことである。

 俺の家族も先週に引っ越してきたばかりであったためやっと、荷物の整理が終わり一息ついていた時に家のインターホンが鳴った。

 俺は玄関に向かう親の背を追いかける形で玄関に向かうとそこには三十代前半の夫婦とその後ろに隠れる形で玄関を薄々覗く顔が見えたそれが俺とみなととの出会いであった。

 みなとは今では人見知りせず誰とでもすぐ打ち解けてしまうのだが当時は真逆ですぐにどこかに隠れてしまう恥ずかしがり屋であったのだ。

 挨拶にきたみなとの両親は俺の両親とも年が近く、同い年の子供がいるということですぐに両者の家は仲が良くなった。

 そして、お互いの両親が共働きで帰るのは五時以降となってしまうため俺とみなとは放課後よく二人でお互いの家で遊んでいた。

 そうしていくうちにみなとと俺は段々と仲良くなっていき、ことあるごとに俺の親父が撮った写真がこのアルバムに入っていた。

 それにしても子供のみなとも可愛いな、これは天使だぞ。

 きっと、この頃のみなとはまだ人間界になじめていなかったんだな。


「おい、嘘だろ……」


 俺はみなととのアルバムを見ていくうちにある重大事実に気づいてしまった。


「なんでなんだよ、まじか……」


 みなとより身長が高いときが一度もないだと……

 そんなことあっていいのだろうか? 確かに俺は男子の中では小柄な方だし、みなとはこの世界で一番目立つために背は大きいけれども……

 いや、寧ろそれならきっと、みなとはこの後もどんどん大きくなっていくはずだ、そしていつの日か俺だけではなくクラス中いや、世界中の男よりも大きくなるはず。


「でも、そこまで大きくなったみなとを好きでいられるか?」


 俺の中の悪魔がささやいた。


 大丈夫に決まってるだろ、俺は外見だけでなく内面もふくめたみなとを愛しているんだ。

 それにしてもみなとは可愛いな、もっと知りたい、みなとを感じ……、おっと、これ以上の妄想はみなとを汚すことになるから自嘲します、はい。


 でもこれ何時間でも見てられるな、なんたってみなとは可愛いから、というよりこのみなとの隣にいる子供がみなとの可愛さをより一層引き立ててるな、もしかしてこいつといるからこそみなとは輝くのではないだろうか?

 となるとみなとの隣には今後も彼にいてもらわなくてはいけないな、まあ、ここでいう彼はもちろん俺なのだけれど!


 あー、この写真とか懐かしい、これは小学二年生の初夏にお互いの家族でキャンプに行った帰りの奴だ。俺とみなとが楽しそうに何かを作っている。この後、俺たちはお互いの作ったものを交換したんだよな。あー、懐かしー。

 みなとからもらったものはなくしてしまったが俺の思い出として俺の中にあるからいいんだよ。俺が作ったものは覚えてない。なんかきっと適当な変なものを作ったはずだ。ほら、俺ってセンスは無いから。

 あー、この写真も懐かしいなー




「ピーンポーン、ピーンポーン」


 気づいたら寝てしまったらしい。

 俺の枕元にはアルバムが出っぱなしとなっている。


「ピーンポーン、ピーンポーン」


 誰であろうか? みなとならマンションのオートロックキーは持っているはずだし、わざわざインターホンを押すはずはない。


「はーい、今出まーす」


 ベットから出ると急いでリビングに向かっていった。



「すいません、わざわざありがとうございます」


 俺の家のインターホンを鳴らしたのは俺が予想だにしない人物であった。

 まさか、すず先輩が俺の家に来るなんて、


「こちらこそすいません、病人の方のお家に厚かましくお邪魔させていただいて、あの、体調大丈夫ですか?」


 鈴先輩は俺の家のリビングに上がると開口一番俺の体調を気にかけてくれた。

 きっと、俺の為というより少ない部員が休んだりしたら部に支障が出るから来てくれたんだろうけど、良い先輩だな。


「大丈夫ですよ。ちょっと最近寝不足だっただけなんで午前中に十分寝たしもう万全です」


「それなら良かったです。私も安心しました」


 鈴先輩は朗らかに笑うとうちのリビングを見回していた。


 彼女は俺が所属する自己生活部の一つ上の先輩である。

 おっとりとした物腰柔らかな感じや茶色でふわふわの髪はまるで綿菓子のような柔らかさを持ち、女子高生にしては小さい体格とそれに似合わない主張の激しい胸部と男の妄想が具現化したような方で、俺ら一年の中で守ってあげたい女子ランキングのトップに君臨している。


 ちなみにみなとも入ってはいるのだがみなとは守るとかではなくもう君臨する系女子? いや、女子系天使だからちょっと違うんだよな。

 あと、先輩はそれはここでは紹介したくないし、今後も出てこないことに期待したい。


「それにしてもよく俺の家がわかりましたね、何かに書いてあったのですか?」


「あっ、えっと……それはおじいさ……、いや違いました、部の名簿に住所が書いてあったので、名簿は部室に置いてありましたよ」


「確かに入部するときに貰った名簿に書いてありましたね、そういえば先輩こそ部活は今日ないんですか?」


 この後、もしかしたらみなとが来るはずだし、この空間で先輩と二人っきりというのはまずいし、早く来てくれよ、マイ大天使みなとちゃんや。


「部活より、部員の方が大切だと私は思うので私はこれでいいんです! 一応、部長にも休むことは伝えてありますし」


 この人もいい人だよな。きっと俺が特別というわけでなく皆を同じように大切に思っているからこそ出会ってまだ一ヶ月しか経たない後輩の家に二人っきりの状態で入れるんだろう。


 あー、こんな女社長の元で働きたい、きっと社員全員を大切にしてくれるはずだ。

 確か鈴先輩の家ってお金持ちだったよな? それならそれも夢じゃないかも?


「鈴先輩って、いい人ですよね、入学してまだ一か月の俺の事なんてよく知らないはずなのにお見舞いに来てくれるなんて、ありがとうございます」


「私も元気そうな幸人君の顔が見られてよかったです。それにお家にお邪魔させていただいて、私こそ新鮮な体験ありがとうございます」


「……新鮮な体験って?」


「いや、私のおうちは大きすぎてあんまり落ち着かないんですよね、何かあればすぐにお手伝いの人がなんでもやってくれちゃいますし、登下校まで車で送ってくれなくていいって言っているんですがお父様が心配して送るって聞かなくて、困るんですよ」


 そうなんだよな、鈴先輩ってガチもんのお嬢様なんだよね。ホントにいるんだな、こんな人。


「それだと今日俺の家に来るのってどうしたんですか?」


「えっ、こっそり教職員専用の出入り口から抜けてきちゃいました」


 舌を出してお茶目気取ってるけど、お付の人的には大変な事じゃないのか?


「あー、ありますよね、俺も時々使いますもん、急いでるときとか、って、それよりそれだとまだ、学校でまだ車待ってるんじゃないんですか!」


 なれないノリツッコミって難しいね、でも鈴先輩ったら本当に楽しそうに話すんだもん、可愛いぞこの先輩野郎。まあ、もちろん皆さん知っての通りみなとの方が可愛いんだけどな。

 可愛いと好きには明確な差があるんだな。

 今まで知らなかったけどそれを俺はここで初めて知った。


「それなら大丈夫ですよ、今日は部活があると言ってあるのでそれまでは車が来ることはありません」


「それならえーっと、今四時ごろだし後二時間ぐらいは大丈夫なんですね」


「そうなんですよ!」


 いや、そんな満面の笑みで言われると俺はどうしたらいいのだろ?


「じゃあ、行く場所がなければえーっとなんというか、俺の家にいてくれてもいいですけどどうしますか?」


 あっ、でも大天使みなとちゃんがこの後、俺の家に君臨する予定だったよな、みなとと鈴先輩って仲良かったっけ? まあ、二人が仲悪いわけないか天使と美少女は仲良いものだ、うん、これぞ世界の真理。

 あと、なんかさっきから先輩の顔が少しずつ赤くなってるんだけど先輩こそなんかあったのだろうか? この部屋あついかな?


「ん~、さすがにそんな長い時間いるわけにいきませんしお気持ちだけ受け取っておきますね。ありがと

うございます」


 やっぱり具合が悪かったのかな、まあ、これ以上悪化しない為にも早く帰った方が良いかもしれないな。


「それじゃあ、この後どうする感じなんですか?」


「取りあえず、部活に行ってきますよ、幸人君の元気も確認できましたしね。……ではそろそろお暇しますね、お邪魔しました」


「じゃあ、せめて玄関にまでだけで送らせてください」


「やっぱり、幸人君はいい人ですね」


 鈴先輩は最後にそんな言葉を残して去って行った。俺的には鈴先輩の方がいい人だと思うのだけどな。

 まあ、世界一のいい人は誰を隠そうみなと神だけどな!




「ちょっと、今のはどういうことかなー? ゆきとくーん」


 俺がマンションの下まで鈴先輩を送ると先輩とは反対側の道からみなとがきていたようだ。


「あたしが幸人の為を思って学校帰りに飲み物とか食べ物買ってるときにまさか幸人があの、あの、娘にしたいランキング一位の鈴先輩を家に連れ込むなんて、休んでいたくせに言い御身分じゃない」


 みなとは怒っているのだろうか? 別にみなとと鈴先輩は仲良いと思っていたし問題ないと思うのだけどな……

 てか、鈴先輩二冠してない? しかも男子女子両方から求められてるとかすごいな、まあ、みなとの方がっていつまで言ってんだろう、俺。


「鈴先輩は部活を代表してお見舞いに来てくれただけだからみなとが想像するようなことはないよ」


 これはもしやみなとは鈴先輩に嫉妬しているのだろうか?

 可愛いことこの上ないな、やっぱり好きだなーみなと。

 てか、さっきほどみなとを直視できなくないぞ、これはアルバムの効果だな。


「普通に考えて、そうよね、幸人の為に個人的にお見舞い来るなんてありえないし」


 お前今のセリフが俺を傷つけてること分かってるか?

 みなとじゃなかったらそのセリフを言ったと同時にビンタするがみなとに免じて許してやろう。俺はなんていい奴なのだろう。


「で、みなとは俺に個人的にお見舞いに来てくれたって訳かい?」


「そっ、そんなんじゃないわよ、私はただ帰ってきたついでにあんたんちに足りないものとかかってきただけよ」


「なるほど、うちの親が迷惑かけて申し訳ない」


 これはきっと素直になれないんだろうな。さすがみなと。


「そんなことはいいわよ、腐れ縁でしょ、それより早く部屋に戻りなさいよ、あんた一応病人なんだからさ」


 なんだろう今みなとを俺の部屋に入れるのはダメな気がするぞ……

 やばい、あれ出しっぱじゃん!


「あっ、ちょっと玄関で待っててもらってもいいかな?」


 内心の動揺をよそに極めて冷静に発言できたはずだ……

 さすがに出しっぱなしにしているアルバムをみなとに見られるのだけは避けなければならない。




「あんた意外と元気そうね」


 俺から奪った体温計を見ながらみなとは話した。

 病人と言っても恋煩いの俺は熱があるわけでは無かったので体温が上がってるとしたらみなとのせいだし、原因はみなとにあるんだよ!


「今朝って何度ぐらいあったの? もしかしてずる休み?」


「いや、今朝は測ってないからわかんないなー」


 ずる休みっちゃあ、ずる休みなのだろうか?

 恋の病だしな

 でも、男の俺が恋の病って……俺は乙女か!

 いや、逆に考えると学校を休む人の大半が恋の病の可能性も……


「それはないよな」


「うん? 何が?」


「いや、何でもないよ、それよりこれ上手いな、何だっけ? 何とかクリームパン」


 俺はみなとが買ってきてくれた購買の新商品を食べながら名前を思い出そうとしたのだが思い出すことはできない。


「ふんわりクリームをサクサク生地で包んだサクサクふんわりクリームパンね。なんか売れ残ってたから適当に買ってきたんだけどそれならよかったわ」


 俺たちが通っている高校には学食は無く、購買しかない為、基本売れ残ることはないと思うし、新商品ならそれこそ、四時限目が終わってすぐに走りださなければ買えないと思うのだが……

 それは聞かない方がいいよな。みなとのやさしさに……乾杯。


「今日何にも食べてなかったの?」


「そういえば、何も食べてないな、ほとんど寝てただけだし腹も減んなかったわ」


 正確には寝ながらみなとの写真を見ていたのだがわざわざ詳しく言わなくてもいいだろう。

 そう、これは言わないだけで言いづらいわけでは無い。

 厳密にね、厳密に。


「それなら何か作りましょうか、幸人お坊ちゃま?」


 何故そこで急にキャラ変えて来るんだよ、いちいち俺をどぎまぎさせないでほしいな。

 制服エプロン姿のみなとがそのセリフを発すると通常時よりも何万倍も破壊力抜群だよ。


「んー、そんなに言われたら幸人お坊ちゃまはみなとさんの愛情たっぷりお昼ご飯を頂戴しますね」

 言ってしまった、冗談で言ったけどこれは言い過ぎたか?


 みなとを好きになってから互いの距離感というものがわからなくなったけど以前の俺はきっとこんな感じだっただろう。


「……」


 なんだ、この微妙な間はみなとー、早く返事してくれよ! 心臓バクバクだよ、体に良くないよ。

 知ってるみなと? 俺って病人なんだよ……

 みなとはなんで黙っているのだろう、何考えているのだろう? これは脈ありなのか?


「……調子に乗んなぼけ、幸人の癖に……」


「えっ?」


「調子に乗んなって言ってんのよ、あんたは幼馴染に何求めてんのよ! 殴られたいの?」


 実は最初の方で聞こえてたのだが、みなとを後ろから見ている感じ耳が赤くなっているのが可愛かったので難聴主人公を演じてしまった。

 何回も言わせてもらって悪いしもう耳にタコがで見るぐらい聞いてると思うけどやっぱり原因はさ……

 何もこれもみなとが可愛いのが悪いんだよ!


「まあ、夕食の準備のついでだから作ってあげるわよ。幸人の為なんかじゃないんだからね。これは幸人のお母さんにお願いされてるからの事であってさ」


 いいや、さすがにそれはもう俺の為だろ、俺がお願いしてるんだし……

 しかも、昼飯にしたって晩飯にしたって俺が食べるんだからさ。


「って、今日うちの日だったか?」


 俺とみなとの両親は帰って来るのが遅いため、昔からお互いの家で二人で過ごしていたために出来たルールだ。


「そうよ、あんたのママから今日遅い日だから幸人をよろしくって連絡来てるんだからね、ほら」


 みなとが俺に見せたスマートフォンには俺の親が十歳若返ったくらいの無駄に可愛げなメッセージが入っていた。

 おい、母さん、可愛いのはみなとだけで十分なんだよ! お前はこのまましわしわのババアになるんだからさ。


「確かに……、そう書いてあるな……、でも、今日はみなとの親いるんじゃない?」


「あー、うちの親は今日結婚記念日でいないんだよね、あの二人はいつまでも熱々なんだから」


 みなとの家は記念日が多く、結婚記念日から誕生日、付き合って十五年と四カ月記念日、結婚して十二年と半年記念日など何かと記念日の多い一家なのである。

 みなともその遺伝子を引き継いでおり、ホントに記念日を作りたがるんだよな。

 さすがに飼ってためだかの誕生日を毎年祝ってるのはみなとぐらいだと思うんだよな、そのメダカもう死んでんじゃんよ

 まあ、みなとのそんなとこも可愛いんだよ! ぼけー!


「じゃあ、今日の飯は俺が作るかな、うちのキッチンだと使いにくいと思うしさ」


「いいよ、病人は寝てなさいよ、それにあんたの家のキッチンはうちのキッチンと同じ造りだし使い慣れてるわよ」


 みなとの飯は食いなれてるし半分ぐらいお袋の味みたいなとこあるから全然ありなんだけど、それは以前までの俺の事である。

 今の俺がみなとが作ってくれたご飯を食べた時にはどうなるんだろう?


「吐くのかな?」


「はっ?」


「いや、ごめんそんな吐くはずないじゃん、みなとのご飯食べたからって……」


 しまった、誰もみなとのご飯がまずいって言ったわけじゃないのになんかそんな風な意味に取りそうなことになってしまった。


「あんた、ちょっと大丈夫?」


 キッチンにいたみなとは暴力を振るために近づいて来たと思いきやどうもそういう訳ではなかったようだ。


「ん~、やっぱり熱はないわよね。それならどこか痛いとか無い? 急な吐き気なんて完全に病気じゃな

いあんた」


 近づいてきたみなとは俺の体温を測るためお互いのおでこをつけたのだがそんなことされたら……

 病気なんだよな俺、何度も言うようだけど恋の病なんだよ。

 体温上がっちゃうよ。


「どこも痛くないし、さっきも話した通り寝て元気になったから大丈夫だよ。吐きそうってのは……そう、お腹が減りすぎて吐きそうっていう方の吐きそうだから大丈夫だよ! それより俺はみなとのご飯たべた

いな~、さっき食べたパンだけじゃあ物足りないんだよね」


 焦った俺は早口でまくし立てるように話してしまった……

 俺の汚い唾がみなとを汚してはないだろうか? あれ、なんか想像してたら興(以下、自主規制入りまーす、ここからは十八歳以上じゃなきゃあダメだぞー)


「もう、取りあえず具合が悪くなってきたら遠慮しないで早く言いなさいね。私とあんたの仲なんだから」


 天使かよ! 天使だよ! 神様ありがとうこの世界にみなとを生んでくれて、そして俺と出会わせてくれて!




「あー、うまかった」


 みなとが作ってくれた遅めの昼食はおいしいだけでは語彙が足りないのだが俺の語彙力ではそれ以上のことを言うことはできなかった。

 まあ、母さんの味以上なのは間違えないな……。


「お粗末様、あたしが作ったものを残すことなく全部平らげるんだから割と元気そうね」


「ありがとな、みなとのご飯食べて元気になったよ」


 あれ、なんか恥ずかしいこと口走ってないか?


「あっ……それなら良かったわ、その調子で明日から学校行くためにも少し休んだら?」


 みなとと話すことにも慣れてきたしきっと明日からは学校に行けるだろうな。

 鈴先輩も義理だけど心配してたし、さすがに明日も休んで来られたらちょっと困る。


「んー、眠くはないんだよな、さっきまで休んでたし、今は元気だから」


「それなら、今日の授業のノートでも写す?」


「そうだな、じゃあちょっと貸してくれよ」


 俺は一度自室に戻ると今日使うはずであったノートと教科書を持ってきた。


「あのー、その姿勢は何でしょうか? みなとさん?」


 みなとはリビングの椅子に先ほどの制服エプロン姿のまま座って俺に自分の席に座るように促してきた。


「いやー、いっつも幸人には勉強でお世話になりっぱなしだしさ、たまにはみなとお姉さんがお勉強教えてあげようかなーって、ほらほら遠慮しないでさ」


「じゃあ、みなとの復習にもなるし教えて貰うかな」


 俺は照れながらもみなとの隣で勉強することにした。




「なんで、こんなに間違えてるんだよ」


「あれー、おかしいな、今日は幸人の為にしっかりやろうと思ってたんだけど……」


 みなと、そんな可愛いこと考えてくれていたのかよ、ホント可愛いなーもう。


「取りあえず、俺がぱっと見でわかる範囲で間違えてるところは赤入れといたから直しときなよ」


 普段みなとの勉強見ているし、間違え方はわかっているけど、すごい頑張ったということだけは分かるな。


「ねー、ちょっとこれどうやって解けばいいの?」


 俺が現国のノートを写しているとみなとは椅子を寄せて近寄ってきた。

 すいません、あの、ちょっとこれ近すぎません? この距離だとみなとの匂いとか

体温とか伝わってくるからちょっと困るんですが……せめて俺の前に座ってください。隣だと机という障害物がないんで距離が近すぎます……


「あっ、えっと、それは」


「ちょっと、早く教えてよ、幸人ならこんな問題簡単でしょ」


 みなとに期待されてる! やばい、ここは男を見せる時だぞ!


「えーと、その問題は、あれだな」


 やばい、緊張でいつもの調子が出ない……

 これだから恋ってやつは困るんだよ。明日も学校は休もうかな?


「やっぱり、調子悪いんじゃないの? なんかいつもより頭のキレ悪い感じだし、やっぱり休んどく?」


「いや、大丈夫、それよりほらこの問題はこの公式を使ってここをうまく変えてやれば解けるんだよ」


「おー、さすが幸人、勉強面だけはすごいよね」


「みなともきちんと予習と復習を欠かさないでやってればこのくらい簡単に解けるさ、みなとはやればできるやつなんだから」


「あたしは大丈夫よ、だってわかんないとこあったら幸人に聞けばいいんだし」


 昨日までの俺が聞いていたらなんて身勝手な奴なんだと思う所もみなとのはにかんだ笑顔を見るとなんでも許せてしまう……

 なんて可愛いんだ、オレの幼馴染は!




 その晩、俺の両親とみなとの両親が九時ごろに続けざまに帰ってきて、みなとはいつも通り両親に連れられ同じマンションの隣の部屋に帰って行った。


「あんた、今日学校休んでたんだって!」


 みなとの奴うちの親に話してたのかよ。


「あんたが学校休むの初めてか、確か入学式の時は遅刻だからこのペースだとあんた今年何回遅刻と欠席することやら……」


「それはしょうがなかったんだよ、あれはさ」


 入学式の遅刻は一応の原因はあるわけだし、それはあまり触れてほしくはないんだよなー


「ホントはあたしがすぐ戻ってこれたらよかったんだけどね、今繁忙期で忙しいのよ」


「あー、それならみなとが来てくれたから大丈夫だったよ、休んだっていってもそんなに辛い状態とかでもなかったしな」


「あんたには母さんよりみなとちゃんが付いていてくれた方がいいんだよね、もうどっちが母さんなんだかわかんないわよ」


 確かにみなとがいてくれれば何でも大丈夫な気がするな。

 すごいぞ、みなとって天使なだけじゃなくて家事も看病もなんでもこなす大天使じゃないか! いや、勉強が少しできないとこが欠点だけどそんなところも愛嬌があって可愛いんだよな。


「さすがに親がそれいうのはちょっとどうかと思うなー」


「もう、お礼は幸人しかないわね」


 んっ? お礼に俺とはどういうことなんだろう?


「あー、でもうちもみなとちゃんのとこも一人っ子だしどうしようかなー?」


 なんかうちのお母様の妄想が大変喜ばしいことになってるぞ、これはどうしよう、便乗するしかないのか?


「でも、みなとちゃん程の子が幸人なんかのとこに来てくれるわけないかなー」


 そこは少し位俺を信じてほしいんだけどなー

 てか、さっきからこの親は一人で話しすぎじゃないのか?


「取りあえず部屋行くわ、一応病人だし明日は学校行かなきゃならないからさ」




 部屋に行くとみなとから俺のスマートフォンにメッセージが届いていた。

『明日こそは学校来なさいよ! 小テストあるって数学の先生が言ってたから』


 みなとさん、それは聞いていませんよ……

 みなとのメッセージを軽く返すと俺は日課であった明日の授業の予習を行った。

 本当は復習もするのだがそれはみなとと先にしてしまった。

 昨日はみなとのこと考えてたから何にも手につかなかっただけど……

 明日から俺の学校生活はどうなるんだろう?

 みなとと接するのはできるようになったし何とかなるだろう、きっと。


「あっ、そういえば鈴先輩にはお見舞いのお礼言わなきゃな」


 んっ? そういえばなんで先輩は俺が休んでること知って俺の家に来れたんだろう?

 よく考えると部員名簿なんて書いた記憶ないんだけど……


まず初めに読んでいただきありがとうございます。 

初投稿させていただきました。

どうも瑞樹一といいます。

いつも、こんな調子で学園ラブコメが好きで趣味で書いてます。

これからも投稿していきたいので感想など貰えると最高にうれしいです。


 


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