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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十三章 裸の心
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元九十九話 安心したら自己嫌悪した

 リリナの入院から一週間。

 怪我の回復が順調以上に進んだおかげでリリナは予定通り退院することが出来るらしい。

 医者からの許可が降り、リリナ本人も学校に来たがっていたので明日からまた一緒に登校することになるだろう。

 と言うのも、あれからクラスメイトどころか学校内で会った事すらない生徒がお見舞いに来たらしい。

 普通よく知りもしない生徒が来たら怯える様子を見せそうなものだが、彼女は記憶喪失。誰も知らない状態とも言えるからか、むしろ感激していた。

 非常に喜ばしいことだし、俺の気持ちも舞い上がる…はずなのだが。


「リリナさん、彼氏いるって本当かな?」


「この前お見舞いに行ったって女子生徒が見たって話でしょ?

 2人っきりで一緒に居て、リリナさんの手を握ってあげてたとか!」


 最近、妙な噂を聞く。

 それは今あったようにリリナに彼氏がいるという話。

 概要は…今名も無きクラスメイト(クラスの女子)が言った通りだ。


「でも、その話って信じられないよね。

 リリナさんの身持ちの硬さは有名よ?今まで何回も告白されてたみたいだけど、一回も成功したって話は聞いたことが無いわ。」


「それは私も聞いたことが無い…誰か好きな人が居るんじゃないかって噂もあったはずよ。

 そう言えば、事故があった日も告白されてたらしいよ。」


「今まで噂が流れてなかったってことは、もしかして…」


「それが成功したってこと!?その人が、リリナさんの想い人!?」


「わかんないけどその可能性は高そうね!」


 ……なんだろう。俺が考えるべきことを全部持っていかれた気がする。

 とにかく、その噂を聞いてから俺の心はどこかモヤモヤしているようだった。

 先週も気分最悪な状態で、土曜日なのによく分からない学校行事で登校させられたし…

 …あれ学校行事じゃなくて授業参観だったな。あの日なんでモア姉居たんだろうとか思ってたけどそれなら納得だ。そういや来るとか言ってた気がする。

 ……ん?俺のご両親どうしたの?あ、その日行けないって言われてたんだった。そうだった。

 閑話休題。


『その…記憶を失う前の私に、彼氏は居ましたか?』


 その噂を聞いてからというもの、入院して3日目のリリナの言葉が心に引っかかっていた。

 今日帰ったらリリナに訊いてみようか。

 自分への軽い提案。それが思い浮かんだ途端言い知れぬ恐怖が湧き上がってくる。

 …何を怖がってるんだ俺は。

 あのリリナだぞ?万一にも彼氏なんて居ないはずだし、居たとしても俺には関係無い。

 別に俺はアイツの彼氏なんかじゃないし、アイツに恋愛感情を持ってるわけでも…

 ………

 必死になってる方がバカらしい。止めよう。

 それに、もし仮に俺がアイツを好きだとしてもその想いは実らない。

 俺もアイツも性別は女。女の子同士は結婚できないし血を残すことも出来ない。それは詞亜にも言ったはずだ。

 なのに、なんで今更……

 ……今、俺は何をしていた?

 本心を理性的な理論でねじ伏せる作業をしてたのか?じゃあつまり、俺の本心は…


「マナ、何百面相してんだよ。」


「黒板には何も書いてないよ?」


 達治と田倉が突如生えてきたように現れたので強制的に思考を打ち切る。ちょっと安心してしまって自己嫌悪。ナルシポイント-5。


「お前もしかしてなんか見えてるのか?知らない間に宇宙人に改造されたのか?」


「そりゃねー…」


 よと言い切れないことにちょっと危機感を覚える。ジーナの奴俺に何もしてないよな?ちょっと前大怪我した時に回復カプセル的な奴に入れられてたけど別に改造はされてないよな?


「そんな訳無いでしょ…って言いきれないんだったね。」


「あれ?田倉はジーナが宇宙人って知ってたのか?」


「マヤさんの一件でね。」


 そう言えばそうだったな…忘れてた。


「それより、百面相だろ?どうしたんだマナ?」


「…リリナ、彼氏いるらしい。」


「は?」


「え?」


「っていう噂が」

「「ええええええええええええええええええええええええ!?」」








「ただいまー」


「「お邪魔します!」」


 放課後。

 俺は付いて来ると聞かない達治と田倉と共に一目散に帰った。

 理由は一つ。


「おかえりなさい、マナさん。」


 リリナは早退したジーナの案内の元俺たちの家に戻っていた。

 俺も早退してリリナの迎えに行きたかったのだが、ジーナが早退するのは自分一人で充分だと言ってきかなかった。

 ジーナはリリナの事故に責任を感じていることは知っている。その上で俺が代わりに行くなんて言えなかった。


「…達治さんに田倉さん?いらっしゃいま」

「リリナさん嘘だろ!?」


「彼氏が出来たってホント!?」


「え?え?」


 リリナの明らかな困惑を意に介さず詰め寄る達治と田倉。達治と田倉の方が困惑が大きいのだろう。


「リリナが困ってるだろ。

 ちょっと落ち着け、それじゃ答えたくても答えられない。」


 そんな二人を引きはがす。


「お、おう…ゴメンなリリナ。」


「…ゴメン、リリナ。」


「いえ…」


「マナさん結構力強いんだね…」


「まあな。」


 力は男時代と同じ、その上魔力切れでパワーアップしてるからな。そこらのひょろいあんちゃんよりは上のつもりだ。


「…リリナ。彼氏が居るって言うのは本当か?」


「………」


 達治に改めて出された質問に言い淀むリリナ。

 間があるということはつまり…


「…いえ、居ませんよ。」


 ……リリナの答えは俺の予想とは違った。しかし疑いは晴れない。


「本当か?病室で手を握られてるのを見たって話も聞いたけど。」


「クラスメイトの一人が悪ふざけでやったのを見られただけですよ。

 あの人、どうも私に好意があるようでしたし。」


 リリナに好意を持つ男子生徒は珍しくない。むしろ嫌ってる人間の方が少ないだろう。

 その中の一人がそんな悪ふざけをしたのだろうか。紛らわしいことを…

 ……本当に居ないのか?

 じゃあ、あの時なんであんなことを訊いたんだ?


「なんだ、そう言うことだったのか…」


「なら納得だね。やっぱり、リリナさんに彼氏は居なかったんだ…」


「…その言い方は引っかかりますね。」


「だって今までリリナさんへの告白は全敗って聞いてたし…その一つが成功したって話が信じられなかったくらい身持ちが硬いって言われてたからね。

 一部では同性愛者なんて噂もあったくらいだよ。」


「記憶を失う前の私って一体…」


「告白を断り続けたら異性に興味が無いんじゃないかって邪推する輩はいるものだからしょうがないよ。そこは割り切るしかないんじゃない?」


「まあ、とにかく今日も元気そうでなによりだ。

 俺達はもう帰るぞ、噂の真偽も分かったことだし。またな!」


「そうだね、帰って夕食の用意しないと…また明日!学校で待ってるよ!」


「…え?田倉お前…料理できんの?」


「うん。たまに家族の食事を作ってるからね。」


「俺も出来るようになった方が良いのかな…」


 2人は雑談をしながら帰って行く。

 玄関から出て行った様子を見届けると、俺はリリナに訊いた。


「本当に、彼氏は居ないのか?」


「…はい。」


「じゃあ、この前俺にした質問は何だったんだ?彼氏がいたかどうかとか…」


「…ちょっと気になっただけです。」


「わざわざ呼び止めてまで聞いたのにか?」


「………」


 リリナの態度を見ていれば何かあるのは分かる。

 だが、彼女が話さない以上…


「…そうか。

 この件に関してはもう何も聞かない。しつこく訊いて悪かったな。」


「いえ…」


「俺は夕食の準備してる。

 お前は明日から学校に通うんだから準備はしとけよ?時間割表が見つからなかったら貸してやるから。」


 そう言ってキッチンへ向かう。

 今リリナが口を割ることは多分無い。今訊き続けても時間を浪費するだけだろう。


「マナさん!」


「…なんだ?」


「……いえ、なんでもないです…」


 今呼び止めた理由はきっとこの前と同じだろう。

 でも、リリナ本人が言わない以上は何も訊かない。彼女にも何か理由があるのかもしれない。覚悟が必要なのかもしれない。

 それまでは待ってやるとしよう。いずれ彼女から話してくれるはずだ。

 部屋に戻るリリナを見た後冷蔵庫の中身を見る。

 …今日はチャーハンとかにしようかな。最近食ってなかったし。

 ………いや、いっそ…

 中身の見えないタッパーを掴む。

 これは恐らくリリナが持ち込んでいた異世界の食材。これで料理を作って食べさせれば記憶が戻るかもしれない。

 そう思ってタッパーをおもむろに開けた俺は―――


「キキキキキキキキ」

 バン!バン!バン!


 ―――思いっきり閉めて数回叩いた後冷蔵庫に戻した。

 …やっぱチャーハンで良いや。こんなん料理できねぇ。

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