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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十三章 裸の心
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元九十四話 答えようとしたら答えられなかった

わざわざ一度書いた漫才を削ってまでシリアス回を書くコメディー作者の屑。

…結構当たり前だったりして。

 日が暮れ、街灯がつき始める街中。

 俺は人の波をすり抜けながら走っていた。

 息はとうに上がっている。一度でも足を止めてしまえばもう歩けなくなってしまいそうだ。

 それでも焦燥は弱まらず、強まるばかりだった。

 足を進める。全力でもまだ遅い。

 止まる暇があったら進め。足の力を弱めるくらいなら強めろ。

 “あのメール”が嘘だと、証明するんだ―――






 ―――事の発端は一時間前。

 用事があると言うリリナ、ジーナと別れてじょうちゃんの見舞いを終えた俺は、玄関に待ち構えるリリナを想像してドアノブを握ることを躊躇する。

 なんで今の俺に丸投げしたんだよ過去の俺…

 もういっそ、俺にも分からないとでも言っておけばいいか?でも、そんな答えでリリナが満足するのか?

 いや、満足するかどうかではない。事実いくら考えても俺には分からなかったし、そんな状況でテキトーに返事が出来るような悩みではない。やはりリリナは機を急ぎ過ぎたのだ。

 これから2人で考えて行けばいいだろう。そうすればきっと後悔の無い良い答えが浮かんでくる。

 そうと決まれば。

 ドアノブに手をかけ、ドアを開けた俺は拍子抜けする。

 俺の予想と違い、リリナが待ち構えていることは無かったからだ。

 ならばとリリナの部屋を見るが、そちらにも居ない。

 ジーナに訊いてみようと部屋を訪ねたが、そちらももぬけの殻。当然俺の部屋にはマヤしかいない。

 しかも、マヤも知らないらしい。

 …その辺のコンビニにでも寄っているのだろうか。もしくは、学校の帰り道に寄り道して、今もその最中とかだろうか。

 いずれにせよすぐに帰ってくるだろう。日が落ちるのも早いし、そうそう外に長居することは無いだろう。

 充電のし忘れで電池切れを起こしてしまったケータイを充電プラグに刺して、ありあわせで夕食を作る。クリームシチューだ。

 2人は外食してくるかもしれないが、もしそうでも明日の朝食に流用すればいい。

 そう思って調理を開始し、クリームシチューの具材を切り終えた時だった。


「マナ!大変!どうしよう!?どうすれば良いの!?」


 マヤが俺のスマホを持ってうろたえながら俺の肩をゆすってきた。


「な、なんだ!?何がどうしようなんだ!?そもそも何が起きたんだよ!?」


「これだよ!これ見て!」


 マヤが差し出してきたのは電池切れだった俺のスマホ。どうやら稼働できる程度には充電できたらしい。

 その画面を見て見ると、ジーナからのメッセージだった。

 ジーナのケータイは俺たちの星の端末にも対応してるので、通常通り俺たちのスマホにメッセージを送ったり、電話したりすることも出来るのだ。おかげでわざわざ新しいスマホを買いに行かなくて済んだ。

 閑話休題。ジーナのケータイ事情は置いといて、マヤからスマホを受け取り、画面を見る。

 表示されていたのはたった一文だった。


 〈リリナが事故に遭った、今救急車で運ばれてる〉


 くらり、と頭が揺れる。視界が歪む。

 強いショックをこらえ、ジーナに返信する。


 〈リリナの容態は?〉


 〈分からない、血が出てる。意識が無い〉


 ジーナの返信は俺の心を更に焦がした。

 その後、俺はジーナに搬送先の病院を訊いて、全速力で病院に向かう―――






 ―――嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 もう何度そう思った事だろうか。何度現実逃避をしようとしたことか。

 それでも俺の足は動き続けている。止まってはならない、そんな無茶な指令をこなそうとしている。


「ハァ、ハァ…ぅっ」


 喉がからからになり、時折えずいても止まらない。

 その甲斐もあり、リリナが運ばれたという病院に辿り着いた。

 その瞬間に俺の足から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「動け、動けよ…!」


 プルプル震える足を叩き、激励しても言うことを聞かない。完全に脳の指令をストライキしている。


「…大丈夫か、マナ。」


 呆れたような、でもどこか優し気な声を聞いて顔を上げる。

 そこには声と同じ表情をした憂佳が手を差し伸べていた。


「全く、そんなに急いでいるならタクシーでも使えばよかったではないか。」


「う、うるさい…うおっ!?」


 憂佳の手を掴むと、その手に引っ張られながらなんとか立ち上がる。


「…フラフラだな、ほら、乗っていけ。」


「…じゃあ、ご厚意に甘えて。」


 変に強がっても歩けないものは歩けないので、憂佳の提案に甘えてその背におぶさった。






 ジーナにメールしてリリナが居る病室を訊き、そこへ向かう。

 冷静に考えたらそんなに急いでも検査なり手術なりしているのですぐには会えないんじゃないかと思ったが、もう病室にいることを考えると外傷は意外と小さいのかもしれない。メールにも血が出てるとは書いてあったがその程度は明記されてないし。


「ここだな?」


「ああ、そこのはずだ。」


 メールにある番号と部屋の札を見比べてそれらが合致していることを確かめる。


「あ、憂佳。もう下ろしてくれ。流石にこのまま病室に行くのは抵抗がある。」


「わかった。」


 憂佳から降りた俺は足の具合を確かめ、その回復力に少し驚く。リリナが与えてくれた力のせいだろうか。

 大丈夫だ、と憂佳に言って2人で病室に入る。


「来たんだね、マナ…」


 出迎えたのはジーナとベッドで横たわるリリナだった。

 リリナの頭には包帯が巻かれており、見ていて痛々しい。


「…憂佳?」


 憂佳の来訪はジーナも予想外だったらしい。

 …じゃあ、なんでリリナが事故に遭ったことを知ってたんだ?てっきりジーナが知らせたのかと思ったのだが…


「マヤから連絡が来たんだ。」


「でも、スマホは俺が持ってるぞ?」


 マヤはスマホを持っていないはずだ。買ってなかったし。


「公衆電話を使ったそうだ。」


 そう言えばあのアパート、近くに公衆電話があったな。

 スマホがある今使うことは無いだろうと思っていたが、こんな形で役に立ってくれるとは。


「それより、リリナはどうなった!?」


 そうだ、リリナは…


「…リリナは、まだ意識が戻ってない。

 けど、命に別状は無いらしいから大丈夫だよ。」


「そうか…」


 良かった、とりあえず命は無事らしい。

 だが、そうなると問題は後遺症の有無だとか外からは見えない負傷だ。事故からしばらくした後に症状が出る場合もあるらしいからな。


「…ゴメンね。」


「?」


 ジーナが突然頭を下げる。


「ザープ星の宇宙船で診れれば良かったんだけど…あの時は野次馬が多すぎてリリナを運ぶには目立ち過ぎた。

 それに、ザープ星は基本ザープ星人が起こした出来事を除いて地球で起こった出来事には不干渉を貫くっていう方針があるから、リリナをザープ星(こっち)で見ることは出来ないんだ…」


「そんなの、お前が謝ることじゃないだろ。出来ないことを言ってもしょうがない。

 それで、事故って何があったんだ?」


「持病持ちのドライバーが、持病で運転中に意識を失って…曲がり道をまっすぐ走って、歩道を歩いてたリリナに…」


「そのドライバーは?」


「リリナを撥ねた後、障害物にぶつかって重症…でも、生きてるらしいよ。」


「そうか…」


 死者が居ないのは喜ぶべきなのだろうが、事故があったこと自体喜べない。

 安堵を邪魔する感情を抑え込まない。拮抗する二つの感情を眺めるようだった。


「リリナ、私を助けてくれたんだ。車がぶつかる前に、私を突き飛ばして…

 私を見捨てて避けたことも出来たはずだったのに。私が居なければ…リリナは車を避けられたのに…」


「「……」」


 責める事も、慰めることも出来ない。憂佳も同じようだった。

 ジーナを責める気は全く無いが、反面その言葉が事実に思える。

 そんな心境でテキトーに慰めても、心の傷を深くするだけだろう。


「―――!」


 その時、かすかに音が聞こえた。

 小さく、分かりづらくはあったが確かに衣擦れの音だ。

 その音源はベッドから。

 ベッドを見ると、リリナが上半身を起こしていた。


「「「リリナ!」」」


 2人の表情が明るくなる。俺もそうなっているだろう。


「……」


 しかし、三人に向けられた目はどこか無機質で。

 どこかおかしい、と気付いたのも俺だけではなかったようだ。


「貴方達は…誰ですか?」


 光のない目を向けたリリナは、俺たちに非情な言葉を向けた。

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