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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十二章 date and cold
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元九十一話 不満を感じてたら付いて行けなくなった

 

「マナちゃん大丈夫!?」


 詞亜が去った後しばらく寝ていると、じょうちゃんの元気な声が耳に入って目覚めた。

 詞亜と同じようにリリナから聞いて来てくれたのだろうか。


「私も来たぞ。

 …寝ているところを見られるのが嫌ならすぐに帰るから、遠慮なく言ってくれ。」


「憂佳も来てたのか。

 要らない気遣いだよ。

 もう憂佳を怖がってなんかないから、例の件は気にしなくていいぞ。」


 誘拐事件の事はもう水に流したつもりだ。

 体の拒否反応も無くなったし、憂佳とは普通の友人関係を築けそうだ。

 …百合はまだどうか分かんないけど。


「そうか…!

 ありがとう!ではお礼にチューでも」

「止めろ。」


 迫られることまでは許してない。


「憂佳姉ちゃん!マナちゃんは私の物だよ!」


 俺、物違う。俺。

 俺は俺である。誰の物でもないのである。


「別に良いではないか!私もマナが大好きなんだ!性的な意味で!」


 相変わらずの通常運転だな。頭痛くなってきた。


「良くも悪くも姉妹ってことだね、憂佳姉ちゃん!

 じゃあ、勝負だよ!」


「え、しょ、勝負?何でだ?

 …って、そうではない!駄目だ!マナも大事だが、妹のお前も大事なんだ!そんなこと出来るか!」


「憂佳姉ちゃん……でも!決着を付けないと!」


「憂子、決着なんていらないんだ。

 マナは独占できない。でも、マナはお前の物であり、私の物でもある。それの何が不満なんだ?」


 俺は不満しかないんだけど。

 後、独占できないのに誰かの物って言うガバガバ理論なんなの?


「憂佳姉ちゃん…!」


「憂子…!」


 涙お頂戴の素晴らしい抱擁シーン。

 頼むから他所でやってくれ、付いて行けなさ過ぎて頭が痛い。

 とうとう姉妹で百合百合し始めたか…もう駄目だこいつら。


「そうだよね…!マナちゃんは私達の物なんだよね…!」


「ああ…!」


 …寝よ。






 ペラ、ペラ、と音がする。

 レズ姉妹は帰ったのだろうか。居たらこんなに静かな訳ないか…

 …じゃあ誰なんだ?わざわざ見舞いに来てまで本を読むなんて――――

 ―――一人しかいないか。


「本を読むなら病人の前じゃなくても良いんじゃないか?鴨木さん。」


「…マナ。起きてたの?」


 緩慢な動作で栞を本に挟む鴨木さん。

 今床に置かれた本には見覚えがある。

 俺のだからな。

 頼まれたら貸そうかな、もう読み終わった本だし。


「今起きた。」


「そう。

 ページをめくる音で起きるなんて…かなり神経質。」


「そんな小っちゃい音で起きるか。ごく自然な目覚めだよ。」


「そう。」


「……」


「……」


 気まずい。

 なんか話題が無い。思いつかない。

 性格的に鴨木さんに話題を提供しろというのもどうかと思うし、俺が何か提供すべきなのだろうが…


「……そういえばさ、最近なんか面白い小説とか見つけたか?」


 出会ったばかりの頃は鴨木さんと小説の話ばかりしていたことを思い出して話題を振る。

 最近はお互いに読んだ小説を紹介することも無くなってきてるな…本以外でも話せる話題があると考えれば良い傾向なんだろうけど。最初の鴨木さん本以外に興味ないみたいな感じだったし。


「いくらか。でも、それと同じくらい詰まらない小説もあった。」


「…随分バッサリ言うんだな。」


「取り繕う意味が無い。」


「それもそうか。」


「マナはどう?」


「ああ、いくらか見つけたけど…鴨木さんが面白いって言うかどうかは分からないな。

 それと、無料って理由でネット小説を読むことが多い。手軽さもあるけど。」


「でも、基本的に売られてる小説の方がクオリティーは高い。好みはあるけど。」


「それと値段だ。」


 バイトの人数が増え、それと同時に俺のシフトも減っている為、それに比例して俺の小遣いも減っている。

 よってラノベに使えるお金も少なくなってきているのだ。


「世知辛い世の中。」


「そう言えば、鴨木さんはお金どうしてるんだ?」


 鴨木さんは今は亡き鴨木夫妻の一人娘という設定だったはずだ。

 天涯孤独の身だというのにあのバイトでは食いつないでいけるかどうか微妙だ。メンバーも結構いるからシフトもそう多くないし。


「…鴨木夫妻の遺産を神の力で増やした口座を崩してる。」


「………犯罪とかじゃないのかそれ。」


「バレなければ犯罪じゃない。

 むしろ鴨木夫妻の遺産については合法。鴨木夫妻は孤児の夫婦だったらしいから。

 増やした分は…見逃して。人の倫理に従ってなかった時代だったから。」


「そんなことをするつもりは無いさ。

 まあ、そもそも証拠も無いから訴えようが無いんだけど。」


 神の力とか法廷で言っても狂人扱いされるだけだろう。むしろ無実の罪とか言われて名誉棄損で訴えられそうだ。


「じゃあ、お礼に良い事教えてあげる。」


「良い事?」


「リリナも神の力で口座を作ってる。」


「え?」


「億を越えてる。」


「え!?」


「…っていうのは嘘。」


「え…」


 なんだ、嘘か…信じかけてびっくりした。


「でも、口座を作ってるのは本当。そのお金でケータイ買ってた。」


「ああ…そういうことだったのか。」


 今思えばリリナがケータイ買ったって言った時、誰のお金でとか聞いてなかったな。

 俺の口座から引かれてなかったことは分かっていたものの、それは想定外だった。

 神様お金創造できんの?流石神様。今じゃどっちも元女神だけど。


「……」


「……」


 またしばらく沈黙が流れる。

 鴨木さんは読書を再開したらしく、時折ペラペラと音が聞こえる。

 来て貰ってなんだと思わなくもないが、そんなに本読みたいなら帰ればいいのに…


「そう言えば鴨木さんって、なんで俺が風邪ひいてるって分かったんだ?」


「リリナが言いふらしてた。」


 アイツ…


「『マナさんが風邪をひいてしまったのでお見舞いに来て頂けませんか、来てくれたら多分マナさんが喜びますので』、だって。」


 …リリナ――


「無様にも風邪を引いたマナさんをあざ笑いに来ても良いんですよ、とも言ってた。」


 ――てめえ…


「私はそろそろ帰る。

 一応、リリナは彼女なりにマナを思いやってるはずだから、復讐ならソフトにね。

 あ、この本借りて良い?」


「良いぞ。」


 と言って鴨木さんは帰って行った。

 ソフトな復讐ってなんだ?

 …腕極め270°コース20秒くらいで良いか。






「基矢さん、入りますよ。」


 寝すぎて眠れなくなってしまい、暇だったのでゴロゴロしながらスマホをいじっているとリリナが足でドアを開けて部屋に入ってきた。

 手に持っているのは桶。その中には水とタオルが入っている。


「湿布代わりか?悪いな…」


 起きてからずっと湿布を替えていなかったので、冷却効果が既に切れていた。

 そろそろ取りに行かないとと思っていたので、持って来てくれたのはありがたい。


「湿布?いえ、違いますよ?」


 …ん?


「いやですね基矢さん。風邪なんですから定番のイベントでしょう?」


「定番?」


 桶を床に置き、タオルを絞るリリナを見て嫌な予感を感じ取り始める。


「さあ、脱いでください!」


「……は?」


 なんだいきなり部屋に来るなり脱げとかなんとか意味わかんねーよ脱がせて良いのは脱ぐ覚悟がある奴だけだってかえー?ちょっと待ってー?


「熱が出てるんです、それなりに汗もかいているでしょう。

 そのまま過ごすなんて気持ち悪いでしょうし不衛生です。

 しかし、風邪の時にお風呂に入るのは悪手。その為人は風邪の時、体をタオルで拭くのです!」


「知ってるよそのくらい!だったら俺が拭くからお前は出てけ!」


「良いんですよ遠慮しなくて!ほら、最初に全部見てるじゃないですか!」


「それが理由になるかぁ!しかも遠慮じゃねえ!前も嫌だったけど今も嫌なんだよ!!」


「騒がないでください!熱が上がったらどうするんですか!?

 ほら、人の厚意は大人しく受け取るものですよ!受け取らない場合は失礼になる場合もあるんですから!」


「おいやめろ本当に!ちょっとマジで止めてくんない!?待って!!」


 リリナは俺の服を手際よく脱がしていく。

 熱が出ているせいか、抵抗しようにも出る力はリリナの手を押し返せない。

 この後体の隅々まで拭かれ、ますます熱が上がっていくのだった。


「…基矢さん、二か月前より大きくなってませんか?」


「………」


 返答する気力は残っていなかった。

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