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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十二章 date and cold
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元九十話 悩んでたら寝てた

難産…

 リリナに手を引かれた先にあったのはゴンドラ付きの大車輪…観覧車だった。


「2人っきりですね。」


「2人で、来てるからな。」


 ゴンドラの中。俺の隣に座るなりリリナがそんな台詞を吐いたが、俺としては別に深い感慨はわいてこない。

 っていうか割とそれどころじゃなくなってきた。体調やばい。


「つれないですね。ちょっとは恥ずかしそうに『そ、そうだね。』とか言ってくれてもいいんですよ?」


「2人暮らしもしてただろ。今更、じゃないか。」


「つまらない人ですね…」


「悪かったな。」


「これでは、わざわざ他の方に『週末基矢さんに誘われても行かない方が良いですよ、罠ですから。』って言いふらした意味が無いじゃないですか。」


「お前のせいか!

 なんで皆あんなに嫌そうに断るのかと思ってたらそう言うことだったのかよ!」


 そりゃ『傷?つけといたらいいじゃないですか。』なんて言う訳だ。なんてことをしてくれる。

 でもちょっと安心した。別に皆が俺を嫌いになったからって訳じゃなかったんだな。良かった良かっ…よくねーよ。酷い風評被害だ。


「…マナさんと2人きりになりたかったんですよ。」


「なら…別にお前の部屋でもいいじゃないか。防音付いてるだろ?」


「それではいつ誰が来るか分からないじゃないですか。ジーナさんとか。」


「そりゃ、そうかもしれないけどさ…」


 リリナがそんな心配までして2人きりになりたい理由。

 それが俺にはわからなかった。どうして、日頃の感謝と称してまでここに連れてきたのか。

 …思い切って聞いてみるか。どうせすぐ話されることだろうし。


「でも、どうして。

 どうして、わざわざこんなところに来てまで2人きりになろうとしたんだ?」


「……」


 俺が言い終えて口を閉じる前に表情を曇らせるリリナ。


「…どうした?」


「いえ、少し言いずらいと言いますか…そもそもマナさんに訊くべきなのかどうか…」


「なんだよ…ここまで来て。」


「それは私も思うんですが……」


「早くしないと、迷ってる内に降りることになるぞ。」


「それもそうですね…」


 目を伏せ、一瞬目を閉じて開くと、リリナの目から迷いが消えていた。


「…マナさん。私は…恋、という物をしているのでしょうか。」


「え?」


 あのリリナが恋?

 一目惚れが薄っぺらいとかほざいてたリリナが?

 しかし…頬を染めて目を逸らす仕草はまさしく恋する乙女のそれに見える。まさか本当に?


「お前を、惚れさせたかもしれない、羨ましいような、残念のような野郎の名前を教えてもらおうか?」


 性格残念だけど一応見た目は良いからなコイツ。ちょっとうらやましいぞこらぁ。

 せいぜい残念な性格に振り回されて苦労すると良いわ畜生め。


「…貴方です。」


「……え?」


 俺がその羨ましいような残念のような畜生野郎だって?


「貴方を喪いかけた時…あの時程の喪失感は、今までに感じたことがありませんでした。

 それこそ、助ける為なら自分の命を投げ出してもいいと思うくらいに。

 そして貴方が助かった時…私は、消えゆく意識の中、喪失感に負けないくらい強い安堵と、貴方に対する愛おしさを感じました。

 この気持ちは愛なのでしょうか?」


 その状況はつり橋効果の状況に酷似しているように思える。

 そんな一時的でしかない愛を本物と呼べるかどうか、それを問いたいのだろうか。


「…今でも、その気持ちは…生きてるのか?」


「正直、分かりません。

 その気持ちは今は眠っているだけかもしれませんし、消滅したかもしれません。

 でも、今日…貴方と出かけられる日が楽しみだったのも事実です。」


「それは、単に…遊園地が、楽しみだったから、じゃないのか?」


「それもあると思いますが、貴方と2人きりでお出かけが出来るからこそでもあるからだと思ったんです。」


「……」


「貴方は…これを愛だと思いますか?

 もし、私が貴方を愛しているとしたら…貴方は――」


 俺はリリナに体を預けた。


「基矢さん!?」


 リリナの慌てた声が聞こえる。すぐ横を見れば真っ赤に染まったリリナの顔を見ることが出来るだろう。

 しかし、俺はそれをしなかった。


「リリナ…ゴメン、限界…」


「え?限界ってまさか…」


 この額に触れる少し冷たい感触はリリナの手だろうか。

 手を握った時は温かかったのに…


「熱い!?

 しっかりしてください、基矢さん!」


 その後の記憶はおぼろげだった。







 目を覚ますと、額に冷たい感触があった。湿布だろうか。

 次に息がこもるような感覚、耳の根元を弱く引っ張るゴム紐の感覚を捉える。マスクをかけているのだろう。

 体に覆いかぶさる布団の感触もある。どうやらベッドで寝かされているらしい。

 目を開けると見慣れた天井。

 朦朧とした意識の為か、帰ってきた記憶が無い。リリナに背負われていたことだけは覚えているが――


「気が付きましたか。」


「…リリナ。」


 目を開き、顔を横に向けると、見慣れた俺の部屋を背景バックにして座っているリリナが見えた。


「この度は申し訳ありませんでした。私がもっと早く服を乾かしていれば…」


「謝らなくても良い、手を滑らせてシートを放した俺も悪いんだからさ。」


 体を起こそうとするが思った以上に体が重い。

 それでも腕を立て、なんとか起き上がる。


「駄目ですよ、無理しないでください。」


「これくらいなんてことな――」


 両手がベッドから滑り、頭が枕にダイブする。


「いてっ……痛くないけど。」


 つい言っちゃうよな。


「大丈夫ですか?」


「ああ、問題無い。」


「大ありですよ、体調が良くなるまでは休んでてください。」


「ああ…そうしとく。」


「では、ゆっくり休めるように私は席を外しますね。

 …あ、そう言えば後で詞亜さんがお見舞いに来るそうですよ。」


「詞亜が?話したのか?」


「はい、今日基矢さんと会えないかと訊かれて…」


「え?今日は土曜日じゃないのか?」


 確か、リリナのせいで今日は俺が罠を張ってると思われているはずなのだが。


「もう一日経ってますよ。今日は日曜日です。」


「…じゃあ、あの後俺ずっと寝てたのか?」


「ええ、ぐっすり。」


「……マジか。通りで。」


 なるほど、罠が時間経過で消滅したから会おうとしてたのか。

 元々そんなもん無かったけど。強いて言うならリリナの罠か?


「では、おやすみなさい。」


 リリナが部屋を去る。

 ぼんやりと、リリナが去って行ったドアを眺める。

 観覧車の中で、リリナは――


『貴方は…これが愛だと思いますか?』


 …あれは、愛なのだろうか。いや、愛と呼べるものなのだろうか。

 もし、そうだったら。

 リリナが、俺を好きだったら。

 俺はリリナの気持ちを受け入れるのか、それとも――






 ――目が覚める。いつの間にか眠っていたらしい。何かを考えていたような気がするが、良く思い出せない。

 心なしか眠る前よりは体調が良くなっているような気がする。明日には治っていそうだ。

 ゆっくりと目を開ける。


「ひゃっ!?」


 …一瞬詞亜の顔が見えたような気がした。短い悲鳴付きで。

 まだ夢の中なのか、それとも熱が見せた幻なのか…


「お、起きてたの?」


 どちらでも無かったらしい。

 顔を横に向けると、正座している詞亜が目に映った。


「今起きた。

 悪いな、せっかく来てくれてたのに寝てて。」


「私こそゴメン!もしかして起こしちゃった!?」


「ごく自然な目覚めだ。詞亜が起こした訳じゃない。」


「そう…もうちょっと寝てても良かったのに。」


「……それは黙ってれば美少女って言いたいのか?分かってるけど傷つくぞ。」


「違うわよ!確かに寝顔は良かったけど…」


「…もしかして、ずっと寝顔見てたとかじゃないよな?」


「べ、別にその違うから!違わないけど…ああもう!好きな人の寝顔を見てて何が悪いの!?」


「……」


 何その開き直り方。俺まで赤面空間に巻き込まないでただでさえ熱あるのに。


「それより、大丈夫なの?寝てなくて…」


「それなら大丈夫だ。

 今起きたばっかりだし、寝る前よりは体調が良い。寝たままで悪いけど、話し相手になってくれるなら歓迎するぞ。どうせ暇だし…あ、でも移しちゃまずいか。」


「大丈夫よちょっとくらい!一時間程度でこの私が風邪なんてひくと思う!?」


「あー…悪い、頭に響くから大声は止めてくれ…」


「ご、ゴメン!」


 …詞亜の奴、一時間もここにいたのか。

 …一時間も寝顔見てたのか。よく飽きないな。


「とにかく、私は大丈夫だから!」


「…でも、一時間はさすがにまずいんじゃないのか?」


「大丈夫って言ってるじゃない。」


「俺が大丈夫じゃないんだよ…お前に移したらって思うとさ…」


 漏れなく申し訳ない気持ちになるだろう。

 風邪を移したら治るとは聞くが、他人に移してまで治したいとは思わない。だったら自力で風邪治すわ。


「…私を心配してくれてるの?」


「ああ、心配だよ。

 でも、もし話し足りなかったら…ああ、そうだ。寂しくなったら後で電話するかもしれないけど、その時は話し相手になってくれないか?」


「分かった。じゃあ、寂しくなったら遠慮なく電話してね。いつでもいいから!」


 詞亜は笑顔で退室していった。

 なんか帰る時顔赤かったけど…あれは嬉しいからだよな?風邪が移ったとかじゃないよな?

 …多分、俺も顔真っ赤だけど。

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