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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十二章 date and cold
88/112

元八十八話 振り下ろしたら半笑いになった

代休が取れたので執筆。


 改札を出てシャトルバスに揺られること数十分、俺たちは目的地である遊園地――スカイハイランドに到着した。

 スカイハーーーーーーーーーーーイランド。のCMはよく身内ネタに使われるらしいが、俺は聞いたことが無い。俺も使ったことが無い。


「着きましたねマナさん!」


 リリナのテンションは高い。

 まるで生まれて初めて遊園地に来たかのような……っていうかそうだった。コイツ異世界産の元女神人間だった。来たことある訳無いよなそりゃ。


「そうだな。

 俺も久々に来たし、せっかくだから楽しんでいくか!」


 俺のテンションも徐々に上がっていく。

 俺も楽しみだった。楽しみ過ぎてネット小説の遊園地回を何度も見直してしまったくらいだ。イメトレも出来てる。多分意味無いけど。


「まずは観覧車に行きませんか?」


「そのチョイスはどーよ?

 観覧車は大体大トリだろ?まずはジェットコースターとかじゃないか?」


「飛ばしていきますね。ジェットコースターだけに。」


「だって最後に絶叫系とか息切れするだろ。」


「まあ…そうですね。」


 近くにあったジェットコースターっぽいアトラクションに並ぶ。

 地方の遊園地だからか、それほど混んでいない。すぐに乗ることが出来るだろう。


「マナさんはジェットコースターに乗ったことはありますか?」


「いや、無いな。

 でも大丈夫だろ。」


「どうしてそう言い切れるんですか?」


「絶叫レベルのイベントは何度もこなしてきたからな。」


 性別変わったり誘拐されたり人質に取られたり死にかけたりなんだりかんだり。


「……それとこれとは別では?」


「分かってる。

 でも、今更後戻りも出来ないしな…」


「それもそうですね。

 では、私は絶叫するマナさんを楽しむとしましょう。」


「オイ今なんて」

「戻ってきましたよ。」


 タイミング悪くジェットコースターが戻ってくる。

 待ってたくせに戻ってきたジェットコースターを少し睨む。

 そこで気付いた。


「このジェットコースター、何か変じゃないですか?」


「ああ、多分ウォーターコースターだな。」


 ウォーターコースター。

 レーンの途中で水に着くジェットコースターだ。

 座席の前には水を防ぐためのビニールが設置されている。ビニールは水に飛び込む直前に被るのだが、完全に防いでくれるわけではない。この十一月も終わりであるこの寒い時期に濡れるのはご勘弁願いたいが…


「…ちょっと濡れるけど、乗るか?」


「ちょっとやそっと気にしませんよ。もしずぶ濡れでも魔法で乾かせばいいんです。」


「じゃあ乗るか、せっかく並んだんだしな。」


 寒い時期とは言え、少し濡れたくらいじゃ風邪なんてひかないだろう。

 それに、せっかく並んだのに結局乗らないというのは勿体ない。ちょっと気が引けるとはいえ乗りたくないというわけでもなかったので、コースターに乗り込む。


「緊張しますね、少しとはいえ並んでいたせいでしょうか。」


「そうだな。」


 アトラクションに乗る前の緊張。あるある。


「初めてだからと言うのもあるかもしれないですね。」


「そうかもな。」


「…なんだかそっけないですね。」


「一応楽しんでるつもりだけどな。」


 これでも声色は弾んでいる…はずだ。


「…もしかして、本当に怖いとか?もしくは、濡れるのが嫌とか?」


「そんなことはない。」


「本当ですかぁ?」


「本当ですよぉ?」


 そうこう話しているうちにコースターがゆっくり動き出す。他の客も乗り終えたらしい。


「こいつ…動くぞ!」


 そりゃ当たり前だ。

 リリナが目を輝かせながら言う。初めて乗ったコースターが動き始めたので感動したのだろう。

 席の前後から小さな笑い声が聞こえた。客の中に同士(オタク)も混ざっていたらしい。


「加速したら喋るなよ、舌噛んでも知らないぞ。」


 コースターは坂を上り、下り坂を目前にする。

 そして先頭が頂点に達した瞬間に加速を始める。


「キャーーーーーーーーーー!!」


 音符が付きそうな悲鳴が周囲から響く。特に隣がうるさい。

 俺も普通に楽しめている。やはり絶叫系は苦手ではないらしい。

 しばらく高速移動を楽しんでいると、速度が緩んでレールの先に水場が見えてくる。

 そろそろビニールを被って……


「…あ。」


 ビニールが濡れていたせいか、手が滑ってビニールが離れる。


「そうやって楽しむんですね!?」


 リリナもビニールを放す。


「お前何やってんの!?」


「え?だって今マナさん…」


「手が滑っただけだ!わざと離したわけじゃ…」


 その間にもコースターは待ってくれず、進み続ける。

 無慈悲にも水場前の下り坂を下りはじめ、着水した。


「うわっ…」


 上半身に思いっきり水がかかる。

 とっさに腕でかばったが、効果も無くずぶ濡れになってしまった。

 服と髪が纏わりついて気持ち悪い。あと寒い。


「今が夏だったら最高だったんでしょうが…気温も低めなので滝行みたいな感じでしたね。」


 リリナのテンションもだだ下がりだ。冷や水を浴びせられたからかもしれない。

 コースターはしばらく進むとスタート地点に辿り着いて止まる。


「大丈夫ですか?ずぶ濡れですよ?」


 コースターから降りると係員のお姉さんが話しかけてきた。

 他の客を見ても俺たち程濡れてるやつはいない。


「大丈夫です、手が滑ってしまいまして…」


「え?そうやって滝行みたいな気分を味わうアトラクションじゃないんですか?」


「それじゃビニールの意味が無いだろ!」


「あ、そうですね…でも、私が怒鳴られるのは筋違いじゃないですか?

 冷や水を浴びせられた上に濡れ衣を着せられるなんて最低じゃないですか!」


「上手いこと言ったつもりかっくしゅん!」


「良ければこれ、どうぞ。」


 係員のお姉さんがロゴ付きの黄色いタオルをくれた。

 カラーボックスの集合体みたいなロッカーの中に大量にあったので、このテーマパークの物だろう。


「ありがとうございます。」


「使い終わったらこのアトラクションの入り口にあったロッカーに入れてくださいね。」


 受け取ったタオルを早速使う。

 髪についた水分をしみこませ、顔と首を拭いて服の下に…


「マナさん、外でそれはまずいです。」


 俺と同じように髪の水分を取っていたリリナに忠告される。

 ハッとして見回してみるとサッと多くの視線が逸れた。彼女らしき連れにチョップとかビンタとかアイアンクローとかされてる野郎共もいた。ざまあ。


「ありがとな、リリナ。」


 タオルを返却してリリナに礼を言う。


「お礼を言うくらいなら気を付けてください。

 マナさんは不用心すぎるんですよ。」


「その忠告、受け止めとく。」


 流石に反論できないし、したら失礼だ。自覚もあるし。

 やっぱり心のどこかで自分が男であるという認識を持っているからこういう隙が生まれてしまうのだろうか。でも、それを失うのは嫌だしなぁ…


「さて、次はどこに行きますか?

 今度こそ普通のジェットコースターとか?」


「風邪ひくわ。」


 こんなずぶ濡れの服でジェットコースターになんて乗ったらほぼ確実に風邪をひくだろう。


「では、コーヒーカップとか?

 今なら持てる力の全てを使ってグルグル回してあげますよ?」


「俺の三半規管を狂わせに来たな。却下。」


 吐き出したうえで風邪をひくだろう。


「では、ゴーカートにでも行きますか?」


「…その前にちょっと温まりたいんだけど。レストランとかでホットコーヒーでも飲ませてくれないか?」


 替えの服が無い以上、このまま服が乾くのを待つしかない。

 ならばせめて飲み物か何かで温まりたい。それに、店に行けば暖房で乾きやすくなるかもしれない。


「そうですね…ちょうどお昼時ですし、混んでいるかもしれませんが良いかもしれないですね。」


 その言葉を聞いてケータイの時計を見てみると、時刻は正午を回っている。腹の減り具合もちょうどいい。

 満場一致の為レストランへ移動する。お代はリリナ持ちで良いらしい。

 テキトーに焼きそばと、この遊園地のマスコットを模ったアイスを注文する。リリナも同じものを頼んだ。

 焼きそばが先に出された。味は普通だったが、値段を見てみると少し高めだった。こういうところってなんで無駄にぼったくるんだろう。


「青のり無しというのは親切ですね。」


「そうか?むしろつけてもらいたかったんだが。」


「歯にくっつくじゃないですか。そんなの見たくないじゃないですか。」


「そうだな……待てよ?それナンパ対策にならないか?口説いてきたらこう、ニカッと…」


「バカな事言わないでください。そんな方法でナンパを撃退するくらいなら肉体言語で追い返しますよ。」


「それもそれでどうなんだ…?」


「お待たせしました、うんでぃーねのスマイルアイスです。」


 うんでぃーねとは、このスカイハイランドのマスコットキャラである。

 雲を象った水の精霊とかわけわからん設定だとか。もう雨の化身とかでも良いんじゃないだろうか。

 隣り合った半円の様な弧の下に、横にしたDのような半円が描かれた所謂にっこりマークが描いてあるアイスの上に小さな綿菓子が乗せられている。

 俺はそのアイスに容赦なくスプーンを下ろし、アイスを真っ二つにする。


「半笑いだな。」


「…随分嗜虐的な顔をしてますね。店員が残っていたらドン引きしてたでしょうね。」


「お前のアイスも半笑いじゃねーか。」


なんか調子が出ません。スランプでしょうか。

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