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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十一章 こんにちはマナちゃん
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元八十話 喧嘩は売り物かと思ってたら贈答品だった

久々の守視点で気合が入っちゃいました。

 この店には何度訪れただろうか。

 俺は一度津瑠とデートで来た日から何度かまたデートで、もしくは一人で来ていた。

 家からは少し距離があるはずなのに足を運んでしまうのは、なんとなく居心地が良いのかもしれない。

 それでもあえて理由を上げるとするなら、下手な店に入ると野郎に勝手に相席されることもあるが、この店ではそんな輩と会うことも無い、と思わせる落ち着いた雰囲気があるから。

 もしくは――


「いらっしゃいませー!」


 ――彼女(マナ)に会いたいから。

 ただ、決して恋愛感情は抱いていない。津瑠という彼女も居るし。

 彼女は女性であるにも関わらず、その精神は男。所謂トランスジェンダーである。

 見た目が完全に美人と言われるが、完全に男である俺には近しい物を感じるのだ。

 だから最近は異世界に渡る頻度も減り(その分異世界からは来るようになったが)、こうしてこの喫茶店に足を運んでいる―――のかもしれない。

 彼女がトラブルメイカー、というよりトラブルホイホイであることも親近感の一因であるかもしれないが。俺もそうだし。


「五名様ですね!それでは席へご案内します!」


 さて。

 問題のマナだが、今彼女は接客中だ。

 接客の仕方では以前と変わった様子は無い。というか、バイト中を選んだのは完全に悪手だったのではないだろうか。

 接客という外面がある以上、素の部分が見えにくいからな。


「…どうでした?」


 案内席に座ると、いの一番にリリナが尋ねた。


「どうって言われてもな…とりあえず、バイト中じゃ素は分からん。」


「そうでしたね…」


「だが、一つだけ違和感がある。」


「違和感?」


 この女子は…確か、鴨木だったか。

 前映画を観に行った時もあまり話していなかったのでよく覚えていないが、確かそんな名前だった。


「ああ、アイツの気配が無いんだ。」


「気配が無い?」


「気配って…」


「よく漫画とかにある“気”みたいなもんだ。

 それが全く感じられない。」


「…それはおかしいですね。

 マナさんは」

「ちゃん。」


 い、いつの間に近くに…

 気配が無いとどうしても不意打ちされたような気分になる。いつも気配察知に頼りすぎているからだろうか。

 …まあ、それは後だ。

 マナが去ったことを確認し、リリナに話しの続きを促す。


「…マナちゃんは、貴方と違って一般人です。

 修行も何もしていないのに、気配を消すとかそんな芸当が出来る訳が無いんですよ。」


「おい喧嘩売ってんのか。俺も一般人だ。」


 身分上は。

 身体能力は…うん、あれだろ。オリンピック選手のちょっと上くらいならまだ人間辞めてないだろ。そうなると将来の記録を破ったオリンピック選手が皆人外になるし。


「私の喧嘩は非売品ですよ?しかるべき相手には贈答しますけど。」


「大体皆そうなんじゃないか?」


「貴方はナンパ相手に大安売りしてますけどね。」


「売ってない、買ってるだけ」

「早く話を進めて。」


「…とにかく、気配を消すことは出来ないはずなんです。

 つまり、今のマナ…ちゃんは――」


「――別人、成り代わりの可能性が高いと。」


 リリナの答えは俺の答えと同じだった。


「…気配の事とかさっぱりだけど、訓練すればできるようになるもんじゃないのか?そんな口ぶりだったけど。」


「一朝一夕でできてたまるか。」


「それに、そんな人物との交流は無かったはずなんですよ。そこの人外を除いて。」


「テメェ…お前も人外だってこと忘れるなよ。

 でも、俺はそんなことマナに教えてない。」


「リリナが居ない間に知り合った可能性は?」


「それを言い出したらキリが無くなるだろ。」


「可能性は数えきれないくらいあるけど、真実は一つ。

 けど、それは私達が見つけた可能性の中にすらないのかもしれない。」


「確かにな…とにかく、今は情報が不足しすぎてる。

 マナの性格が変わった後の情報しかない。その直前、つまり原因の手掛かりが一つも無い。」


「とは言え、その手掛かりをつかむための足掛かりが無いのも事実でしょ?」


「…いえ、一つだけありますね。」


「ジーナのこと?」


「ええ。」


「ジーナ?なんでアイツが?」


 確か、ジーナは研究所に忍び込んだ時の救出対象だったな。


「私がマナちゃんの変化に気付いた時、一緒に居たのがジーナさんだったんですよ。

 そのジーナさんはいつも通りと言いますし…」


「…思いっきり黒じゃないか?それ。むしろなんで訊かなかったんだ?」


「私の方がおかしいのかと思って…

 あと、詞亜さんが気の毒で…」


「詞亜?

 ああ、俺に怯えてたやつか。アイツがどうした?」


 未だに原因が良く思い出せないんだよな…

 なんか悪いことをしたなら謝りたいが、彼女に直接原因を訊くのもあれだし…

 …マナに訊けばいいか。後で訊いとこ。


「マナさんがあれなので、実質振られたみたいな状態なんですよね…」


「ああ…」


「なるほど…」


「…今度、詞亜を慰めに行く。」


 三人は分かったようだが、俺にはさっぱりだ。


『鈍感。』


(……悪かったな。)


 今の心の声で察したわけだが。

 女子同士だからそう思わなかっただけだ。俺は鈍感じゃない。


「じゃあ、ジーナに訊くんだな?

 ちょうどそこに居るみたいだし、ちょっと呼んで訊いてみるか。」


「ああ、そう言えばバイトだって言ってたな。」


「マナさんとね。注文お願いしまーす!」


「はーい!」


 来たのはマナだった。


「…チェンジ。」


「うちは指名制ではないです。チェンジ制も導入してません。

 ではご注文をどうぞ。」


「コーヒー頼む。」


「しれっと頼まないでくださいよ…」


「いーじゃん別に。

 注文も無しに呼ぶわけにもいかないだろ?」


「それもそうですね…

 では、私はコーヒーと日替わりサンドイッチを。」


「僕は…金欠気味だから良いや。」


「守さんに奢らせればいいんですよ。」


「リリナ貴様…!」


 人の財布をなんだと思ってやがる。(リリナ)の物とでも言いたいのか?


「いや、遠慮しておく…後が怖いし。」


 どうやら全力の抱擁が軽いトラウマになっているらしい。


「……あー、さっきの件は悪かった。」


「良いよ、もう…済んだことだし…」


 マジすまん。


「俺もサンドイッチは頼もうかな…

 あ、もちろん自腹だぞ。」


 …達治は気遣いがきちんと出来るらしい。俊太に似てるとかちょっと思ってすまない。

 いくらなんでも文字通りの騒動製造機(あれ)と一緒は失礼だったよな。


「かしこまりました。

 では――」


 注文の確認が終わると、マナは厨房へ向かう。


「私に用があるみたいだね。」


 そのタイミングを見計らったように来るジーナ。

 呼ばれていたことも気付いていたのだろうか、いや、会話を聞かれてたのか?

 どっちでもいい。質問のチャンスだ。


「…単刀直入に訊く、本物のマナはどうした?」


「……」


 …止めろ。

 皆不安がってるじゃないか、だから止めろよ。

 その悲し気な表情を──―

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