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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十一章 こんにちはマナちゃん
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元七十九話 神かと思ったら敵だった

 

「化粧水って言うのはね―――」


「ファンデーションは―――」


 翌日の教室では、マナを中心にしてクラスの女子が化粧の話で盛り上がっていた。


「……リリナさん、マナに何が起きたんだ?」


「マナさんはこんなにキャピキャピしてなかったし、化粧の仕方なんて訊くような女の子じゃなかったはずなのに…」


 明らかに様子が変わったマナを見た達治と田倉はリリナに詰め寄っていた。


「私にも分からないんですよ。一昨日一緒に居たはずのジーナさんはいつも通りと言いますし…」


「あれがいつも通り?」


「どういうことなの?」


「さあ…2人で頭でも打ったんでしょうか。」


「考えるだけ無駄ってことか。

 …話変わるけど、リリナさんは化粧の仕方とか教えられないの?」


「お、教えられますよ…〈聞きかじりの知識だけなら〉。

 でも、多分他の人の意見を聞きたかったんじゃないでしょうかええそうに違いありません。」


「自己完結するなよ…」


「そ、そう言えば昨日マナさんは言ってましたね。

 なんでも、今のままじゃいけないとか、世間への振舞い方を変えるとか。」


「なんでそう思ったんだろうな。」


「そこがわからないんですよね…」


 三人はマナに視線を向けた。

 クラスメイトの女子に囲まれ、笑顔で話す様は年相応に見える。


「まあ、でも…あれはあれで良いんじゃないか?本人が選んだ道だし。」


「それはそうなんですが…」


「釈然としない?」


「奈菜美さん。」


 鴨木奈菜美も三人の会話に入る。


「盗み聞きって訳じゃないけど、話は聞かせてもらってた。

 今までのマナから考えると今のマナは明らかに不自然。どこかからの干渉があるとしか思えない。」


「どこかからの干渉…ですか?」


「ええ。

 神の力とか、魔法とか…ひょっとしたら、催眠術の類とか。」


「ちょ、ちょっと待ってよ。

 神の力とか魔法とかはさっぱりだけど(っていうか何?)、催眠術とかそんなことする必要ある?」


「そこまでは…それに、あくまで可能性の話だから。」


「そう言えばリリナさんって神様だったな…」


「なんで達治さんが……あ、マナさんの話をした時に話したんでしたっけ?」


「ああ、忘れる訳無いだろ。基矢が」

「基矢って、前に行方不明になった」

「あー!なんでもない!なんでもないぞぉ!?

 それよりマナが変なんだよなー!なんでだろうなー!」


 達治の強引な軌道修正により話は戻る。

 田倉にはなんとなく知られない方が良いと達治の第六感が警鐘を鳴らしたのだ。リリナも鴨木も知られない方が良いと思っていたので、良い行動だったと言える。

 三人とも、どういう反応をするか予想が出来ないが、とりあえずろくなことにならないことだけは分かっていたのだ。


「…一番怪しいのはジーナ。」


「そうですよね、そうなっちゃいますよね…」


「怪しいって…ジーナも神様だったのか?」


「…いえ、神ではありませんが…まあ、とりあえず普通の地球人ではありません。」


 リリナはカミングアウトすべきか否かに迷い、結局濁した。


「そうだったのか……」


「……え?なんで達治はさっきからこんなオカルト染みた話を受け入れられてるの?おかしいのは僕だけなの?」


「むしろまともなのが貴方だけと言いますか…」


「唯一何も知らない地球人。」


「そう言われると角が立つな…」


「まあまあ、まともなのは僕だけかとか叫んでおけばいいんですから。

 話が逸れてしまいましたが、とりあえずジーナさんに探りを入れるということで良いでしょうか?」


「それでいいと思う。収穫が無ければ別の案を考えるだけ。」


「そうだな!」


「何が何だか…まあ、よろしく。」


 紆余曲折、脱線もほどほどにしながら四人の意見はまとまった。







「マナさ」

「ちゃん。」


「…マナちゃん!一緒に帰りませんか!?」


「あーゴメン、今日バイトなんだ。」


「そうですか…では、ジーナさんは?」


「ゴメン、私もバイト。」


 放課後。

 リリナは早速探りを入れようと帰り道に2人を誘ったが、結果はこの有様。

 2人がバイトだったのは完全に偶然だったし、2人の意思ではないことは分かっていたがそれでも出鼻をくじかれた不完全燃焼感だけは残る。


「断られちゃいました…」


「バイトなら仕方ない。

 私も一緒に帰るから、そう気を落とさないで。」


「俺も一緒に帰るぞ!」


「じゃあ僕も。」


 ふくれっ面で戻ってきたリリナを迎え、鴨木と達治、田倉を加えた四人で帰ることに。


「皆方向は同じなんですね。」


「そうみたいだな。」


「私はリリナの近くに住む必要があったから…もう今はどうでもいいことだけど。」


「ああ…そうでしたね。」


「え?リリナさん、鴨木さんと知り合いだったのか?」


「初対面、って感じだったけど?」


「私が一方的に知ってただけ。

 家の話だし、あんまり話したくない事だから詮索はしないでくれると助かる。」


 鴨木が上手く2人を言いくるめる。

 神の力を奪うため、なんて言わない。というか、達治はともかく田倉は言っても分からないだろうが。


「家の因縁とか?」


「詮索しないでと言った。」


「ご、ごめんな…」


 鴨木にすごまれてあっさり引き下がる達治。


「初対面って言えば、達治もマナもあの一件の時初対面みたいな反応だったよね。

 ずっと同じクラスに居たのに…」


「え?ああ…

 ずっといつものメンバーで過ごしてたらな。まだ数か月しか経ってなかったってこともあるけど、他のクラスメイトの事はあんまり見てなかったって言うか…まあ、今ならもうそんなことは無いと思うけどな。」


「私は転校してきたばっかりだったので。」


「私も。」


「達治はともかく、マナさ…マナさんも編入っぽかったよね。最初からいたみたいに振舞ってたけど。」


「まあ実際に最初から…なんでもないぞー」


「……今日の達治はごまかしてばっかりだね。」


「そ、そうか!?気のせいだと思う!」


 今この瞬間もごまかしたわけだが。

 田倉はため息でその言葉を吐き出し、まっさらな空気を入れ直す。


「あ、僕この辺からこっちなんだ。」


「俺はあっち。」


 早くも別れ道に差し掛かった田倉と達治は足の向きを変える。


「そうなんですか、結構早かったですね。」


「じゃあ、またあし―――危ない。」


「貴女もですよ!」


 鴨木が田倉を突き飛ばし、リリナが突き飛ばした鴨木を引き寄せる。


「おーにさーんこーちらー!」


 次の瞬間には2人が居た場所を何かが通り過ぎていった。

 その少し後ろからもそれに付いて行くように何かが走っている。


「待ちやがれギーナあああああああああああ!!

 …あ、この前はどうも。」


 凄まじい速度からの慣性で水平移動しながら挨拶したのは守だった。

 水平移動の際の摩擦音からして、きっと彼の靴は買い替えることになるだろう。とリリナはどうでもいい考察をする。


「おや、守さん。いえ、この前はこちらこそ。」


「どうも。」


「どうしてここに?貴方の家は少し遠かったはずでは…」


「…ちょっとギーナに服取られてな。」


「着てるじゃないですか。」


「女物をな!ちょっと趣向を変えやがって…!

 俺はもうあんなことはしないって信じてたんだぞ!その結果がこれだ!!

 裏切りやがって…!」


「えっと、その、え?

 リリナさん、鴨木さん、このロングヘアーな美人なお姉さんとはお知り合い?」


 一連の会話に戸惑っているのは達治だ。

 例えるなら映画をいきなり2から見始めた時のあのなんとも言えない感じだろうか。達治はそれを味わっている。


「戦友ですかね。」


「一緒に映画を観に行っただけの仲。2人きりじゃないけど。」


「やっぱり美人には美人が集まるのか…!?」


「……」


 目を輝かせる達治に対し、田倉は感じ取っていた。

 自身と同じ、いや、似通った何かを。

 そして、それが自分よりも圧倒的に優れている物だと。

 しかし、それが何かははっきりとは分からなかった。


「何言ってんだ田倉?」


「…なんだろう、あとちょっとで分かる気がするんだけど…」


「流石と言うべきでしょうかね、田倉さん。

 達治さんも聞いてください。この人は男なんです。」


「は?

 …はぁ!?」


「なるほど、そういうことだったんだ…!」


 鳩が豆鉄砲、いや、むしろ悪役が裏切られたときのような顔をする達治と、全てを理解した田倉。


「……お前、田倉って言ったか?」


「…ライバル…?敵?

 いや、むしろ上位互換…神…!?」


「……田倉(仮)?」


「なんでしょうか、私めに何か?」


「なんだその態度…恭しくすんのやめてくんない?

 それよりお前、もしかして俺が男かもって疑ってたのか?」


「なんとなく違和感を感じてただけだよ。

 男だとまでは思い至らなかったけど。」


「田倉ぁ!」


「うわっ、急に何をいたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」


 感極まった守は田倉に抱き着いた。


「お前が…お前が初めてだ!

 俺を疑ってくれたのは!!」


「痛い痛い痛い痛い!放して!ギブギブ折れる折れる!」


 それも思いっきり。

 彼はその顔のせいで初対面の人間からは必ずと言っていいほど女性扱いされてきた。

 最近は慣れつつあったものの、こうして少しでも疑問に思ってくれる人間が居て嬉しかったのだ。救われたような気すらした。

 抱き着かれている田倉以外は守の涙を見ていた。


「守さん!嬉しいのは結構ですけど田倉さんが死んでしまいます!放してあげてください!!」


 リリナが強引に引っぺがすと、田倉はその場に倒れて荒い呼吸を繰り返す。


「ご、ゴメンな、嬉しすぎて…」


 倒れている田倉にその謝罪は届かなかった。


「やっぱ…り、て…き…」


「田倉…流石に代わってくれとは言えない。

 でも、お前はよく頑張ったな。」


 ポン、と肩に手を置いて励ます達治。

 流石の彼もあれは勘弁らしい。


「あ、そうでした。

 守さん、マナさんの様子がおかしくなったんですが…ちょっと見て頂けませんか?」


「マナが?」


 リリナが思い出したようにマナの話をする。

 話した結果守はマナの様子を見に行くことが決まり、早速バイト先であるカフェ・ウェストに向かうこととなった。

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