元七十七話 冷静だと思ったら同じだった
「なんでフラリアが…メタルマナに乗ってたんじゃないのか?」
「アレに乗ったのは私ではない。
お前もよく知っている人物だ。」
「俺が?」
フラリアが指したのは俺だった。
俺が知っている人物……
「……」
「分からないか。
お前はマナと言ったな、奴は妙にお前に拘っていた。お前があの兵器…メタルマナと呼んでいたな。
それに乗っていると知って、やや強引にアレに乗っていく程にな。」
「…プロックか。」
そんな執念を持っているのはアイツしかいない。
「確か、そんな名だった。
とにかく、奴のおかげで私は魔法で拡声して喋っているだけで良かった。それは感謝すべきだったかもしれないな。
私はああなりたくない。」
そう言いながらフラリアは倒れて重なり合うメタルマナに視線を向けた。
プロックはこちらのメタルマナが上に倒れているせいでコックピットから出られないのだろう。
勝負がついているにも関わらず、未だに姿を現さないのはそのせいだ。
「…フラリア、もう諦めて。
もうすぐザープ星の援軍が来て、この研究所を押さえるから。」
「諦める?
私はまだ捕まっていない、だから終わっていない。」
「往生際が悪いな、余計な罪を重ねる前に止めたらどうだ?」
「これは罪ではない、実験だ!
実験を重ねることで成果が生まれる。重ねても負しか生み出さない罪などと同じにするな!」
それを聞いた俺は銃を取り出し、フラリアに向ける。
「撃つ気?」
「ああ、確信犯に何を言っても無駄だからな。撃っても死にはしないし。
それに、下手な抵抗をして死なれでもしたら目覚めが悪い。だったらさっさと捕まえて、大人しく安全に引き渡した方が良いだろ?」
「魔力銃…敵にそんな気遣いをするとは、とんだお人よしね。」
「持ち合わせがこれしかないからな。」
「それ以外に持ち合わせてても、それを使ってただろうけどね。
日本人の人の良さを舐めないでよね!」
「…変わった民族だな。日本人とやらは。」
…俺は日本人を名乗れる外見じゃないけどな。
本当に舐めていた訳ではないことが分かったからか、フラリアの表情が少し和らいだ。
さて、もうすぐ増援が来るかな…そろそろ拘束しておこう。
「次の実験は牢屋ででも考えるんだな。もっと人の迷惑をかけない実験を。」
引き金を引く指に力をかける。
『マナあああああああああああああああああああ!!』
拡声された音声の発生源は倒れたメタルマナだった。
「この声は…プロック!!」
『貴様は…貴様だけはあああああああああああ!!』
「無駄だ!もうそれは動かない!!」
『無駄?本当にそうか?
この研究所ごと吹っ飛ばすとしてもそう言えるのか!?』
「研究所ごと…!?」
「プロック…貴様、自爆でもする気か!?貴様も死ぬぞ!!」
「自爆!?なんでそんなありがちみたいな機能つけてんだあの機械!」
『構うものか!これで、これで全て終わる!!』
「止めろ!そんなことしたら研究所だけじゃなくて、近くの民家も巻き沿いになる!!
お前も死ぬんだろ!?命を無駄にするんじゃ」
『起爆コードが入力されました、一分後に爆発します。』
必死に止めようと言葉を紡ぐも、無慈悲なアナウンスが発せられる。
一分の猶予はパイロットが逃げるための物だろうか。プロックは逃げられなさそうだが…
『フフフフフ…ハハハハハハハハハ!!』
「くそっ…自爆を止める方法は無いのか!?」
「無理だ…操作球が無ければメタルマナの操作は一切できない。
燃料となっている魔力を抜き取ることが出来れば、可能性はあるが…」
「ジーナ、魔力を抜き取る道具は?」
「無理だよ…一分であんな機械を動かすだけの魔力を抜き取れる物なんて持ってない。」
「一応、研究所の人間はメタルマナの殴り合いが始まる前に避難させておいた。
研究者が居なくなれば、研究どころではないからな。」
「そのツンデレみたいな言い方はともかく、それは良かった!
後は周辺住民の避難……なんて、どう考えても無理だよな…」
「それに関しては問題無い、特別製の魔導機械を使って塀を境界に結界を貼っているからな。
結界の強度は破壊不能とまでいかなくともメタルマナの攻撃程度では破壊されない代物だ。あの自爆にも耐えられるだろう。
それより、心配すべきは自分の身ではないのか?」
「……本当に俺たちだけなんだな、危ないの。」
「ああ。何か考えはあるか?」
「…今から走るぞ、結界の外に出れば良いんだな?」
「我々はその結界のせいで出られない。
一度解こうものなら再構築に十分はかかる。」
「……絶対防御バリアー的な奴は?」
「持ち合わせが無い。」
「………
死ぬしかないじゃない!」
「今銃口を私に向けても意味が無いぞ。」
「待って!援軍ならもうすぐ来るから!ほら!アレじゃない!?」
「いや、ちょっと待て。
援軍が来てもあれだろ?結界のせいで入れないってオチだろ?意味無いじゃん。
よしんば解けても周辺住民が爆発に巻き込まれるんだろ?もう駄目じゃん、詰みじゃん。しかも周辺住民が巻き添えになるって考えたら俺たちがいくら逃げようとしても巻き込まれるじゃん。もう辞世の句を詠むくらいしかすることないじゃん。わが生涯に一片の悔い無しとかそんな感じで。」
「諦めないでどんな時も!」
「聞いたことあるような…」
「呑気に漫才などしている場合か?死ぬぞ。」
「そう言うお前もかなり冷静だよな。」
「それはそうだ。もう何もかも終わりだからお前達を道ずれにしたいと考えていたからな。願ったりかなったりだ。」
「お前もプロックと同じなのかよ!!」
「それよりマナ、早く逃げよう!できるだけ爆心地から離れ…」
ジーナがその先を言うことは出来なかった。
…メタルマナが爆発したからだ。
強烈な閃光と温度が襲い掛かる。
俺の意識はそこで途絶えていた。
「ただいま帰りましたー!」
夕方。日没まで後わずかな時間にリリナは帰ってきた。
文化祭の振り替え休日ということで翌日は休み、学校は明後日からであるものの、早いところ宿題を終わらせて明日は目いっぱい遊びたい。という思惑があったからだ。
(基矢さんとジーナさんと一緒に宿題をするのも楽しそうです。どうせ2人はまだ宿題に手をつけていないでしょうし……進みませんかね?)
「………」
しばらく待っても返事が無い。
部屋が防音で、いつも返事があるとは限らないルームメイトたちではあるが、その日に限っては少しおかしいことがあった。
(人の気配がしない…)
2人で出かけていることも考えたリリナではあるが、普段は夕方となると大抵自宅にそろっている。
特に、今週の夕食当番である基矢はもう調理しなければ夕食の時間には間に合わないだろう。
(夕食は遅れるか、カロリーフレンドの二択でしょうね…)
そう思ったリリナが部屋に戻ろうとした時だった。
「「ただいま!」」
「ジーナさん、基矢さん…珍しいですね、こんな時間まで出かけてるなんて。」
「リリナ、私はマナだよ?」
「……え?」
「あいあむマナちゃん!りぴーとあふたーみー!」
「ま、マナ…ちゃん?」
「よくできました~!」
背伸びして頭を撫でるマナに、リリナは酷く動揺した。




