元七十六話 早すぎると思ったら結構近くだからだった
「まずいね…」
「まずい…なにがだ?」
「あれはこのメタルマナの次世代機だよ。
マシンスペックはもちろん、魔力の使用効率、最大容量、吸収率は上。
更に、大幅な軽量化に成功してるから機動性も高い…正直言って勝ち目は薄いよ。」
「じゃあどうすれば良いんだ?」
そう問うと、ジーナは俯いて黙り込む。
まさか、本当に手が無いのか?
「使いたくない手だったけど…」
「手があるのか?」
「…ザープ星に救援を要請する。
でも、そうしたらフラリアが…だから、本当は私だけでなんとかしたかったんだけどね…」
…友達を捕まえるために通報するようなものか。
「そうか…でも、無理はしなくていい。
俺も憂佳の時は通報しなかったんだ。だから」
「ううん、大丈夫。
憂佳の時はリリナスが居て、悪い心だけ壊したけど…今そんなことが出来る人はいない。
だから、フラリアは自分の力で改心しないといけないの。」
「ジーナ…
…悪いな、じゃあ救援要請を頼む。」
「うん。
実際に救援が来るまでには少し時間が掛かると思う。
だからそれまで持ちこたえて。
魔力を使う攻撃は多少ダメージはあるかもしれないけど、吸収されて燃料にされちゃうから基本は格闘で戦って。」
「戦いの基本は格闘だってことだな、分かった!」
ギィイイイイイイ!!
俺の奮起に呼応し、メタルマナが大きな鳴き声を上げる。
『覚悟は良いようね!』
「ああ、そうだな!」
「マナ、そこのスピーカーボタン押さないと聞こえないよ。」
……Oh…お恥ずかしい。
『ああ!そうだな!』
ボタンを押して言い直す。
…我ながら間抜けだ。
『機体性能の前に散りなさい!』
敵メタルマナが地を蹴る。
やはりジーナが言う通りこちらのメタルマナよりも速い。
助走により威力が増した拳が頭にめがけて迫る。
『そうはいくか!』
その拳を横ステップで避け、そのまま足払いをかける。
『何!?』
『今だ!』
敵メタルマナにのしかかる。
重量はこちらが上。単純に考えてものしかかりの威力で言えばこちらの方が上だろう。
『貴様…!』
二度、三度、敵メタルマナを踏みつける。
このチャンスを逃したら確実に時間稼ぎは失敗する。
『調子に乗るな!』
敵メタルマナが踏みつけを受けながらもゆっくりと起き上がる。
やや慌ててその上に馬乗りになるが、それをものともせず起き上がっていく。
「マジかよ…」
完全に起き上がる前に飛びのく。
改めて起き上がった敵を見ると、背中の大砲を中心に損傷があるのが見える。
その傷からもしかしたらという希望が見出せる。向こうが見出せるのは恥くらいだろうな。剣士じゃないけど。
「マナ、救援要請は終わったよ!」
「そうか!どれくらいで来る!?」
「20分だって!」
「20分!?」
早いことにはありがたいのだが、ザープ星からと考えると早すぎではないだろうか。
「太陽系の近くに救援用の基地があるから!」
「ああ、なるほど…」
「それと、格闘の時は気を付けてね。
言い忘れてたけど、向こうだけじゃなくてこっちの損傷度も上がるから。」
「本当だ…」
さっきまで蹴りつけていた右足の損傷度が30%まで上がっている。
小型メタルマナを蹴散らした時についた傷もあるだろうが、今の攻撃でも大分削ってしまったのだろう。
殴った拳も痛いのは当然だし、これくらいは仕方ない。
しかし、逆に言えばそれだけダメージを与えられたということでもある。向こうのダメージも相当な物だろう。
『今度は外さない!』
「マナ!避けて!」
右手の平が変形し、砲口が姿を現した。
バチバチ、と大砲の中にエネルギーが集中していく。
『そんな旧世代の機体でこの新型に傷を負わせ、背部砲を壊したことは誉めてやろう!
だが、お前は私に勝てない!』
「…?」
何故だ?
今、何故…
「マナ!」
「!」
しまった、もう避けられそうにない…!
「なら!」
メタルマナのレーザーを砲口に放つ。
下手に避けようとするよりも、あのエネルギーを撃って暴発させた方が良いを判断したからだ。
「駄目!間に合わない!」
レーザーがエネルギーの塊に届く直前、エネルギーが一筋の線となって進む。
そのエネルギーはレーザーを簡単に押しのけていく。
「どうやってぶつかってるんだアレ!?」
「そんなこと気にしてる場合!?早く逃げて!!」
ジーナの悲痛な叫びも虚しく、エネルギーはメタルマナにぶつかる。
モニターは白く染まり、燃料ゲージと共に各所の損傷度が上がっていく。
「うわあああああああああああああああああああ!!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
…光が収まる。
今の攻撃の影響でどの箇所も損傷度は40%を超え、元々損傷があった右足は80%に届こうとしていた。
これでもメタルマナが魔力を燃料に変換し、その威力を軽減させていたのだろう。もし生身で受けていたらと考えるとぞっとしない。
燃料ゲージはマックスだが、それよりも損傷が大きすぎる。
『もう終わりにするか?
その機体ももう限界だろう?』
拡声されたフラリアの声が聞こえる。
「…マナ、まだやる?」
「救援が来るまでは、続けるに決まってるだろ。」
「なら、さっき傷を負わせた背中を攻撃するしかないよ。
傷を広げて、行動不能まで追い込むしかない。」
「ああ…!」
ギ、ィイイ…
メタルマナは立ち上がる。
その咆哮は弱弱しく、姿勢制御が上手くいっていないのかフラフラではあるが。
それでも、立ち上がった。
『まだやる気か。』
『諦めるかよ。
コイツは、このメタルマナは…一回敵になったけど、今こうして俺の味方になってくれてる。まあ、単に持ち主が変わっただけだし、機械に意思なんて無いんだろうけど。
でも、俺が最初コイツを見た時…思ったんだよ。
かっこいいってな。
名前の事も、プロックの奴に言われたからちょっと癪だったけど…運命なんじゃないかって、少し思ってた。』
『何が言いたい?』
『……コイツと一緒に戦えることが嬉しい、そう言いたかったんだよ!』
ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
先程とは違う、力強い叫び。
「そうか、応えてくれるんだな!」
『馬鹿馬鹿しい…機械が想いに応えるものか!』
「やってみなきゃわからないだろ!」
同時に地を蹴る2つのメタルマナ。
右手は相手の左手に掴まれ、左手は相手の右手を掴む。
押し込まれ続けるそれを踏ん張って耐え、逆にこちらも押し込む。
『何故だ!マシンスペックはこちらが上のはずだ!』
『言ったろ!やってみなきゃわからないって!』
受け止めて押す両腕と踏ん張る両足の損傷率が緩やかに上がっていく。
こちらのメタルマナからは火花と電気が散り始め、限界が近づくことを教えてくる。
しばらく均衡を保っていると、
バギン!
―――嫌な音がした。
音の発生源はメタルマナの右足。損傷率は90%を超えていた。
『どうやら終わりらしいな!』
右足を気にするあまり踏ん張りが弱まる。
左足の損傷率も上がってきた。
もう、チャンスは無い。
…やるしかない。
「頼む…最後まで、持ってくれ…!」
俺は左手を下げて放し、右足を軸に回転する。
『なっ…』
前のめりになる敵メタルマナの左腕を解放された右手と左手で掴み、頭を両腕の間を通すようにしてひねる。
敵メタルマナの左腕は許容角度以上に曲がり、関節部から放電しながら全身を地につける。
『おおおおおおおおおおおおおおお!!』
うつ伏せに倒れた敵メタルマナの背中に拳を何度もぶつける。
やがて、腕の放電は止まり敵メタルマナは完全に動かなくなった。
『ば、馬鹿な…性能は、こちらの方が上のはず…』
『機体性能の差は、戦力の決定的な差じゃないんだよ!』
ギィイイイイイ!!
こちらのメタルマナも、勝利の雄叫びを上げると膝を突いて倒れた。
右足の損傷度は100%だった。左足と両腕もそれに近い損傷度だった。
「…ありがとう、メタルマナ。」
そう一言感謝するとコックピットを開いてジーナと共に外に出る。
モニターからも見えていたが、研究所の敷地は酷いことになっている。
建物はほぼ無傷だが、地面はデコボコだ。このままにしていたらミステリーサークルとかと同列に扱われるような気がする。
…いや、あんなでかいロボがどったんばったんしてたら誰だって気付くか…その割には誰も観に来てなかったみたいだけど。
「見事、というべきかしら。」
「「!?」」
何故だ。
何故、彼女がそこに居る?
「フラリア…!?」




