元七十五話 答えられたら驚いてた
ギィイイイイイイ!!
機械の咆哮が部屋に響き渡る。
フラリアと呼ばれた女性も、小型メタルマナもそれを見上げているようだった。
「ジーナ…なんでお前が?」
「実はあの時、帰る前にこれを回収してたの!
その時マナは気絶してたから、知らなかったよね!」
気絶…リリナが最後の神の力を使って俺を治した後だろうか。
抜かりが無いな、あの時はジーナもボロボロだったはずなのに。
「それより、これ受け取って!」
ジーナは俺に黒い球体を放り投げてきた。
難なくキャッチして見てみると、以前プロックがメタルマナの操作の為に使用していた物であることが分かった。
「それを使ってコックピットに乗り込んで。今はメタルマナの中の方が安全のはずだよ。
メタルマナの胸の中心がコックピットになってる。」
「あんな高いところどうやって?」
「メタルマナに運んでもらえば?」
なるほど、これさえあればメタルマナを操作することは出来るからな。
黒い球…操作球を持ったままその動きを念じると、メタルマナが右腕を俺に差し出した。
俺が機械の手に乗ると、ジーナも乗った。どうやら一緒にメタルマナに乗るつもりらしい。
「させると思う!?」
我に返ったフラリアは小型メタルマナを操り魔法の弾を連射する。
「無駄だ!」
俺は右手を操作すると同時にメタルマナの左手を操作し、それを盾にする。
確か、メタルマナに触れた魔法と魔力はメタルマナの燃料になるんだったか。
「燃料供給ありがとよ!」
胸のコックピットを開き、飛びうつる。
ジーナが乗ったことを確認してコックピットを閉じると、コックピットの三面の壁のモニターが映る。
外の景色らしく、無数の小型メタルマナが見える。目線の高さからして恐らくメタルマナの目にカメラがあるのだろう。
「そこに座って、操作球をその前のくぼみに置いて!」
コックピットが閉まると同時にせりあがってきた椅子に座る。
ジーナの指示通りにくぼみに操作球をはめると、その両脇からレバーが出てきた。
その間隔は肩幅より広い。
「そのレバーを掴んでる時は、操作球を持ってる時と同じでメタルマナを思い通りに操作できるよ!」
「了解。
頼むぞ、メタルマナ!」
前傾姿勢になり、二つのレバーを掴む。
ギィイイイイイイイイイイイイ!!
「おわっ!?」
答えてくれたのだろうか。
どうあれ、唐突に吠えたので驚いてしまった。
「それでびっくりしてどうするの。
っていうか、レバーは離さないでよ!」
「ご、ごめんごめん…
…メタルマナって、どんなタイミングで鳴くんだ?」
「空気を読んで鳴くよ!」
機械も忖度できる時代になったらしい。
と言っても、宇宙人の技術だけど。
「それより、小型とは言えメタルマナ…ほっとくと壊されちゃうよ。」
「え?」
モニターを見て見ると、小型メタルマナがメタルマナの足元で突進したり蹴ったりとそれぞれ攻撃してきている。
左上のモニターには脚部の損傷5%とか書いてある。とりあえずまずいってことは分かった。
「くらえっ!」
メタルマナの足を動かし、薙ぎ払う。
たった一度の攻撃だったが、それだけで多くの小型メタルマナが吹き飛び、そのうち数機は機能を停止したのか動かなくなった。
「レーザーも撃てるよ!
けど、上には撃たないでね!天井が崩れるから!」
「オーケー!」
小型メタルマナが固まっている場所にレーザーを打ち込む。
「薙ぎ払え!」
「お前それ言いたいから撃たせたの?」
まあ薙ぎ払うんだけど。
レーザーは小型メタルマナの魔法耐性を無視して両断し、殲滅していった。
「恐ろしいな…これがザープ星では旧世代の兵器なんだろ?」
「そうだね。
これよりバージョンが上の奴が開発されてたらしいけど…今は作られてないよ。どの国も全力を出したら世界が滅ぶから。
今、ザープ星は武力が戦争の抑止力になってるっていう皮肉な状況なんだよ。」
「抑止力に武力を使うのは結構当たり前じゃないのか?
強い国だから手は出せないっていうのも武力による戦争の抑止じゃないのか?」
「その議論止めない?やっててあんまり面白くないし、それどころじゃない状況だし。」
「…そうだな。」
改めて状況を確認すると、小型メタルマナは既に一割ほどしか残っていなかった。
会話中も攻撃していたというのもあるが、この短時間でこれだけ削れるというのも恐ろしい。
「あっちの大きな扉がメタルマナ専用の出口だよ!」
モニターに映る大きな扉を見る。
確かに、あれなら巨大なメタルマナでも通れそうだ。
「本当はあの扉の右にある操作盤で開けるんだけど…」
「降りれないから壊す!」
射線上にある小型メタルマナを巻き沿いにしてレーザーで扉を焼き切る。
レーザーが当たった扉は赤熱しながら向こう側に倒れた。
赤い輝きが扉の向こうを照らす。広い通路らしい。そこにも小型メタルマナが数機配置されているようだが、メタルマナの敵ではないだろう。
「よし、行くぞ!」
メタルマナが小型メタルマナを文字通り蹴散らしながら前進する。
結構激しく走っているはずなのだが、コックピット内はさっぱり揺れない。これもザープ星の技術の賜物なのだろう。
「……フラリア…」
ジーナの呟きを聞いて思い出した。
フラリア…そう言えば、さっきから姿を見ないな。
メタルマナに乗る直前まで居たのは分かっていたが――
――もしかして、メタルマナの攻撃に巻き込んだのか?
蹴ったり薙ぎ払ったり、どっちかでもくらってたらやばい。
俺は以前燃料切れ寸前のメタルマナの蹴りで死にかけたが、今は全力。レーザーも当たって助かるとは思えない。
もしかして……
「マナ、攻撃。」
「あ、そうだったな。」
血の気が引いたまま操作に戻る。
完全に足が止まってしまっていた。メタルマナの。
「…フラリアの事なら、気にしないで。」
「でも…」
「生きてるし。」
「え?」
生きてるの?
「メタルマナに乗り込んだ直後に、蹴破ったドアから出て行ってたから。」
「あ、そう…」
なんだ、そういうことか。
「…じゃあ、アイツは今何をしてるんだ?」
「分かんない。だから考えてたんだけど――」
「――少なくとも、逃げたわけじゃなさそうだよな。」
あんなマッドサイエンティストが簡単にこの研究所を放り出すとは思えない。
もしかしたら…いや、確実に俺たちをどうにかしようとするに違いない。
『邪魔するようなら…』
『……容赦はしない、だよね。』
さっきの2人の会話がフラッシュバックする。
そのやり取りが彼女の執念を表しているような、そんな気がした。
「見えて来たよ!出口!」
小型メタルマナを蹴散らして、長い通路を出た先は外だった。
『待っていたぞ、ジーナ!』
メガホンのように拡声された声が響く。
外に出て見えたのは古びた研究所と塀だけではなかった。
「あれは…メタルマナか?」
――それはもう一つのメタルマナ。
今俺たちが乗っているものとは違い、シャープなフォルムではあるが紛れもなくメタルマナだった。
ぶっちゃけ早く日常(?)を書きたいです。




