元七十四話 苦戦するかと思ったら無双してた
生きてます。
裏をかく、とは言ったものの二階から一階にかけては多くの見張りや研究員が居る。その網をくぐれなければ裏をかくも何も無い。
前回はギーナが無双してくれたおかげで警戒状態でも突き進むことが出来たが、今回彼女は居ない。
苦戦を強いられることだろう。
「マナ、これを付けて!」
三階の階段を駆け下りると、ジーナからサングラスとヘッドホンのようなものを手渡された。
多分問い直してる余裕は無いんだろうなと思った俺は何も言わず急いでその二つを装着する。
サングラスを付けると何も見えなくなった。
ヘッドホンのようなものを付けたら音が全く聞こえなくなった。
そんな中、一瞬だけ辺りの風景が見え、破裂音のような音が聞こえた。
ジーナが俺のサングラスとヘッドホンを取り去ると、音と視界が完全に復活する。
「早く行こう!」
見張りや職員は目や耳を押さえながら床を転がっていた。
「…もしかして、スタングレネード的な奴を?」
「スタングレネード的な魔法だよ!音と光をぶわっと出すの!
こうすれば、どんなに敵が居ても一網打尽だよ!」
なるほど、サングラスとヘッドホンモドキはその魔法の閃光と爆音を防ぐためか。
一階も同じ手順で突破し、あっさり地下の階段へ。
……前もだけど、俺何もしてねーな。マジで無双向きじゃないんだな。
せめて魔法が使えればなぁ…
「階段終わったよ!」
あっという間に地下へ。
前回忍び込んだ時のあの長ったらしさは何だったんだろうか。慎重というかもう無駄だらけだったような気すらしてくる。
RTAしてるんじゃねーぞチクショウ。
「確か、一番奥の扉が」
「分かってるよ!えい!」
前回守によって蹴り壊されていたドアが再びジーナの手によって壊される。修復係生きろ。
蹴り壊されたドアの向こうは広い空間だった。
それもそのはず、ここにはメタルマナがあったのだから。
今はもうメタルマナは無い。
しかし、その中でポツンと一つの人影があった。
「待っていたぞ、侵入者。」
その人物は女性。歳は俺たちとそう変わらないだろう。
吸い込まれそうな碧眼と、金髪に映える整った顔立ちはエルフという単語を彷彿とさせた。
「…ジーナリウス?」
「フラリア!?どうしてこんなところに!?」
「…なんだ?2人とも知り合いなのか?」
「うん、友達だよ。
学校を卒業してからは疎遠になっちゃったけど…」
「……待て、ジーナ。
お前、学校卒業したのか?現役高校生じゃないのか?」
「そこいらの学生にこんな重要な調査を任せる訳無いでしょ?」
「なんてこった……」
ジーナは俺たちと同い年なのだと勝手に思い込んでいた。
しかし、よくよく考えればジーナの言うとおりだ……なんかすごいショックを受けた。
…何百歳みたいなリリナだっているし、今更か。
「…本当は、何歳なんだ?」
「………えへへ…」
ちょっとそのお化けみたいな笑い方止めてくれませんかね。怖いです。
「地球のお友達?
仲が良さそうね。」
「うん、まあね。
それより、どうしてこんなところにフラリアが居るの?」
「それは私の台詞だ…と、言いたいところだけど大体察しは付く。
大方研究所の調査でも依頼されたんだろう?以前ザープ星の兵器が見つかったのだから。」
「そうだよ。
もしかして、ここの研究に手を貸してたのってフラリアなの?」
「ああ、そのまさかだ。」
「……どうして?」
「どうしてこんなことをしたのか、か?」
「うん。
確かに、フラリアは昔から知識欲が強くて、探求心に溢れてるのは知ってた。
でも、だからこそ分からない。
どうしてザープ星よりも遅れてる地球の研究に手を貸したの?
下手な介入は滅亡を呼ぶことくらい、分かってたんじゃないの?」
「それくらいは知っている。
だが…同時に私は思った。
未知の技術を先取りした人間が、どのような発展を遂げるのかを。
どのような道筋をたどり、どのような結末を迎えるのかを。
その先が滅びでも一興、更なる繁栄でも一興、結末がどうであろうと私にとって悪いことは無い。」
「それじゃダメなんだよ!
ザープ星は将来、地球の人間と友好な関係を築くんだから!
その時に望むのはそんな歪な発展じゃなくて、世の中をより良くする素晴らしい発展なの!
急激で不自然な変化をさせて、滅ぼしたら何も無くなっちゃうよ!!」
「それはただの理想だ!
例え理想を目指して友好関係を結び、緩やかな介入を行っても滅びる危険性はある!」
「う……」
「それに、私はその歪な発展を見たいんだ。
邪魔をするようなら…」
「……容赦はしない、だよね。
変わってないね、フラリア。」
「そう言って立ちはだかるお前も、頑固者のままだ。全く変わらないな…
懐かしい、このまま思い出に浸っていたい気分だ…」
「私はそんな呑気な気分じゃないけどね。」
「つれないな。
と言いたいところだけどそうでしょうね。この星の未来がかかっているのだから。」
「…フラリア、今からでも止めない?」
「それをしないのは分かってるはずだ。
むしろ、ジーナリウスこそ私を止めないでほしい。」
「止めるよ!だって大切な友達だもん!」
「…そう言うと思っていた。
でも、そう簡単にここを突破できると思わないことね。」
フラリアと呼ばれた女性がそう言うと、彼女の隣――その三メートル上に亜空間の入り口が現れる。ジーナが収納に使っていたものと同じだ。
そこから何かが落ちてきた。
それを詳しく見ようとした時、それは生きているように垂直に立ち上がった。そのフォルムは――
「メタルマナ…!?」
――小さなメタルマナにしか見えなかった。
小さな、とは言うがそれは本物に比べての話だ。
全長三メートルはあるだろう。その半分も無い俺にとっては充分大きく見える。
「これがジーナリウスの言う歪な発展、その産物だ。
本物程ではないが、魔法はある程度吸収できる。」
「ただの欠陥模造品じゃない。そんなものいくらでも対処できる。」
俺には出来ないんですけど。有効打とか全く無いんですけど。
っていうか、どうやってやっつけるんだよ。魔法効かないんじゃないの?
「…そう。確かにこの一機ではジーナリウスには負けるだろう。
一機では。」
広間のいたるところに亜空間の入り口が生じる。
無数に出現したそれからは一機、また一機とその小型メタルマナが出てきている。
それらはあっという間に一つの軍勢となり、俺たちを取り囲んだ。
「これでも突破は出来る?」
「確かに、これはまずいね。」
正直言って絶望的だ。
ジーナが駄目ならもっと非力な俺は何の役にも立てない。
前後左右囲まれた状態では撤退も出来ない。突破は困難…というか無理だろう。
が、俺は一つ違和感を覚えていた。
「…何を笑ってるの?」
言葉とは裏腹に、ジーナが不敵な表情を見せていることを。
「別に、笑ってなんかいないよ。
ただ、安心してただけ。」
「安心?この状況で?」
「うん。
こっちのことわざだよ、聞いたことない?
備えあれば憂いなしって!」
ジーナは亜空間の入り口を出現させる。
しかし、その大きさは宇宙船をしまっていた時どころの大きさではない。その五倍近くはあるのではないだろうか。
一瞬の後、ジーナによって開かれた亜空間から巨大な物が落ちてきてその下の小さな兵器達を潰してゆく。
その正体は――
苦戦を強いられた強敵であり。
この場所との因縁の始まりの象徴でもある。
「メタルマナ!?」
――対魔法人型稼働戦車。巨大兵器、メタルマナだった。




