元七十話 狙い打とうとしたら家族に見つかった
遅くなりました。申し訳ありません。
代金を払い、くじびきっさから出ると特にあてもなくぶらり一人旅としゃれこんだ。
守も一人でいろいろな店を回りたいとのことだったので別れた。後で俺の休憩が終わったら店に来ると言い残して。
「……あ、外出られないんだった。」
昇降口の下駄箱を前にしてクラスメイト達の言伝を思い出す。
『マナは今吸血鬼なんだから、外に出たり、日光に当たったりしちゃだめだよ!』
『そうですよ、灰になってもハイになっても知りませんからね!』
…俺別に吸血鬼じゃないんだけど。
まあ、一種のキャラ作りみたいなものか。別に外にめぼしい出店がある訳でもないし、行かなくて良いか…
それより、射的に行ってみたいな。この前のことでリアルエイムには自信がついた。狙い打つぜ。
「マナ、久しぶり。」
脳内で景品に狙いを定めていると、後ろから声を掛けられる。
「モア姉。それに、父さんに母さんまで…」
振り返ると、俺の家族が居た。
こうして家族三人そろうのは俺のことを話した時以来だろうか。そう頻繁には会っていないが、こうして久々に会うとどこか感慨深い。
久々って言っても三週間くらいだけど。
「俺達も気になってな、様子を見に来させてもらった。」
「基矢ったら、学校の事なんて何も話してくれないんだもん!」
「いい大人がもんじゃな…もんじゃ焼き美味いっすよね。」
威圧が飛んできて俺がビビる。ついでに父さんとモア姉もちょっとビビってた。
「…それには同意する。
質疑応答だけじゃ足りない。基矢からももっと話すべきだと思う。」
「え~と…それは良いんだけど、今は基矢って呼ばないでくれないか?他の人の目もあるし…」
「あ、ごめん。気遣いのつもりだったんだよ。」
「別にそんなこと気にしない、外ではマナって呼んでくれ。」
「了解、2人もそれで良いな?」
母さんの問いかけにこくりと頷く2人。
「親子で回る学園祭っていうのもなかなか乙だと思わないか?」
「俺としてはあんまり来てほしくなかったな…」
「そんな寂しい事言わないで!一緒に楽しまない!?」
「マナの格好を見れば理由は歴然。」
「あらかわいい。」
「………」
顔が熱くなる。直球の誉め言葉だからというよりは感想を言われたため生じた見られたという強い自覚と、それによる羞恥心の割合の方が大きい。表情を見せたくないので下を向く。
「……よし、良いのが撮れた。後で2人にも送ってやるからな。」
「撮るなぁ!消せぇ!」
ぴょんぴょんしても父さんが掲げたスマホには届かない。
「はぁ…はぁ…」
「良い動画が撮れた。」
「モア、後で私にも頂戴。」
「俺にも頼む。」
「お前らぁ!!」
なんで文化祭で家族に翻弄されなきゃいけないんだ…!
そんなこんなどんなもんだで終わった休憩時間。
俺は教室に戻り、似非吸血鬼としてウェイターを再開する―――
「やっぱりマナちゃんは天使だよねー」
「そうだ、マナは小悪魔かもしれないが、天使でもある。」
「天使ですか!私の従僕と言う訳ですね!」
―――はずだった。
教室に戻った俺が見たのは、羽根つきの白いワンピースを持っている休憩中のはずのリリナ。とっくに帰ったと思っていたじょうちゃんと憂佳、コンタクトのケースを持つ鴨木さんにわっか付きのカチューシャを持ったジーナだった。
それを見て呆けた俺はいつの間にか更衣室に連れ込まれていた。手際が良すぎる。
「……どういう…ことだ…」
「簡単な話です。私がマナさんの衣装を二つ作っていた、ただそれだけです。」
「そうじゃない。なんで俺のレパートリー増やしたの?布に穴空けるだけとか無加工の和服用意するくらいならそっちに手を加えるべきじゃないの?俺がおかしいの?」
「私は希望通りに作っただけです!」
「俺のは?」
「私の希望通りに作っただけです!」
「ちっくしょうお前のわがままでしかないじゃないか。俺の黒歴史を増やさないでくれ。」
「あ、着替える前にいくらかポージングと台詞お願いします。撮るので。」
「言わねーし撮らせねーよ!?全部お前が思った通りに事が進むと思うな!!
その恰好もしないからな!」
「天使のマナちゃん…見たい…」
「ぐ…その純粋な目は止めてくれ…」
じょうちゃんのキラキラ光線はズルい。まずい、屈してしまいそうだ…!
「天使のマナ…私も見たい…!そして愛でたい…!」
「………」
冷めた。
「あ!何をする!?」
「リリナ!今の内に脱がせて!」
呆れている隙を突かれてジーナに俺の両腕を抑えられた。
おかしい、振りほどけない。結構全力なのに。
「さあ、マナさん…覚悟は良いですかぁ!?」
「よろしくないよろしくない、覚悟を決めるにはあと15時間を要しああああああ!!」
「おぉ、似合ってるぞ。」
「可愛いと思う。」
「こっち見てー、はい、チーズ。」
覚悟が出来ないまま普通に着せられた。
カラコンも赤から青に替えられ、無駄にクオリティーの高い羽とわっかのせいで俺の見た目は完全に天使だ。
皆の反応はというと超好印象。憂佳が鼻血を噴き出したせいでちょっとホラーが混じりそうになったがなんとか躱せた。
キューピッドじゃないだけまだましと捉えるべきだろうか。あっちは素っ裸だし。
「ご注文をお伺いします。」
羞恥心を外に出さないようにするため、出来るだけ無機質な事務対応を心がける。
たとえそれが家族だろうが、親友だろうが、心を鬼にして無反応を貫くのだ。
「…紅茶とパンケーキを三つずつ。」
「紅茶とパンケーキを三つずつ…以上でよろしいでしょうか?」
「これは私の分。まだ2人から聞いてない。」
多くね?モア姉だけで三人分ある気がするけど。
あと、なんか父さんえっ!?みたいな顔してるけど、支払い役なのか?
「じゃあ、私は…異世界アイスって言うのが」
「止めた方が良いですよ。」
やばいものを頼もうとした母さんにまったをかける。
不満そうな顔をしたが、すぐ近くに運ばれた異様な物体を指差したらメニュー表を見始めた。流石にあれは食べたいと思わなかったらしい。当たり前だ。
…美味かったけど。
「…じゃあ、お化けアイスを一つ。」
「お化けアイスを一つ。」
「……コーヒーだけで良い。」
すすけた、とまではいかないが父さんの背中が少し小さく見える。
「コーヒーがひとつ。
紅茶とパンケーキを三つずつ、お化けアイスが一つ、コーヒーが一つ。以上でよろしいでしょうか?」
確認を取り、厨房に戻る。
「リリナから聞いたが、さっきのお方がマナのご両親か?」
「そうだけど…なんでお前厨房に居んの?」
厨房に戻るとクラスとは無関係のはずの人間が居た。憂佳だ。
「良いじゃないですか、そんな固い事言わなくても!
祭りですよ祭り!楽しんだものの勝利なんです!」
「……もう面倒だしそれでいいか。」
「そうなのか。では、挨拶に行かなければな…」
「行かんで良い。憂佳、ステイ。」
「犬扱いか………悪くない。」
聞いてない聞いてない、何も聞いてない。
「それよりマナさん。あれ、止めなくていいんですか?」
「あれ?」
怪訝な顔のままリリナが指さす方向に目を向ける。
「は、初めまして!私、マナちゃんの友達で将来のお嫁さんの憂子って言います!」
緊張気味の自己紹介を耳に入れた俺の脚は両親とモア姉が居たテーブルに向かった。
「あ、マナ、これはどういう」
「父さん母さんモア姉!これはえっと冗談っていうか言葉の綾って言うかつまりそのえっとそう言う訳なんだ勘違いしないでくれ俺はロリコンじゃないからむしろ俺がロリだから!!」
「マナ、落ち着いて。」
「…落ち着いた。」
モア姉のひんやりした手が額にぶつけられ、それを機にどうにか平静を取り戻す。
「改めてマナ、どういうこと?」
「実は」
「私が言うよマナちゃん!
マナちゃんとは公園で出会ってから、一緒に遊んでたの!
それから、来示から助けてもらって、誘拐しようとしてた人たちからも助けてくれたの!だからマナちゃんにはおっきな恩があるし、大好きなの!
だから、私がマナちゃんのお嫁さんになるの!マナちゃんはお嫁さんにはなりたくないって言ってたからね!」
誤解とかすれ違いとか勘違いとかの恐れがあるから俺が言いたかったんだけど。
そんな俺の心境は無視され、じょうちゃんが全部話してしまった。
三人の反応は……
「…そうか。
マナ、そんな危ないことはするなと言いたいところだが…よくこの子を助けたな。よしよし。」
父さんはそう言って、やや乱暴に頭を…カチューシャをしているため、額の辺りを撫でる。
不器用だったが、父さんの優しさと賞賛が伝わってくるようで嬉しかった。
「そんなことしてたなら早く言いなさい。
叱っちゃうかもしれないけど、褒めてあげるから。」
「別に、褒めてもらうつもりでやったんじゃないんだけど…」
「それでも、功績は称えるべきじゃない?私も称えたいし。」
母さんも俺の頭に手を伸ばす。
空気を呼んだ父さんが手を離すと、母さんの手は俺の額に軽いデコピンを食らわせた後、父さんよりも優しく撫で始める。
母さんの愛情が染みていくようだった。温かい気持ちになった。
「……マナ、私もしたいからカチューシャ取ってくれない?」
「マナちゃんのお姉さん!その後は私もしたい!」
「良いわ。」
「……もう勝手にどうぞ。」
10分後、俺はカチューシャを付け直す為にぐしゃぐしゃになった髪の毛を戻す作業を始めた。
遅れてしまった理由は二つあって、一つは単にスランプ気味だからです。
もう一つは先週から動画を作ろうとソフトと格闘してたからです。
なんか突然、そうだ動画作ろうと直感的に思ってしまったせいでこの始末。どこから電波を受信したんでしょうか。
動画の製作は知識ゼロから始めたのでトラブル続き、動画も小説も全くもって進まないという何一つよろしくないことになってしまいました。
…このペースは続いてしまうんでしょうか。




