元六十六話 カラオケに来たら大惨敗した
身内用のリプレイ小説を一万字ほど書いてて遅れました。
なろうのガイドラインを見てみましたが、COCは二次創作にもリプレイにもリストに入ってませんでしたね…畜生めぇ!!
「ちょっと足りなかったな…なんか頼んで良い?」
「…良いけど。」
カラオケに来た俺と詞亜は、早速歌う…前に料理の注文をした。もちろんドリンクバーも付けてもらった。
「…大丈夫か?ここに来てから顔赤いぞ?」
「べ、別に何ともないから!」
「そうは言ってもな…風邪かもしれないし、無理しなくても休んだ方が…」
「絶対風邪じゃないから大丈夫なの!」
「そ、そうか…それなら良いんだけどさ。」
その自信はどこから出てくるのだろうか。
まあ、無理してでも一緒に居たい気持ちは分からなくもない。俺が男でいられるのは一生の内でもこの時間だけ…それが終わればそこからは一生女の子だ。
いくら俺でも、そんな状況では少しでも多く告白した相手と一緒に居たいと思うのは自然なことだ。
俺だって、残り数時間とはいえせっかくできた彼女だ。できる限り離れたくない。だって今だけだから。
………少し、悲しくなってきた。
男に戻れた時は混乱もあったが、嬉しかった。
けど、女の子に戻る時間が近づいている今、俺の心を満たしているのは喜びではなく悲しみと虚しさだった。
「早く飲み物取りに行って、歌うぞ。一曲でも多くな。」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
なら、その楽しい時間を目一杯楽しみ尽くす。それが今の俺たちにできる、最高のことだ。
「そうね!
ねえ基矢、点数対決しない?」
「良いぞ、俺だって達治達と何回もカラオケに来てるからな。
覚悟しとけよ!俺を超えるつもりなら、全力で掛かってきな!」
「どうしたの?その程度?」
惨敗の二文字が頭に浮かぶ。
一曲目はまだ小手調べだからちょっと点数差があったのはまだよかった。
二曲目も肩慣らしだからよかった。
三曲目は…俺の十八番だった。
しかし、十八番を歌った詞亜の点数は圧倒的だった。
これまでの詞亜の点数を大きく離し、満点。対して俺は90点。
三戦三敗、要は全敗だった。
「ああ…どうせ俺はこの程度さ…」
リングのコーナーでぐったりと椅子に座る真っ白な俺を幻視する。
「ちょっと、燃え尽きるのは早いわよ。
次は……デュエット、でも、歌わない?」
「俺デュエット曲知らないんだけど…」
「歌う前に動画で見せるから。ね?」
詞亜が見せてきたスマホにはミュージックビデオのようなものが映っていた。
スマホを受け取り、音声を耳を通して頭に刻む。なるほど、良い曲だ。
「もう一回聞いて良いか?」
「いいわよ。」
もう一度聞く。
もう一回、もう一回、もう一回、もういっか…
「いつまで聞いてるの!?これじゃ普通に歌聞いてるだけじゃない!歌いましょうよ!」
「俺が歌えるのかなぁ…」
「何回も聞いたでしょ!さあ、早くマイク持って!」
詞亜のスマホをテーブルに置き、マイクを取る。
何度も聞いたおかげで少しは歌えたが、一番と二番の箇所を間違えてしまうことが何回かあった。
だが、それでも楽しく歌うことが出来た。
「次はこれにしない!?」
「……デートで浮気の曲歌うってどうなんだ?」
しかも結婚して三年目の歌。俺たちこの一日で終わりなんだけど。
デュエット曲をいくらか歌い、時間はもう11時前になった。
カラオケボックスを借りたのが11時までのはずだったので、もうすぐここを出なければならない。
そのため、俺は歌い疲れたこともあって帰る準備を始めていた。
「…基矢。」
「なんだ?」
詞亜は帰る準備をせず、まだボックスに置いてあった選曲用のタブレットのような端末を持っている。
まだ帰りたくないのだろうか。
「私と2人きりでここに来たっていうことは…そういうことだったんじゃないの?」
「そういうこと?」
「その…女の子に戻る前に、えっと…アレを捨てたいんじゃないかって…」
「捨てる?何を?」
「女の子に言わせないでよそんなこと!」
な、なんで怒られたんだ?
「……ああもう!
基矢には全くその気が無かったみたいね!」
そう言って立ち上がる詞亜は、壁に据え付けてある電話を取る。
「すみません!一時間延長お願いします!」
詞亜はそう言うと、電話を切る。
「延長?
俺もう歌い疲れたんだけど…」
「良いの!歌わないから!」
「歌わないって…ここがどこか分かって言ってるのか?
なんか顔赤いし…やっぱり熱でもあるんじゃないのか?今すぐ帰っ…」
俺は最後まで喋れなかった。
詞亜が口をふさいだのだ。それも、己の口で。
「……これで、何を言ってるか分かった?」
「…………」
俺はあっけに取られていた。
正直、詞亜がここまでしてくるとは思わなかったのだ。
というか、詞亜から攻めてくる事自体が予想外だったのだ。チューをせがまれただけでも動揺していただろう。まさか強引にしてくるとは思わなかったが。しかも深い方を。
「…詞亜、それはダメだ。」
しかし、俺はそれを拒絶する。
「どうして?」
「今日だけの関係で、そこまでするわけにはいかない。
俺は…明日にはもう、責任を取れなくなる。責任を取れない体になるんだ…」
基矢は…男としての俺は、今日で本当に死ぬ。
俺の体は基矢からマナに生まれ変わり、新たな生が始まるのだ。本人の意思を無視して。
「関係無いの。
私がその責任を背負えば良いだけなんだから。
アンタはしたくないかもしれないけど…私はしたいの。
私がしたいことだから、私が責任を持ってやる。それのどこがいけないの?」
顔の横の壁に両手を突かれ、逃げられない。
所謂壁ドンという奴だ。俺は詞亜に答えるしかない。
「お前が良くても、俺が駄目なんだ。
そんなことをしたら、一生負い目として背負っていくことになる…最後まで責任を取れなかったって。
お前の初めては…未来の旦那さんにでも取っておけ。俺で散らすようなものじゃない。」
「私、別に初めてなんて言ってないけど?」
「…え?」
「…どうする?」
勝ち誇ったような、妖艶な笑みを浮かべる詞亜。
「………初めてじゃなくても、だからと言ってそういうことを気軽にして良いわけじゃない。
俺別に処女厨とかじゃないし…」
「…そう。
なら、無理矢理でも…!」
「し、詞亜!早まるな、落ち着け!冷静になるんだ!」
立ち上がり、服を脱ぎ始めようとした詞亜の肩を掴む。
「放して!今しか基矢でいられないんでしょ!?」
「それは体だけだ!心はいつまでも基矢のままなんだ!」
「そしたらもうこんなことも出来ないじゃない!」
「出来ないけど…仕方ない事なんだ!」
「仕方ないって何!?だから、今しかできないことをしようとしてるんじゃない!!」
詞亜はその華奢な体から生まれたとは思えない力で俺を押し倒す。
頭を床に打ち付け、視界に星が散る。
―――その時だった。
「……時間切れ、みたいだな。」
「……なんで?
なんで、駄目なの…」
体の感覚が変わる。
今まで着ていた服はダボダボになり、その服を胸の膨らみが押し上げている。
相棒もその姿を消した。もう、これで本当に―――
「基矢…嫌…嫌よ…こんなの…」
ボロボロと涙をこぼしながら俺を抱きしめる詞亜。
俺は少し迷って、詞亜を抱きしめ返した。
「俺だって、嫌だ……
お前とこうしてカップルになって、短かったけどデートして…楽しかった。
でも、もうこういう風にお前と出かけられないのかと思うと……悲しい。」
俺も涙を流していた。
抱き合っている状態なので涙をぬぐうことは出来ない。
床に落ちた二つの涙は混ざり、溜まっていく。
「基矢……」
「詞亜…」
俺たちは涙を流しながら、何度も名前を呼び合う。
それが終わったのは延長終了の電話がかかってきた時だった。
お互いに無言で帰路を歩む。
とにかく気まずい。声を掛けられない。
「「その…」」
とりあえず声を掛ければ何とかなると思い、詞亜に声を掛けた。
詞亜も同じことを考えていたらしく、声が重なった。
「なんだ?詞亜。」
「私のは重要でもなんでもないから…基矢が言って。」
「…マナだ。」
「……そうね。」
お互い沈痛な表情になる。
が、とりあえずなにか言わないと…
「えっと…詞亜。」
「何?」
「その…さっき、初めてじゃないとか言ってたよな?」
「べ、別に初めてって言ってないって言っただけだから!
その…変な心配しなくても、私は処女だから…」
「そうか。
…と、言いつつ?」
「本当だから!そんなこと聞きたかったの!?」
「え、あ、いや…
なんか話すことないかなって思って…」
「バカ!」
分かれ道に来たこともあり、詞亜はずんずんと大きな足音を立てながら俺から離れていった。
「待てよ。」
「何!?」
「…送ってやるよ。
この体なら間違いは起きないだろ?それに、詞亜も心配だし…」
「……分かったわよ。」
許可も下りたので、俺は歩く詞亜の後ろを付いて行く。
何事も無く詞亜の家に着き、詞亜が家に入ったことを確認して返ろうとした時。
「…基矢。」
「……なんだ?」
「その体のままでも…女の子になっても、私の彼氏…彼女で居てくれない?」
「…バカなこと言うな。俺たちはもう恋人じゃない。」
既に時間は十二時を過ぎている。
性別のことはともかく、日は代わり、一日が終わるまでという話を適用しても俺たちの関係はもう恋人同士じゃない。
「…そう。
でも私、諦めないから。絶対にまた、基矢を…マナを振り向かせて見せるから。
努力するのは、私の勝手だし。」
「それが無駄でもか?
結局、お前も俺じゃない誰かを……いや、なんでもない。」
「私にはアンタしかいない。
それだけは覚えておいて。」
詞亜の家のドアが閉まる。
それを見た俺は今度こそマンションを出た。




