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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元八章 さよなら双丘、お帰り相棒!
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元六十四話 告白したら告白されてた

 

「マナさん一体どういうことですか!?」


「そうだよ!なんで瑠間を!?接点少なかったはずだよね!?一目惚れ!?」


「ちょっとお前ら黙って出てけ!」


 リリナとジーナの二人を廊下まで押し出し、ドアを抑える。


「……どうだ?」


 瑠間に返事の催促をする。

 今日はもう日が大分傾いて来ている。男でいられる時間はもう少ないのだ。


「悪いけど、私はマナと付き合えないよ。」


「そうか。」


 俺が瑠間に告白した理由は二つあった。

 一つは、もし告白に成功したら男としてデートさせてもらうこと。

 この機会を逃せばもう男に戻ることは出来ない。男としての生を楽しむラストチャンスだから。

 もう一つは…


「ありがとう。」


「…なんでありがとうなの?」


「おかげで、恋を諦めることができそうだ。」


「……」


 もう一つは、失敗したら恋を諦めるきっかけにすること。

 もし、この先の未来で俺に好きな女の子が現れたら…

 明日にはマナ(女の子)に戻る身。女の子同士の恋愛は壁が多いし、高い。

 俺だけでなく相手まで大変な思いを、不幸な思いをさせてしまうだろう。

 結局のところ、今回の告白は成功しても、失敗しても、過程は違えど恋を諦めるという目的は達成できるのだ。


「…なんで私がマナと付き合えないんだと思う?」


 瑠間からの予想外の問いに面食らいながら答える。


「接点が少ないからか?」


「違う。」


「恋愛対象として見れないからか?」


「それもあるけど、少し違う。」


「…接点が少ない瑠間に告るような、軽薄な俺を見損なったからか?」


「違うよ。」


「………」


「分からない?

 私は、貴女にもっと見てほしい人がいるんだよ。」


「もっと、見てほしい人?」


 誰なのだろうか。

 リリナやジーナは一緒に暮らしてるからずっと見てるし、鴨木さんは瑠間と会ったことが無いはずなので違うだろう。

 …じょうちゃんや憂佳の事か?守の親戚なら、同時に双子である瑠間にとっても親戚って訳だし…

 ふと、過去を遡って考えているとボーリング場が頭に浮かんだ。

 ……もしかして。


「…詞亜か?」


「正解。

 その姿で詞亜に会ってあげてた?」


「まだだ。

 訪ねた時に留守だったみたいで…」


「まだ間に合うよ。

 今のマナの姿を見たら驚くだろうけど…でも、きっと分かってくれるし、喜んでくれる。

 だって、詞亜はマナの事が………これ以上は自分で気付いて。

 私への告白は無かったことにして、彼女に告白してあげて。」


「……ああ。」


 一年しかこの世で過ごした時間が変わらないはずなのに、瑠間にかなう気がしなかった。

 俺は荷物を降ろさず、そのまま部屋を出て行ったところで瑠間に呼び止められる。


「ねえ、マナ。一つ訊きたいんだけど…」


「なんだ?」


「なんで私だったの?

 さっきマナも言ってたけど、私とマナは接点が少ないはずなのに…」


「……一番、好みのタイプに、近かったから。」


 少し赤くなった顔を見せないように家を飛び出した。

 くそっ、野郎の赤い顔とかキモいだけだって分かってるのに…!






 走ってきたこともあり、顔はやや赤いままだ。

 そんな顔を冷ますように秋風を受けて冷えた手を頬に当て、少しでも元の肌色に戻るようにする。

 詞亜の家の前だと言うのに、中々チャイムを鳴らす勇気が出なかった。これから告白することを意識しているからだろうか。

 震える手でチャイムに手を伸ばす。

 …押した。

 返事は無い。ドアに手を掛けても鍵がかかっている。

 やっぱり、帰ろう…

 失恋はしたんだ。諦めはもうついて――――


「あ、アンタ誰!?人の家の前で何してんの!?」


 踵を返そうとした時、通路に詞亜の姿を見つけた。

 無駄足にならなくてよかった、あのままじゃ帰れなかった。

 覚悟を捨てかけた時にきやがって。

 良いような悪いような。そんな気持ちになりながら口を開く。


「詞亜、俺だよ。基矢だ。」


「……え?」


 呆けた顔を見せた後、俺の顔を360°、周りを回ってジーっと覗き込んだ。


「…本当に、基矢、なの?」


「そうだああ!?」


 デジャヴを感じるこの状況。

 詞亜が抱き着いて来たのだ。


「良かった……もう、アンタとは会えないのかと思ってた…」


「会ってただろ?マナとして。」


「……やっぱり、別人じゃないんだ。」


「なんだ、てっきり信じてくれてたと思ってたのに。」


「時間が経つにつれて、ちょっとね…

 ……よし、覚悟は決まってる。ずっと決めてたんだから。」


 俺から離れた詞亜は自分の頬を叩くと、真剣な表情で言った。


「去年のクリスマスから、基矢の事が好きだったの!

 私と付き合ってください!」


「…え?」


 去年のクリスマス?

 ナンパからは助けられなかったし、あの後も特に何もなかったはずなのに…


「ど、どういうことだ?

 俺、去年のクリスマスになんかしたか?」


「私を助けてくれたじゃない!

 その…アンタ一人じゃ助けきれなかったけど…でも、貴方に声を掛けられた時はすごく安心した。

 ナンパの手を叩いた時の貴方も、かっこよかった。

 だから好きになったの……悪い!?」


「わ、悪く…ないです…」


「だから、私と付き合って!」


「……良いぞ。

 ただし、今日一日だけだ。」


「え……

 なにそれ?なんで?なんで今日だけなの?ねえ。」


「…俺が基矢()に戻れるのは、今日一日だけだからだ。」


「なんで!?ずっとじゃないの!?」


「仕方ないんだ…

 今日一日、一回限りが限界なんだ。

 この奇跡が終わったら、俺はまたマナ(女の子)に戻る。

 まるで、シンデレラみたいだな。」


「……嫌。」


「詞亜?」


「嫌よ!

 例え女の子になっても、私はずっとアンタの事が好きだったの!

 今日限りの彼女なんて嫌!女の子同士で良いから、ずっと基矢と居たい!」


「この国は女性同士では結婚できない。

 それに、同性だと子供を作って、血を残すこともできないんだ。

 だから…俺なんかほっといて、別の男と一緒に…」


「それができないから今叫んでるの!

 基矢への気持ちが抑えられないから、だから…だからずっと…」


「……詞亜。」


 俺は、こんなに詞亜に想われてたんだな…

 傍に居たはずなのに、さっぱり分からなかった。

 分かろうともしなかった。


「詞亜、今のうちに2人でデートでもしないか?」


 これは、そんな俺からのせめてものお詫びだ。

 瑠間への告白が成功したら、自分が楽しむ為にデートに行こうと思っていたが…

 …今は詞亜を楽しませるために、カップルとしてデートに行く。それは戻ってから(女の子)にはできない、今の俺()にしかできないことだ。


「……」


「早くしないと女の子に戻っちまうぞ?俺の意思とは関係なしにな。」


「…そうね。行きましょ。」


 ―――これが、男として最初で最後のデート。

 俺は詞亜と共に、沈む太陽を追うように町へ出た。

 俺たちの手はしっかりと、確かに繋がっていた。

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