元五十九話 バレたと思ったら相談を受けてた
冒頭のレイティ視点は読みづらくなりそうなので、日本語でお送りします。
レイティ本人は英語で考えてます。母国語ですからね。
私と基矢がいつ初めて会ったのかは分からない。物心ついた時には久しぶりと言い合う仲だった。
私と基矢の関係はと言えば遠い親戚。私のひいばあちゃんの姪が基矢のおばあちゃんらしい。
そんな遠い関係のはずなのに、夏と冬にどちらかの家がどちらかの家に行くのは、基矢のおばあちゃんと私のひいおばあちゃんが宇露家にお世話になり、宇露家も基矢のおばあちゃんにお世話になったから、らしい。
私は、たまに会いに来る基矢と一緒に遊ぶのが好きだった。
日本の遊びを教えてくれたからだ。かるたやコマ回し、小さい頃の私にとっては全ての遊びが新鮮で、楽しかった。
だから久しぶりに会った時はハグするほど嬉しいし、別れる時も寂しくてハグしていた。
別れた後は次に基矢と会える時期を楽しみにし、次はどんな遊びを教えてくれるのか想像した。
『まるで恋してるみたいね。』
と母に言われた時は、
『そっかー!これが恋なんだ!』
と、よく理解もせずに納得していた。
それが本当に恋になってしまったのはいつなのだろう。
分からないけど、一つだけ言えることがある。
私は基矢が大好きだ。
昔は一人の友達として。今は一人の異性として。
だから、冬でも夏でもないけど日本に行けると分かった時、どうしようもないほど基矢に会いたくなった。
両親にそれを伝えても、今回行くところは基矢の家から遠いから行けないよ。という非情な宣告が返ってくるばかりだった。
だから、私は自力で基矢に会いに来た。
現在地を調べて、教えられていた基矢の家までのルートを調べて、電車に乗って、バスに乗って…
そして、ようやく基矢の家までたどり着いた。
けど、そこに居たのは銀髪の可愛い女の子。
その女の子は、見た目がどこか昔見せてもらった基矢のばあちゃんに似ていて――そして、仕草や言葉遣いは基矢に似ているようだった。
部屋の中も実家の方の基矢の部屋に似ていたし、ゲームの癖もそっくり、というかそのままだった。
そして、ここに居させてくれた。
もし、私が昨日出会ったばかりの赤の他人だったら引っ張り出してでも出て行かせただろう。けど、そうしなかった。
それに、今朝。
私は名前を言っていなかったはずなのに、マナは私の名前を呼んだ。まるで、知っていて当たり前のように。
ということは―――
「ただいま。
帰ったぞ。さあ、事情を聞かせてもらおうか。レイティ。」
「…キたみたいデスネ。
では、ゼンブイいうデスヨ。モトヤ。」
「…気付いてたか。
ああ、そうだ。俺が基―――やあ!?」
正体を明かすなり、レイティが抱き着いて来た。
「コウレイのハグデス。モトヤ、ヒサしぶり。」
「…そうだったな、久しぶり。」
ハグをして久しぶりと言いあう。
これが俺たちの、久しぶりの挨拶だ。
「どうして、そんなコトになったんデスカ?」
「朝起きたらこうなってた。」
リリナが元女神、ジーナが宇宙人であることは隠したままにしておくつもりだ。
朝起きたらこんなことになっていたのは事実だし、嘘はついてないので目を逸らす等の怪しい挙動は無いだろう。
「…ホカのフタリはどうしたんデスカ?」
レイティは帰ってきたのが俺一人であることに気付いたらしい。
「バイトだ。
俺は右腕がこんなだから免除された。」
「Ah…オれたんデスヨネ。」
「ああ、ちょっと階段でな。
それより、レイティの話を聞きたい。聞かせてくれないか?」
レイティはこくり、と一度頷いてゆっくり小さく息を吸う。
「ワタシはチチのシュッチョウにツいてキて、ニッポンにキたんデス。」
「出張?どうして付いて来れたんだ?」
普通、出張と言ったら家族なんて連れてこないと思うんだが…
「ヤスみのフツカカンだけのヨテイだったので、スコしムリをイってツいてクるコトがデキたんデス。
リユウはフタツ。ヒトつはモトヤにアいたいから。もうヒトつは…イエにイたくないからデス。」
「家に居たくない?」
「……そのリユウはアトでハナすデス。
ハハもツいてクるというジョウケンで、ワタシはニッポンにクることがデキたんデス。
でも、シュッチョウサキがモトヤのイエからトオいからダメだってイわれてしまったんデス。
それでも、ニッポンはダイスきなのでシュッチョウサキのマワりをカンコウしてたデス。
キノウとオトトイはタノしかったデス…けど、キノウノるはずだったヒコウキがトラブルにアって、トまってしまったんデス。
そのトキ、オモったんデス。オモってしまったんデス。
ヒコウキがトまったのは、ウンメイじゃないかと。
まだカエってはいけない、モトヤにアえ。そうイわれているのだろうと。」
……冷たい言い方かもしれないが、それは運命でも神の言葉でもない。
家に帰りたくない、俺に会いたい。そんなレイティの願望だ。
そう思ったが、俺はその言葉を飲み込んだ。
思ってしまった、と言っているからだ。
「それで、リョウシンにダマってこっそり、ヒトリでここにキたんデス。
ミチノリをシラべて、ワタされていたおコヅカいをツカって。」
「……そうか。
そこまでして会いに来てくれたことは嬉しい。
けど、それでレイティの両親を心配させるのはいただけない。」
「いただけない…?」
「良くないってことだ。
お前が来ることは俺の父さんから連絡が来た。ちょうどレイティが訪ねてきた時にな。」
「あのトキのメールはそれデスカ。」
「そうだ。
多分、お前の両親のどっちかが俺の父さんに連絡したんだと思う。
お前を心配してな。」
「……ワかってたんデス、オヤにシンパイをかけるコトくらいは。
けど…」
「俺に会いたいし帰りたくないんだろ?
…帰りたくない理由っていうのは、なんなんだ?」
「……」
「別に尋問してるってわけじゃないし、怒る訳でもない。
ただ、相談にのってやろうとしてるだけだ。俯いてなんかいないで、気楽に話してくれ。」
「サイキン、ウチのトナリにスんでるトモダチとケンカして…」
「隣…ニアーちゃんか。」
レイティの家に遊びに行った時、レイティの家の隣に住んでいる年下の子、ニアーが居たことを思い出す。
たまに一緒に遊んでやったりもしたっけな…
「そうデス。オボえてたんデスネ…」
「忘れるかよ、まだ二年前だぞ?」
「…サイショは、ただのアソびだったんデス。
けど、ケンカになって、おタガいホンキになってワルグチをイいアって…」
「仲直りしたいか?」
「……したい、けど、でも…」
「ちょっとでも仲直りしたいと思ってるなら、謝って話をしに行け。
話せばわかることがある。黙ってて後悔することもある。
案ずるより産むが易し。悩んでるより、さっさと行動を起こした方が楽なこともあるぞ。」
「……そうデスネ!
なんだか、ニアーにアうユウキがデてきたキがするデス!」
俺に出来ることは、声を掛けて言葉を伝えるだけ。
でも、言葉の力は強い。
何のことも無いはずの他人からの言葉一つで、大きく人生が変わることもある。
たった一言、それがきっかけで他人との関係が変わってしまうこともあるだろう。レイティとニアーのように。
けど、言葉にはそれを戻す力もある。
その力を使うか使わないか、彼女はもう決めている。
後は彼女次第だろう。2人の関係が元に戻ることを祈るばかりだ。
「モトヤ、ありがとう!」
「礼を言うのはまだ早いぞ。
ニアーちゃんと仲直りしてから、伝えてくれ。手段はメールでも電話でも良いから。」
「もちろん!」
彼女が帰った翌日にひとつの電話がかかってくる。
その内容は、この時の俺でも容易に想像できるものだった。




