元五十八話 噂話してたら真相が分かった
「おネガい、ここにイさせて!」
朝食を食べ終えたレイティがそう言った。
「ここに居させてってお前…基矢捜しはどうした?」
レイティがここに来たのは基矢の家を探していた途中ということになっていたはずだ。
ここが基矢の家じゃないと分かった(まあ俺の家なんだけど)以上、レイティがここに残る理由は無いはずだ。
「それはもういいのデス!」
「…じゃあ、帰った方が良いんじゃないか?
俺たちは今から学校だし、まさかレイティを連れていく訳にはいかないし…」
「……カエれない、デス。
カエりのヒコウキはトラブルでトまってしまってるんデス…」
「1人で来たわけではないんですよね?
でしたら、同行者の元に戻った方が良いのでは?保護者もいるんでしょう?」
「………モドりたく、ないんデス…」
「喧嘩でもしたか?」
「モドったら、アトはヒコウキがトぶのをマつだけ…
モトヤにアってからカエりたい…いえ、カエりたくないんデス。」
「帰りたくない?」
「マナ!遅刻するよ!」
「……帰ったら全部事情を聞かせてもらう。
それまでなんて言うかまとめておけ、この家で。」
「…!
ありがとう!マナ!」
家を後にして、アパートの階段を駆け下りる。
身内とは言え、対応としては甘かったかなぁ…
「マナ~!」
「達治。どうしたんだ?」
下駄箱に靴をしまっていると、達治が入り口から声を掛けてきた。
本来なら遅刻ギリギリなのだが、左腕の痛みを代償にリリナの爆発的なブーストによって時間的に余裕が出来たのでそう急がずに靴を脱いでいた。
なんで神辞めたのに神だった時と同じこと出来るのあの人外二号…
「お前…ちょっと前に間違えて男子トイレに入らなかったか?」
「え゛?」
フラッシュバックしたのはいつぞやのワオンモール。
あの時、着せ替え人形にされかけてリリナから逃げていて間違えて男子トイレに入ってしまったことは覚えている。その時に守と再会し、女装男子……名前なんて言ったっけかな…あれ以来会っていないので思い出せない。
確か女装みたいな名前だったんだよな、女装…女装…そうじょ…あ、そうだ。宗司だ。
だが、その時に居たのは高校生ではなさそうなおっさんと守と宗司、そして俺だけだったはずだ。俺が男子トイレから出た時も誰も見ていなかった。
「マナさん、何やってるんですか…」
「仕方ないことかもしれないけどね!」
こやつら…
「いや、知らない。記憶に無いな。」
何回か間違えかけたけどわざわざそんなことは言わない。藪蛇っぽいからだ。
「そうか。
いや、なんか最近男子トイレから女子生徒が出てきたって噂が流れてたみたいでさ…」
……守の事じゃないよな?
いや、確か南凧野高校の噂は男子トイレに美女が居たって話で、男子トイレから出てきたって話じゃなかったはずだし…
「マナさん?何話して…って、何その右腕!?どうしたの?」
……ああ、コイツ田倉か…
一瞬気付かなかった。だって女子の制服着てるんだもん。
田倉とは和解して、普通の友人関係を築いている。
…時折ファッションについて相談されるくらいだ。もちろん女の子の。
「ああ、ちょっと階段で転んでな…」
「そうなんだ…お大事に。」
「俺も気になってはいたけど、やっぱりそうだったのか…」
階段万能説。
皆も、人に言えない事で怪我した時は階段で転んだと言おう。きっと大抵は信じてくれるぞ。
…まさか巨大兵器に蹴られたとか言えない。言っても多分笑われて階段のせいにされるだろう。
「それで、何を話してたの?」
「その前にお前は誰だ?」
達治は気付いてないらしい。
そりゃそうだ、達治は田倉の女装好きを知らないからな…
「分からない?僕田倉だよ。」
「田倉ぁ!?
言われてみればそんな気も…って、なんだその格好!?」
「見ての通り、女子の制服だけど…似合ってない?」
「似合ってはいるけどそうじゃない!お前そんな趣味あったの!?」
「その通り!僕の趣味は女装だよ!」
「その通りもどの通りもあるか!そんな格好止めろ!先生に怒られるぞ!」
「え~…せっかくわざわざ早めに来て着替えたのに…」
「……田倉さん。
着替えたというのはどこでですか?」
「え?トイレだけど。」
……ん?
「なあ、田倉。」
「何?愛しのマナさん。」
…コイツとは普通の友人関係を築けてる。
と、思うんだけどなぁ…
「着替えてきたって言うのは男子トイレでか?」
「女子トイレになんて入れないよ!何言ってるの!」
その格好で言われてもな…
「ああ、なるほど…」
「やっぱりそうですか…」
「え?何が?」
2人も気付いたらしい。達治は気付いてないけど。
…ともあれ、謎は全て解けた。解きたくなかったけど。
「……達治。
多分、さっき言ってた噂の女子生徒の正体は田倉だ。」
「田倉!?
あの、男子トイレから出てきたって女が!?」
「え?噂?女子生徒?」
自覚は無いようだが、真相は多分男子トイレで女子の制服に着替えた田倉を誰かが目撃してしまったのだろう。
女装している田倉は本当に女子にしか見えないので、男子トイレから女子生徒が出てきたように見えた。その誰かがその話を広め、噂として広まっていった…というのが真相だろう。
学校に来てまで女装するとは…田倉の女装好きも筋金入りだなこりゃ。
俺なんて女子の格好なんてしたくないのにしてるというのに。
ある意味田倉が羨ましいな…好きで女装できるんだから。
まあ、もう慣れたけど。今ならビキニでも着れる。
……やっぱビキニは無理かな。
「……とにかく、真相は分かった。ありがとう。
忙しい時に呼び止めて悪かったな。俺も急ぐから!じゃあまたな!」
「あ、そうだった!僕も行くね!」
忙しい?
別に遅刻しそうだった訳じゃないし、忙しいって訳でもないんだけどな…
靴を履き替えた俺とリリナ、ジーナは教室に着くと、予想外の光景を目にした。
「……え?」
なんで皆教科書とか資料集とか見てるんだ?
おかしい。このクラスはいつも朝休みに勉強するようながり勉クラスではなかったはずだ。
「お前は勉強しないのか?余裕だな。」
席に着いて教科書を広げている達治が声を掛けてきた。
「お、お前までなんで勉強してるんだ?クラスで伝染病でも流行って熱でも出てるのか?」
「はぁ?何言ってんだ?
今日は中間テストだろ?」
……………
「あああああああああああああああああああああああ!!!」
「うわっ、なんだよ、急に大声出すなよ…」
買い物したり潜入したり死にかけたり映画観たりして完全に忘れていた。っていうか週末濃っ。
今日はテストだった。本来は土日でテスト勉強にラストスパートをかけるつもりががが…
「や、やばい!早く勉強しないと!
お前らも急げ!」
「フッフッフ…私は大丈夫です。
なんせ、この世界に降りる前に大学までの勉強範囲を全て網羅していますからね!」
「は!?」
「あたしも、高校生レベルの問題なら解けるよ!
地球の文明レベルを調べた時、教育のレベルも調べてたから!そして日本史は知られざるあんな歴史やこんな歴史までまっかせなさーいなんだ!」
スペック高ぇなこいつら畜生!
俺は急いで机に向かい、教科書を広げたがその日のテストは散々だった。
赤点くらいは免れてると良いなぁ…平日は勉強してたわけだし。




