元五十一話 どこまでも気に食わないと思ってたら形勢逆転した
「ロリータ、できるだけあのでかい奴には近寄るな!
アイツの相手は俺がする!お前は」
「プロックをなんとかすればいいんだろ?
あと、出来ればジーナとギーナをなんとかしとく!」
「…ジーナリウスとギーナだが、あれは魔力切れの症状だ。
魔力切れは最悪命に関わる。だが、腕輪が無いから今奪われることは無いだろう。だからそっちはプロックを何とかした後で良い。」
「分かった。」
守との短い作戦会議を済ませ、各々動き出す。
守はメタルマナに。俺はプロックに。
「プロック!」
「私の相手は気に食わない方のお嬢ちゃんか。」
「…守はお嬢ちゃんじゃないぞ。」
「ほう、大人の女性だったか?」
「男だ。」
「……面白くない冗談だ。ご婦人を侮辱するのはいただけないな。」
「いや、本当に男なんだけど。お嬢さんとかご婦人とか言う方が侮辱なんだけど。」
「…どこまでも気に食わないな。」
「お前もな。
お前には見たところ武器が無いじゃないか。この状況で不利なのはお前だろ?なのに妙に余裕じゃないか。」
「最強の兵器を握っているからな。
その気になればすぐにでもお前を叩き潰せる。」
ふとメタルマナの挙動を見た俺はその場から飛びのく。
俺が居た場所にはメタルマナの足が突き刺さっていた。
「悪いマナ!そっちに行った!」
いつの間にか黒い剣を持っていた守が叫んだ。
コードネームの事は完全に忘れてしまっているようだ。
「マナ、か…
運命を感じる名だな。」
「お前に運命なんて感じられたくないんだけどな。」
思いっきり顔をしかめる。
「奇遇だな、私もそんなもの感じたくなかった。」
思いっきり顔をしかめられた。
「やはりどこまでも気に入らないお嬢さんだ…」
プロックが取り出したのは銃だった。
「お前、まさかそれ…!」
「もちろん、実弾銃だ。お前のようなおもちゃの銃とは違う。」
…確か、見張りの一人が言っていた。
銃口の延長線を避ければ銃弾には当たらないと。
常に動き回って、それを実行するしかないか…!
「邪魔するぜ!」
守がプロックの銃に剣を叩きつける。
すると剣が少し銃にめり込み、銃を床に縫い付けた。良かったな、切られたのが右手じゃなくて。
「メタルマナの操縦をおろそかにし過ぎだ。メタルマナどころか、お前自身も隙だらけだったぞ。
…とはいえ、メタルマナ本体には傷一つ付けられてないけどな。」
暴れまわるメタルマナを見る。
確かに、目立った外傷は見られない。
「くらえ!」
守が言うと、メタルマナの横の空間から黒い物体がせり出してメタルマナにぶつかった。
その衝撃でメタルマナが倒れる。
「これでどうだ!」
その上に巨大な黒い物体が落ちた。
メタルマナは黒い物体を受けて少し床に沈む。
「やったか!?」
メタルマナは身をよじり、腕を出して黒い物体を押しのけて抜け出した。
「くそっ!」
「…守、さっきから出てる黒い物体はお前がやってるのか?」
「そうだ、詳しい説明は省くが魔法みたいな物だと思ってくれ!
俺はもう一回アイツを足止めする!お前は改めてプロックを頼む!」
メタルマナが黒い物体で壁に押し付けられる。
「……もうアイツ一人で良いんじゃないかな。」
「私もあの規格外ガールの相手で手一杯だ。
だからお前にはさっさと眠ってもらいたい。」
「眠るのはどっちだと思う?」
再度魔力銃を構える。
「拳銃を一丁失ったくらいで我が有利は揺るがない。」
「危ない!」
メタルマナの肩から放たれるいくつもの魔力の弾丸は守が創った黒い壁で防がれた。
あんなマシンガンみたいな装備もあったのか…!
「隙ありだ!」
「何!?」
プロックが俺の魔力銃をつかみ取る。
メタルマナに注目している間を狙われてしまった。
「そうは行くかよ!」
「ぬぬ、見た目の割に力は強いようだな…
だがそれだけだ!」
「あっ…!」
俺の右手は銃から引きはがされ、魔力銃をプロックに奪われた。
「形勢逆転だな!」
銃口を俺に向け、引き金を引くプロック。
「……セーフティーが外れてないぞ、新人!」
だが無意味だ。
俺は魔力銃に魔力を登録しているため、魔力銃を持っている限り好きなタイミングでセーフティーを掛けることが出来る。
奪われそうになった瞬間、魔力銃のセーフティーを掛けたのだ。その為プロックが握っている銃から魔力の弾が飛び出すことは無かった。
そして、驚いている間にCQC投げ編。握力が緩んだところで魔力銃を奪い返し、セーフティーを戻す。
「形成逆転だな。」
プロックに馬乗りになって顔に銃を向ける。
「拘束にしては軽すぎるぞ?」
「動くならご自由に。その時は撃つだけだ!」
「ぐっ…!」
メタルマナと戦っていたはずの守がこちらに飛ばされ、強く背中を打ち付けた。
「守!」
「マナ、逃げろ!
コイツの相手は、ちょっと無理そうだ。」
ズシン、ズシンと地響きを鳴らして近付いてくるメタルマナ。
「甘いぞ!」
「なっ!?」
倒れていたプロックが体を揺らし、馬乗りになった俺を落として銃を奪った。
まずい、今度はセーフティーは掛けてない!
「またも形勢逆転のようだな!」
倒れ込んだ俺に奪った銃を向けるプロック。
「マナ!」
「眠れ!」
プロックが魔力銃の引き金を引いた。
すると。
「何っ!?くっ…」
まず、魔力弾に当たったのはプロックだった。
銃口とは逆の方向に向かった魔力の弾に驚いたのは俺も守も一緒だった。
『あ、その銃悪用しないでね。トリガーを引いた時に使用者の悪意が一定以上感知されると、暴発して使用者に弾が発射された挙句跡形もなく爆発するから。』
確か、ジーナはそんなことを言っていた。
次に銃は暴発を始める。
「ぁ…」
倒れていた俺にも魔力弾が当たる。
そして、プロックの手から零れ落ち、床に着いた銃は小さな爆発を起こして消えた。
「マナ!」
「……」
返事が出来ない。
体が痺れて動かすことも出来ない。
「まずい、メタルマナが…!」
プロック本人は動けないにも関わらず、メタルマナは動作を続けていた。
メタルマナを起動したときに持っていた黒い球体は未だプロックの手の中にあった。
「……」
守にそれを伝えようとするが、声が出せない。
「マナ、一旦お前を出口まで運ぶ。
アイツは…メタルマナは俺が何とかする!」
無理だ。さっき無理そうだと言っていたというのに。
しかし、そう言っている間にもメタルマナは俺たちを踏みつぶさんと迫ってくる。時間は無い。
「行くぞ…!」
守は俺を抱え、移動しようとした。
その時だった。
『見ていられないぞ、ロリータ。』
聞き覚えのある加工された声。
声の主は俺たちが入ってきた場所に立っていた。
黒いタイツのようなコスチュームに隠しきれぬ胸のふくらみ、そして長い金髪からその人物は女性であることがうかがえた。
顔は白い仮面に隠されている。
あれが四人目の侵入者?
「あ…ロリータ、アイツは?
もしかして、お前が言ってた、四人目の侵入者って奴か?」
ここでコードネームの事を思い出したらしく、取ってつけたように俺をコードネームで呼び始める守。
声が出せないので、一度瞬きをして問いに答える。
『…これが“メタルマナ”という奴か。
敵ではないな。』
そう言うと、四人目の侵入者は一瞬でメタルマナの後ろに回り込む。
そしてプロックが腕輪をはめたところに手をかざすと、メタルマナの動きが止まった。
守があそこまで苦戦してたのに…
「アンタ、助けてくれたのか?」
『そんなところだ。
…ところでロリータ、気付かないか?』
気付く?何に?
『……どうやら分からないようだな。
良いだろう。この仮面を外してやる。』
侵入者はそう言うと、仮面を取り外して投げ捨てる。
露わになった顔は―――
「――――」
「びっくりしましたか?」
――リリナだった。




