元五十話 目的が分かったけど動き始めた
本日二話目です。
一通りノートを読み、奴ら大体の目的は分かった。
ある日宇宙から落ちてきた謎の物体――メタルマナを動かすことだ。
それを拾った連中は謎の物体の中にあった宇宙の言語なのに何故か読める説明書から、その使い方を知った。
使い方は分かった。しかし、問題は燃料だった。
謎の物体は魔力と呼ばれる謎のエネルギーで動くのだ。
魔力とは何か?どこにあるのか?どのようにすれば手に入るのか?全て手探りで研究した結果、連中は誰でも持っているエネルギーであることに気付いた。
次はそれを抽出し、謎の物体に供給する方法なのだが―――
―――小難しい独自理論がこれでもかという程パズルのように複雑にかみ合わせられていたので理論は理解できなかった。説明できん。
分かったのは謎の物体の脚部の一部が魔力の供給口することと、連中が人から魔力を抽出する装置を完成させたことだった。
魔力を抽出する人間に連中が作った腕輪を巻き付けることで魔力を抽出できるらしい。腕輪には注意する必要があるということだ。
…脚部、で分かるかもしれないが謎の物体には脚があり、二足歩行するロボットのようなものらしい。獣にも見えるし人間にも見える、奇妙なスケッチがノートにあった。
「―――これが、俺がこのノートから読み取った内容だ。」
「“メタルマナ”、か…」
ふと、時計を見ると12時を指していた。
潜入開始から既に3時間が経っている。
「となると、連中の狙いはジーナの魔力だろうな。
…一回だけ公園で魔法を見たことがあったらしい。
それで潤沢な魔力があると判断されたみたいだな。日記のこのページを見ろ。」
表紙に“プロック・トリー”とある日記を見て見ると、四日前の日付の場所にそう書いてあった。
それからは誘拐と魔力抽出の準備を進めていたらしい。
「迂闊だったな…あの時、魔法を使うのを止めてれば…」
「過ぎたことだ、もうしょうがないだろ。
それより、今ジーナリウスがどこに居て、どう助ければ良いか。それを考えよう。」
「居場所は多分この地下室のどこかだろうな。
“メタルマナ”と一緒だと思う。」
「何故そう思う?」
「抽出と供給の場所を離すメリットが薄い。不便なだけだ。
だから、多分地下室のどこかにメタルマナとジーナが一緒に居ると思う。」
「なるほど。じゃあさっさと別の部屋を捜さないとな。
……誰だ?」
守が険を込めた声でドアに問う。
ドアは少しだけ開いていて、一瞬の間の後完全に閉じられた。
「…今のは?」
「さあな。
ギーナだったらそのまま入って来てるはずだし、敵だったら覗きなんてする前に飛び込んでくるはずだ。」
「もしくは、応援を呼んで来るかもな。
どの道、ここに長居はできなさそうだ。」
「そうだな。他に手掛かりはなさそうだし、早く行こう。」
守と俺は部屋を出る。
さっきの覗き、敵か…もしくは、四人目の侵入者か?
部屋の外は真っ暗な廊下だ。その正体はもう分からないが、見えない敵を警戒しながら壁を伝って行った。
ある扉に入ると、大きな広間に出た。
そこには15m以上ある巨大な金属―――その下に拘束されているジーナ、更にもう一つの拘束台と、その周りを歩き回る一つの人影があった。
「もうすぐだ、もうすぐ完全にチャージされる。
その時こそ我が野望は産声を上げ、踏み出し始めるのだ…!」
彼は愉悦をかみしめるように笑う。
視線の先には息も絶え絶えのジーナの姿がある。腕には薄く光る腕輪が巻き付けられていた。
「それもこれも全てお前のおかげだ。
あの魔法を見せてもらった時から、我が野望はのろしを上げることが出来るようになったのだ!」
「……」
反応は無い。
しかし、男が機嫌を損ねることは無かった。そんな余裕が無い事が分かっているのだ。
「フフフフフ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
男の高笑いが部屋に反響する。
ジーナは耳障りそうに顔をしかめるが、男はその様子に気付かない。
ダァン!
そんな中、広間にあるドアの一つが吹き飛ぶ。
男は高笑いを止め、音の元を見る。
「随分と嬉しそうだな。プロック・トリー。
人を縛り付けて、そんなに楽しいかよ?」
ドアがあった場所に人が居た。
守は足をゆっくり下げ、男を見据えた。
「別に縛るのは趣味ではない。
だが、悲願が達せられようとしているのだ。嬉しくて仕方がないに決まっているだろう?」
「…悲願っていうのはそのでかい奴か?」
「ああ、私はこれを“メタルマナ”と呼んでいる。
これを動かすことが我が悲願でもあり、野望の一歩となる!」
「野望の一歩?
世界征服でもする気か?」
「ああ。
平和ボケしたこの国を落とすことなど容易。世界の兵器すら及ばない力が、これにある。」
「本当にそうか?
俺一人にすら及ばないかもしれないぞ?」
「面白いことをぬかすな!
最強の兵器がお前一人に及ばないと?」
「いっとくが、俺は昔ロボットと戦ったこともあるんだ。
ちょっとでかいロボだろうが、粉々にしてやる!」
人とも獣とも見える巨大な金属を指差し宣言する。
「粉々だと!?フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「そんなに面白いか!?
なら何度でも言ってやる、そのロボをボロボロにしてやる!!」
「ハハハハハ!ッハハハハハハハハハハハ!!」
「マナ、今だ!」
「おう!」
扉があった場所の影からマナが飛び出し、高笑いし続けるプロックを狙い引き金を引いた。
しかし、狙いが甘かったか、プロックが少し身を引いただけで避けられた。
「くそっ!」
「目障りだな…
目障りだなお前は。気に入らん。」
マナは二発目を撃とうとしたが、プロックが守の影に隠れるように移動したので銃を下ろす。
「通すとでも思うか?」
「お前を倒してからな。」
「俺を?そのロボですら勝てないって言ってるんだ。お前が勝てるか。」
「もちろん、ロボ…いや、“メタルマナ”でな!」
拘束したジーナから腕輪を取り、もう一つの拘束台に向かうプロック。
「ギーナ!?」
もう一つの拘束台にはギーナの姿があった。
青い瞳は閉じられていて、その体はピクリとも動かない。
「この女も少なからず貢献してくれた。
魔力の抽出に一時間も持たなかったがな。」
「一時間…?」
守は眉根を顰めながらプロックを追う。
プロックは脚部に二つの腕輪をはめ込む。
そしてメタルマナから離れると、懐から黒い球体を取り出した。
「メタルマナはこれで動き出す!
我が野望の大いなる一歩を見るがいい!フハハハハハハハハハハハハハハ!!」
メタルマナの目が赤く輝くと、ぐぐぐと鈍重な動きで腕を上げ―――
ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
――たたましい鳴き声のような音を発すると、守に向かって走り出した。




