元四十八話 休憩室には着いたけど箱が動いた
本日二話目になります。
本格的に体調が良くなってきたので暇になってきました。
「見て!あの看板!」
「ああ、意外と早かったな!」
さっきの部屋を出た俺たちは更に先に進み、とうとう休憩室と書かれた部屋に辿り着いた。
学校の教室のように扉の上にプレートが取り付けられており、そこに休憩室と書かれていた。
「ここで騒ぎを起こして、休憩室の人を引きずり出せばいいのよね?」
「そうだが…何をする気だ?」
「さっきの黒いパイナップル貸して。
大丈夫、ピンは抜かないから。」
「……」
まさかと思いながらギーナに手榴弾を渡す。
「えーい!」
すると、ギーナは休憩室の扉を少し開けてピンも抜かずに渡されたそれを休憩室に投げ入れた。
「手榴弾だー!」
「爆発するぞー!」
「止めろー!死にたくなーい!死にたくなーい!」
「うわあああああああああああああああ!!」
休憩室から出てくる見張りか警備の人々は手榴弾のピンの有無に気付かないのか、慌てて部屋から飛び出して逃げ惑う。その間俺たちは段ボールに隠れる。ギーナも結局あの後持って来ていたらしい。
彼らにとって重要なのは“爆発する物を投げ込まれた”という事実で、“爆発するか否か”はさしたる問題ではない。だから爆発物をよく確認せずに逃げた。
そんなことを言ったらピンが抜かれた手榴弾も不発弾かもしれないのだ。多分その可能性は低いけど。
「よし、これで多分誰も居なくなったわ。」
「結局兵器に頼るのか…作戦は考えてたんだけどな。」
まあ、俺が考えてた作戦は陽動にも使えるし、今抱えてる大きめの段ボールは多分無駄にならないだろう。
温存したと考えれば良いんじゃないだろうか。
「守!助けに来たわ!」
ギーナが休憩室の扉を開け放ち、部屋の真ん中で大声で呼びかける。
「守は確かロッカーの中って言ってたな…」
俺はロッカーを一つ一つ開けていくが、守らしき姿は見えない。
「居ないじゃない…」
「もしかして、別の休憩室だったか?」
「………かもしれないわ。なるほどね、奥って言う割に妙に早いと思った。」
ふと浮かんだ俺の推論を肯定するギーナ。
長く見積もってもまだ正面入り口に着いてから裏口までの距離は走っていないはずだ。
「じゃあ、探し直しだな。行こう、ギーナ。」
「まだいるぞ!」
「囲め!」
休憩室から出た瞬間、見張りがなだれ込んできてしまった。さっき追い出した奴らだろう。
俺は出口付近にあったロッカーを捜していたので、休憩室の中を捜していたギーナとは元々少し離れていたところに警備が流れ込んできたので分断されてしまった。
「ロリータ!貴女は黙って先に行ってて!私も後で追いつく!」
休憩室からギーナの声がする。
さっきの戦いぶりから、恐らくギーナなら大丈夫だろう。
すまないギーナ、相手は頼んだ!
俺は見張りの注意を引かないよう、そう思うにとどめて休憩室を後にした。
別の休憩室。
そこでは6人の警備がテレビを観ながら談笑し、各々心を休めていた。
「ハッハハハハハハ!」
「それそんなに面白いか?」
「お前これの面白さもわかんねーの!?
人生損してるわーないわー…」
「こんなんで笑ってるお前の方が損してるよ。
それより見ろよこの動画!こっちの方が何倍も笑えるって!」
「おいおいそりゃねーだろ!テレビの方が良いって絶対!なぁ!?」
「あ、悪いけど俺もネット派なんだ。」
「青田須、お前もか。」
「…ん?」
青田須が見つけたのは入り口に置いてある段ボールだった。
あんなところに段ボールなんて置いた記憶が無い。
「!?」
青田須が記憶を探っていると、段ボールがひとりでに部屋から出て行ったのが見えた。
「なあ、今、あっちに段ボールが…」
「段ボールぅ?
ははは、蛇さんでも入ってるんじゃないか?見て来いよ。」
「……」
やはりと言うべきか、あてにされない。
そのことに多少の苛立ちを感じながら、段ボールを追って休憩室を出る青田須。
「ぁ…」
「おい、どうした青田須?」
青田須の小さなうめき声を聞き取った警備の一人が後を追う。
その警備も青田須と同じように警備室に戻らなかった。
「あれ?青田須と浅尾は?」
「居ないな、トイレじゃないか?」
「……蛇だ。」
「「「蛇?」」」
「さっき箱がそこにあった…それを追っていった青田須がやられて、浅尾も…」
「「「……」」」
三人はアイコンタクトでコミュニケーションをとる。
(どうする?行くか?)
(ええ?俺やだよ。)
(もうこの際だしさ、言い出しっぺの法則ってことで。)
((異議無し。))
「蛇とか箱とか、信じられないな。それならお前、ちょっと行って来て箱持って来てくれないか?」
「俺!?」
「ああ、そしたら信じてやるよ。」
「……分かった。」
渋々警備の一人が部屋を出る。
数秒後、ドサリという音の後箱が部屋に顔を出して戻って行った。
「「「………」」」
「やらなきゃやられる!」
「一斉に行くぞ!」
「三人の仇をとるぞ!」
三人の警備は、意を決して部屋を飛び出た。
廊下に出ると、ゆっくり進んでいく段ボールが目の前にあった。
青田須他二名がその近くで倒れている。
「本当に…蛇!?」
「いや、そんな訳はない。今からコイツを剥ぎ取って…!」
二秒間段ボールの動きが止まる。
その後、段ボールは三人に向けて動き出した。
「こっちに来てるぞ!」
「ひるむんじゃない!行くぞ!」
「ぅ…」
小さなうめき声を漏らし、更に一人が脱落した。
「そいつはほっとけ!行くぞ!」
自ら発破をかけるように生き残った一人が箱に手を掛ける。
そして、それを勢いよく上にあげた。
「隊長!よくやりましたね!」
「ああ!へへっ、さしもの蛇もこの俺には…あ…?」
段ボールの中にあったのは車のラジコンだった。
「なんだそりゃ…ぁ…」
「たいちょ…ぉ…」
そして、残った二人も地に伏せた。
「……段ボールラジコン作戦成功。」
そこには満足気に微笑む銀髪幼女の姿があった。
「おーい守ー!助けに来たぞー!」
警備はもう休憩室に居ない。
「…頼むから段ボールから出てきてくれないか?なんか段ボールが動いて幼女の声がするのすげーシュールなんだけど。」
ロッカーから守が出てきた。
「あとお前、そこの曲がり角で引っかかっただろ、音がしたし箱にしわ出来てるぞ。」
「げっ、まじかよ…」
箱を外して見てみると本当にしわがあった。
かさばるし、そんなに持ち歩くつもりもなかったのでこの部屋で捨てていくことにしよう。
「…正直お前が来るとは思ってなかったけど、助かった。ありがとう。」
「どうしまして。」
「どういたしましてだろ。」
「……そうだな!」
「全く、しまらない奴だな…
ところで、ギーナはどうしたんだ?さっき電話で一緒だったと思うんだが。」
「ギーナは…さっき、別の休憩室に入った時に囲まれて…どうなったかはわからない。」
「そうか。
でも、アイツなら大丈夫なはずだ。」
「分かってる。
アイツは本当に強いからな。」
ギーナの強さはよく知っている。
でも、どことなく不安なのは何故だろうか。
〇〇〇〇〇「段ボール箱を装備しているな。
段ボール箱は敵の目を欺く最高の偽装と言える。潜入任務の必需品だ。
段ボール箱に命を救われたという工作員は古来より数知れない。
段ボール箱をいかに使いこなすかかが任務の成否を決定すると言っても過言ではないだろう。
ただし、いかに段ボール箱と言えど素材は紙だ。手荒い扱いをするとすぐ駄目になるぞ。
とにかく、段ボールは大事に使え。丁寧に扱えば段ボールもきっとお前に応えてくれる。
真心を込めて使うんだ。
必要なのは段ボール箱に対する愛情。粗略な扱いは許さんぞ。いいな。」




