元四十七話 むごい刑罰を思いついたら映画を観に行くことになった
ガン!
カキン!
ぐああ!
「こちらロリータ。ギーナと合流できた。彼女は無事だったらしい。」
『そうだったの?良かった。』
シュビッ!
キン、ドゴォォン!
「ああ。それで、今何してるか何だが…」
『…交戦中ですね?』
「ああ…」
パァァン!
ドドドドドド!
銃弾や手榴弾が飛び交う戦場の中、ギーナは一人で大勢の見張りを相手していた。
何事も無く正面玄関まで辿り着いた俺たちは、正面玄関に仕掛けられている監視カメラに映ってしまった。
そのせいで武装した見張り…というか警備がどんどん湧き出てくる。
ギーナは俺に下がるように言うと、たった一人で戦い始めた。
その戦いぶりは鬼神と言うべきか。それともそれを超えるものと言えるだろう。
襲い掛かる凶弾を全て躱し、手榴弾に至っては投げ返してすらいる。
そして時折放たれる火や光線等の魔法のような攻撃。
これが魔法使いの戦いなのだろうか。こんなのが蔓延る世界になんて行ったら確実に俺なんて一瞬で死ぬ。
なんだろう。魔法使いみんなそんなんじゃねーよみたいなツッコミを期待してる俺が居る。悲しいことにそんなツッコミをくれる奴はここにはいないのだが。
『時折この世界では聞けないような音がしているところを見ると、どうやらギーナさんも魔法を使えるみたいですね。
一度全力で戦ってみたいものです。』
「黙れパツ・キン。yours nameのエンディング一分半前でトイレに連れ出すの刑に処すぞ。」
yours nameは今年の夏に公開した超人気のアニメ映画だ。入れ替わりの代名詞となる日も近いだろう。というかなってるだろう。
あの映画は夏休み中に劇場で観てマジで良かったと思ってる。あの時に観なければテレビの再放送を待って、再放送を観た後になんで映画館で観なかったんだろうと後悔していただろう。
いつかまた観に行きたいものだ。
『ロリータ!?お前なんてむごい刑罰を思いつくんだ!
あれではずっともやもやしたままではないか!生殺しにでもする気か!?』
ロリコンも観に行っていたらしい。
お前にはわかるだろう、あの一分半の大切さが。クックック…
『ああ、あの超大ヒット映画ですか!あれは観に行きたいと思ってたんですよね!』
「ジーナを連れ帰ってから三人で観に行くか。
ただしパツ・キン、お前は最後一分見んなよ?」
『せっかくですし最後までみたいですよ…まあ、例えそれでも観たいですけどね!』
『パツ・キン!ロリータが言ってるそれはお前が思ってるよりももっと酷いからな!?あの映画の見どころをほぼすべて見逃す行為に等しいと思え!ロリータがなんと言おうと絶対に見ろよ!?』
『あ、あの、ロリータ。私も付いて行って良い?実はまだ観てなくて…』
「ん?マスターも観たいのか。良いぞ。」
『ロリータ。私も。』
「少佐も?良いけど…」
『ロリータ、出来る事なら私ももう一度観に行きたい。』
「……よし、決まりだな。
これが終わったら皆で観に行くか!ついでにギーナと守も連れてな!」
『良いですね!じゃあ、楽しみにしてるのでできるだけ早く助けてきてくださいね!』
「ああ、映画に行くときは皆一緒だ!」
通話を切る。
決意を新たに戦場を見ると、全て終わっているようだった。
「楽しそうな話してたわね。」
「ああ、これが終わったら映画に行こうってさ。
ギーナも、守も一緒に。」
「私も?」
「ああ。見直したい奴もいるみたいだし、皆で観に行かないかって。」
「良いわね。
じゃあ、絶対に無事に帰らなきゃ。」
「そうだな、俺も映画が楽しみだ。」
守が進んだ方向へ進む。
守はこの先に居る、ここからが本番だ。
通路の先に進んでも警戒状態は継続していた。
当たり前だ。ゲームならともかく、現実で一定数の見張りが倒されたからと言って警戒を解くなんて馬鹿な真似はしないだろう。
目撃された場所が明白なら追加の人員をそちらに向けるのは当たり前だし、その途中でその場所から来た俺たちとすれ違うのもなにもおかしくない。
「ここ何人見張り雇ってんだ!?」
散発的に走ってくる見張りを撃ち続け始めてしばらく経った。
引き金は20を超えてから引いた回数を数えるのを止めた。
潜入した時よりも少し倦怠感が出てきたような気がする。魔力切れの兆候だろうか。
「さあね!それより、早く逃げることを考えた方が良いんじゃない!?」
「分かってる!そっちの部屋に飛び込むぞ!」
ようやく見えてきた部屋に2人で飛び込む。
入ってきた引き戸にはすぐ突っ張り棒のようなものを挟み、外からの侵入を防止した。
「はぁー…はぁー…やっと一息つけるな。」
「そうね……」
息が乱れている俺に比べ、ギーナは少し疲れている様子こそあるもののまだまだ余裕がありそうだ。
ふと、ギーナの視線が止まっていることに気付いた。
辿ってみると……
「…えっち。」
「え、あ、いや、そんなつもりじゃなかったんだけど…
ちょっと羨ましかっただけなんだから!言わせないでよ恥ずかしい!」
「男だったら遠慮なくぶん殴れるんだけどな…
あんまりよく知らない女の子だから止めとくよ。」
「ご容赦頂ありがとうございます。
でも、ちょっと寂しい許され方…」
「事実だししょうがないだろ。
それより、外にはどうやって出る?多分待ち伏せがわんさかいるぞ。」
「それなんだけど、まずはこの部屋を調べない?
何か役に立つ物でもあるかもしれないし。」
「…それもそうだな。」
飛び込んだ部屋は理化学室の準備室のようだった。
戸棚には薬品が詰め込まれており、教科書に載ってないものや、塩酸等の有名な薬、他にはどくろマークが付いているものもあった。
ぶっちゃけ、危なすぎてフラスコくらいしか持ち出せそうにないのだが…
「あ!見て見て、これなんて使えそうじゃない!?」
「段ボール箱か…」
ギーナも入れそうな大きさだった。
やっぱりオタクでなくともそれに隠れるという発想は出てしまうものなのだろうか。
身の回りの物を使ってカモフラージュするという発想は良いのだが…不自然なところにそんなものがあったら邪魔だとか言われてどかされたり、試しに撃たれたりしそうだ。
「止めた方が良いんじゃないか?多分人が入ってるのはすぐばれる。」
「えー…良い案だと思ったのに。」
「先駆者が有名過ぎるんだよな…」
「じゃあ、ロリータが持ってるそれは何?」
と、言いつつ実は俺も持っていこうとしてるわけだが。
「俺はちょっと工夫して使うから良いんだ。
守の部屋の前で騒ぎを起こさないといけないんだからな。」
「工夫って、どんな?」
「それは秘密だ。
先駆者には怒られそうな使い方だってことだけは言っておく。」
「怒られる?」
先に謝っておこう、蛇さんと段ボールさんごめんなさい。
…早すぎるか。
「私はこれでも持っていこうかしら。」
「ピンセット?
枝でも刺さったのか?」
「こういう小物は意外と馬鹿に出来ないわ。
投げて刺すくらいはできそうだし。」
ナイフかよ。ピンセットは投げたからって刺さるか?
最近テレビで放送されたあれです。
私は映画館で見てなくて後悔した派です。(血涙)
あ、一分半前ですと大体電車ですれ違うあたりですね。




