元四十六話 見つかったらまた合流した
曲がり角の先はまた曲がり角だった。
誰も居ないことを確認し、次の曲がり角に走る。
「!」
その途中で見張りらしき男が歩いて来た。
当然俺に気付き、警棒を構える。俺も銃を構える。
「お前は誰だ?」
「俺か?
俺はここに肝試しに来た。まさか人が居るとは思わなかったけどな。」
ここに来るまでに作っておいた設定を吐く。
良くて中学生、若くて小学生に見られるこの体なら通じる可能性もある。運が良ければ見逃してくれるだろう。
「……照明が付いてる時点で気付きそうなものだがな。
即興にしてはよくできた嘘だ。大人しくしてれば痛い目に遭うことも無いぞ。そのモデルガンを下ろせ、本物でないにしろ、向けられて気分が良いもんじゃない。」
なかなか優秀な見張りらしい。
嘘であることを看破し、銃が本物でないことも推測している。
「残念だけど、これは本物の魔力銃だ!」
トリガーを引く。
見張りは首を逸らして避けた。
第二打は胴体を狙う。
見張りは横に体を倒して避けると、その勢いのまま側転して接近してきた。
第三打、第四打―――ことごとく避けられ、警棒が迫る。
ガキィン!
「ぐっ!」
左手も添えて銃身を盾に警棒を防ぐ。
「銃の弾避けるなんて、化け物か何かかよ?」
「銃口の延長線から外れれば良いだけだ。弾はまっすぐにしか飛ばないのだからな。」
タネを明かされてもこちらにそれを避ける方法は無い。
ここまで接近されてしまったら引き金を引く前に警棒が飛んでくることも考えられる。
現状は不利。ここは無理にでも距離を取るか、逃げた方が良さそうだ。
警棒を銃で横に滑らせ、バックステップで下がる。
見張りが引き戻した警棒が右腕を掠ったが、直撃は避けて何とか逃げられた。
「逃がさん!」
背を向けて走り出す俺を追う見張り。
どこかテキトーな部屋に入って隠れるか?
いや、下手をすれば部屋の内外で挟まれて逃げ場を失うことになる。逃げられる部屋は二つだけだ。
最初に俺が入った部屋か、ギーナが制圧したと思われる部屋の二つだ。
近いのはギーナが制圧した部屋だろうか。
迷ってる時間は無い。身軽な肉体と元のままの筋肉のおかげで距離は何とか稼げているとは言え、隠れる時間はそう残らない。
ドアの前に辿り着き、急いで開ける。
「これでもくらえ!」
少しでも時間を稼ぐため、何度か引き金を引く。
狙いも何もない攻撃だったが、それ故か避けるのに苦戦しているようだった。
部屋に転がり込むように入ると、まずは部屋を観察する。
部屋には四人、死んではいないようだが倒れている。奥には冷蔵庫があり、大きなテーブルと4つの椅子が置いてあった。
テーブルの上には料理がある。一番目を引くのはケーキだ。パーティーでもやっていたのだろうか。
……隠れるところは無い。机の下に隠れてもすぐにばれてしまうだろう。
よし、することは決まったな。ドアを開けて来やがれ…!
「覚悟を決めぶっ?!」
見張りがドアを開けて飛び込んできた瞬間、顔にケーキをぶつける。
所謂パイ投げである。
そして、そのまま撃って痺れさせる。
ケーキの四分の一は切られていたので、切られていた部分が口や鼻に来るようにして息継ぎは出来るようにした。これで窒息の心配はない。
痺れた見張りを部屋に引きずり込み、部屋を出て進む。
幸い増援は依頼していなかったらしく、廊下は静かなままだ。誰も居ない。
「あら?戻ってきたの?」
最初に俺が入っていた部屋からギーナが出てきた。
調べてなかった部屋というのは俺が調べた部屋もだったのか。
「見張りに見つかったんだ。何とか無力化は出来たけど、苦戦した。」
「なら良かった。
ちょうど私もこのあたりの部屋は調べたし、一緒に行かない?」
「別に良いぞ。守もギーナの安否を確認できるしな。
…そうだ、今守に電話してみるか。」
「あ、その電話私も参加できない?」
「スピーカーモードなら出来る。
でも、敵に聞かれるかもしれないんだよな…一旦その扉に入るぞ。」
2人で裏口に通じる扉に入り、守にコールする。
『もしもし。』
「こちらロリータ。今ギーナと合流した。」
「一時間ぶりくらい?守。
動けないなんてみっともない、どうしちゃったの?」
『うるせー、逃げ込んだ部屋が休憩室だとは思わなかったんだよ。
しかもこいつら、よっぽどやる気がないのかまだまだ出ていく気がしない。仕事しろっての。』
「仕事されたら俺が見つかるんだが…」
『その時は俺が助けてやるよ。
それで、ギーナは何か見つけたのか?』
「いえ、何も見つけてないわ。
どうも、こっちは居住スペースみたいになってるみたいでベッドルームが3部屋、パーティールームが2部屋ってとこかしら。
その前にあった部屋も、掃除用具入れとかトイレとかそんなのばっかり。そっちが正解だったみたいね。」
『そうか…
とは言え、他の部屋はまだ調べられてないからよくわからないんだよな…まずは俺を助けてくれないか?
部屋の前で騒ぎを起こすとかさ。俺も動ければ色々出来ることもあるだろうし。』
「爆破とかで良い?」
『止めろ。危なすぎる。』
「う~ん…これ休憩室に投げいれたら騒ぎにならない?」
「…ギーナ、それはだめだ。
特にそのピンは絶対に抜くな。っていうかそんなものどこにあった。」
「どこにって、部屋を調べてたら研究員っぽい人が動いたらコイツを抜くぞとか言ってて…やばそうだと思ったから即座に気絶させて奪い取ったんだけどね。
脅しに使えるみたいだし、投げたらパニックになるかと思って。で、これなに?」
「危険物だ。俺が預かる。」
『…ギーナ、何持ってたんだ?』
「ちっちゃくて黒いだけのパイナップルだ。気にすんな。」
所謂手榴弾である。別名パイナップル。
『俺を亡き者にでもする気か!?』
「まあ、俺が預かっといたから大丈夫だ。
多分使わないと思う。」
『そうか…絶対に使うなよ?』
「もちろんだ、人殺しなんて御免だ。」
今回の潜入は国からの命令でもなんでもなく、個人的なものなのでなんの保護も無い。
不法侵入で訴えられても文句が言えない上に、殺人なんてしたら更に罪を重ねることになる。
「あ、そうそう。これも脅しに使われたんだけど。」
「拳銃!?
よくここまで無事に来れたな…」
「引き金を引いたら大きな音がしてコレの延長線の壁に穴が空いてた。
まあ、気絶させて奪い取ったけど。」
しかも実弾銃かよ!
『よく生きてられたな…
まあ、とにかくギーナは無事なんだな?』
「ええ。」
『なら良かった。
じゃあ、今度は休憩室で会おう。結構奥だったからすぐにとは言えないかもしれないが…またな。』
通話が切れる。
俺はスマホをしまうと、行こうと短く言って、来た道を戻り始めたギーナに付いて行った。
話がなかなか進まない…




