元四十二話 辛辣になったと思ったら固い絆で結ばれてた
別にマナがメタル化するわけじゃありません。
ロリッドにするかロリータにするかとどうでもいいことで迷いましたが、ロリッドと言いにくいのでロリータに。超どうでもいいですよね。
「…誰が行く?」
今、俺の部屋に居るのは俺、リリナ、詞亜の他に憂佳と鴨木さんの五人だ。
皆ジーナが宇宙人であることを知っているメンバーである。
『俺は今動けそうにない。位置情報を送るから応援を呼んでくれ。
出来れば俺とギーナだけでなんとかしたかったんだが…すまない。』
続けられた守の言葉に従い、俺は2人に呼びかけた。そして、2人は呼びかけに応じてくれた。
じょうちゃんは呼ばなかった。万一にでもジーナの救出に向かわせたくなかったからだ。
…今、最後の問題の答えを考えている。
それは、今憂佳が言った事。誰がジーナの救出に向かうかだ。
「私が行きます。」
真っ先に立候補したのはリリナだった。
「私は先に潜入した守さんに匹敵する腕力の他に、神の力を使えます。
これ以上の適任は居ません。私一人でジーナさんを助けに行きます。」
確固たる覚悟と決意が感じられる声だった。
「…それはダメだ。」
だが、俺はその声に異議を唱えた。
「何故ですか?」
「お前はもう神の力を使うな。
鴨木さんの一件から使ってなかったとはいえ、ジーナの為にこの部屋を拡張してたじゃないか。」
回復する神の力は微々たるもの。
神の力が完全になくなれば、リリナは消滅してしまう。
ジーナの救出の為にどれだけ神の力を使うのかは分からない。もし救出に成功してもリリナに消えてほしくない。
だからリリナには行かせたくない。
「じゃあ、どうするんですか?」
「俺が行く。」
「…もっと無理じゃないですか。」
「そうでもないぞ。俺にはコイツがあるからな。」
リリナに見せたのはジーナに貰った魔力銃。
試し打ちもまだしていないが、強い味方になってくれるはずだ。
「確かに、それが使えるのはマナさんだけです。
私は魔力がありませんし、詞亜さんや憂佳さん、鴨木さんはそれを何度も使えるほど魔力はありません。
それに、セーフティをロック、解除できるのは貴方だけですからね。」
「そうだ。だから俺が行く。」
「駄目です。その武器だけで何とかなるとは思えません。
あの守さんが動けなくなっているんですよ?」
「それなら、お前も危ないだろ。
力は守くらいだし、神の力もむやみに使えない。それじゃ守とほとんど変わらないじゃないか。
まあ、俺に任せろよ。これでも昔は“その場しのぎの基矢”なんて呼ばれたこともあったくらいだからな。」
「あんまり任せたくない二つ名ですね…」
「…とにかく、今回は俺が行く。
支度をしたらこの場所に行くぞ。」
守から送られていた位置情報を皆に見せる。
「少し遠いな。
私が車で送ってやる。」
「その時は私も連れて行ってください。
神の力で侵入経路を調べます。」
「…あれほど使うなって言ったのに。」
「侵入すらできなければ救出どころではありませんからね。
どうせその後は出番が無いんです。だったらその一回くらい良いじゃないですか。」
「その出番なんだが…皆、俺をサポートしてくれないか?」
「どうやって?」
「コイツを使って。」
タンスの引き出しの一つを開け、中からワイヤレスイヤホンを出す。
以前詞亜に持って来てもらったマイク付きイヤホンだ。
「何かあったらすぐに電話で状況を報告する。
…コードネームも決めると良いかもしれないな。」
「……マナさん。
実はスパイごっこがしたいだけというわけではありませんよね?」
「ちょっと感じを出したいだけだ!モチベーションも大事だろ!?」
実はちょっとだけ図星だったりする。
が、ジーナ達を助けたいという気持ちは本物だ。
「ちょっと支度をしていく。
それが終わったら憂佳、頼むぞ。」
「分かった。
…ところで、さっきから言ってる神の力とはなんだ?」
「アンタは知らなかったみたいだけど、リリナは神なの。」
「そう。
私も神だったけど、リリナに人間にされた。」
「……そもそも、誰なんだお前は…」
そう言えば、憂佳はリリナが神ってことを知らなかったし、鴨木さんとは初対面だったな…
と考えながら引き出しの中からバックパックに物を詰め込んでいく。
黒いジャージに着替え、バックパックを背負えば支度は終わり。コードネームを簡単に決め、憂佳の車に乗り込んだ。
地図が示す場所にあったのは古びた研究所のような建物だった。
ところどころにひびが入っており、正面の柵は完全に閉じられていた。柵も塀も大きいため、乗り越えることは困難だろう。潜入は難しそうだ。
「あ、ちょっとここで止まって下さい。」
リリナの言葉に従い、憂佳は車を止めた。
「今入れそうな所を見つけたので、ちょっと見てきます。
2人は車で待っててください。罠かもしれませんからね。」
そう言ってリリナが車から降りる。
こんな外れにまで罠を張っておくものだろうか…
…監視カメラとかくらいならあるか?
「すみません、無理そうでした。」
数分後、車に戻ったリリナは言った。
「そうか。
じゃあ、引き続き入れそうな場所を探してくれ。」
「分かりました。」
「了解。」
憂佳は車を走らせる。
「止まってください!」
塀をもう少しで一周すると言ったところでリリナが見つけたようだ。
「あの塀が崩れた所はどうでしょうか?
小さいマナさんなら通れるはずです。」
車を降り、リリナが指をさした草むらをかき分けると、塀が一部壊れ、穴が空いている箇所があった。
確かに、小さくなった俺なら潜り抜けられそうだ…ってやかましいわ。結構気にしてるのに。
「グッドラック。ジーナも守も、きちんと助けて来るんだぞ。」
「ああ。もちろんだ。」
俺は体を地に伏せ、匍匐前進で塀の穴に向かう。
「……ここは駄目だ。」
…少しくぐってみて気付いたことがあった。
「なんでですか?」
「胸がつっかえてくぐれない……」
「ベタですね…」
穴が小さすぎて入れない。
正確には邪魔な胸のせいで入れない。
『もげなさい。』
『慈悲は無い。』
「なんでお前ら急に辛辣になったの?」
既に詞亜のスマホと繋がっているイヤホンから感情が抜け落ちた声が二つ聞こえてきた。
確かに、詞亜も鴨木さんも無いけど――
――あれ?今日が初対面じゃなかったか?なんか仲良過ぎね?
『アンタとは仲良くできそうね。』
『私もそう思う。盟友。
共に大いなるものにあらがわんことを。』
『滅亡を望むことを。』
なんか固い絆で結ばれ始めたぞ。
それからは胸への呪詛が聞こえてきたので一度通話を切る。んなもん聞きたくもない。
「仕方ないですね…
じゃあ、ちょっと削りますか。」
「いくら邪魔だからって削るなよ!?」
「…壁をですよ。」
「あ、そっちか。」
詞亜と鴨木さんのせいで俺の胸が削られるのかと思ってしまった。
リリナはどこからかノミとハンマーを取り出し、まるで化石を採掘するかのように塀の穴を広げた。
音があまりしないのは神の力を使っているからだろうか。無駄とまでは言わないが、貴重な力をこんなところで使いやがって…
「どうぞ、これならマナさんでくぐれます。
それでは、私達は家に戻りますよ。サポートはバリバリ任せろー!」
「マナ、何かあったら私達に言うんだぞ。絶対に助けてやるからな。」
2人は車に乗り込み、走り去っていった。
俺は匍匐で塀の穴を潜り抜ける。さっきとは違い何も阻むことなく侵入することが出来た。




