元四十一話 がっつりえぐったと思ったらあっさりばらした
「着きましたー!」
リリナとジーナと、ついでに詞亜も伴い、着きましたるはワオンモール。
「別に食材だけなら近場のスーパーで良いだろ。」
「食材だけじゃないんですよ。
ジーナさんの私服、こっちに来たばっかりだからバリエーションが少ないんですよ。分かります?」
「それは分かるんだけど、なんで私が?」
「決まってるじゃないですか。貴女が唯一の地球人の常識人だからです!
生きてきた世界が違う私、マナさんではジーナさんにまともなセンスの服を選んであげることが出来ると思いますか?
私達にとって普通でも、世間一般ではということも考えられますからね。ジーナさんはここに溶け込まなければならないんです!」
「なるほど。
そういうことなら選んであげる。
でも、まずはジーナに選んできてほしいな。」
「どうしてですか?」
「その人らしさを出したいからよ。
服選びはその人のセンスとその人らしさを問われるから。最初から私が決めるのが難しいってこともあるけどね。
まともなセンスだったらそのまんま丸投げしてもいいし、まずかったら私が近い服で選び直す。これでいいんじゃない?」
「そうですね!
では、私達も選びましょうか。基矢さん?」
「ああ、そうだな。
ちょっと選んでくるから放してくれないか?ちょっと痛いんだけど。」
がっしりと痛いくらい腕を掴むリリナ。
「大丈夫ですよ。私が選んであげますから。」
「お前のチョイスとか良いから。俺らしさが出ないから。」
「貴方らしさは男らしさでしょう?そんな可憐な見た目では貴方と釣り合いませんよ。」
「内面と外見のギャップも含めて俺らしさなんだよ。
Do you understand ?」
「No, I don’t! Let’s go!」
「Noooooooooooooooooooooo!!」
俺は試着室に押し込められ、服を剥ぎ取られた。
リリナが服を持って来ては試着し、試着した服を脱がされて試着室に閉じ込められ、またリリナが服を持ってくるの無限にも思えるループを繰り返した。
一か月前と全く同じ手に引っ掛かってしまった俺は、試着したうちの数着を購入する羽目となった。
隣の試着室からは聞き覚えのある泣き声が聞こえたような気がした。
「…また会ったな。」
フードコートで食事を摂っていると、現れたのはまたしても守だった。遭遇率いくらなんでも高すぎない?
こころなしかその目は赤い。あと、なんかヒラヒラした物を穿いている。男だよな本当に。サラシ巻いた瑠間じゃないよな?
「この前は助かった。お礼になんかおごらせてくれ。」
「良いよ、助けられたのは俺だ。むしろ俺がおごらなきゃいけないだろ?おあいこってことにしとこう。」
この前、というのはじょうちゃん誘拐未遂事件の事だろう。
一時的とはいえじょうちゃんを助けたかもしれないが、その後訪れたどうしようもない状況を何とかしてくれたのがこのお方だ。
頭が上がらない。身長低くなったから守より上に上げようもないけど。
「…ところで、そいつどこで捕まえた?ちょっとお話があるんだが。」
「お話?初対面の私と?
あ、この人が男装女子男子でついでに人外の守君か!」
「男装女子男子…人外…」
えぐっていくねー…えげつないくらいえぐっていくねー…
守の心を超ハイペースでガオンさせたのはもちろん毒舌元気っ子ジーナだ。
守を見た詞亜は震え始め、リリナはそれを必死になだめている。
「流石に異世界人や未来人、ついでに幽霊に会った貴方でも、宇宙人に会ったことは無いでしょ?」
「宇宙人!?」
え、なんであっさりばらすの?隠さない主義なの?
あと、守どんな人生送ってんの?
「ああ、確かに…
そう言えば、魔物とか妖怪モドキとかにはあったが、まだ宇宙人には会ってなかったな…」
そんだけ魑魅魍魎に会ってたら人外にもなるな。
同情する。あの化け物染みた身体能力はそんな奴らと渡り合うためだったのか…
なるほど。守はもう今更隠したってって感じの経歴を持ってるからあっさりばらしたのか。
っていうか、こんな奴敵に回すくらいなら全部正直に言って協力者になってもらった方が良いな。
「私はジーナリウス。貴方が探してるギーナって人じゃないよ。」
「って、嘘つけ。宇宙人なんて…居るかもしれないけどこんなところに居るか。
髪型を変えてもその髪の色と顔はごまかせないぞ。あと、俺の服どこやった。」
「だから、人違いなんだよ…」
「これだけ証拠が出そろって騙されるかよ。」
「こっちを見なさい!」
そろそろジーナに助け舟を出そうとしたところで、守の後ろからジーナとほぼ同じ声がした。
「え!?ギーナ!?」
振り返った守の先にはジーナと瓜二つの顔と髪の色をした美少女が立っていた。
片手には紙袋を持っている。多分あれがさっき言っていた守の服だろう。
「いくら似てるからって、赤の他人に絡むのはどうかと思うわ!」
「赤の他人!?そっくりじゃねーか!
え?何?お前も分身の術でも出来るようになったのか?」
“も”ってなんだ?守分身出来んの?
「多分できるけどしてない!その人は正真正銘赤の他人よ!」
お前も出来んの!?
「驚いたよ!まさか異世界人さんと一緒にこんなところに来てたなんて!」
「なんで分かるの!?」
「この国の出来事は全て知り尽くしてるからね!
そして、その髪の色が何よりの証拠!」
「そういうこと!?」
お前も髪の色同じなんだけど。
ギーナと呼ばれた方はロングのストレート、ジーナはポニーテールなので分かるが、ジーナが縛った髪を下ろしたらどっちがどっちだかわからなくなるだろう。それくらい瓜二つだった。
「そして私は宇宙人!」
「私もある意味宇宙人!」
「「イェーイ!」」
お互いにシンパシーでも感じたのか、ギーナとジーナは息ぴったりだった。
「…もしかして、あの世界とこの世界って平行世界だったのか?
ジーナリウスとかいう奴の星が、俺達が旅をしたあの世界の――――」
守は自分の世界に入り込んでしまった。
「……とりあえず、飯食うか。」
「そうですね。」
「ええ…」
若干怯えが残っている詞亜とリリナと共に食事を再開する。
もう3人はほっとくか。
あの後、ジーナ、ギーナ、守の3人と別れ、食材の買い出しをして帰った。
ジーナとギーナは波長が合い、一緒に遊びに行きたいらしく、守はそれに付いて行った。宇宙人と異世界人の2人だけで野に放つのは危険すぎるとのことだった。まあそうだな。
そして今、リリナに料理の指導をしている訳だが…
「はっ!」
リリナの拳が白い卵を粉々に砕く。
当然殻どころか白身、黄身もぐちゃぐちゃになっていて、目玉焼きを作るのが不可能になってしまった。
「リリナ!卵は粉砕しなくていいんだぞ!?」
「何言ってるんですか!
卵は硬いので力いっぱい殴りつけて粉々にした後殻だけを丁寧に取り除くのが定石でしょう!」
「アンタの世界の卵と一緒にしないでよ!」
料理の基本、卵焼きの一発目でこれだ。先が思いやられる。
異世界基準の調理方法で料理しようとするので質が悪い。向こうの世界はそれで通ってるので余計に質が悪い。悪い実績である。
「…よし!殻が全部取れました!」
「結構早いな…」
「慣れですよ慣れ!」
そんな慣れ俺たちの世界には要らない。
「次はかき混ぜるんですね。
では、毎秒50回転の妙技を」
「飛び散るわ!」
「何言ってるんですか!
卵をかき混ぜると言ったらそれくらいの早さは必要でしょう!ちょっとでも混ぜ方にムラが出来れば固まってしまうんですよ!?」
「アンタの世界の食材どうなってんの!?」
特殊な調理方法でしか料理できないものばっかりなのだろうか。
向こうの料理人超人しかいないだろ絶対…
テッテテテッテッテーテーレンテーレン
テッテテテッテッテッテッテー
懐かしの青狸のエンディングが流れる。
この曲は…守だな。
「もしもし?」
『マナ、落ち着いて聞いてくれ。
ジーナリウスがさらわれた。』
……え?




