元三十五話 告白したらやっぱりセクハラを受けた
「大丈夫か?マナ。」
「ああ、ありがとう達治。」
俺を気遣う達治に礼を言いながら、頬を押さえて立ち上がる田倉を見る。
「なんでお前がここに…!」
「頼んでもらってたんだよ。いざってときは俺を守ってくれってな。」
「頼んだのは私です。」
「リリナさん…?なんでここに?」
達治が出てきた影からリリナも顔を出す。
リリナが来ているのは達治が先走って最悪なタイミングで出てこないように見張ってもらい、然るべきタイミングで出てもらえるように合図するよう頼んでいた。
「決まってるじゃないですか、私がマナさんの友達だからです!
友達の危機に駆け付けるのが普通の女子高生です!」
「俺はマナから聞きたい事があるんだ!
だから俺はそれを聞くために助けに来た!」
達治…
この件が片付いたら、絶対に言うからな。
「田倉、こんなことはもう止めるんだ。
正しい方法じゃないということは分かってるだろ?それなのに続けても虚しいだけだ。
間違っていると分かっていることをして、もしうまくいったとしても…その事実が心を苛み続けて、苦しいだけなんだよ。
俺は知ってるつもりだ。隠すべきじゃない事を隠す苦しみを。
間違い続ける辛さを。」
「………」
「俺は俺自身の理想が汚された事に怒ってる。でも、同時に田倉には間違い続けてほしくないって思う。
別に俺は、俺たちはお前を蹴落としたい訳じゃない。そんな奴の間違いなんて誰も望んでない。
間違ってるって自覚があるなら直せる。だから、もうこんなことは止めよう。
恋人になるのは無理だが、友達ならなってるんだからさ。」
「…………それじゃ嫌なんだよ。
マナと2人きりでいたい、マナを僕だけのものにしたい、そんな独占欲が湧き出てきてそれじゃ納得できないんだよ…!」
「俺はお前だけのものじゃない。
俺は俺のものだし、家族のものでも、友達のものでもある。
独占欲に負けて自分勝手に独り占めしようとするな!」
「うるさい!
マナが言ってることは正しいと思う!けど、正しいってだけじゃ納得できないんだよ!!」
「お前が納得しようがしまいが、俺はお前だけのものになるつもりは無い!
理性を働かせて欲望を抑え込むんだ!お前自身でな!!」
「出来ないよ!」
「正しいと分かってるなら絶対に出来る!お前は欲を抑えようとしてないだけだ!
俺にはお前の欲望を止めることなんて出来ない!だからお前が抑えようとして、お前が抑えるんだ!!」
「黙っててよ!僕にはそんなこと出来なかったんだから!」
「止めろ!」
「ぶっ!」
再び俺に掴みかかろうとする田倉を達治が殴って止める。
田倉は再び顔から地面に伏せる。
立ち上がる様子は無かった。
「マナさん!」
「待て、リリナ!
田倉自身で抑え込ませるんだ、神の力は使うな!
そうじゃなきゃ意味が無い!また同じ間違いを繰り返すぞ!
……田倉、頭を冷やして結論を出して来い。
俺はお前が正しい選択をするって信じるよ。」
田倉にそう呼びかけ、校舎の裏を後にする。
「…達治、話がある。
ちょっと近くの公園に行かないか?」
「わかった。話してくれるんだな?」
「そうだ。全部話してやる。」
以前達治と共に来た公園には今日も誰も居ない。
緊張しながらも達治と同じベンチに座る。
「…リリナが付いて来てる理由はなんだ?」
「それもこれから説明する。
まず、最初に一つ―――実は俺、宇露基矢なんだ。」
リリナに性別を変えられたこと、最初はついごまかしてしまったこと、それからは互いの関係が変わるのが怖くて真実を話せなかったこと。
達治の気持ちが俺と同じだったこと、2人が同じ気持ちなら今まで通りでいられるということ。
事情や俺の気持ちを全て達治に告白した。
「……そうか。
基矢も、辛かったんだな。」
「いや、俺も達治にかなり迷惑をかけた。
行方不明なんて嘘をついて、正体を隠し続けて―――本当に、ゴメンな。」
「ああ、そうだな。
だったらお詫びってことで、一つ頼んで良いか?」
「なんだ?」
こんなに迷惑をかけたんだ、何でも叶えて―――
「ちょっとその胸揉ませてくんなああああああああああああああ!!」
やっぱ止めた。
俺の得意技腕捻りを奴の左腕に食らわせた。肉体言語で俺の返事は分かるだろう。
「だぁから言いたくなかったんだ!お前はそういう奴だからなぁ!!」
「あああああああああああああ!!やめ、ゴメン、悪かった、ストップストップギブギブうああああああああ!!」
気が済んだので腕を解放する。
やっぱり達治はセクハラ野郎だった。
ともあれ、達治に正体を言えたし、他の言いたいことを全て言えた。
後は両親に言うだけだ。週末辺りにでも実家に帰って全てを話そう。
その前にモア姉に連絡を入れておくか。あ、リリナにも言っておかないと…
「…そう言えばマナさん、今日はバイトでは?」
「あ。」
その日は店長に長い説教を受けることになった。
「ここがマナさんの家ですか…
…緊張してますか?」
「してないとでも?」
日曜日、リリナと一緒に実家の前に立っていた。
モア姉に連絡を入れ、アポは取っている。時間もピッタリだ。
インターホンを押す。
「はーい!
………」
開けたのは俺の母さんだった。
俺を見ると目を見開いて固まってしまった。
「…………基矢?」
母さんの口から出たのは息子の名前だった。
「……母さん、俺が、分かるのか?」
「基矢!!」
俺を抱きしめた母さんの体は震えていた。
「可愛い子供を見間違えたりなんてするわけないじゃない…!
例え姿が変わっても、基矢は基矢だよ!
若いころのおばあちゃんみたいだね。」
「怖いのか?」
「うん、怖いよ…どうして基矢がこんなことになったんだろうって…」
「…それに関しては私が話します。」
「アンタは?」
「私はリリナです。
基矢さんの姿を変えた張本人、女神リリナスだった者です。」
「びっくりしたな、まさか基矢がそんなことになってるなんて。」
「そうだな、でも、元気そうで良かった。」
「そうだね。」
その日の夜、宇露家では基矢の両親が基矢に起こった事について話し合っていた。
リリナの説明に驚きの連続だった両親だったが、元気な基矢の姿を見て安心し、何かあったら力になるからと、リセットされていた基矢のスマホの電話帳に電話番号を登録し直した。
両親は一番近くに居るリリナに基矢の事を頼み、2人を送り出した。
そんなことをした元凶と一緒というのは不安だったが、それ以上にリリナのしっかりしているところを見た2人は安心して基矢を任せた。
今頃は帰って夕食でも作っているのだろうかとか、他愛もないことを話していると母親のケータイが鳴った。
「早速、何か困ったみたいだね。」
「ハハハ、そうだな。全く、早すぎるというかなんというか…」
「もしもし?」
『もしもし母さん!
宇宙人って何食べるんだ!?』
「は?」
…どうも、基矢は突拍子も現実味も無い話に巻き込まれる星の下にでも生まれているらしい。
2人には息子の先行きに早くも暗雲が見え始めていた。
あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。




