元三十四話 確信したら説教してた
今年の書き納めです。
この章を終わらせられなかった非力な私を許してくれ…
「今日はありがとう。リリナさんに振られて、相談も何も無いのに来てもらっちゃって…」
翌日の放課後、田倉に呼び出された俺は相談を持ち掛けられた校舎の裏に来ていた。
「別に良い。今のお前の気持ちはよくわかってるつもりだ。
俺も昔、告白して振られたことがある。」
「…そうなんだ、その人は見る目が無いんだね。こんなに可愛い子を…
……今もその人が好きなの?」
「いや、そいつへの想いはとっくに風化して無くなってるよ。」
「そうか。」
「…笑うなよ。」
「笑ってないよ。」
「それより、今日はバイトなんだ。忙しいから早く要件を言ってくれ。」
「あ、そうだった。
今度の週末さ、一緒に遊びに行かない?近くのゲームセンターとか」
「断る。」
「…どうして?何か用事でもあるの?」
「いや、今週末はバイトもあるけど自由な時間もある。
その上で断らせてもらうってだけだ。お前とのデートをな。」
「デートだなんて…
失恋した後なんだ、慰めてほしいんだよ…僕の気持ちが分かるって言っただろ?」
「……分からないな。
俺が失恋した時は、ほっといてほしかったんだよ。
何をするにもやる気が出なくて気持ちが入らないし、元気づけてくれる友達を煩わしく思ったことだってあった。
それなのに、失恋した後に別の女子に慰めてほしいなんて気持ちが分からないんだよ。」
もちろん、どう思うかは人それぞれだ。俺がそうだったというだけで、田倉はそうなのかもしれない。
でも、あえてそれを言わずに田倉を突き放した。
「…どうして、どうして分かってくれないんだよ!
分かってくれてるって言ってたじゃないか!マナが言ってることは滅茶苦茶だ!」
「…そうだな。言ってることが支離滅裂な事は自覚してる。
でも、今のやり取りではっきりわかったよ。
田倉が本当に好きだったのはリリナじゃなくて、俺だったんだって。」
「!」
俺が告白して振られた事があると言った時。
その人への想いは風化していると言った時。
その時の田倉の表情は、俺が好きでなければ説明が出来なかった。
「だから断ってるんだ。
告白もしないで、好きな人を騙してまでデートに誘ってるお前を。
ちゃんと告白してから、それを受けてもらって、デートのお誘いはその後にしろ!
俺にだって初デートの理想くらいある!お前もそうだったんだろ!?こんな形望んじゃいなかったんだろ!?
そんな誰も望まないデートなんかしてんじゃねえよ!!」
「……じゃあ、どうなんだよ。
僕があの時告白してたら、告白を受けてくれてたのかよ!
分かってたんだ、始めから。告白なんてしたところでマナがそれを受けてくれる訳が無いって!!」
「だから、騙したのか?」
「そうじゃなきゃ、チャンスは無かった…
僕だって必死さ。好きな人に振り向いて欲しかったんだよ。例えどんな手を使っても。
それは間違ってるって言うの!?」
田倉が肩に掴みかかる。
「……それ以上はダメだ。
いくら必死でも限度はある。手を上げたら本当に最低になるぞ。」
「うるさい!」
「今です!」
「分かった!」
校舎の影から聞こえたリリナの合図と達治の声。
田倉は達治の拳をまともに受け、頭から地面に突っ込んだ。
―――前日の夜。
「基矢さん、本当に気付いてないんですか?」
黒いシチューをすすり終えたリリナが俺に訊く。
気付くも何も主語が無いので何のことだかわからない。
「気付くって、何にだよ。」
「田倉さんの気持ちにですよ。今日のあの格好を見ても分からないんですか?」
ロングのカツラを付け、ピンクがベースの可愛い服装をしてきた田倉を思い浮かべる。
確かに、リリナが言った通り、女装が似合ってはいたが…あの格好がアイツの気持ちとどうつながるのだろうか。失恋のショックか?
「リリナに振られたから大きなショックを受けた?」
「はぁ~…」
ため息をつかれた。
「気付いてくださいよこの朴念仁。」
「何だと元女神!」
「…時々思うんですが、基矢さんってボキャブラリー無いんですか?
私への罵倒が元女神かセクハラ親父くらいしか無いような…」
「じゃあバカ!アホ!変態!」
「もっと酷くなってますよ。あと、私は変態じゃないです。って、そうじゃなくて田倉さんの気持ちですよ。
…ヒントをあげましょう。彼は別に私の事が好きというわけではなかったようですが。」
「…は?」
何を言ってるんだ?リリナに振られて思いっきり落ち込んでたのに…
「さらにヒント。彼は腹黒いと言いましたが、マナさんにしてることはズルいと言えますね。」
ズルい?何が?
聞けば聞くほどわからなくなっていく。リリナが何を言いたいのか、田倉が何を思っているのか。
「…まだ気付きませんか?」
「……何が言いたいんだ?」
「……えー?
またまた、今日田倉さんがしてきた格好、貴方が言ったタイプに沿ってますよね?」
「確かに、長い髪ではあったけどな…着てきたのは可愛い服だ。
俺の好みは綺麗系で、そういう人は大体落ち着いた服装をしてくるものだと思ってる。」
「…それが引っかかるんですよねー、他者の介入があったのか、うっかり間違えてしまったのか…
とにかく、女装してまであの長いカツラを付けてきたんですよ?もう分かったんじゃないですか?」
「……つまり、本当はリリナじゃなくて俺が好きだと?」
「そうです。」
言われてみればその片鱗はあったような気がする。
俺が話しかけた達治を睨んでたし、好みのタイプを聞く時もリリナより俺の方が食いつきが大きいような気はしていた。
しかし、疑問はまだ残っている。
「そうだとしたら、なんでリリナが好きだなんて嘘をついたんだ?」
「そこが彼のズルいところです。
田倉さんは恋愛相談と称して、貴方とデートしていたんですよ!」
「「な、なんだってー!?」」
「…またか。」
「またです。というか、貴方も驚き方がワンパターンですね。」
うるせーやい。
それはそうとして、もしリリナが言っていたことが事実なら俺は知らぬ間にデートさせられていたということになる。
「……許せねぇ…!」
「基矢さん?
「男の時ですらデートなんて一回も行ったことが無かったのに!
最初のデートは結婚したいくらい大好きな綺麗な女子と一緒に2人っきりでとか考えてたのに…!それを騙すような形で奪いやがって!」
「…貴方の理想はともかく、多分彼は明日慰めてほしいと言ってマナさんに次なるデートを頼んでくるでしょう。
どうしますか?」
「断固お断りだ!一発ぶっ転がしてやらなきゃ気が済まねえ…!」
「…そうですか。
なら、念のために援軍を用意しておきます。基矢さんは喧嘩慣れなんてしてないでしょうからね。」
「援軍?」
「田倉さんが逆上して基矢さんに襲い掛かるかもしれませんからね。」
「そうか、頼んだ。」
喧嘩慣れしてはいないが、性別が変わってから喧嘩する事が多くなった気がする。
男の時よりも女の時の方が喧嘩多いとは不条理だ…
「それと、断る時はきっぱり後腐れが無いようにしてください。気遣いの一つでもすればまたデートのお誘いが来るでしょうから。
もし、のらりくらりを繰り返してしまう形にしてしまえば断る手間も増えますし、しびれを切らした田倉さんが何をするかわかりませんよ。」
「了解だ。」
こういう時のリリナは本当に頼もしい。
俺はリリナの後押しで決意を固めることが出来た。
しかし、俺はこの時心のどこかで田倉がデートの誘いをしなければを願っていた。
それが叶わぬことだと、確信していたのに―――
良いお年を。




