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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元四章 告白
32/112

元三十二話 付いて行ったら威圧された

なんか執筆中に勝手に“詞亜”で検索されてました。

変なキーでも押してしまったんでしょうか。訳が分からないよ…

 

「じゃあ、ちょっと遠い喫茶店で話そう。」


「分かった。」


 確かに、この話は学校やその周辺でできる話ではない。秘密にするべき人間が近くにいるかもしれないのだから。

 今朝届いた手紙はラブレターなどではなかった。ただの呼び出しの手紙、それも相談事だ。

 今聞いた話によると、どうやらこの男…田倉たくらはリリナの事が好きになってしまったらしい。

 しかし、一目惚れと言ってリリナに告白した知り合いが玉砕した。

 そのことから、まずは相手(リリナ)の事をもっと知るべきと判断した田倉は一緒に帰る程仲が良い俺にリリナの事を聞き出すことにした。らしい。

 俺としては協力する義理は無いが…ちょっとした親切心が働いたのだ。俺もこんな青い頃があったなー…

 …何歳だよ俺。15歳だよ。


「ん?達治?」


 体育館の表に回ると、達治が居た。

 表情は暗い。まるでこの世の終わりみたいな顔をして固まっている。


「…達治ー?」


「あ!?ああ、なんだマナ?」


「そんなところで固まってどうしたんだ?」


「い、いや、別に!?なんでもないぞ!?」


 ……どう見ても挙動不審だ。


「あ、そうだ達治。

 ちょっと言いたいことがあったんだけどさ」

「俺急いでるから!じゃあな!」


 急いでるなら固まってるなよ…


「…今のは?」


 走り去る達治に呆れていると、田倉がやや険しい顔で尋ねてきた。


「ああ、しん…クラスメイトの達治だ。」


 危うく親友と言いかけたが、基矢(男の時)はともかくマナ(女の時)とでは友達と言えるかどうかすらわからない関係だ。こんなところでほころびを生み出したくないので慌てて言い直した。


「へー…」


 俺は所詮思い人の友達だ。そんな相手の為にする目じゃないぞ田倉くん。


「それより、喫茶店だよな。どこだ?」


「あ、そうだった。

 カフェウェストってところなんだけど…」


「え゛?」








「いらっしゃいませ。二名様でよろしかったでしょうか?」


 何故だろうか。詞亜は笑顔のはずなのに声とこめかみの青筋がとてつもない凄い威圧感を生み出している様な気がする。

 カフェウェスト。それは俺とリリナ、そして詞亜が週に3、4回働く職場。収入源。

 田倉が案内したのは知らぬ間に出来ていた二号店とかそんなオチではなく、オンリーワンな俺たちが働くカフェウェストだった。


「二名です。」


 にこやかな笑顔で答える田倉。コイツには詞亜の迫力が伝わっていないのだろうか。


「では、こちらへどうぞ。」


 俺たちを席に案内する詞亜。声のドスも青筋は消えていない。


「あ、お客様、トイレはあちらですよ、案内します。」


「いいっていいって、知ってるし今行かなくて良いから引っ張らないでください!やめ、ヤメロー!」


 田倉を置いてけぼりにして、詞亜は俺を本当にトイレの個室に引きずり込んだ。


「どういうこと!?なんで男と一緒に居るの!?彼氏なの!?」


「お、落ち着け。別に彼氏って訳じゃない。相談相手になってやってるだけだ。」


「…相談?」


「ああ、アイツ田倉っていうんだけど、どうもリリナの事が好きらしくてな…

 それで、リリナの事を知りたいからって一番仲が良く見える俺が選ばれたんだ。」


「……そ、そういうことね!ゴメン、本当に男に目覚めたのかと思った…」


「…俺をどんな目で見てるんだお前は。俺は同性愛者じゃない。」


「…それだとどっちとも恋愛できなさそうだけど。」


「心の問題だ!」


「分かってる分かってる。」


「どうだか…

 あ、そうだ。お前のタイプってどんな奴だ?」


「タイプ?」


「異性の好みだ。」


「!?」


「あ、いや。あれだ。

 恋愛の相談をするなんて言ったのは良いんだが、俺には生憎その経験が無い。

 だから、ちょっとでも他人の意見を聞きたいなーと思ってさ。」


「あ、そういうこと…」


 ホッとしたようながっかりしたような、詞亜はどうもそんな感じだ。


「そうね…一緒に居て安心できる人が良いわね。

 緊張してごはんものどを通らないなんて家庭を築くのは嫌だから。」


「どんな家庭だよ…」


 冷め始めた夫婦でもそんなこと起きねーよ。

 一緒に居たくないと思っても、緊張することは無いだろうからな。


「…内面は分かったけど、顔の好みとかは?」


「顔は…よっぽど不細工じゃなければいいわ。その人が好きなら。」


「よっぽどって?」


「生理的に受け付けないレベル。基矢(アンタ)はそんなレベルじゃなかったから、安心しなさい。」


 ちょっと安心した。男の時()の顔は正直言ってレベルが分からなかったから。自分の顔のレベルとかわからなくね?

 あ、この顔は後付けだから美少女顔ってことは分かるぞ。


「あ、いや、別にアンタの事が好きだってことじゃないからね!」


「知ってる。ラブじゃなくてライクなんだろ?」


「…もう!」


 あれ?そこはそうよじゃないのか?

 もしかして…いや、まさかな。

 詞亜にフラグを建てた覚えなんて一度も無い。あの時も結局助けられなかったし…


「と、とにかくアンタは潔白だって分かったから!あと戻っていいわよ!」


「そ、そうか。」


 不機嫌な詞亜を残し、トイレから出て行く。


「あ、リリナには内緒にしてくれよ!」


「分かってる!」


 危うく忘れるところだった口止めをして案内されていた席に戻った。







「…基矢さん。今朝の告白、了承したっていうのは本当ですか?」


「ぶふーーー!」


「……食べ物に唾液を吹きかけないでください。」


 危なかった…リリナの声があと10秒早かったらリリナ特製の真っ赤なスープを口に含んでいたらスプラッタな食卓が出来上がっていたところだった。


「あ、あれは告白じゃなくてだな――」


 …待てよ。

 ここであえて告白を受けたってことにすれば、リリナにバレる危険性が低くなるんじゃないか?

 ……あ、でも詞亜には言っちゃってるしな…

 秘密にするようには言ったが、矛盾が生じてそこから知られる可能性も無くはない。嘘をつくというのは矛盾を生み出すと同じ行為なのだ。

 だからこそ、真実を混ぜればバレづらくなる。


「――あれは告白じゃなくて、相談だったんだ。」


「相談?」


「ああ、恋愛の相談。」


「恋愛!?基矢さんにですか?」


 小バカにしたような笑い交じりの声で返される。


「…まあ、恋愛経験が無いのは認めてやるよ。

 ただ、相手が俺に近い人間だとかで…」


「…つまり、その方は所謂ロリコンという奴なんですね?」


「………そうなる。」


 すまない田倉。お前にロリコンの汚名を着せることになってしまった。

 でも、本人(リリナ)にばれるよりはいいよな?そうだよな?


「それでだ。

 もし良ければなんだが…お前の好みを教えてくれないか?今はちょっとでも情報が欲しいんだ。」


「良いですけど…どうして貴方が協力してるんですか?基矢さんにはなんのメリットも無いじゃないですか。」


「…人はメリットとデメリットだけで動くような、そんな冷たいものじゃないんだ。

 人情という素晴らしい」

「御託は良いです。」


「……昔の俺もあんな時代があった。

 その時の俺と重ね合わせて助けたいと思った。」


「素直でよろしい。」


 言わせたんだろーが。


「まあ、そう言う訳だ。で、教えてくれないか?」


「そうですね…一緒に居て楽しい人っていうのは大前提ですね。

 包丁の音しかしないような寂しい家庭を築くのは嫌です。」


「嫌な家庭でタイプ決めるの流行ってんの?」


「最低限の条件ですよ。

 ある意味、基矢さんはそれを満たしてはいますが…恋愛感情までは無いですね。」


「大丈夫だ、俺も無い。」


「……断言されると腹が立ちますね。

 ちょっとセクハラしていいですか?」


「良いわけないだろ前世オッサン女神。」


「誰の前世がセクハラ親父ですかぁ!?」


「馬鹿者!こっちくんな!

 ひっ、ひゃあ!止めろ!揉むんじゃない!」


「可愛い声出すじゃないですか!良いですねぇそそられますねぇ!」


「勝手にそそられるな!あっ、お前のも揉みしだいてやろうか!?うぅん!」


「あっ、ちょっとやめてください元野郎!セクハラで訴えますよ!?」


「元野郎とか言うなあああああああああ!!」


 セクハラ合戦は20分弱続いた。

 食べかけの料理はすっかり冷め、それ以降はお通夜ムードでの夕食を過ごすこととなった。

 不毛な争いは、悲しみしか生み出さなかった。

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