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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元四章 告白
29/112

元二十九話 ボーリングに来たはずだったのに雑談しか始まらなかった

 

「おまたせー!」


「待たせたな。

 …俺を。」


 渋めに言ってみたかったのだが、残念ながら高音なボイスしか出せなくなっているので背伸びしたよーじょの声でしかない。悲しい。

 詞亜は少し気合が入った服装をしている…ような気がする。心なしかいつもより当社比三割増しで可愛い。


「ん?そいつどこかで見たような…」


「!?」


 先に来ていた守と瑠間を見た詞亜は目を見開いて震え始めた。


「お、おい、大丈夫か?」


「まさか、あの時の…」


 ………あ、そう言えば詞亜は守にトラウマがあったんだったな…

 去年のクリスマスの時、守がナンパを投げ飛ばした時の詞亜の怯えようと言ったら…


「…詞亜。

 その人は怖くなんかない。お前を助けてくれた人なんだ。」


「そうだけど…でも、あの時の殺気は…」


「あれはお前に向けられたものじゃない。

 大丈夫だ、俺はコイツと友達になれた。詞亜も絶対に仲良くなれる。」


「……」


「…マナ、手を握ってあげて。」


 突然の瑠間の指示にやや戸惑いながら、詞亜の震える手を優しく包み込んだ。


「基矢…?」


「大丈夫だ。」


「……うん。」


 手の震えが収まるのを確認して、包んでいた手をゆっくり放す。


「…ありがとう。」


 手を離した時、一瞬だけ残念そうな顔になった…のを言うと多分理不尽な拳が飛んでくるから気付かなかったことにしてあげよう。


「それにしても、双子なだけあって並んでみるとやっぱりそっくりだな…分身でもしたって言われた方が納得しそうだ。」


「「え!?」」


 空気を和ませるために言ったジョークのつもりだったが、なんか予想外の反応をされた。

 忍者じゃねーよみたいなツッコミが欲しかったのだが。


「…え?何その反応。」


「いやいや、色々と違うだろ?」


 クローン疑うくらいそっくりなんですが。


「そうそう、やっぱり面白いねマナは。」


「私から見てもそっくりだと思うけど…」


 詞亜が勇気を振り絞って意見を言った。偉いぞ。


「そうか?性別っていう一番大きな違いがあるんだが…」


「え?性別?」


 あ、詞亜はまだ知らないんだったか。

 誰も守の性別なんて言ってないし、初見で見破りでもしない限り分からないし、見破れる可能性は限りなく低いからな…


「守は…ぺったんこの方は男だ。」


「えぇ!?」


「ぺったんこってお前…もっと他に言い方は無いのか?」


「じゃあのどぼとけでも見せてやれ。

 …首を掻き切られる覚悟があるなら。」


「おい今なんて言った!?」


「じょーうだん!」


「冗談かよ!」


 ツッコミがキレキレだ。ボケていて気持ちがいい。

 フッ、と笑うと守も同じように笑った。

 そしてビシバシグッグ。友情の証だ。


「あ、私はちゃんと女性だから。」


「知ってる…その憎き胸の脂肪を見ればわかる…!」


 なんか向こうは向こうで盛り上がっている。

 …詞亜、小さいの気にしてたんだな。いつかいじってやろうとか思ってたけどやめとこう。俺が八つ裂きにされる。


「あんまり気にしなくていいと思うよ。っていうか、私は言う程大きくもないじゃん。普通だよ普通。」


「嫌味なの!?普通とか言われるサイズですら羨ましいと思ってる私に対する嫌味なの!?」


 女子のバストの普通ってどれくらいなのだろうか。

 …少なくとも詞亜に聞くのは止めよう。やられる。


「…女子がああいう話をすると男は辛いよな。居心地が悪くなるっていうか…」


「おなごが何を言うか。乱入してかき乱すくらいのことはして見せろ。」


「無理言うな!前も言ったけど心は男なんだ!」


「そうだったな、悪い悪い。

 ……ところで、一つ質問良いか?


「なんだ?」


「さっき、詞亜…だったか。そいつが言ってた“基矢”ってなんだ?」


 ……詞亜ああああああああああ!!

 いや、仕方ない場面だったな。怒るのも責めるのも筋違いだ。


「聞き間違いだろ。」


「俺の嗅覚は人間の五千倍だ。そんな訳あるか。」


「嗅覚関係無いだろ!聴覚は!?」


「嘘だ、どっちも常人よりちょっと上くらいだ。」


「……」


「…なんだその目は。」


「本当にちょっとだよな?」


「ああ、ちょっとだ。

 ……まあ、良いか。言いたくないなら詮索はしない。

 でも、困ってることがあったら言ってくれ。」


「今度いつ会えるかわからないけどな。」


「……そうだな。

 俺の電話番号とメアドを教えておこう。準備してくれ。」


「はいよー」


 数少ない電話帳の一覧に新たな項目が増える。

 電話番号を変えた際、ドジって顔見知りに電話しないようにするために電話帳を全て削除したため、電話帳は閑散としている。決して友達が少ないからと言うわけではない。

 …いや、()()ならともかく、()()としての友達は少ないかもしれないけどさ。


「瑠間。連絡先交換しない?」


「私はケータイ持ってないんだ。」


 さっきの険悪そうな雰囲気はどこへやら。ふと見てみるといつの間にか詞亜と瑠間は仲良くなっていた。


「女子って不思議だな。」


「おなごが何を言うか。」


 二度目のツッコミ頂きました。


「そろそろボーリングしない?私その為に来たんだけど…」


「あ、そうだった。」


 雑談に夢中ですっかり忘れていた。そういえばここボーリング場だった。

 手続きを終え、靴を借りて決められたレーンに行く。


「…マナ、本当にその球で良いの?」


「大丈夫大丈夫。」


 男の時と力は変わっていない。

 だから球も男の時と同じもので良いだろう。問題無く持てるし。


「……軽いな。」


「軽いね。」


「…ねえ基矢、ボーリングの球って軽くないはずよね?私のボールだけ重いってわけじゃないわよね?」


「……大丈夫だ。きっと思ったより軽かったって言いたいだけなんだ。」


 ボール選びを終え、とうとうゲームが始まる。

 最初は俺だ。

 いつもやっているようにボールを投げる。


「ありゃ!?」


 思っていたよりボールに振り回され、レーンに足を付けてしまった。


「いだっ!?」


 油か何かでツルツルのレーンで足を滑らせ、そのまま転倒。強かに頭をぶつけてしまった。

 上にあるボードにはファールの表示が出ている。


「何やってんの…」


「悪い悪い…」


 体重計には乗っていなかったが、どうやら俺の体重は性別の変化と共に減っていたらしい。

 まあ、体重60弱の幼女とか完全にデブだしな…

 …そのくせ筋力と体力が低下していないのは謎だ。見た目でも重さでも筋肉は明らかに減ってるのに。


「大丈夫か?」


「大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。ちょっと久々に来たからドジ踏んだだけだ。」


「踏んだのはレーンだったけどね…」


「ははは…」


 ドジとレーンを同時に踏んでしまった俺は気恥しくなりながら席に着き、瓶コーラをあおった。

 何故かボーリング場に売ってるんだよな瓶のコーラ。


「…マナ、それ私の。」


 俺のコーラは隣にあった。どうやら詞亜のコーラと取り間違えてしまったらしい。


「え!?あ、ゴメン!買って返すから待っててくれ!」


「いい…もったいないし。」


「そ、そうか…」


 まだ余っているコーラを置き、瑠間のスローを見る。

 ……なんか早くね?っていうかピンに当たってもボールがぶれずにまっすぐ進んでるんですが。


「やった!ストライクだ!」


「おお、やるな瑠間。

 じゃあ俺も…」


「…手加減はしてね?」


「分かってる。もうあの時の二の舞は踏まない。

 破壊神なんて称号は叩き返してやる。」


 ボーリングで破壊神ってなんだ…?

 ピン全部粉砕したのか?


「なあ、あの会話どう思う詞亜…詞亜?」


 詞亜はさっきのコーラをやや遠慮がちに飲んでいた。その顔は赤い。


「ぷーーーーっ!!」


「うわ、吹くな!」


「ちち違うから!残ってたコーラがもったいなかっただけだから!」


「分かってる!大丈夫だ、みなまで言うな分かってる!」


「もうみなまで言ってるんだけど!?」


「おーい、次詞亜だぞー!」


「わ、分かった!すぐ投げる!」


「…まだピン出てないぞ。落ち着け。」


 軽くパニックになりかけていた詞亜だったが、一度投げたら冷静になっていた。

 二度目でスペアを取る。

 俺は軽く手を上げて投げ終えた詞亜を迎える。


「やったな、詞亜。

 …最初ガターだったけど。」


「う、うるさい!」


 詞亜の強烈なハイタッチをくらい、手を振りながらレーンへ向かう。一巡して俺の番だ。


「…達治?」


 目に入った隣のレーンを見て驚いた。何故ならそこには――


「お、マナか?」


 ――達治が居たからだ。

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