元二十八話 同世代の友達だと思ってたら先輩だった
「駄目だよ達治、私にはもうファーストもセカンドも無いんだよ?」
ここがどこかも分からない場所で、俺と達治は2人きりだった。
「それでも良い!
俺はお前じゃなきゃダメなんだ!」
目の前にいる達治の顔は赤く染まり、あまり見ない真剣な表情をしている。
「それに…私は基矢、元は男なんだよ?
気持ち悪くないの?」
俺の口調は何故か変化している。
「気持ち悪い?冗談言うな、俺はお前を愛してるんだよ!
そんな相手を気持ち悪いだなんて思う訳無いだろ?」
「達治…!」
「基矢さーん!早く起きてください!また遅刻しますよ!!」
「ん…」
………
……
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!なんでいきなり大声を出すんですか!!」
嫌な夢を見た。
リリナの大健闘によって、夢の中でサードがインパクトする前に覚めたが結構でかいショックを受けた。
夢と言うのはその人の願いを映すとか聞いたことがあるが、悪夢は適用されるまい。あんな悪夢さっさと忘れてしまいたい。
「……なあ、マナ。」
「ん?
た、達治!?」
噂をすればと言うのは脳内まで適応されるのか。
昼休みに席でぐったりしていると、目の前に達治が立っていた。
「やっぱりお前、基矢じゃないのか?」
「しつこいぞ、俺はマナだ。」
あれだけ証拠がそろっていれば疑いたくもなるだろう。
電話の声、喋り方、基矢の安否を知ってるみたいなことも言ったし、昨日もカロフレ大量購入の現場を見られ、二度も逃げた……もう確定するだろ。なんでまだ疑問止まりなんだよ。
確かに知り合いが突然女の子になりましたーなんて信じられないだろうが、これも現実だ受け止めろ。
……いや、受け止めさせるなよ。コイツ口軽いしいたずら好きだから絶対に知られたくないんだよ。
「……認めれば、楽になるんだけどなー」
余計なお世話だ。
「あ、マナさん!ちょっと色々訊きたいことがあるんですが!」
リリナが手招きを交えながら俺を呼んでいた。
気遣ってくれたのだろうか。
「悪い、リリナに呼ばれた。俺は行くぞ。」
「おう…」
達治は三度目の逃げも追ってこなかった。
リリナの元に来ると、達治もどこかに移動していたらしく俺の席付近にはいなかった。
「…もういっそ達治さんには言った方が良いんじゃないですか?」
リリナも達治に正体を隠すのには無理があると思っているらしい。
「それは俺も思うんだが…嫌な予感がするんだよな。」
「嫌な予感とは?」
「アイツは口が軽くていたずら好きだから、正体を校内全域に広げられそうで…」
「流石にそこは配慮してくれるでしょう…」
「いや、変なところで配慮が無いのがあいつだ。マジでそんなことをやりかねない。」
「友達を疑いすぎでは?」
「友達だから、あいつのことを知ってるから言ってるんだよ。
知っているからこそ、言えないことも……」
「どうしました?」
「なんでもない。
まあ、アイツはバカだから俺が白状しない限りは疑うだけで確信はしないだろうから、俺が否定し続ければ良いだけだ。余計な心配はいらない。」
「それなら良いですが…」
頭をよぎった両親と達治の顔。
そんなに後ろめたいなら言えばいいのに――
――でも、もし避けられたら、親友でいられなくなったら怖い――
心が揺れた。
女の子特有のあの日を乗り切って土曜日。
いやホントアレ怖いね。何もしてないのに腹痛くなるし血が出るんだぜ?みっともなく泣いちゃったよ。
…そんな記憶は来月まで封印しとこう。忘れたい。
それはそれとして。
今は一人でワオンモールのゲーセンに来ている。友達と行くゲーセンも良いが、一人で行くそれも乙な物だ。
ワオンモールにした理由は買い物ついでだ。今回はラノベ。
「そろそろ止めるか。」
軽くなってきた財布の中を見て頃合いを付ける。これ以上やるとラノベが買えなくなってしまう。
買ってから来れば良かったな…なんで無性に太鼓が叩きたいからって先にゲーセン来たんだろ。
「……あれ?守?」
見覚えのある長い黒髪が目に入る。
じょうちゃん救出から一週間弱でまた再会するとは。世間は意外と狭いのかもしれない。
「おーい、守ー!」
「ん?」
振り返った守の姿を見た俺は目を疑った。
あるのだ。服を押し出す胸のふくらみが。
「ま、守…?
なんで胸からおっぱい生やしてるんだ?女だったのか?むしろなったのか?」
「女だよ!」
え?は?ん?え?
じゃあアイスくれた時に言ってたあれなんだったの?男装だったの?どういうことなの?
「…あ、もしかして守と勘違いしてる?
私は瑠間。守の…双子の姉。」
「あ、お姉さんでしたか…失礼しました。」
あーびっくりした。確かに女顔ではあったけど流石に俺以外にTSしてるやつなんている訳無いよな。
っていうか双子の姉も居たのか。姉に似たのか弟に似たのか…
「もしかして、貴女がマナ?
守から聞いてるよ、気の合う友達だって。」
「ご存知でしたか。」
「敬語はいいよ。一歳年上だけど。」
「りょーか…え?」
年上?
「あ、私高2だから。守もね。」
2人高2、俺高1、故に俺年下。
……マジで?守年上だったの?守先輩だったの?先輩にタメだったの?
「失礼しましたー!弟さんにも伝えておいてください!」
「だから敬語は…まあいいや。
でも、ちょうどよかった。実は友達と買い物の約束してたんだけど、ドタキャンされちゃって。
どうせ暇だし、この後ボーリングに行こうと思ってたんだけど、一緒に行かない?」
ボーリングか。しばらく行ってなかったな。
力は変わってないし、体力も落ちた訳じゃないから前と同じ感覚でできるだろう。
それに、こんな美人さんと遊べるのは俺としても嬉しい。行くか。
…俺の心もまだ男のままなんだな、なんか安心した。
「あ、守も呼ぶ?こういうのは多い方が良いよね。」
「ああ、なら俺も知り合い呼びます。」
「…敬語。」
「知り合い呼んでくる。」
「私も守呼んでくる。ちょっと時間かかるから先に行ってていいよ。」
「りょーかい。」
ボーリングは大体4人で1コースとなっているので、呼ぶのは一人で良いだろう。
今日シフトが入ってるのは……リリナだったな。
詞亜はフリーのはずだ。
早速詞亜をコールする。
「もしもし。」
『もしもし?』
呼び出し音が3コールなりきる前に出た。早い。やはり暇なのだろうか。
「これからボーリングに来ないか?」
『良いけど、場所は?』
「地球ん中。」
『いるけど。朝まで騒ぎたいの?』
「ゴメン嘘です。
名前なんだったかな…とにかく、ワオンモールの近くだ。」
『ああ、そこね。
分かった、すぐ行く。』
「じゃあ、またな。
…呼んだぞ。」
「了解。
じゃあ、先行って待ってて。」
「りょーかい。」
瑠間を残してボーリング場に向かう。
ふと振り返ると、瑠間は何故か洋服売り場に入っていた。守を呼ぶんじゃなかったのか?ちょっとショッピングしたかったのか?




