元二十七話 衝撃の事実を知ったらセカンドをやられた
「もう諦めたらどうだ?」
前方も後方も男が居る。
挟まれて身動きが取れなくなってしまった。
家に戻ってリリナに―――と一時は思ったが、それは悪手だ。鴨木さんを人間にしたばかりのリリナが神の力を充分に回復していなければ、リリナもろとも誘拐される危険がある。
「コイツで助けを呼べてればなぁ?」
男の一人の手にあるのはじょうちゃんのキッズケータイ。
連絡には成功したが、その後じょうちゃんがつまずいて転び、落としてしまった。
「ごめんなさい…私が悪いんだよね…」
「……何が悪いんだ?」
「え?」
「ちゃんと助けを呼んだだろ?
俺一人だったら誰にも連絡できずに挟み撃ちされて捕まってた。希望を持てたのはお前が居て、お前がちゃんとケータイを持ってたからだ。
それに、まだ謝るのは早いぞ。聞こえないか?」
「何が?」
「耳を澄ませろ。」
遠くでタン……タン……と音が聞こえてくる。
「いやぁ、やーっと追いかけっこも終わりだなぁ?
捕まえたらたっぷり楽しんだ上で身代金要求してやるよ。」
「……取らぬ狸の皮算用は止めた方が良いぞ。」
壁を背にするじょうちゃんをかばうように、腕を広げてじょうちゃんの前に立つ。
「おお?自分を犠牲にしてお友達を守るのか。美しい友情だねぇ~」
「…犠牲?誰が?
もしかして俺か?」
タン…タン…
す~っと深く息を吸う。
「俺はお前らなんかに捕まらねえ!!
お前らをぶちのめして、2人で助かる!!!」
精一杯の大声で叫んだ。
「お~でっけぇ声。
それより何?俺達をぶちのめせるとか本気で思ってんの?」
「こっちは三人、お友達を含めても2人しかいないし、そもそもお前らみたいなお嬢ちゃんが大の大人に勝てるとでも?」
タン、タン、タン…
「いや、俺は残念ながら無双系の主人公じゃない。
俺一人でお前ら1人相手にできればいいものだ。」
ダン、ダン、ダン
「だから俺たちは―――」
ドン、ドン、ドン!
ダン!
大きな着地音と共に長い黒髪の人物が降り立つ。
衝撃を逃がす為に曲げた足を延ばし、彼は立ち上がった。
「――この場にふさわしい無双系の主人公を呼んだ。」
「……は、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ!」
「ギャハハハハ!誰が来たかと思ったら可愛いお嬢さんが増えただけじゃねーか!
全く、一瞬はどうなるかと思っちまったぜギャハハハハ!」
「……お前らか?」
「あ?」
「お前らが俺の従妹と友達を誘拐しようとしたのか?」
「ああ、そうだ。
それと、お前も一緒に連れてってやるよ。
ちょっとは楽しめ――」
その男はその言葉を言い切ることは無かった。
その途中でくの字に折れ曲がって数メートル飛び、民家の塀にぶつかっていたからだ。
「え…?」
「覚悟しろよ…今からお前らは地獄を見るんだからな…!」
彼――守は残った二人の誘拐犯を鬼のような形相で睨んだ。
「ありがとう、おかげで助かった。」
「いや、俺も憂子を助けてもらったし…お互い様って奴だ。」
地獄絵図を見せられた後、俺と違ってスマホを持っていた守に警察を呼んでもらって帰った。
憂佳の時は通報しなかったが、あれはリリナに止められたことと俺の正体が知れ渡る危険性があったからだ。別に女尊男卑ではない。
関係無いけど、多分性別を超越した俺には女尊男卑も男尊女卑も適応されないだろう。
女尊男卑、男尊女卑の枠を外れた正義の味方宇露基矢です。はい。
「それより、この前言ってた親戚の子って、じょうちゃんのことだったんだな。」
「…じょうちゃん?」
守とはじょうちゃんを連れて帰りながら話をしている。
事件のあらましは通報した時点で語っていて、被害者…というかじょうちゃんが放心状態で家族のケアが必要とかなんとか口八丁で言いくるめて帰る許可をゲッツした。じょうちゃんの放心状態は誘拐されそうになったことが原因じゃないけど。
「ああ、憂子ちゃんのことだ。
城司憂子、だからじょうちゃんだ。」
「…お嬢ちゃんと掛けたのか?」
「大正解だ。
ちなみに、名前が城子とかだったらジョジ」
「言うな、分かったから。」
でしょうね。
「お兄ちゃんとマナちゃんって友達だったの…?」
地獄絵図を俺と一緒に見物していたじょうちゃんがようやく正気を取り戻したらしい。
あの光景は小五にはキツイだろうな…そのせいでしばらく放心状態だった。
「ああ、ちょっと前に知り合ったんだ。
コイツとは何かと話が合うんだ。」
「なんか親近感のような何かを感じるんだよな。」
「へー……
お兄ちゃん、もしかしてロリコンなの…?」
「は!?
いや、俺彼女いるんだけど!?なんでちっちゃい知り合いが居るからってロリコン扱いするんだよ!」
「ち、ちっちゃい…」
ちょっと傷ついた。
「…なら良いんだけど。
マナちゃんは私の物なんだから、手を出さないでね。」
「お、そうだったのか。悪い悪い。
……俺の見立てによれば、憂子はお前に惚れてるぜ。」
「…知ってる。」
小声でささやかれなくてもそれくらい気付いている。
嫁にするとか嫁になるとか本気のトーンで言ってたくらいだからな。
でも、俺の恋愛対象としては幼すぎるんだよなー…付き合っても犯罪とか言われないくらいまで育ってくれないと。
「あ、着いちゃった…」
じょうちゃんの家は普通の一軒家だった。
「またな、じょうちゃん。」
「また困ったら言ってくれ、すぐに行くからな。」
「分かってる。
…マナちゃん。ちょっと良い?」
「なんだ?」
口元に少し曲げた手を添えている。内緒話のポーズだ。
じょうちゃんの手に耳元を寄せる。
「ちょっと目を瞑ってて…」
「?」
言われるがままに目を瞑る。
「私を守ってくれてありがとう。」
……唇に柔らかい物が触れた。
「またね!マナちゃん!」
守ってくれたのは守だとか、またねだとか返す余裕は無かった。
「ヒューヒュー!」
口で言うなとツッコむ余裕も無かった。
驚きで固まる俺が復活するのに数分を要した。
「疲れた……」
俺はもうカロフレで良いが、腹を空かせて待っているであろうリリナには唐揚げ弁当でも買って行ってあげよう。
とか思いながらコンビニに立ち寄り、弁当とカロフレを物色する。
そーいやリリナはチーズ派だっけな…チーズ味も買っとくか。
何個か目のチョコ味のカロフレに手を伸ばしながらそんなことを考えていると、別の方向から伸びてきた手にぶつかった。
「あ、ゴメン……達治?」
「……基矢?」
伸びて来ていた手は達治の物だった。
「基矢って…俺はマナだぞ?」
「でもお前、そのカロフレ…」
「何がおかしいんだ?」
「そんな量のカロフレを一気に買うのはあいつくらい…」
「あ…!」
そうか、今度はそう来たか…!
「やっぱりマナって、もしかして…」
「ご、ゴメンな!急いでるからまた明日!」
「あ、ちょっと待てよ!」
トイレに駆けこんでやり過ごし、達治が居なくなったタイミングを見計らって会計して外に出た。
待ち伏せもしていない。しかし、疑いの種は撒かれたままだ。
この場をしのげて良かったと思う反面、材料がそろいすぎてるアイツが勘付かないかと不安に襲われながら帰路に就いた。
ファーストに続いてセカンドまで…!
城司姉妹は化け物か!
…レズでした。




