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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元三章 じょうちゃんの秘密
21/112

元二十一話 感傷的になってたらよーじょに起こされた

 

「………」


 放課後、今日はバイトも無いので一人寂しく公園のベンチでネット小説を読んでいる。

 学校では鴨木さんとリリナが仲良く小説の話をしているのだろう。

 でもまあ…たまにはこうして誰も居ない静かなところで小説を読むのも悪くないな。

 寂しさなんて錯覚だ。感傷的になった時の酷く落ち着いたみたいなあれと同じだ。むしろ心地いいんだ。

 …目が疲れてきた。

 スマホの電源ボタンを一押しし、ベンチで横になって目を閉じる。


「はぁ~…」


 自然とため息が漏れた。

 鴨木さんの孤立を恐れてたら俺が孤立しちゃったよ。

 まあ、一人のクラスメイトを幸せにできたなら良いだろう。これでいいんだ。これで…

 …眠い。


「風邪ひくよ!起きて!」


 俺の眠りを妨げる者が現れた。

 その高い声と俺を揺する手の大きさから子供だと予想できた。


「あ、起きた!」


「まだ寝てない。」


 ベンチから起き上がり、揺すった少女を見る。

 ポニーテールか…中々分かってらっしゃる親御さんだ。顔立ちも相まって感想は可愛いの一言に尽きる。あと活発そう。

 身長からして小学生だろうか。俺と目線がほぼ同じ…ってやかましい。


「何してたの?」


「昼寝しようとしてたところだ。」


「おうちに帰ってからしなさい!

 ってママに怒られるよ?」


「いねーよ。」


 1人暮らしだからな。


「え…ご、ゴメン。」


 なんか変な誤解をされた気がする。


「謝ることでもない。一人暮らしってだけだからな。」


 あ、リリナも居るんだった。度忘れしてた。

 …まあ大した差異は無いし、このよーじょには関係ないだろう。


「……へー…」


 少女の目が気遣うものから疑わしいものを見るものに変わっていた。


「…そんな目をするな。」


「だって怪しいし。」


 なんでだよ。


「まあ俺のことは気にするな。帰れ。」


「嫌だよ!」


「なんで?」


「まだ撫でてないもん!」


「撫でる!?」


「だって可愛いじゃない!お人形さんみたいで!」


 可愛いか…ははっ、とうとう小学生にまで言われたぁ…


「…なんで泣いてるの?」


「泣いてない。眼球から汗が出てきてるだけだ。」


「何その特殊体質!?怖いよ!」


 あーいい汗かいた。ちょっと気分がスッキリした。


「だがツッコミは見事だった。

 いいセンスだ。」


「いい、センス…!」


 嬉しそうだ。


「あ、ちょっとこっち来て。」


「なんだ?」


 言われるがままにベンチから離れ、少女に近寄る。

 頭に手を置かれた。


「エヘヘ…」


 少女は少し二の腕を上げて俺の頭を撫でる。

 なんで撫でられるのってちょっと気持ちいいんだろうな。小学生に撫でられてるせいで生じたネガ染みた感情が薄れていくよ。

 …あれ、なんか相殺してない?残ったのは頭の感触と若干の気持ちよさだけじゃないか。

 目が自然と細くなる。


「やっぱりかわいい~」


 不意打ちやめて相殺できなくなるから。


「ねえねえ、貴女はよくこの公園に来るの?」


「昨日と今日ぐらい。後はゴミ拾いのボランティアに来たことが一回二回。」


「明日もここに来て!2人で遊ぼう!」


 ……小学生との遊びってなんだ?

 おにごっこやかくれんぼとかならまだいいが、おままごととか女児用ゲームとか言われたらやりずらい。

 特に、美人奥さんを演じろとか言われたら意味も無く靴脱いで裸足で逃げだすだろう。あ、痛そうだからやっぱり普通に靴履いたまま逃げます。

 男にも二言はある。

 …情けない言葉を作ってしまった。


「内容による。」


「じゃあおままごと!

 貴女がシェフで、私がモンスタークレーマー!」


「ゴメン無理。」


 内容が特殊過ぎる。リアルおままごとも真っ青な設定だろう。

 というか、それはおままごとと言うのだろうか。ごっこ遊びではあるのだが。


「えー!?なんでダメなの!?」


「俺の心がズタボロにされる可能性が非常に高い。

 後なんかお前に変な禍根を残しそう。初対面の相手とも仲のいい友達ともやらない方が良い。」


 いつの間にか本音が出てガチ喧嘩、そのまま絶交とかしそうだ。

 それを初対面の少女としたくない。別にまだ友達って関係でもないけど。


「貴女の困り顔も見てみたかったのに…」


 気のせい気のせい気のせい。コイツがドSだなんてそんな訳無い。


「じょ~うだん!」


「止めてくれ、心臓に悪い…」


「やっぱり困り顔も可愛い!」


「やっぱりSだった!」


「じょ~うだん!」


 冗談がキツすぎる。

 あとそれ流行ってるのか?俺もやってみようかな。


「でも、どんな顔してても可愛いかも。」


「困り顔も含めるのか…」


「それが貴女!

 …ところで、名前は?私は城司じょうじ憂子ゆうこ!」


「俺はマナだ。宇露マナ。」


 城司ちゃん、略してじょうちゃんは自分から自己紹介をする良い子だった。


「マナちゃん!」


「じょうちゃん。」


「…何その呼び方?」


「ニックネームだ。良いだろ?」


「うーん…」


 どうもお気に召さない様子。止めとくか…


「憂子ちゃん。」


「じょうちゃんで良い。」


「そうか。」


 どっちだよ。


「じょうちゃん、他に遊べるのは無いか?」


「えーと、そうだね……マナちゃん提案よろしく!」


「そうだな……」


 やばい、思いつかない。

 ここはお得意のゲームを切り出したいが、今の小学生女子の流行りなんて分からない。

 そもそも俺が持ってるのはFPSとかステルスゲームだとか間違っても小学生の女子に薦めるようなものじゃない。

 小説?小学生ならそれより漫画だろ。

 今は持ってないけど。


「あ、猫だ。」


 視界の端に映った猫を利用させてもらうことにした。

 俺が寝ていたのとは別のベンチで体を丸め、気持ちよさそうに寝ている。


「ホントだ!可愛い!」


「起こすなよ。」


 猫に駆け寄るじょうちゃんに釘を刺しておく。

 俺もだが、じょうちゃんも動物嫌いではないらしい。ケモナーレベルではないが、俺も動物は好きだ。

 猫は首を上げて目を細く開けるが、気にしないようにまた目を瞑り、首を下ろした。


「起こしちゃったか…」


「見て!撫でても逃げない!」


 しゃがみこんで猫の頭を撫でるじょうちゃん。

 微笑ましい光景だ。こんな写真がコンクールに出されたら入賞できるだろう。


「俺もやっていいか?」


「良いよ!」


 じょうちゃんと入れ替わって猫をなでる。耳の付け根辺りを掻いてやるとゴロゴロとのどを鳴らし始めた。

 掻いてほしい位置がずれていたのか、猫が頭を動かす。こういう時は掻く位置をずらさない方が良いというのは猫を飼っていた小学生時代の友達が言っていた。

 そいつの猫が死んだ時は可哀想だったな…俺も一緒に泣きそうだった。


「あ、猫が!」


 猫は満足したのか立ち上がり、ベンチを降りて道路へ歩いて行った。


「野良猫かな?」


「さあな。」


 さっきの猫に首輪は付いていなかった。

 しかし首輪を付けない飼い主も居るらしいので推測しずらい。

 友人は言っていた。よく首輪外されるから付けてないと。よっぽど首輪嫌いだったんだなその猫。


「…明日も、来てるかな?」


「さあな。」


 猫は気まぐれな生き物だ。

 今日は気分でここに来ただけかもしれない。


「明日も来てみよう!2人で!」


「ああ、そうだな。」


 じょうちゃんと約束し、帰路に就く。

 茜色の空がいつもより少しきれいに見えた。

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