元十九話 呼ばれて行ってみたらそそのかされた
なんとなく興味本位で章管理してみました。
章の名前は構想があれば書きます。なければナンバリングのみです。
ストック「じりゅーが構想を練った先…その先に俺はいるぞ!」
……おや、幻聴が。
あ、今回はノンコメディーです。今作類を見ないシリアス回です。
…そうですよつまらない回ですよぉ!
未だ残る残暑の中、ネット小説を見ながら待ち人を待つ。
昨日借りた本に挟んであったしおり…最初は、てっきり読んでる途中で貸してくれたのかとちょっと悪い気がしただけだった。
しかし、しおりを見てそうではないことを確信した。
『明日の放課後、学校近くの公園で待ってます。』
しおりにはきれいな字でそう書いてあった。
学校に近い公園と言ったら今俺が居る公園しかない。
ここは数年前に遊具が遊んでいた子供が事故に遭ったということで、全ての遊具が撤去されてベンチと砂場くらいしか残っていない寂れた公園だ。
名前は分からない。それが書いてあった看板は古びていて読めなくなってしまっている。
子供はここから少し離れたところの遊具がある公園に行く為、ここにいるのは俺一人だ。
恐らくだが、鴨木さんがここを集合場所に選んだのはそれを知っていて人目を避けるため。
緊張が俺を包んでいる。小説を読んでもそれは消えることが無い。
「待たせた?」
…来た。
公園に入ってきた鴨木さんの姿を確認する。
手に持っていたスマホをスリープさせ、バッグに突っ込んで立ち上がる。
学校から直接来たので制服のまま。ベンチに置かれたままのバッグには入っている教科書やノートの重みがある。
「それほど待ってない。」
「そう。
じゃあ、ここで少し話しましょう?」
纏う雰囲気はどこか普段のソレとは違った。
「どうしてこんなまわりくどい呼び方をしたんだ?」
「ちょっとやって見たくなって。
読んでた本にあったから。」
どこかのアニメでそんな場面あった気がする。
鴨木さんから借りた本の中には無かったが…
「それに、内緒の話だから2人っきりになりたかった。」
「内緒?」
基矢の時だったらドキリとしていた場面かもしれない。
しかし今はマナの姿。告白の線は薄い。そもそもそんな雰囲気を出していない。
「実は私、知ってるの。
貴方が宇露基矢…元々は男だったってことを。」
「なっ!?なんで…!?」
おかしい、今までそんなボロを出してたか?
…言葉遣い以外は男だった証拠は残して無かったはずだし、そもそもそんな話をしても信じられない人間の方が多いはずだ。
しかし、鴨木さんの言葉には迷いが無かった。
ブラフすら疑えない、確信に満ちた声。ごまかすのは不可能だ。
「だって、女神リリナス…いえ、今はリリナだった。
彼女から力を奪っていたのは私…名もなき神だから。」
「そんな……」
鴨木さんが、リリナの力を奪っている張本人?
信じられなかった。あれだけ仲良くなったのに、本当は……
「…誤解してるみたいだけど、私は貴方の味方。」
「味方?
どこがだよ、友達の力を奪っておいて。」
「もしかして知らない?
もし、私がリリナの力を奪わなくて、リリナが途中で認識の変更を止めてなかったら…
…貴方の認識、つまり、貴方の男としての心も書き換えられてた。記憶も、歴史も。」
「……嘘、だろ?」
リリナが、そんな…基矢を、心までマナにしようとしてたなんて……
『これでは夜更かししながらのガールズトークができません。』
『高校生の誰かを女性にすれば、ガールズトークも出来るし襲われずに済むと。』
最初に会った時の言葉がフラッシュバックする。
そうだ、アイツは最初から…俺とガールズトークをしたいなんて理由で俺の性別を変えたんだ。
『ちゃんと気付きましたよ!付け焼刃も無いTS娘にガールズトークが出来るわけないって!』
そうか、あれはそういうことだったのか…
本来は歴史も記憶も全て書き換えるはずだったのに、それが出来なかったから――
――ただの間抜けだと思い込んでた俺が、バカだっただけだったんだ…
「……鴨木さん、本当に…本当にお前は俺を、助けてくれたのか…?」
「結果的に、だけど。
神は神の力が無くなると消滅する。
私の神の力は消滅寸前レベルまで無くなってた。
だからどこかの神が神の力を使った時、その消費に便乗して奪ってたんだけど…その結果貴方の心が助かった。」
「そうか…」
妙に上手い話だと、心の奥底では思っていた。
その疑問は解消した。助けられたのは偶然、最初からなんの取り柄も無い俺を助けようとしてた訳じゃなかったのか…まあ、そりゃそうか。
「ここからが本題。
そんなことをしようとしてたリリナに、復讐したいと思わない?」
「………」
「残念だけど、リリナから直接力を奪っても奪い尽くす前に気付かれて返り討ちに遭う。
だから、貴方はリリナになんとか神の力をありったけ使わせて。」
「…………
ごめん。」
「…何?」
「ごめん、それは出来ない…」
気付くと涙が砂に吸い込まれていた。
リリナに復讐なんて、俺には出来ない。
例え、俺が俺でなくなろうとしていたとしても。
ふざけ合って、喧嘩することもしょっちゅうでも。
それでも、リリナは女の子になった俺を助けてくれた。
三週間の短い時間だが、一緒に暮らして、一緒にバイトして、奇妙だけど美味い料理を作ってくれて…誘拐された時も、危なかった時に駆けつけてくれて、すぐに誘拐犯を懲らしめてくれた。
一方的かもしれないが、俺はリリナのことを親友だと思っている。
俺はリリナのことが大好きだ。親友として。
「……そう。」
「…それに、お前とも仲良くなりたい。
俺を助けてくれた恩人だし、なにより一緒に同じ物語をたしなむ同士だからな。」
出来る事なら、俺と、リリナと、鴨木さんと、三人で仲良くしていたい。
クラスが違うけど、たまに詞亜も来たりして。
皆で一緒に楽しく話をして、たまには遊びに行って…そんな関係でありたい。
「……先に謝っておく。ゴメン。」
「え…?」
鴨木さんが俺の肩に手を置いた瞬間。
何が起きたかもわからないまま、俺の意識が暗転した。
「……すっかり冷めちゃいましたね。
後で温め直しましょう…」
リリナはすっかり冷めてしまった青く光るシチューらしきどろどろの液体を器から鍋に戻す。
窓を見ると空はすっかり暗くなり、対照的に街灯が町を照らしている。
それでも、基矢は帰ってこない。
放課後に用事があると言って別れたきりだった。いくらメールをしても電話をしてもなしのつぶて。返信も無ければ応答も無い。
「もしかして、また誘拐…?」
誘拐から二週間、のど元過ぎればと言うがいくらなんでも頻度が多過ぎると思いながらリリナは部屋を飛び出す。
ピロリン
闇雲に走り回ろうとしたところで、リリナのスマホにメールが届いた。
「メール…」
またも見たことが無いメールアドレスだった。
だが、その題は以前と同じものだった。
[宇露基矢の居場所]
「………」
今回送られてきたのは一枚のスクリーンショット。
画像では地図アプリを開いていたらしく、この町の地図にその者の現在地を青い丸で示している。
(この場所ということでしょうか。
となると、このメールの送信者は…)
嫌な予感に渋る気持ちを押し殺し、地図の場所に向かう。
地図の場所は遊具の無い公園のようだった。
「待ってた。
女神リリナス。」
そこに居たのは鴨木奈菜美。
彼女の奥に見えるベンチには宇露マナが横たわっていた。