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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元二章 新学期と名もなき神
17/112

元十七話 逃げようとしたらクラスメイトに会った

 

「ん?」


 リリナに隠れてこっそりフードコートを出ようとすると、見知った顔を見た。


「………」


 この前転校してきた鴨木さんだ。

 何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回し、店を覗いては出て覗いては出てを繰り返している。

 …見るからに困っていそうだが、話しかけてもいいのだろうか。

 話しかけて余計なお世話と言われたり、ナンパ目的と思われ…ることが無いんだった。

 基本無口で無表情なので、正直何を考えてるのかさっぱり分からない。

 ……やらないよりはやって後悔するか。見た目はこれだから変な嫌悪感は無いはず…だと思いたい。


「鴨木さーん!」


「!」


 ビクリと肩を跳ね上げて恐る恐る振り返る鴨木さん。

 まさか声を掛けられるとは思っていなかったのだろう。


「驚かせたか?ごめんごめん。」


「……いえ、何か用?」


 見開いた目を戻し、無表情に戻る。


「なんか困ってそうだったから、力になれたらなーと。

 何か探してるのか?」


「……本。

 ここの本屋の品ぞろえが気になって。」


 なるほど、鴨木さんはいつも本を読んでるからな。

 クラスメイトに話しかけられても、誰かが席を倒して大きな音を立てても、本から目を逸らさないくらい好きだからな………なんだろう、クラスから孤立する未来しか見えない。

 これを足掛かりに関わってみるのも良いかもしれない。話してみたら良い奴だったはよく聞く話だ。


「それなら二階だ、案内するぞ。」


「…いい。大体の場所を教えてくれれば後は自分で行く。」


「そんなこと言わないでさ、一緒に行こう。

 鴨木さんとは色々話してみたいし。こう見えても本を……あんまり読まないけど、ゲームの事なら教えられるぞ!」


「ゲームの話は結構。私ゲーム苦手。

 そんなあなたにはコレをあげる。」


 鴨木さんが持っていたバッグから出したのは“意外ッ!本は面白い!”と書かれた本。

 本嫌いのための一冊!と表紙に書かれたそれはやや大きいが薄い。厚さで本嫌いが避けるのを防ぐためだろうか。


「いや、貰うのは悪いから借りる。ありがとう。」


 お返しにゲームの楽しさが分かる本でも買って貸してあげようかな。

 趣味の交換みたいで面白そうだ。もし鴨木さんが読まなくてもリリナに読ませればゲーム仲間が増えるし。


「分かった。じゃあ明後日返して。」


 明後日かぁ…まあ薄い本だからすぐに読めるだろ…

 …なんか今の一文――いや、考えないでおこう。


 近くにあったエスカレーターで二階に上り、鴨木さんを店の奥にある本屋まで案内する。


「ありがとう。

 ………」


「………」


「…行かないの?」


「ついでだから鴨木さんに付いて行こうかなーって。」


「……ご自由に。

 つまらなくても文句言わないでね。」


「言わないさ。」


 俺が美少女だから許される(?)急接近。

 少なくとも(基矢)で近付いていたらきっぱり断られていただろう。

 鴨木さんに付いて行くと、最初に来たのは自己啓発本が置いてあるコーナーだった。


「ラノベとかは読まないのか?」


 ラノベが置いてあるコーナーには見向きもせずに通り過ぎてしまった。

 高校生の御供は言い過ぎかもしれないが、ティーンエイジャーなら読む人が多いだけに意外だった。


「あんまり好きじゃない。

 本を読んでる感じがしないっていうか…

 私は真面目な本の方が好きだから。」


 ラノベだってシリアスくらいあるぞーなんて言わない。

 多分、ラノベ特有のどこかおちゃらけたようなイメージが好ましくないのだろう。

 どうやら彼女は真面目らしい。本選びと言うのはその人の性格が出るものだ。俺は本あんまり読まないけど。

 俺は活字嫌いとかそういう訳じゃないが、読むのは漫画くらいだ。そういう奴は俺の周りにも結構いる。達治とか。


「そうか…ラノベも読んでて楽しいと思うんだけどな。」


 だが、本を読まないだけでラノベ原作のアニメは観ていたりする。

 苦手なジャンルもあるので全部ではないが、個人的に面白そうだと思ったら観てるし、放送後ネットの評価が高かった物はDVDを借りて観ている。

 …ラノベ読んでて楽しいはほぼ想像だが。


「そう?

 …食わず嫌いも良くないし、読んでみる。」


「じゃあ、コレなんてどうだ?」


 鴨木さんに差し出したのはゲームの世界に閉じ込められてデスゲームを強制される…という有名なラノベだ。

 この小説はアニメ化されていて、そのアニメは俺も見ている。

 二年前に二期が放送されていたが、来年の二月に映画が公開されるとか。

 もちろん映画は観に行くつもりだ。

 …俺も読んでみようかな。とりあえずアニメが終わったあたりから。


「…2人とも可愛い女の子ね。」


「あ、黒い方は男で主人公だぞ。」


「…え?」


 確かに、作中でもヒロインに女顔と言われていた主人公だが…


「まあ、読んでみて感想を聞かせてくれ。明後日。」


「……じゃあ、明後日は意見交換会。

 お互いに紹介した本の感想を言いましょう。」


「了解。」


 その後鴨木さんと本屋内を回った。手に取ったのは2、3冊くらいだった。まあ一度に買うのはそれくらいか。

 鴨木さんが会計を済ませた後、俺たちは別れた。

 感想交換会をする明後日は憂鬱な月曜日。

 しかし、鴨木さんと話せると思うと少し楽しみだ。

 ……俺だって美少女と話せるのは嬉しい。心は男のままだからな。

 あ、そう言えばゲームまだ買ってなかったな。買ってから帰ろーっと。


「マナさん…ちょーっと良いですか?」


 …そう言えばリリナと来てたんだった。

 必死に逃げるもゲームの会計後を狙われ、試着室でひん剥かれて着せ替え人形にされた。

 ついでに写真撮るの止めてください。恥じらって赤くなってるの可愛いですねとか止めてください。

 ……あれ?生きてたのか、俺の恥じらい…







「基矢さ~ん、入りますよ~」


「おーう。」


 三度のノックの後でリリナが部屋のドアを開ける。

 本を読みながら気のない返事で入室許可を出す直前辺りで侵入された。住居不法侵入罪だ。


「あれ?基矢さんが読書なんて珍しいですね。」


「そんなに意外か?そりゃそうだろうな。」


 部屋にある唯一の小さな本棚には教科書とノートしか置いていない俺が本を開いている光景は俺もビビるかもしれない。

 うおっ、基矢が本読んでる!?みたいな。

 …何考えてんだろ俺。


「鴨木さんに借りたんだ。」


「それですよ!

 どうして朝鴨木さんと会話出来てたんですか?」


「なんだ失礼な言い方だな。まるで鴨木さんが喋れないみたいじゃないか。」


「そう言う訳ではありませんが…

 自己紹介の時以外に話してるところを見たことがありませんし、話しかけても無視ですよ?」


「本に熱中してるからじゃないか?

 今の俺なら分かる。」


 今日は月曜日。朝休みに登校してきた時点で鴨木さんが話しかけてきて感想交換会が始まった。

 鴨木さんが昨日買った本を俺はまだ読んでいないと言うと、


「人生損してる。貸すから読んで。明日まで。」


 と言って4と書かれたそのシリーズの本を片手に手渡された。

 その時は、


(明日までだなんて無茶なそんな厚い本。)


 と思った。

 が、そんなことは無かった。読んでしまえば止まらないのだ。

 正直、あのアニメの原作小説がこんなに面白いなんて思ってなかった。

 まるで物語に入り込んだような錯覚さえする世界観に引き込まれる感覚。この感覚を味わっているときに話されても遠い世界の出来事に思える。

 さっきのリリナのノックに気付けたのは奇跡みたいなもんだ。こんなくだらない奇跡よりもっとすごい奇跡を起こしたいが。


「あーもう終わりか…明日は二冊借りよ。」


「もう買いに行けばいいじゃないですか。」


「それもそうだな。読み返したくなるかもしれないし。」


 これから全巻買うとするなら置き場所は机の下だけじゃ足りないだろう。こんな名作を間違えて蹴ったりなんてしたくない。

 とりあえず本棚にある教科書達にはご退場願おう。君たちの新しい住処はなんか取っておいてしまった段ボールの中だ。


「捨てないでくださいよ!?」


「捨てねーよ。」


 …まあ、確かに段ボールに詰めているとなんか捨てるみたいに見えなくもない。もちろん捨てないが。

 だって、少なくともあと半年はこき使うんだからな。


「…次、読んでみて良いですか?

 実は以前からラノベというものにちょっと興味があって…」


「鴨木さんのだから、間違っても汚したり破いたりするなよ。」


「分かってますよ。」


 こういう楽しみ、と言うか趣味は共有したいものだ。

 小説を快く手渡し、部屋を出て行くリリナを見送った。


「あ、夕食当番お願いしますねー!」


 ……そう言えば今週は俺だった。

 時計を見ると八時を回っていた。もしかしたらリリナは夕食の催促に来たのかもしれない。

 この日の夕食はカロフレパーティーにしました。


「……散々待たせてコレですか?」


「明日はビーフシチューにするから許してくださいリリナ様。」


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