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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元二章 新学期と名もなき神
16/112

元十六話 話し合ってたら修羅場りかけてた

 

「さっきの様子だと、トイレも不便そうだな…」


「……まあな。ちょっと色々あって学校のトイレは使用禁止になった。」


 遅れて行くと、2人は既にフードコートの隅っこにある四人用の席で話していた。

 俺も守の隣に座る。


「使用禁止?じゃあトイレはどうしてるんだ?」


「近くのコンビニの多目的トイレだ。

 特別に休憩時間や昼休みでも好きに学校の外に出て良いことになってるんだ。」


 コンビニでも多目的トイレに入らないといけないのか…


「そこまでしないといけない理由は…」


「さっきと同じことが学校で起こったんだ。」


 さっきと同じこと、と言うと守がトイレに居たせいで男子生徒が女子トイレに入ってしまったと勘違いしてしまったのだろうか。


「一つ違ったのが、勘違いした奴がその後俺の言葉も聞かずに女子トイレに駆け込んだことだ。

 後で誤解は解けたんだが、その時女子トイレに居た女子が先生にそれを言ったらしくて、今後同じことが起きないようにってそういう処置をとられた。

 制服は男子のはずなのに、なんで気付かなかったんだろうな。」


 ……男装しているようにしか見えないと言えたらどれだけいい事か。

 今でさえもちょっとボーイッシュな服を着た美女にしか見えない。勘違いしてしまった男子生徒くんの気持ちもわかる。


「……“男子トイレの美女”とか言う話を思い出すな。」


 宗司が言ったそのタイトルで思い出した。

 俺もさっき守が言っていた話を聞いたことがある。タイトルはやっぱり“男子トイレの美女”だった。


「…広まってるのか?」


「南凧野高校に通ってる友達がそんな話をしてたなーと。

 クラスの野郎どもも同じ話をしてたっけ…」


「南凧野高校か…

 その高校は色々な噂があったな。」


 俺は高校受験の際に南凧野高校の噂をいくらか聞いていた。

 南凧野高校も受験候補だったのだが、それを聞いて別の高校にしていた。


「…どんな?」


「なんでも、とあるクラスが先生を巻き込んで夢を見たとか、度々問題事を起こす男が居るとか…後は化け物染みた身体能力を持った美女が居るとか――」


 この時思い出してしまった。

 あのコンビニで守を見た時、人間とは思えない動きでナンパを気絶させていたことを。


「――もしかして守」

「トイレに間に合わないんじゃないかって!?

 そんなことは無いぞ!催す前にこまめに行ってるから大丈夫だ!」


 物凄く強引に話を戻された。


「それに足には自信があるからな!

 100m8秒だし!」


「世界記録って9秒か10秒じゃなかっ」

「あ、8秒は50mだった!

 悪い悪い、記憶が混ざってたみたいだ!」


「遅いだろソレ。」


「そうだな!足に自信があるのは気のせいだった!」


 なんだろう、守がおかしい。


「……じゃあ更衣室はどうなんだ?

 女装が似合うだけの俺ですらちらちら見られるんだ。守は多分もっと酷いだろ?」


 それを見かねてか宗司が話題を変える。


「俺専用の更衣室がある。

 まあ、倉庫になりかけてる空き教室なんだけどな。」


「思ったんだが…男の娘って最早性別だな。」


「……そうかもな。」


 なんだろう。そのそうかもなすげー重い。


「…更衣室と言えば。

 マナは多分女子更衣室で着替えてるんだろ?

 性同一性障害って言ってたけど大丈夫なのか?」


「昨日の今日だしな…んっんー!

 まあ、慣れたよ。うん。」


「昨日の今日?」


「あー俺そんなこと言ってたかなーきのせーじゃねー?」


「……そうか。」


 すごいわざとらしくなってしまったが、信じてくれたらしい。


「…ところでマナ。」


「なんだ?」


 その口調は真剣だった。

 思わず身構えて続きを促す。


「性同一性障害って言ってたけど…

 お前、男になりたいと思うか?」


「俺は………」


 その問いに答えることは出来なかった。

 一週間前までは確実にイエスと答えられたはずの問いだったが、今となっては何故か答えることが出来なくなってしまっていた。

 この体に愛着がわいたから?それとも、元の体が嫌だから?

 分からない。


「あーそう深く考えなくていい。

 どうせ戸籍とか色々どうしようもないこともあるからさ…

 ただ、ちょっと訊いておきたかっただけなんだ。」


 思考の深淵に迷い込もうとしたその時、守は俺の意識を外まで引っ張り上げてくれた。


「…今の質問は下手すれば地雷ものだ。守、気を付けろ。」


「そうだな、悪かった。」


「いや、大丈夫だ…」


 返答出来なかったことにショックを受けた。

 生じた混乱から声に元気が無くなる。


「知らなかったなー宗司がロリコンだったなんて。」


「守君?これはどういうこと?」


「「!!」」


 二つの知らない声が聞こえると、守と宗司は顔を上げた。

 声の主は良い笑顔だった。震えが止まらない。


「もう見つかったか…!」


「華代!どうしてだ!

 一年前までは俺の女装を嫌がってたお前が、どうして!」


 どうやら2人の知り合いらしい。


「白野さんに教えられたからだよ。

 宗司の女装姿の素晴らしさを教わったの。」


「白野おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 魂の奥底から湧き出てきたような叫びだった。

 フードコートの客や店員が一斉にこっちを見た。


「白野に何を吹き込まれた!?何を刷り込まれたんだ!!

 アイツの言ったことはデタラメだ!信じるな!」


「信じるも何も、私が良いと思ったんだよ!」


「嘘だ…嘘だあああああああ!!」


 ぱっと見修羅場、このままでは警備員も呼ばれそうだ。

 そろそろ止めなければ、と思っていたら思わぬ形で終止符が打たれた。


「それに、宗司。

 貴方が着てくる服…ださい。」


「!!!

 だ…さい…?

 俺の国旗Tシャツと寝巻風のズボンのどこが!?」


「全部だよ!」


 …こればかりは華代さんに同意だ。


「そりゃ、ダサいって言われるだろうな…」


「マナまで!」


 口に出てしまった。ほぼ無意識に。


「……ないわー」


「守!?」


 守は口を押えるが、もう遅い。

 口に出た言葉は引っ込められないのだ。


「さあ、宗司。

 私がコーディネートしてあげる。」


「ダサい…全部、ダサい…」


 うわごとを言いながら華代さんに引きずられていく宗司。


「守君、そこのお嬢ちゃんは何?」


 ハッともう一人の知らない女性を向く守。


「コイツはマナ、ちょっとした知り合いでな…偶然見かけたから声を掛けたんだ。

 さっきのは宗司、格好はともかく男だ。」


「へー…

 で?」


「で?ってなんだ?」


「なんで私から逃げたの?」


「お前の服のチョイスが明らかにおかしいからだ。

 スカートとかワンピースとかは間違っても男の格好じゃないだろ。」


「劇で見たドレスは素敵だったよ?」


「素敵とかそんな問題じゃない。

 俺のプライドが」

「ファッションには素敵かどうかも大事だと思うけど?」


「……津瑠は…」


「何?」


「津瑠は、彼女として彼氏が可愛い格好をしても良いと思うのか!?」


「彼女が彼氏を可愛くして悪いと思う!?」


「悪いだろ!」


「良いでしょ!?」


 お互い同じ言語を話しているはずなのに言葉が通じていない。


「話にならん!俺は逃げる!」


 そう言うと守は床を蹴って近くの壁を蹴り、津瑠と呼ばれた女性を避けた。

 次の瞬間守の姿は掻き消え、エスカレーターの上に姿を現した。

 ありえない光景を見たせいで辺りは騒然としている。


「待ってよ!守君!」


 やがて津瑠さんは守を追いかけた。


「…あれ、人間じゃなさそうですね。

 人間に化けた神か何かでしょうか。」


 ぽかんとしながら立ち尽くしていると、リリナがやってきた。


「さあな……あ。」


 やばい、リリナだ。見つかった。


「逃げる必要はありませんよ。もう私の用事は済みましたから。」


「え?」


 バカな、コイツには俺を着せ替え人形にするという忌まわしき用事があるはずじゃないのか?

 確かに紙袋をいくつか持ってはいるが…


「お腹空きましたね…何か食べたらすぐ帰りましょう、また誘拐されるわけにもいきませんからね。」


「あ、ああ…俺ハンバーガーのセットで頼む。」


「分かりました。」


 何故俺を試着室に拉致しない?

 注文している様子を見ても全く怪しい様子は無い。


「戻りました。マナさんはこの番号なので、呼ばれたら取りに行ってくださいね。」


「わかった。」


 番号札を受け取る。

 席に座ったリリナはスマホを取り出し、少し操作すると満面の笑みでそれを見つめる。


「…何見てるんだ?」


「あ、マナさんも見ますか?

 これです!」


 リリナからスマホを受け取る。


「………は?」


 可愛い…じゃない。

 映っていたのはフリフリのワンピースを着た俺だった。こんなものを着た覚えは無い。


「他にもありますよ。」


 指をスライドさせると次は水着だった。

 グラマラスな上半身にあどけない顔は―――

 ―――っておかしい。なんで着た覚えのない服を着た写真があるんだ?


「どうして?って顔してますね。」


 するわ。


「マネキンにちょちょっと神の力で細工してですね――」


 得意げにタネを明かしているリリナをよそに、俺は写真を見るふりをしてSDカードのフォーマットをしていた。

 一枚一枚消せるような量ではないし、本人の同意抜きでこんな写真を撮ったリリナへの罰と思えば罪悪感もわかなかった。


「……返す。」


「おや?どうしたんですかマナさん。

 可愛い貴方の写真を見て恥ずかしくなっちゃいましたか?」


 余裕ぶってろ。

 スマホのフォルダーを見るその時まではな…クックック…


『番号札3番のお客様―――』


 番号札に書かれた番号が読み上げられたので席を立つ。

 ついでにリリナが座っていた席とは別の席に腰を下ろす。

 さっさと食べて先に帰ろう。


「ああ!?そんな!!」


 今頃気付いたかバカめ。

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