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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元二章 新学期と名もなき神
14/112

元十四話 転校生は人気者と思ったら困った

 

「………」


「鴨木さん、何の本読んでるんだ?」


「さあな。でも、本を読んでる鴨木さんって画になるよなー」


「そうだよな!」


 昨日転校してきた鴨木さんは男子に人気だ。

 無口な性格のようで、昨日の質問攻めの時以外では話したところを見ていない。今朝はずっと本を読んでいる。


「リリナさんって結構フランクなんだね!」


「フランクだなんてそんな…私は皆さんと同じ女子高生ですよ。」


「てっきり高嶺の花かと…」


「止めてくださいよ、そんなのまっぴらごめんです。」


「……リリナさん、今日も可愛いな。」


「ああ。きれいだし、すげー優しそうだし…告っちゃおうかな。」


「よせよせ!どうせ相手にされないさ。」


「でも、リリナさんなら…」


 リリナは男女問わず人気だ。

 持ち前の明るさ、コミュ力で早くも女子の輪に入っている。

 容姿を鼻にかけないその柔らかい態度に男子連中はメロメロだ。


「ねえ、そろそろいいでしょ?」


「もうちょっと待って。」


「それもう何回目?早く私も撫でたいんだけど。」


 そして、俺は何故か女子に人気だ。

 女子にモテモテだというのにあまり喜べない。理由は…


「私は抱きしめてあげたい!」


「私はそれになでなでを追加する!」


「じゃあ、私は膝枕プラスなでなで!」


「まだまだね。私は膝枕プラス耳かきよ!

 お母さんって呼んでもらいながらね!」


「あ、じゃあ私授乳に変更!」


「「「「「!?」」」」」


「…冗談よ。」


 ミルクでももらおうかとでも言えば良かったのだろうか。

 残念ながら色々な事情でそんなことを言う勇気は出ない。非力な俺を許してくれ…

 とまあ、この通り扱いが完全に子供…というか娘だからである。

 お陰でスキンシップが多い。


「俺はお前らの娘じゃないぞ。」


「こういうちょっと生意気なところも良い!」


「アクセントって言うの?その男言葉も悪くない!」


「美少女にはなんでも似合うのよ!」


「「「「それ真理!!」」」」


 …男言葉(本当の俺)がアクセントか。

 馬鹿め、アクセント(そっち)が本体だ!


「ちょっと撫でる以外のスキンシップは遠慮してくれないか?

 俺はぬいぐるみでも抱き枕でもないんだぁ!?」


「生意気言うと抱きしめちゃうぞ?」


 それお前が抱きしめたいだけだよな、っていうか抱きしめてから言うな!

 …と言葉に出せない。これまでは誘拐犯(変態レズロリコン)やリリナだったから胸の中で好き勝手叫んでたが、クラスメイトとなると話は別だ。

 若干の距離があるだけに変な遠慮をしてしまう。


「あー!顔赤い!」


「可愛い!」


 解放された途端にこれだ。

 …可愛いのも困りものなんだな。

 この後すぐにホームルームが始まったので、膝枕や耳かき、ついでに授乳も回避できた。

 …ミルクでも






 放課後。

 俺たちは最近ますます客が増えてきているバイト先へ向かっていた。

 美人従業員の噂が広まり、客足が増えたせいで平日は一人で良かったはずのバイトが2人必要になったらしい。美人従業員はどうせリリナの事だろう。知ってる知ってる。

 …俺は見た目が小学生だから関係ないな。


「…マナさん。」


「なんだ?」


「“神は死んだ”!って、社会の先生が言ってましたよね。」


「ああ、正田先生か。」


 苗字に正がついていることから自己紹介の時にジャスティスと叫ぶ正田先生は、歴史・地理の担当をしている。

 全く授業に関係のない話をしている時にそんなことを言っていた。


「ニーチェ先生の受け売りだな。それが……なるほど。」


「生きてますよ。神。」


 まあ、元女神のリリナには思うところがあったんだろう。


「この世界にも神は居るんですよ。

 天照大神とかの有名どころから、司るものも名前も無い神まで…

 この国だけでも八百万やおよろずと言われるくらいなのに、それが全滅すると思いますか?」


「…異常に神が多いのは日本だけじゃないか?

 唯一神の宗教もあるんだし、世界的に見れば神は少ないんじゃないか?」


「この世界にも神話とかあるじゃないですか。北欧にもギリシャにも、日本にも…多分、他のところだって。」


「……そうだな。

 まあ、所詮一個人の意見だ。気にするな。

 それよりお前、朝来たら早速ラブレター来てたよな。どうだったんだ?」


 “神は死んだ”の論点、というか主旨から外れていることは棚に上げて話を切り上げる。

 バイト先に着くまで終わらなくなりそうだからだ。


「…付き合うと思いますか?

 ゲームセンターにバイト…JKライフを充実させようとしている私が、一目惚れとか言う薄っぺらい理由でそれを台無しにするとでも?」


「一目惚れの当事者と小説家に謝ってこい。」


 リリナは今、少なくない数のカップルと恋愛小説を敵に回してしまった。

 俺に出来るのは謝罪を促すことと、その後は見て見ぬふりをすることだけだ。


「………あ。

 まずいですよマナさん。時間が無いです。」


「え?あ!」


 告白の返事に行っていたリリナを待っていた為、結構時間ギリギリで出発していたことを忘れてのんびりと歩いてしまった。

 この後全力で店まで走ったが、予定時刻より一分遅刻した。







「ところで、鴨木さんなんですが…

 妙に私に視線を向けてくるんですよね。なんででしょうか。」


 今日の夕食のメニューは青白い謎スープと独特の臭いを放つパンだ。

 異世界の謎食材はもしかして冷蔵庫に複数入っている中が見えないタッパーの中にあるのだろうか。

 そのタッパーと生ごみの袋の中身は絶対に見ないと決意しながら返事をする。


「気のせいじゃないか?」


「いえ、彼女は本を読んでいても時折ちらちら視線を送ってくるんですよ。

 別に嫌がらせされてるわけでもないですし、害は与えてこないんですが…」


「なら放置で良いんじゃないか?

 もしかしたらお前の顔に何か付いてたのかもしれないし。」


「そんなヘマしませんよ。基矢さんじゃないんですから。」


「ひっかかる言い方だな。」


「言い返すのは口元に付いてるパンくずを取ってからにしてください。」


 口元を触ると本当にパンくずの感触がした。


「……とにかく、害は無いんだろ?別に良いじゃないか。クラスメイトのほとんどがお前を見てるぞ。」


「鴨木さんの視線からはどうも彼らとはまた別種の何かを感じると言いますか…とにかく、何故か気になるんですよ。」


「自意識過剰になってるだけじゃないのか?」


「だったらいいですけどね。

 私としては視線を向けられること自体、あんまり気持ちがいい物じゃないんです。」


「そういうものなのか。てっきり人気者になって天狗になってるかもなとか思ってたんだが。」


「…基矢さん。私をそういう人だと思ってたんですか?」


「ああ、割と。」


「………そう言えば基矢さん。

 憂佳さん…でしたっけ。彼女の家の場所まだ覚えてるんですよ。

 貴方に対する好意は悪い心じゃありませんよね?悪い心を砕いても、多分それは残って」

「待て待て待て待て待て待て待ておおお落ち着こうかまずは俺からのごめんなさいを受け入れて許す準備からだ深呼吸してスースースーケホッ…」


「貴方が落ち着いてください。過剰な戦力を投じようとした私が悪かったです。」


 深呼吸のおかげでちょっと頭が冷えた。


「……そう言えば、聞いてなかったな。

 なんでお前は俺が監禁されてた場所…というか、憂佳の家が分かったんだ?」


「………これです。」


 やや渋りながら差し出されたリリナのスマホの画面を手に取ってみると、住所らしきものが書かれていた。

 題は、[宇露基矢の居場所]。


「一体誰が…」


 メールアドレスに見覚えは無かった。少なくとも俺の知人ではない。


「このメールに返信したんですが、送信に失敗しました。多分、メールアドレスを変えられたんでしょうね。」


 このメールアドレス…ローマ字か?

 namonakikami…?


「…リリナ、こっちの世界に神様の知り合いっているか?」


「いませんよ。」


「このメールアドレス…“名もなき神”って読めないか?」


 リリナは言った。

 この世界には名前の無い神も居ると。

 このメールの主はもしかすると――


「…読めますね。

 もしかして……」


「どうした?」


「…この世界に来て、基矢さんの戸籍を変えている最中から妙に神の力の負担が大きくなったんですよ。

 そのせいで神の力が想定よりも消費が早くなって、周囲の認知を変えられずこんな中途半端な状況を作ってしまったんです。

 もしかしたら、その“名もなき神”に神の力を奪われてたのかもしれませんね。力の使用に便乗して…」


 解決していたように見えた誘拐事件。

 しかしそれは完全に終わったわけではなく、別の何かの始まりに繋がっていたらしい。

〇〇〇〇「ミルクでも貰おうか。」


ほのかに香るシリアス。

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