元十三話 転校生を演じたら早くも疑われた
「今日からこのクラスの仲間になる転校生を紹介する。入ってきなさい。」
「「はい!」」
始業式が終わり、転校生の紹介が始まる。
リリナはやや緊張した面持ちで引き戸を開け、教室に入る。俺も後に続く。
「南凧野高校から転校してきました、リリナ・ルースです。
これからよろしくお願いします!」
「宇露マナです。」
「同じく南凧野高校から。鴨木奈菜美、よろしく。」
俺の自己紹介に眉をひそめた生木先生だったが、すぐに表情を戻す。
さっき生木先生が言いたかったことは、転校生はリリナ一人ではなく、鴨木さんもいるということだったらしい。
鴨木さんは黒髪を肩甲骨辺りまで伸ばした大和撫子風の美少女だった。質問が俺たちだけに集中して彼女だけあぶれることは確実に無いだろう。
それはすなわち俺とリリナの質問勢力が分散されるということでもある。正直ありがたい。
「皆、仲良くするように。
特にルースさんは外国から来たばかりだ。分からないこともあると思うからしっかり教えてやれ。」
「皆さん、リリナと名前で呼んでください。先生も。
私が居た国では皆名前で呼んでいたので。」
「そうか。
では、リリナ君も分からないことがあれば気兼ねなく訊いてくれ。皆親切に教えてくれるはずだ。」
「はい!」
「先生!」
クラスメイトの一人が声を上げる。
「なにかね?」
「宇露く…基矢君はどうしたんですか!?」
げっ、余計なことを。
「宇露…基矢?
聞いたこと無いな……宇露?
マナ君、親戚に基矢という方は?」
「えっ!?
いえ、いませんが…」
「そうか。」
「先生!?嘘ですよね!?」
「あんまり先生をからかわないでくれ。
三か月も一緒に居る大切なクラスなんだ、その生徒のことを忘れる訳が無いだろう。
では、今日は解散だ、気を付けて帰れ。」
先生は教室から出て行く。今日は始業式だけで授業は無いので帰れる。
「宇露君…どうしたんだろう…」
この日から、1-Bで男子高校生が一人消えたという噂が流れたらしい。
「宇露、マナっていったか?」
…達治だ。
放課後の質問攻めのほとぼりが冷め、リリナと帰ろうとしたところだったが下駄箱で待ち伏せされていたらしい。
「そうだけど?」
「ちょっと2人で話したい。」
下校中の生徒はそのセリフに騒然とした。はたから見れば告白しようとしているようにも見えなくもない。
…達治がロリコンだったとかそんな噂が流れそうだな、明日の噂が楽しみだ。
「リリナ、帰っててくれ。」
「は~い。」
リリナを先に帰らせ、達治に付いて行く。辿り着いたのは近所の公園だった。
平日のこの時間は人通りが少ない。というか今に至っては誰も居なかった。
「……お前、基矢か?」
「えっ!?」
辿り着くなりいきなり正体を見抜かれたのかと思った。
…少しとぼけて様子を見るか。
「何言ってんだ、そんな訳無いだろ。」
「その言葉遣い、基矢にそっくりだ。
それと、その声…一週間前に電話した時、基矢が作ったって言う女声にそっくりだ。
どうなんだ?」
「………」
やはり、あの時電話に出たのは間違いだった。
女声と言うだけでごまかせたつもりだったが、もし次に会った時どうなるかを考えていなかった。
ここからごまかすのは難しいか…?
「…気のせいじゃないか?
その基矢って奴が女声を作れるとして、俺の声にそっくりだから同一人物だろって言いたいのか?」
「ああ。」
達治の目は本気だった。
ここまで見事な証拠が揃っているのだ、本気で疑う事は避けないだろう。
「……はははは!偶然に決まってるだろ!
面白いこと言うな、基矢は男だろ?それがこんなちっちゃい女の子になるかって!!
現実はファンタジーじゃないんだぞ?」
なってるけどなー…
「………だよなあ!
でも、何か基矢のことは知らないのか?」
「さっきも言った通り、そいつのことは知らない。」
「そうか…
実は、一週間前の電話以降、いくら電話してもつながらないんだ。
何かあったんじゃないかって不安で………」
………
「基矢は……無事だよ。」
「え?」
「あいつ、スマホを沈めて壊したみたいで…連絡が通じなかったのはそのせいだ。」
「そうか、なるほど…
でも、なんで学校に…?」
「それは……分からない。
ただ、俺のスマホには時々アイツから連絡が来る。無事だってな。
どこに行ったかは教えてくれない。でも、元気だってことが分かるならそれでいい。」
「……そうか…
…生木先生が覚えてなかったの、どういうことなんだろうな…」
「俺は全知全能でもなんでもない。何でもは分からないさ。知ってることしか言えない。」
「そうか…」
下手な理由でごまかすよりも知らないと言った方が良いだろう。
「…ところでお前、基矢の電話番号とメールアドレスは知ってるのか?
連絡手段っていったら買い替えた携帯とかしか思いつかないんだが…」
あああああああああああああああ!!
しまった、偽の番号やメアドなんて教えられないし、俺のを教えるなんてご法度だ。
変に情けをかけるからこんなことに……
「…なんだ、突然きょろきょろと…」
「あー!アレだ!えっとなんていうんだっけアレ!」
「アレ…公衆電話か。」
無意味ながら周りを見ていたら公衆電話を見つけた…のは良いがマジで度忘れしてしまった。
いい方向に転んだみたいなので結果オーライ。
「ちょっと次は場所も聞いてみるから!それじゃ!」
「あ、おい!」
達治が何か言う前に退散する。
これでこの話を有耶無耶に…してくれるといいな。
ともあれ、達治の詮索を強引ながらも振り切ることが出来た。それだけ良しとしよう。
「今日は危なかったですね。後に引きそうな逃げ方をして…」
「なんで見てたんだよ…」
「面白そうだったからです!」
夕食の席は一つ空いている。モア姉は今朝家に帰ったからだ。
実はあの後付いて来て、俺の強引な突破を見ていたリリナからダメ出しを喰らっていた。
耳が痛い。
「…食べないんですか?」
「いや、食うけど…ちょっと見た目がな。」
「なんですか見た目見た目って。前回作った時も食べるの渋ってたじゃないですか。」
「俺の世界にこんなに鮮やかなステーキは無い。」
青い肉に溶けるような水色のソースがかかったステーキを前にナイフもフォークも持てない。
他にあるのが赤いレタスっぽい野菜のサラダに紫のスイカモドキ。食欲がわかない。
「そうですか?むしろ、この世界の食べ物の色が地味だと思うのですが…」
「お前らの世界の食べ物は全部こんななのかよ…」
絶対にリリナの世界には行きたくない。食関連が絶望的に合わない。
意を決して肉を切り分けて口に運ぶと柔らかい肉の触感にあふれ出る肉汁。
食べさえすればこちらの世界に負けず劣らずのステーキだ。
味とかは良いんだよな…
「そしてそれに合うビール!さいっこう!」
「缶ビールを片手にステーキを頬張る女子高生なんていないぞ。」
すでにビールの缶が何本か床に転がっている。
モア姉が買ってきた物らしい。一昨日2人で晩酌していたが、その余りだろうか。
「私が普通になるのではなく、普通が私になればいいのです!」
「無茶苦茶だな…」
「まずは貴方から布教します!一応世に居るJKの1人ですからね!」
「見た目はな。」
見た目はJK、頭脳は男。
「…見た目は小学生ですよ。」
見た目はJS、頭脳は男……
「そうだったな…」
「ああ、ごめんなさい。そんな気分ではせっかくのお酒も美味しくないですよね。」
「飲まないぞ。」
「え?」
「未成年、20歳未満は飲酒禁止だ。
それに、飲んだ同級生からまずいとか苦いとか、良い反応が無いから飲みたくないんだよ。」
「飲んでみなきゃわかりませんよ!!
さあ、飲んでください!グイっと!私の世界では15歳で飲酒可能です!」
「いらんいらん!お前との間接キスなんざまっぴらごめんだ!
あとお前の世界の法律は知らん!ここは日本だ!」
「コップに入れますから!」
「だとしても飲まん!」
「……子供は飲めないんでしたね。」
「今なんて言った?」
「やっぱり見た目が小学生の貴方じゃ、子供過ぎて飲めないですよねって言ったんですよ!」
「なんだと!?
言ってなかったかもしれないが、俺のばーちゃんはハーフだ!外国の血が混じってんだからそのくらい飲んでやるさ!」
日本人は酒に弱い…と保健の授業で聞いたことがある。
外国の血が混ざってる俺なら少しは飲めるだろう。多分。
「なら、どうぞ!」
お茶が入っていた俺のコップへ、リリナが持っていたビールをつぎ込む。
コップの三分の一まで溜まったところで缶から滴が落ちる。もう無いようだ。
「いくぞ!」
ビールを口に含む。
「んっ…!」
予想よりも強い、アルコール独特の苦み。
顔をしかめながら頑張ってそれを飲み込む。
「っはぁ~…苦い…」
「……なんかえっちいですね。」
どこが。
もう一口飲む。
「まずっ!」
もう一口。
「マズ過ぎる!」
注いでもう一口。
「なんだこれ?」
「吐きそう…」
「飲み過ぎでは…?」
「まずい…もう一杯…」
その後、モア姉が買ってくれた酒を全て消費することになり、俺の部屋には俺の歳の数以上の缶が転がった。
翌朝俺は二日酔いに悩まされ、リリナに治療してもらった。
…アルハラと未成年の飲酒ダメ、絶対。




