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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元最終章 夜明け
110/112

元百十話 助けられなくて助けられた

まさかの5000字越え。

 

「その時基矢さんは―――」


「守っていう化け物みたいな人が居て―――」


 クリスマス当日。

 今日は当初の予定通り、家族(+数人)一日家でまったり過ごしている。

 各々時折昼食を口に運びながら他愛もない話題で盛り上がっている。


「お主が基矢というのは信じられんのう…」


 で、俺はレイティの祖父の話し相手になっている。

 翻訳魔法は相手の印象に合わせてか、話し方に合わせてかどうかは分からないがレイティの祖父の口調をジジ臭く翻訳していた。生まれてからずっと英語しか話さないじーちゃんを見ていた俺としては急にジジチックな日本語を話し出したじーちゃんに違和感しか感じない。


「おじいちゃん、さっき説明したでしょ。」


「ワシを老人扱いする出ないわい!まだ80を超えたばかりじゃぞ?」


 長寿大国って言われてる日本人の平均寿命を超えてるんですけど。アンタ実は日本人じゃないよね?

 あと、80過ぎは充分ジジイです。その理論適応したら中年も青年だな。


「朝起きたらそうなっておったそうじゃが…その日にUFOの目撃証言とか、不自然に記憶が無くなってたとかは無かったのかのう?」


「ねーよ。」


「地球の物とは思えない超現象じゃ!ワシは間違いなく宇宙人のせいじゃと思っておる!」


 俺の目はリリナの一瞬の不自然な硬直を見逃さなかった。ちょっと聞いてやがったなアイツ。

 異世界人…異世界神もある意味宇宙人だよな。


「そうは言われても、UFOの目撃証言も無ければ不自然な記憶の改竄の跡も無いんだ。証拠は無いぞ?」


「い~や、間違いなく宇宙人の仕業じゃ。

 宇宙人め、居たらとっ捕まえて調べ尽くしてやるわい。」


 今度はジーナが反応した。

 絶対バレるなよ。あとお前も聞いてたんかい。


「…そう言えば、基矢のそっくりさん…おかしくないかの?」


 今度はマヤにまで…


「おかしくは無いだろ。

 そっくりさんは世界に2、3人居るって話だろ?地球には70億人もいるわけだし、そのうちの2、3人くらい似てるやつが居ても良いんじゃないか?」


「それにしたって異常じゃ。

 いくらそっくりさんとは言っても、せいぜい顔のパーツがいくらか似通っておる程度のはず。別の部分に差異は出るはずじゃ。

 しかし、お前さんとマヤ…と言ったかの。2人にそんな違いは無い。顔どころか体型に至るまで全て同じというのは明らかにおかしい。

 まるで今の基矢を細胞単位でコピーして作ったようじゃ。気を付けろ基矢、もしかしたらそいつは宇宙人に作られたお前さんのコピーで、その内お主に成り代わってしまうかもしれん。」


 …マヤの背中がびっしょり濡れている。

 この部屋はやや寒いくらいに冷房が効いているので、暑さのせいではないだろう。

 今はっきりと分かった。このじーさん超危険だ…マジでリリナ達の正体を暴きかねない。


「基矢、暑いのかの?ワシにはちと冷えすぎるくらいなのじゃが…」


 ヤバい、俺まで冷や汗が…


「おじいちゃん、冗談はそれくらいにしたら?」


「も、モア…ワシは冗談なんぞいっとらん。」


 助け舟を出してくれたのはモア姉だった。

 ご本人様達は冷や汗をかいているし、事情を知っている俺の両親や詞亜はレイティの家族との話に夢中になっている。もう頼れるのはモア姉しかいない。


「大体、宇宙人だのコピーだの、あるわけがない。」


「いや、宇宙人は実在するんじゃ!」


「はいはい。基矢もわざわざのってあげる必要は無いから。」


「あ、ああ…」


 流石姉貴…図星刺されてもクールだぜ。

 いつものことだって感じで流しやがった。モア姉の鉄面皮に救われたな。


「…モア姉、ありがとう。」


 じーちゃんから離れると小声でモア姉にお礼を言う。


「……今のは肝が冷えた。」


 よく見ると首筋に汗が伝っている。

 そんな心境で助けてくれたのか……お礼は弾まないとな。


「基矢さん!」


「ん?なんだ?」


 唐突にリリナに呼ばれた。

 さっきのじーちゃんの件だろうか。


「私をリリィって呼んでください!」


「……はぁ?」


 多分俺は今なんだいきなり意味わかんねーぞという顔をしているだろう。だってそう思ってるしそれを隠してないし。


「お願いします!」


 でも、リリナは真面目に頼んでいるらしい。結構必死にお願いしている。


「……リリィ?」


「ありがとうございます!では!

 あ、レイティさん。もう良いですよ。」


「……今の何?リリィ。」


「いえいえ、お気になさらず。」


 レイティが考えた愛称だったか。

 たった一文字を略すのか…と思うが親愛の証にとやかく言うのは無粋だろう。

 アルバイトとかなんで二文字だけ略すんだよバイトが有償でアルバイトが無償だと誤解しちまってたよ昔。


「やっぱり良いものですね、自分の名前で呼ばれるというのは…」


 小さく拡がった誰にも聞こえない声。

 ただ、彼女の表情から感慨深さだけは感じ取れた。


「何か言った?」


「いえ、何も。」


 その直後の寂しそうな、懐かしさを感じたような顔。

 一瞬だけの表情を、俺は見逃さなかった。


「リリナ…?」






「なにかと思ったら、実は好きだったんデスって告白されて――」


 時間は流れて夕食。クリスマスの夜は盛大にバーベキューが開かれる。そこで集まった両家更なる雑談に勤しむのだ。今回は同居組と詞亜とニアーがいるけど。

 4ヶ月蓄積してきた俺の話題はとっくに尽き、完全に聞き手に回っている。

 あれだけ濃い4ヶ月を過ごせばそう簡単に話の種が尽きそうにないものだが、いかんせん秘密にすることが多すぎる。

 秘密(それ)さえなければ今夜どころか明日の夜までだってずっと話していられる自信はあるし、出来ることなら話したいのだが…

 レール家の面々には俺の性別は寝てて起きたらこうなってたぐらいにしか話してない。その他この世のものとは思えない話はしてないししないと決めているのだ。

 他の皆はよくもまああんなに話せるものだ。特に女性陣の話題のストックについては目を見張るものがある。


「それで、答えたんデスよ、好きな人がいるから付き合えないって。

 あの時の彼の顔は見ててスカッとしたデス。」


 ここだけ聞くとレイティが酷い奴に聞こえるが、その実そうでもない。正直俺もスカッとしている。

 というのも、レイティに告白したという奴はレイティにしつこく言い寄り、迷惑だと言っても聞かずしまいにはレイティの友達を悪く言っていたとか。俺だったらグーがフライアウェイするな。

 所謂ざまぁって奴だ。


「確かに、話を聞く限りではかなりしつこかったみたいだしな…

 でも、その後大丈夫だったのか?そんな奴なら逆上してなんかやらかしそうだけど。」


「そうなんデスよ!

 近くにボーイフレンドに待機してもらってたのは正解だったデス!

 告白を蹴ったら壁に押し付けられたんデスが、なんとか友達のお陰で助かったんデス!

 あれが基矢だったら良かったのに…」


「助けてもらったのに文句言うなよ…」


「勿論感謝はしてるデスし、お礼もしたデスよ。

 ただ、1日デートする権利だとか言ったときは思わずフィストがうなりそうになったデスが。」


 もしかしてそのボーイフレンド勘違いしちゃったんじゃないか…?

 …なんか申し訳無い気持ちになるな。俺のせいっぽいもん。


「じゃあ、何でお礼したんだ?」


「レストランで食事したデス。」


 実質デートじゃねーか。


「勿論、私の奢りデス。男の甲斐性がとか言って私の分まで払おうとしてたみたいデスがあくまでお礼だったんデスから。

 それに、彼の財布にはその時お金が無かったデスしね。」


「多分そいつ白い目で見られただろうな。」


 最初から奢って貰う気マンマンである。多分、レストランに来てから奢らせるのは悪いと思ったんだろうな。

 計画性の無い奴だ。


「あ、俺もちょっとしたざまぁ話があるんだが。」


「そうなんデスか?じゃあ、お願いするデス。」


「オッケーだ。

 先月のことなんだけど――」


 話した内容は増田のことだ。

 リリナが記憶喪失になったこと、増田が彼氏と偽って体目的でリリナに近づいたこと、リリナ制裁の後は悲惨なことになった等の真実に、実は何又もしてるとかそれまでの被害者に袋叩きにされて良いように使われてるなどちょこっと誇張を混ぜ混ぜしてペラペラした。


「許せないデス!私も一回殴らせてください!」


「いや、あいつ死にかけてたし、それまでの悪行に見合った悲惨なことになってるし、もうアイツと会いたくないからいいよ。」


 あんな奴の顔なんてもう二度と見たくない。

 俺自身も被害に遭ったと言うのもあるが、あの顔を見たら滅茶苦茶腹が立つあのニヤけ顔を思い出すから。


「……でも、正直複雑な気持ちデス。」


「どうして?」


「私もそうやって基矢に助けてもらいたいデス…」


 ……


「…いや、俺は助けられなかった。」


「え?助けてたじゃないデスか。」


「俺は増田を一回蹴っただけで、その後俺自身も危なかった。

 リリナの記憶があの時に戻ってなかったら、俺もリリナも…

 …いつだってそうだった。俺には誰も助けられない。助けてもらってばっかりだ。」


 俺は今まで誰も助けられなかった。助けてもらってばかりだった。

 優佳に誘拐された時も、鴨木さんに捕まった時も。

 じょうちゃんと一緒に誘拐されそうになった時も、田倉を振った時も、研究所にジーナを助けに行った時も、ジーナと再び研究所に潜入した時も、リリナが記憶喪失になって落ち込んだ時も、詞亜がコンビニで連れていかれそうになった時も、全部誰かに助けてもらっていた。

 守に、達治に、ジーナに、ギーナに…そして、リリナに。

 俺には誰も救えない。自分ですら救えない。誰かに救ってもらうことでしか危機を乗り越えられない。

 自分の弱さを呪いたくなる。自分を、誰かを守れる力が欲しい。

 助けられなくても、助けられるように。


「…いえ、私は基矢に助けられたデスよ。

 基矢が助けてくれなかったら、今でもニアーとは仲直りして無かったデスから。」


「…それはレイティが頑張ったからだよ。

 俺はちょっと後押ししただけだ。」


「基矢からすれば、確かにそれだけだったかもしれないデスが…

 私は助けられたと思って、感謝してるデスよ。

 他の人も同じじゃないデスか?基矢と同じように大したことをしてないと思ってるかもしれないデスし、私と同じように助けてもらえたと思ってるかもしれないデス。

 それに、助けられたことは誇れることデス。

 困った時に助けてくれる、助け合える仲間を持ってるんデスから。」


「…そうだな。

 ありがとう、レイティ。」


「いえ、大したことはしてないデスよ。思ってたことを言っただけデス。」


「そうか。」


 微笑み混じりの声。温かくなる心。

 沈んでいた心の浮上。内なる陽圧。

 レイティもまた、誇れる俺の仲間だ。


「えー、宴もたけなわですが、ここで締めさせて頂きます!!」


 と、ここで酒により顔を赤くしたレイティの父が締めに入る。

 開始から二時間くらい経っているので肉や野菜が無くなっている。バーベキューも終わりか…


「今年はいつもより少し賑やかになりましたが、誰一人欠けることなく」


「皆じゃないよ!!」


 叫んだのはニアーだった。

 レイティの父親は酔いが醒めそうなほど驚いた顔をしている。他の誰もがニアーに注目していた。


「だって、基矢が居ないもん!!」


「…なんだ、おどかすなよ。基矢ならそこに居るじゃないか。確かに色々と変わったかもしれないが…」


「違うもん!あんなの基矢じゃないもん!」


「ニアー…信じられない気持ちは分かるデスが、彼女は間違いなく基矢なんデス。」


「ちがうちがうちがう!ぜったいにこんなのもとやじゃないもん!!

 だって、だって…そんなのありえないんだもん!!もとやがそんなこと…おんなのこになりたいなんておもってるわけないもん!!

 もとやは…ちょっとなさけないけど、いいおにいちゃんだったもん……」


「…ニアーちゃ」

「うるさい!もとやとおなじよびかたしないでよ!!」


「待ってくれ!」


 涙を流しながら走り去るニアーを追う。

 しかし、肩を掴まれて足を止められた。


「放せモア姉!」


「基矢が行ったら逆効果。

 私が慰めに行く。基矢は皆と一緒に片付けしてて。」


「…お願い、モア。

 基矢は私が抑えておくデスから、ニアーのことはお願いするデス。」


「分かった。」


 レイティが俺の手を握ると、モア姉が肩から手を放してニアーの後を追っていった。


「レイティ…」


「私も、もちろん慰めに行きたいデス。

 でも、私は基矢を擁護してたデス。だから私が行っても逆効果デス。」


「……」


 …レイティも抑えてるんだ。俺も抑えないと。

 そうは思っても心に湧き上がるこの焦燥感はどうすれば良いだろう。

 ……こっそり後を追うか?

 いや、ニアーに何を言えば良いのか分からない。俺が基矢と言うことを証明しようとしても聞く耳を持ってくれないだろうし、余計に心を荒らすだけになるかもしれない。

 何を言えば良いのか。ニアーの求めている物を探す為に今の会話を思い出す。


『だって、だって…そんなのありえないんだもん!!もとやがそんなこと…おんなのこになりたいなんておもってるわけないもん!!』


 ハッとしてリリナを見る。

 使用済みの紙皿を持ちながら唇をかみしめている。

 その動きは完全に止まっていた。


「…リリナ、その…ニアーちゃんが言ってたことなんだけどさ…」


「……いえ、大丈夫ですよ。

 この私に、慰めなど無用です!」


 明らかに無理な笑顔を作っている。

 そんな痛々しい表情を見てしまった俺は、これ以上何も言えず。

 そうか、とだけ言って片付けを始めた。

次回、最終回。

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