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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十三章 裸の心
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第百四話 思い出したけど覚えてなかった

 

「いって…お前、何すんだ…」


 頬をさすりながら立ち上がろうとする桝田を冷たく見下ろす。

 頭の中が煮えたぎるような怒りを抑えようともせずに睨みつける。


「それは俺の台詞だ。

 お前…リリナに何をしようとした?」


「お前には関係無い事だよ!さっさと失せろ!」


 今までのチャラ言葉はどこへやら。冷静さを欠いているからか荒々しい口調に変化している。


「大ありだ馬鹿野郎!!

 良いか!?俺はな、リリナの事が大好きなんだよ!

 お前なんかに奪われてたまるかって思うくらいにな!!」


「マナさん…!」


 怒りの為か、余計な迷いを一時的に捨てたからかすんなりと言えた。これもまた、“裸の心”なのだろう。

 そうか、これが俺の気持ちだったんだ…


「うるせえんだよ!お前も一緒にブッ!?」


「ああ!?俺も一緒になんだって!?」


 俺にまでその目を向けるか…!

 どこまでも屑な野郎だ…慈悲も何も要らないな、こんな奴。

 また倒れ込んだ桝田を踏みにじろうと近付く。


「……リリナ、放せ。」


 進行(それ)を妨げたのはまたしてもリリナの抱擁だった。


「止めてくださいマナさん!

 私の為に怒ってくれるのは嬉しいです、さっき大好きと言ってくれたことも嬉しいですし、マナさんにあんな目を向けられたことは許せません!

 ですが、こんなマナさんは見たくないんです!止めてほしいんです…!」


「………」


 ちょっと、頭に血が上ってたな。

 リリナの言葉で少し冷静さを取り戻した俺は前に出していた足を戻した。

 蹴った足と殴った拳が痛み始める。頭が冷えたせいでやっと痛みに気付いたのだろう。


「……ゴメン、リリナ。」


「いえ、止めてくれてありがとうございます。

 それと、ごめんなさい…私のせいで、あんなことをさせてしまって…」


 リリナが俺を解放し、ゆっくりと離れていく。

 倒れ込む桝田を見て一瞬心拍数が上がるが、すぐに振り返って視界から外した。


「…リリナ、帰ろう。

 帰ったらまた、お前の故郷の料理を作って――」

「マナさん!」


 駆け寄るリリナ、後ろからの踏み込んだような足音。

 振り向いた俺の視界いっぱいに拳が移り、反射的にリリナを横に突き飛ばす。


「ぐぅっ…」


 歯を食いしばって痛みをこらえる。

 頬が燃えるように熱い。まるで火に炙られてる様だ。


「随分と舐めたことしてくれたじゃねーか…あぁ!?

 もうちょっとでリリナとヤれたのによぉ…何全部台無しにしてくれてんだ!!

 そういや、昨日リリナはお前とどっかに行ってたよな…それからおかしくなったんだ!

 その時お前はリリナに何を吹き込んだ!?答えて見ろよ!答えないとお前もリリナと一緒に…」


 桝田は倒れ込んだ俺を何度も踏みつける。

 ……やばい、身動きが取れない。

 蹴られ続けているからだろう。いや、殴られたせいか、頭に血が上っていたせいか…手も足もブルブル震えている。


「答えねえか?答えられねえか?ならもう…」


 ぼやけていく視界に迫ってくる手が移る。

 ミイラ取りがミイラにって奴か…笑えない。

 せめて達治とかジーナとかを連れてくるんだったな…今連絡を取れても多分間に合わない。その時にはもう……


「…マナ、さん…」


 遠くでリリナの声が聞こえてくる。

 既に桝田の手は俺の胸に到達している。


「おお、やわらけぇじゃねぇか…

 さて、十分に堪能したら次は―――」


 もう、駄目か。

 諦めて身を強張らせたその時――


「…何をしてるんですか?」


 ――リリナの冷たい声が耳に響いた。


「あぁ?みりゃわかるだろ、っていうか、ずっと見てただろ。

 お前のお友達を…あああああああああああ!?」


 リリナの手は桝田の肩を掴んでいた。

 ただ掴んでいるのではない。桝田の肩が少し潰されていると錯覚する程に強く掴んでいた。


「全部思い出しましたよ…

 貴方、別に私と付き合ったことは無いじゃないですか。

 それどころか、手ひどくキッパリと断ったはずですよね?あの事故の日に。」


 ……記憶が戻ったのか?リリナ…


「いたたたたたたた!は、離せ!さもないと」

「さもないと?何をするかは分かりませんが、その前に貴方の肩が潰れますよ?」


「ああああああああああああああああああ!!」


 更にリリナの手から青白い範囲が広がる。

 桝田の悲鳴もより強くなった。


「まず、貴方の目的は何ですか?大体想像は付きますが…」


「それを、言うとおもっ…あああああああああああああああ!!か、体目的だよ!お前をおかああああああああああああ!!」


「そうですかそうですか…

 ご注文は正義の鉄拳ですか?それとも怒りの鉄槌ですか?

 …ああ、私の体が御所望でしたね。でしたらその体に叩き込んであげますよ…

 私の()を、たっぷりと。」


 リリナは肩の手を持ち上げ、桝田を放り投げる。

 投げられた桝田にはアッパー気味の右ストレートが突き刺さり、数メートル打ちあがる。


「ああああああああああああああああ!!」


 打ちあがった先には右手を真っ直ぐに振り下ろしているリリナが居た。

 打ち上げられた桝田は上からの打撃を受け、リリナの拳ごと地面に衝突した。

 桝田は失神しているらしく、白目を剥いて時折痙攣している。ここまでくると生死が心配だ。


「安心してください、死んではいませんよ。

 大丈夫ですか?()()さん?」


「……ああ、助けてくれてありがとうな、元女神さん。」


「素直じゃありませんね、元野郎さん。」


「ッハハハ…」


「ふふっ…」


「「アハハハハハハハ!」」


 懐かしい呼び名、懐かしい憎まれ口。

 俺たちは日が暮れるまで笑いあった。







 翌日。

 相変わらずの回復力を見せた俺の体は昨日の喧嘩の跡を見せない。

 俺はそれを良いことに喧嘩を無かったことにして、ジーナ、鴨木さん、達治、田倉の四人に昨日の事を話していた。後で別のクラスの詞亜、城司姉妹にも話すつもりだ。

 リリナの記憶が戻った事と桝田が体目的でリリナの彼氏を偽っていたこと…そして―――


「…じゃあ、リリナさんはここ二週間くらいの記憶が無いってこと?」


「ああ…」


 ―――リリナが記憶喪失の間の事を全く覚えていなかったこと。

 昨日調べてみたところ、記憶喪失になった人間が記憶喪失になっている間の事を覚えていないという事もあるらしい。

 無論、記憶喪失の間の事も全て覚えていることもあれば思い出せないまま一生を過ごすこともあるらしいが…今回のリリナは前述のパターンを引いてしまったのだ。

 それにしては、わざわざ俺を基矢と呼んだり、元野郎と揶揄したり、怪我にあんまりうろたえてなかったり…何か引っかかるような気もするが、その時は記憶の混濁でも起こっていたのだろうか。


「良かったね、リリちゃん!」


「そう言われましても、気が付いたら二週間経ってたとしか…」


「リリナは覚えてないみたいだけど、もう本当に心配したんだからね!」


「それはすみません…それで、今朝から訊かれてるんですが、私に彼氏が出来ていたとかって噂は何なんですか?彼氏なんていないんですが…」


「え!?リリちゃん彼氏居ないの!?」


「きっとリリナを騙してたんだよその男!」


「「「ひっど~い!」」」


「…なんでリリちゃんも言うの?」


「あ、いえ。分かりませんが最低だと思って。」


 …桝田の評価も地に落ちたな。


「フフフ…」


「ま、マナ?どうしたの?」


「マナ、なんだか怖い…」


「これって昨日と同じ…!?」


「ど、どうしたんだマナ!?また嫌な事でも思い出したのか!?」


「い~や?なんでもないぞぉ?」


「何でもない顔じゃないぞマナ!?」


「フッフッフ…ハハハハ…」


「こ、怖い!誰か、早くマナをなんとかして!」


「リリナさーん!助けてくれー!!」


「はいはーい!わっかりましたー!」


「いってぇ!?何すんだリリナ!」


「あ、正気に戻った…」







 リリナが記憶喪失ではなくなったので、バイトのシフトが通常通りに戻る。

 久々のリリナとのバイトはなんだか楽しかった。すぐそこにいつも通りのリリナが居る。それだけで心が温かかった。

 そこにリリナが記憶を取り戻したと聞いた城司姉妹やモア姉が来てすったもんだあったが、無事に一日が終わりそうだ。

 ……と、真っ黒なポトフモドキを口に運びながら回想にふけっている。

 リリナの異世界料理も久々だ。どうか新しく買った食器や調理器具をダメにしないでほしい。今まで駄目にしたことは無いけど。


「やっぱりこのプロみたいな味はリリナでしか出せないねー…」


「ああ、俺はこんなに美味く出来ないな…」


 ブラックなラーメンも真っ青…むしろ真っ黒になりそうな程黒いスープだが、見た目に反してあっさりした味でとてもおいしい。


「ありがとうございます。

 そう言えば、基矢さんも私の世界の料理を作ったんですよね。今度作ってくれませんか?」


「………いや、食器とか駄目にしたくないから止めとく。」


「ああ、処理の方法は私が教えますよ。調理法も私が手取り足取り!」


「手取り足取り、か…久々な嫌ワードだな…」


 でも、元のリリナが帰ってきた気がしてなんだか嬉しい。基矢って呼んでくれるし。


「……ん?俺リリナの世界の料理作ったって言ってたっけ…?」


「私もリリナには言ってなかったような…」


「あーえっと、いえ、又聞きですよ!誰でしたっけえっとまあそんなことはどうでも良いじゃないですか!」


「どうでも良いって…お前、」


 デデーーーン!テッテッテ…


「おっと、電話だ。」


「すごい着信音ですね…びっくりしました。」


 この着信音は確か……あれ?誰だっけ?

 とりあえず知人であることは確かなので電話に出る。


「もしもし?」


『モトヤ!おヒサしぶりデス!』


「…レイティ?お前、いつの間に俺のスマホに番号を…」


 レイティは俺のばあちゃんの…えっと、とにかく遠い外国の親戚だ。

 外国産の幼馴染で、数少ない俺を基矢()と知る人物である。まあレイティの両親も知ってるんだけど。

 確か、レイティとは番号の交換をしてなかったはずなんだが…


『アンショウバンゴウがマエとオナじだったからトけたんデスヨ!』


「おいしれっと何やってんだ。勝手に解除するんじゃねーよ。」


 俺の目を盗んでなんてことを…とりあえず電話終わったら暗証番号変えとこ。


「…それで、なんで今電話してきたんだ?」


『モトヤがワスれてないかとオモってカクニンするタメデス。

 ライシュウのキンヨウビ、クリスマス(Christmas)イブ(eve)イブ(eve)、ワタシタチのイエにキてくれるんデスよね!?オーストラリア(Australia)に!』


 ………やっべ、完全に忘れてた。

これにて元13章は終了です。

いやーきっつかった!序盤なんてもう鬱になりそうになりながら涙をこらえて書いてましたしね。

あんまり鬱矢が続くとくどくなりそうだったので二回で納めましたが、今度は鬱ナのターン。このコンボきっつかったですはい。


さて、ここから重要なお知らせです。


なんと!






次章で最終章です!


全てのパーツはそろったので、後はもうエンディングに突っ込むだけなんです!

書き始めからどんなエンディングにするかは考えていて、そのエンディングに向かってずっと走り続けてきたつもりです。時に物凄い回り道もしましたけど。

と言う訳で今後執筆・投稿予定の最終章、お楽しみに!

…最終章の名前決めなきゃ。

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