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元〇〇と呼ばないで!  作者: じりゅー
元十三章 裸の心
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元百話 封印したら凄くポイズンだった

 

「…と言う訳で、リリナ君は今日からまた学校に復帰した。

 皆も知っての通り記憶喪失だそうだから、色々大変なこともあるだろう。そこは皆でカバーしていってくれ。」


 翌日のホームルームではリリナの復帰が先生から発表された。

 と言っても皆お見舞いに行った時に知ってたらしいし、別に驚く生徒は居ない。

 ホームルームの後、クラスメイトからの温かい歓迎を受けているリリナを見て安堵する。

 記憶喪失を理由に居場所を失うことはなさそうだ。そんなクラスメイト達じゃないということは知っていたが、こうして見ているとやっぱり安心する。

 廊下を見るともうすぐ授業が始まるというのに復帰したリリナを見に来た生徒でごったがえしている。

 よく見るとリリナに群がる生徒の中にはクラスでは見ない顔もあった。いつの間に侵入してたんだアイツら。


「……ん?」


 ふと、リリナを見る1人の男子生徒が目に入る。

 どうしてそいつだけ気になったのかというと、明らかに周りと違う表情をしていたからだ。

 周りはワイワイしているというか、喜ばしいという雰囲気だがそいつだけは妙にニヤニヤしていた。気持ち悪い。

 リリナもそいつと視線を合わせると表情を変えた…ような気がした。

 …なんか嫌だな。この感じ。

 突然生まれた言いようのない不快感に苛まれながら最初の授業の準備を整えると、丁度チャイムが鳴った。

 その頃にはリリナに群がっていた生徒は全員席に着いており、廊下の生徒も居なくなっていた。

 それでも、あのニヤついた男子生徒の顔は頭から離れず不快感を生み出し続けていた。







「リリちゃん!リリちゃん!今日皆でカラオケ行かない!?」


「え…良いんですか?

 今の私は何の曲も知らないんですよ?」


「良いの良いの!

 むしろリリちゃんの歓迎会なんだから、リリちゃんが居ないと始まんないよ!」


 リリナの歓迎ムードは放課後になってもまだ続いている。

 昼休みは机をどかして床に座って皆で食べようとしていたし、今もこうしてクラスの女子達がリリナを遊びに誘っている。

 基矢()が居なくなった時も心配してくれていたし、皆良い奴らだ。おかげでリリナもああして笑顔で居られる。

 親切にされたのはリリナなのに、ほろりと涙がこぼれてしまいそうだった。


「ありがとうございます…!」


「そんなに嬉しかった?ならもっと泣いて良いよ!好きなだけ泣いて好きなだけ笑った方が人生楽しいよ!」


 …あの女子悟りでも開いてるのか?発言の一つ一つが洗練されてる。

 まあ、あいつらならリリナを任せられるだろう。俺は先に帰ってリリナにお帰りと言う役目を貰おう。

 そうほっこりとしながら見ていると、リリナの表情が変わった。

 視線を辿ってみるとニヤけ系男子の奴が居た。またアイツか…

 温かい気分が一転。俺の心はモヤモヤした気候に変化する。


「……すみません、先約があるのを忘れてました。

 明日は土曜日ですし、一日皆で遊びに行きませんか?」


「ありゃ、そういうことならしょうがないね。

 じゃあ、また明日!」


「はい、また明日。」


 リリナはクラスメイトの群れから抜け出す。

 それを見たニヤけ系男子は指をクイクイ曲げると、廊下から去った。

 リリナはそれを追うように教室を出て行った。


「……あの人、なんだろうね。」


「ぅわっつ!?」


 まさかいきなり話しかけられるとは思っていなかったので変な叫び声をあげる。

 話しかけたのはジーナだった。


「ねえ、今の2人つけて見ない?」


「……いや、悪いだろ。リリナに。」


 丁度俺も尾行を思いついたところだった。

 が、そうしてはならないような気がした。


「…気にならないの?」


「気になるさ。

 でも、決めちゃったんだよ。リリナが言うまで訊かないって。」


 二度の呼び止めの答えが2人を尾行した先にあることはなんとなくわかる。でも、それを知るのはリリナが自ら話した時だ。

 それまでは彼女の口から聞くまでは訊かないし、探るようなこともしない。


「お得意の二言は?」


「封印だ。今回は二言を言うつもりは無い。」


「……二言製造マシンのマナがそこまで言うなんて…実はマヤと入れ替わってるの?」


「ちょっと今回の毒酷すぎない?4回は死ねるよ?」


 猛毒である。凄くポイズン。


「でも、マナがそこまで言うならあたしも止めておくよ。」


 触っただけで死にそうな毒を吐いた後とは思えない台詞だな。手のひら返しって訳じゃないけどそれに近い物を感じる。

 …俺の毒舌スキルも大概か?


「良いのか?」


「……マナ、あたしに尾行してほしいの?止めてほしいの?どっちなの?」


「あ、いや、結構あっさり引き下がったなと思っただけだ。決して尾行してほしいとかそう言う訳じゃない。」


「本音は?」


「すごく真実を知りたい。」


「素直でよろしい。」


「でも、さっき言ったように二言は封印だ。俺たちは先に帰ってリリナにお帰りって言う準備でもしよう。」


「それは良いね、じゃあ先に帰ろっか。」


 教室を出て行くジーナにカバンを持って付いて行く。

 お帰りって言う前に夕食の準備もしとかないとな…昨日はチャーハンだったし、今日は…あ。


「…そう言えばジーナ、地球で起きた出来事は全部知ってるんだったよな?」


「正確にはあたしが地球に来る前の出来事だけだよ。それがどうしたの?」


「なら一つ頼みがあるんだけどさ――――」


 今しがた思いついた案をジーナに言う。

 すると彼女は快く了承し、その案を実行に移すことが決定した。







「はぁ…」


 やっぱり、桝田さん(あの人)と一緒に居ると疲れる。

 すぐに調子の良いことを言って、事あるごとにかっこつけたりスキンシップを図ってくる。

 冗談だったとはいえ、家に招待されそうになったし…結構強引な人だ。

 夕食にも誘われたけど、もう家の夕食が出来てるから、と断って帰ってきた。まるで逃がさないと言わんばかりに食い下がってきたけど、どうにかいなせた。今日で一番勇気を使った場面だったかもしれない。


「ただいまー…」


 いつの間にか目の前にあったドアを開き、我が家へ帰る。

 記憶喪失だというのにこの場所に居心地の良さを覚えるのは“ここが私の家だから”という認識があるからだろうか。

 帰ってきた、そんな感じがして安心する。病院のベッドの上とは大違いだ。


「おかえりリリナ!」


「ただいま帰りました、ジーナさん。」


 迎えてくれたのはジーナさん。

 この人は自分のせいで私が事故に遭ったと思い込んで責任感を感じているからか、よく私に気を遣ってくれる。

 気を遣われ過ぎて私の方が申し訳なくなってしまうくらいだ。でも善意というか責任感から来る行動だと思うので強く止めることも出来ない。別に迷惑と言う訳ではないので良いけど。


「…マナさんは?」


 しばらく経ってもマナさんからの返事は聞こえてこない。

 もしかして外出中なのだろうか。それとも、部屋にこもっているのだろうか。


「ふっふっふ…マナはね…」


「ジーナ!準備出来たぞ!

 あ、リリナ!丁度良かった。ちょっとこっちに来てみろよ!」


 マナさんは自分の部屋から出てきた。どうやら後者だったらしい。

 しかし、丁度良かったとはどういうことか。疑問に思いながら手招きされるがままマナさんの部屋に入る。


「あ、あれは…」


 部屋に入った途端匂いがした。

 料理の匂いだろう。ただ一週間前から今に至るまで全く嗅いだことのない匂いだった。

 何の匂いなのか、気になって部屋を見ると奇妙な物があった。

 鍋に入った青白く光る液体。それに浮き上がる具材らしきもの。

 通常ならシチューかカレーと呼べるものだが、色彩が明らかにおかしい。

 でも、それにどこか懐かしさを覚えた。この懐かしさがより一層正気のようなものを削っているようにも思えるが…


「初めてだったけど、結構上手く出来たんだ。

 あ、味見はしてるぞ?この通り毒は無いしなにより美味い!」


 …信じられない。

 こんな着色料をふんだんに使用した料理の形をした何かがおいしいだなんて。

 青ざめながらクッションに座ると、2人も座ってその奇妙な液体を口に含む。


「やっぱりおいしい!」


「見た目こんなのだけど、おいしいよ!」


 2人の様子を見て、今日一番の勇気を更新してシチューモドキを口に運ぶ。


「……」


「…リリナ?」


「え、あ、えっと、口に合わなかったのか?そんなに食べたくなかったのか?無理に食べさせようとしちゃってゴメンな?」


「え…どうしたんですか?」


「だってリリナ…泣いてるよ?」


 頬に手を当ててやっと気付いた。

 涙の跡だ。

 確かにシチューモドキは美味しかった。泣く程嫌々食べたわけでもなかった。

 でも、この味にどこか遠い故郷を思い出すような味を感じた。二度と味わえないと思っていたような、そんな懐かしく、遠く、尊い味を…


「い、いえ…確かにこの料理はおいしいです。

 でも、何故でしょうか…何故か、涙が止まらないんです…」


「…実はさ、この料理記憶を無くす前のリリナが作ってたんだ。」


「私が…?」


「ああ、リリナの故郷の料理だ。

 時間はかかったけど、全部知って…リリナの料理を見たことがあるジーナに聞きながらなんとか再現できたんだ。

 味はリリナの方が上だけど。」


「リリナはプロみたいな味付けをするからね。

 それに対してマナは…どっちかと言うと家庭的な味付けだったかな。おふくろの味って感じ!」


「おふくろってお前…」


 おふくろの味。

 そう、まさにそれだ。私が言いたかったのは。


「…はい、そうですね。

 この味は、安心して、ほっこりして…素晴らしい味です。」


「あ、ありがとう…」


 照れくさそうに頬をかくマナさんの前で次々と匙を口に運ぶ。

 皿が空になるまではあっという間だった。

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