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あなたとわたしのネクロマンス

作者: 稚内夏目

「おはよう!今日もいい朝だね!」


シャーッ、元気よく開けられたカーテン。陽の光が煌々と室内を照らす。カーテンを開けたその人物は白衣を翻し、ベッドの中の彼女を覗き込んだ。


「ん〜、うるさいなぁ…朝からなんなの…」


布団の中で蠢く彼女。ぽりぽりと頭を掻きながら仕方なさそうに起き上がった。

真っ黒な黒髪の、線の細い少女。白の肌は血が通っていないかのよう。否、通っていないのだ。


彼女は死んだ。三年前に。誰にも気づかれないような山奥で、確かに首を吊ったのだ。それが悪かった。

彼女は何しろ、不幸体質であった。

たまたまネクロマンスがしたくなって、たまたま死体探しの為に、たまたま通りかかった変態ネクロマンサーの目に、たまたま止まり、たまたま連れ帰られてしまった。

この場合、誘拐罪になるのでは、と思ったそこの貴方。そう、そうなれば、彼女としてはきっといい結果になったはずだ。しかしそうにはならなかった。

彼女は天涯孤独であった。友人もいなければ、勿論恋人もいない。育ててくれた親戚は高校に入ると同時にある程度のお金を渡し、それっきり連絡もなし。高校も様々な濡れ衣を教師からの誤解で何度も着せられ、ついこの前退学になったところだ。バイトもしていた彼女だが、突如予告もなしに入れられたシフトを無断で休んだ、という理不尽な理由でクビになったのが半年前。そこから何度も面接を受けるものの、落ちる落ちる。

結局貯金も底を尽きてしまった。住んでいたアパートは、どうせ死ぬのだからと大家に明け渡し、少ない自分の荷物は身につけている衣服以外全て廃棄処分した。高校生一人を住まわせてくれた大家に対する彼女なりの配慮であったが、それは彼女にとって最高の不幸になる手助けに過ぎなかった。


彼女の首にはくっきりと縄の痕が残っている。首だけではない。手首と胸にもはっきりと傷が残っていた。

彼女は生き返らせられた後、幾度も自殺を図った。だが一度死んでいるのが運の尽き。血が通っていないので、刺しても刺しても意味がない。ちなみに痛覚もないので痛くもない。催眠薬を大量に摂取しても、劇薬を乱用してみても、海に身を投じようとも。必ず彼が回収し、傷を治し(痕は残る)、そして蘇生を繰り返す。

そんなことを半年前繰り返し、流石に諦め気味になったのがつい先日の出来事だ。諦め気味というのは死ぬことを諦めたという訳では無い。気味というだけで隙あらば自殺を図るし、死ぬ方法が見つかれば直ぐに決行する気もある。むしろそんなことができるなら教えて欲しいくらいだ。


「朝食作ったよ!食べて食べて!」


彼女の内臓は一応機能している。食べればそれを消化し、吸収もする。吸収した先について問うたところ彼の長々とした説明を延々と聞かされる羽目になったので、内容のところはよく覚えていない。

消化し吸収する、ということは排泄もする。だがしかし、その身体は衰えることを知らない。その原理に関しても聞いたが、彼の説明は理解しようと思ってできるものではなく、かなりの苦行を強いられるので、この体についての疑問は今後一切聞く気は無い。


「うわ、朝から手が込んでる…」


テーブルに広げられているのはこんがりといい具合に焼き目のついたトースト。目玉焼きは半熟で、黄身を割ればとろりと溢れてくるだろうと想像できる。その横に飾られた腸詰は、半分に割れば膜が破け、じゅんわり旨みが溢れ出す。湯気の立つスープからは煮込んだ野菜と鶏肉の匂いが鼻腔を通り食欲を刺激し、ぐぅとお腹がなってしまった。

手を合わせ、口へと運んだ朝食の味は相変わらず美味であった。今日のスープもそうであるが、夜遅くまで仕込みをしていることもあることを彼女は知っている。美味しい朝食を口にしながら、彼女はよく飽きぬものだと溜息を吐いた。


彼は科学者であるらしい。いつも難しい本を広げては沢山の物が溢れかえる部屋で何やら作業をしているようだった。

忙しげに見える彼だったが、話し掛けずとも向こうから突然構いに来るし、食事は朝昼晩の三食のみならず、おやつまで提供してくれる。ちなみに今日のおやつはパンナコッタ。昼はパスタとか言っていたかな。夕食はハンバーグらしい。今日は洋食デーだそうだ。

彼が仕事のようなものをしている時、大抵彼女は暇になる。その間、本を読んだり、勉強をしたり、気まぐれで掃除したり。ひたすら寝ている時もある。


「死にたーい」


そしてこれが始まる。突如として。


「もー、また言ってるの〜?生きてりゃいい事あるって〜。」


彼の研究の手伝いをしていた彼女は、突如としてそんなことを言い出す。

死にたいと言ってるんだから死なせろ。そうストレートに伝えた日には、これは僕のエゴだから僕のために生かしてるの。と返され、頭を抱えたことは今は懐かしい。


「現に生きてていいことなんてないじゃんばーか。」

「えー、そうなのぉ?でもご飯美味しいでしょ?」

「そりゃそうなんだけど…だって毎日同じことの繰り返しだしさ。」

「あら、ご飯気に入ってくれてるの?うれしー。」


能天気な彼にイラッときては分厚い本で頭を殴る。彼は石頭であった。このくらいのことではびくともしない。


「ほんっとにもー…ん?」


その時、ぴらりと1枚の紙が落ちた。そこには一言「術者が死ねば術も解ける」とだけ。術者が死ねば。つまり、彼女の状況に言わせれば、彼を殺せば自らも死ねる。


「どうかした?」

「…いや、なんでもない。」


拾い上げたその紙を、彼女はくしゃりとポケットに仕舞い込んだ。

死にたくて死んだのに何故か生き返させられちゃって、私どうなっちゃうのー☆な話を書いてみたかったので書いてみました。楽しんでいただけたでしょうか。

一応処女作(?)になると思うのですが、こんなものが処女作でいいのか?と頭を抱えている今でございます。

タグはどうしたらいいんだ、とか、これはラブロマンスなのか?と悩みましたがどうなのでしょうか?

短編書きたかっただけなのでこのお話はここでおしまいになります。あの2人がどうなったのかは貴方の想像にお任せ致します。

決して途中で力尽きたわけではございません。いえ、本当に。

次は明るい短編が書けたらな、とか考えております。

ここまで読んでいただき、有り難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラストは悲しいですが、物語としてはこちらの方が面白い気もします。
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