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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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90 ☆ 第二章:光輝く魔石 ☆


 そう、私は心の異世界転生者。だから何となく分かります。

 今のハイドさんは怒りに囚われている。何かがおかしい……何かが歪んでいます!

 彼は本当に正気なんでしょうか? 片目だけダイヤの紋章が浮かんでいる現状。とても安定した覚醒状態が続いているとは思えません。


 私はハイドさんと話をするため、足を踏み出します。

 ですが、その時でした。ぞっと背筋に嫌な感覚が襲います。

 ここからはバトルって言ってましたし、いよいよ攻撃開始ってわけですか。すぐに、ご主人様からテレパシーが送られます。


『テトラ、来るぞ!』

「お前ら下だ!」


 彼より若干遅れましたが、正確に攻撃の位置を伝えるモーノさん。これは性格の差が出てますね。

 ご主人様は翼を広げ、モーノさんは軽く飛びのきます。メイジーさんは鼻をひくひくと動かし、二人に遅れてその場から退避。私もバック転で華麗に逃げました。

 瞬間、足元から白とピンクのスライムのような何かが飛び出します。それは触手のようにうねり、私たちに絡み付こうと襲ってきました。


 が、私たち四人は既に退避。

 アリシアさんだけ右足を掴まれてしまいます。


「えー! なんで私だけ捕まるのー!」

「貴方が避けないからでしょ!」


 あっさりと持ち上げられ、宙吊りにされる彼女。メイジーさんに怒られますが、仕方ないでしょう。

 アリシアさんは注意力が足りませんし足も速くありません。ゲームで例えるのなら、鈍足アタッカーってところでしょうか? 一発一発は重いんですけどね。


 モーノさんは彼女を救うため、右手に魔力を集めます。

 あの白とピンクのスライム……甘い臭いがしますし、変幻自在のキャンディーで間違いありません。そうなると、敵は確実にあの二人でしょう。

 炎魔法を発動すればキャンディーは溶かせます。ですが、相手がそれを許しません。

 攻撃魔法を扱えるのがモーノさんだけと知っているのか。魔法を放つ直前の彼に、甘い甘い刃が振り落とされました。


「お兄たーん。邪魔しちゃダメダメ」

「ちっ……ハンスか……」


 彼は魔法を中断し、すぐさま自らの剣によってハンスさんの攻撃を受け止めます。流石はチート転生者、反応速度もチート級でした。

 前回と同じ結果になることを警戒してか、ハンスさんは剣をバンバン叩きつけていきます。

 魔法を使う隙を与えない。このまま一気に攻めきるという事でしょうか。まあ、どつき合いでもモーノさんが負けるとは思いませんが、今はアリシアさんの危険が危ない!


 私はメイジーさんと並び、彼女を救出するために動きます。対して、キャンディーはアリシアさんを引っ張り、煮えたぎった窯の上へと移動させました。


「ふふふー……お鍋でぐつぐつー。悪い魔女をぐつぐつー」

「ちょっと……! 良い子だからやめなさい! こんなのに入ったら火傷しちゃうよ!」


 ゲスな笑みを浮かべるのはキャンディーを操るマルガさん。彼女は錬金術に使う窯の前で、アリシアさんの調理に取り掛かろうとしていました。

 いきなりクライマックスじゃないですか! モーノさんはハンスさんと戦ってますし、私とメイジーさんは魔法を使えません。これはアリシアさんオワター!


「アリシア……!」

「まず一人だ! マルガ、さっさと窯にぶち込め!」

「おけおけー!」


 ハンスさんを力任せにぶっ飛ばすモーノさん。ですが、主人の指示を受けたマルガさんが、キャンディーを解いてしまいました。

 これは間に合いません! そう判断した私は回復薬を準備します。

 ちょーっと熱いかもしれませんが、湯攻めで即死はありません。速攻で回復させれば問題なしです!

 ですが、そんなの嫌に決まってるアリシアさん。彼女は涙目になりながら、土壇場で何かを取り出します。そして、それを口の中に放り込みました。


「はぐっ……!」

「あ……」


 窯へと落下する数秒。その僅かな時間で変化が起こります。

 アリシアさんが食べたのは、魔力を増幅させるクッキー。このとんでもアイテムの効果によって、彼女は魔法の発動が可能となりました。

 使えるのは巨大化魔法のマキシマム。その効果によって、アリシアさんは見る見るうちに巨大化します。


 やがて、巨人化した彼女はお尻から着水!

 着水と言っても、煮えたぎった窯なんですけどね……


「あああ……! あっついぃぃぃ!」


 あまりの熱さで暴れだす巨人。窯をひっくり返し、熱湯を周囲にぶちまけてしまいます。

 熱っ……! ちょっとちょっと! 敵味方関係なしですか!

 熱湯が尻尾にかかり「きゃいん……!」と叫ぶメイジーさん。お湯によって溶けたチョコレートが、顔面に引っ付くハンスさん。これだけでも酷いのに、熱さでアリシアさんが走り出します。

 お尻を抑え、狭い研究室で全力疾走。薬瓶も本棚も滅茶苦茶にぶっ壊していきました。


「おいおいおいおい! なんつー女連れてんだ!」


 まさに阿鼻叫喚。流石のハイドさんもこれには苦笑い。

 私たちから目を逸らし、彼は本棚から一冊の本を押します。すると、何らかの装置が起動し、一台の本棚が横にずれていきました。

 これは、隠し扉ですね。ハイドさんはその扉を通り、どこか別の場所へと移動してしまいました。

 誘っているのが見え見えです。でも行く! ここよりマシだもの!


「モーノさん! 追いかけますよ!」

「ああ、転生者の問題は転生者で方をつける!」


 シルクハットの少年を追い、私たちは隠し扉へと走ります。ですが、ただで逃がしてくれるほど敵さんも甘いお菓子じゃありません。

 マルガさんは新調したステッキを一振りし、キャンディーをこちらに伸ばします。まったく、しつこいですね。貴方たちの相手はしていられません!

 私とモーノさんは同時にジャンプし、飴の鞭を回避します。ですが、鞭はヨーヨーのように戻り、再びこちらに襲い掛かりました。


「美味しく料理してあげよ? 怖いことは何もないよ?」

「そういうこと言う奴はね……たいてい悪い魔女か狼なのよっ!」


 私たちを狙うキャンディー、それをたんきり飴のようにスパッと切断するメイジーさん。彼女の爪はまるでナイフのような切れ味でした。

 既に赤いビロードを脱ぎ、狼に変身している少女。シュタッと着地し、ハンスさんとマルガさんに向かって牙を光らせます。


「手筈通り、私とアリシアであいつらを止めるわ。モーノさまは先を急いで頂戴」

「悪い、頼んだぞ!」


 た……頼もしい! そして、この理想的な主従関係。憧れちゃうなー!

 一方、こちらのご主人様は本棚に腰掛け、ここまでの混沌を楽しそうに見ていました。頼みますから! やる気出してくださいご主人様!

 流石に申し訳ないと思ったのか、彼は再び蝙蝠の翼を広げます。そして、ハイドさんが消えた隠し扉の前に降り立ちました。どうやら、私の思考を読んでいるようですね。


「心外ではないか。私はやる気がないわけではない。やる気の方向性に若干ながらの違いが……」

「はいはーい、先を急ぎますよー」


 一刀両断! さっさとハイドさんを追いましょう。

 しょんぼりするご主人様の手を引き、モーノさんと一緒に扉を潜ります。続いていたのは細い坑道。ハイドさんによってダンジョンに改造されましたが、元々は鉱山でしたね。

 鬼が出るか蛇が出るか……まあ元となった言葉通り、転生者という人形が出るのが正解でしょう。

 罠に気を張りながら、私たちは坑道を突き進みました。












 細い道を抜けると開けた場所に出ます。

 そこの光景はまさに壮観。この世の物とは思えないほど幻想的な空間でした。


「わあ、綺麗ですね……」

「これは全て魔石か。旧鉱山と言えども、今の技術では全てを発見できなかったようだ」


 赤、青、黄、緑……何十色もの結晶が地面から何本も突き出ています。十、二十ではありませんよ。学校の体育館ほどの空間全てにぎっしりです!

 まさか、これが全て魔石なんですか! いったい何百、何千もの魔石が作れるんですか! 億万長者も夢じゃありませんよ!

 そうです。ハイドさんは錬金術師、その技術力を使えば魔石の発見も容易いでしょう。この空間を作ることも可能なはずです。


「第二章:光輝く魔石」


 なんて考えていたら、本人が姿を現しました。

 彼は先ほどとは違い、その両手に色取り取りの宝石が握られています。街で売っている物よりも粒が大きく、純度の高い魔石ですね。

 なるほどです。彼は知の異世界転生者、力の異世界転生者であるモーノさんよりも魔力は劣ります。

 ですが、この魔石さえあれば全属性の魔法がそこそこの力で撃てるでしょう。うへー、厄介なものですよ。


「どうだこの魔石は! 旧炭鉱でこの空間を見つけた時は震えたぜ……加えて、この空間だけじゃねえ。俺の技術力があれば魔石はさらに見つかる。もっと言えばなァ! 人工的に量産することも可能だ!」

「それがどうした。お前がいくら魔石を使ったところで、俺には遠く及ばないな」


 いえ、まあ……確かにモーノさんの力はチート。魔石程度で超えることは出来ないでしょう。

 ですが、そこじゃありません。最もヤベーのはこれが魔法ではなく、魔石というところです。


「バーカか手前はよォ! そんな事なんざ言われなくても分かってんだよ。重要なのはこいつが魔石という事……老若男女! 全人類が平等に使えるって事だよ! そこに魔力差は関係ねえ!」


 そうです。魔石というものはとても便利です。どんな人であろうと、そこそこの魔法を撃つことが出来るんですよ。

 それは、それは確かに平等と言えましょう。

 ですが同時に、誰でも平等に戦力になりえるという事です!


「軍隊アリって知ってるか? 俺は奴らこそが最強の生物だと思うぜェ……奴らは群れることによって、自分たちより遥かに大きい象だってぶっ倒すことが出来る。もう分かるだろ! てめえが象! 俺が軍隊アリの女王! 魔石と発明が組み合わされば、転生者すらも超える軍隊の完成だ!」


 や……やっぱり危険です! モーノさんなんて目じゃありません! ハイドさんは危険人物すぎます!

 彼は人々を巻き込もうとしていました。巻き込んで、その上で最強を名乗ろうとしているのです。

 確かに、これだけの魔石と発明があれば魔王に対抗できるかもしれません。ですが、それは確実に世界の歪みを大きくします。もう止められませんよ!


「ハイドさん……しつこいようですが何度も言います。もうやめてください! それが貴方の異世界無双ですか!?」

「ああ、そうだよ! これが俺の異世界無双……! 技術無双だ!」


 彼は両手に持ってい魔石を周囲にばら撒きます。やがて、それらから薄く光る何かが溢れだし、徐々に固まっていきました。

 まるで透明の粘土のようです。作られた形は四足歩行の獣。彼らは私たちを敵と認識し、一斉に取り囲みました。

 魔石はその物体の格となり中央に光ります。数は十を超えていますね……色もバラバラで魔石によって属性も違うっぽいです。


「魔石を改良して作った錬金獣だ。さーて、お手並み拝見だぜェ」


 常時怒っているハイドさんが嬉しそうに語ります。そんな彼をモーノさんはキッと睨みつけました。

 あー、そうですか。そうやって手駒を使って戦うってわけですね。分かりましたよ。

 魂を感じません。この物体は完全な人形。

 相手が生物ではないというのなら私、容赦しませんよ?


テトラ「前々から思ってましたけど、種と豆って何が違うんですか? 食べれると豆?」

ジェイ「豆はマメ科植物の種だよー。ながーい豆の木はナタマメをモデルにしてるらしいねー」

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