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流星のコッペリア ~チート嫌いの私と人形使いのご主人様~  作者: 白鰻
第五章 カップラーメン戦争勃発!
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89 ☆ 第一章:探求の始まり ☆


 ある老人は言うでしょう。

 私は世界の常識を変える結果を出した。お前も結果で示せと……


 ある執事は言うでしょう。

 貴方は大変な仕事を全うしました。その粘り強さを誇るべきと……


 ある商人は言うでしょう。

 俺はお前の奮闘を知らない。だが、周りを見ればそれは分かると……


 ある修道女は言うでしょう。

 街が少しづつ変わり始めました。貴方のおかげと気づいていますかと……


 ある少年冒険者は言うでしょう。

 それがお姉ちゃんのロマンなんだろ。なら、とにかく突き進め! と……


 ある少年魔道士は言うでしょう。

 オイラが好きになった虹色の街。お姉ちゃんなら守れるって信じてると…… 


 ある仕立て屋少女は言うでしょう。

 や……やりたいことを見つけたんです。その可能性を失いたくないと……



 たくさんの人と心を繋げ、たくさんの大切なものを受け取りました。

 それは大きな強みでもあり、大きな重荷でもあります。


 失うのが怖いのなら、初めから貰わなければいいのに……


 私の頭の中は今日も不毛な論議に花を咲かせます。











 道化衣装を身に纏い、仮面をかぶる転生者。

 頬には黄色い星のマークが光り、頭には二股帽子が乗せられます。

 これが私の戦闘衣装。ふざけているように見えるでしょうが、こっちは真剣なつもりです。


 旧炭鉱のダンジョン、それを目前にして私は呼吸を整えました。

 別に怖気づいたわけではありませんが、モンスターの住処に足を踏み入れるのには抵抗がありますね。ま、モーノさんたちが最下層まで攻略してるので、ボス戦まで一気に移動できるみたいですけどー。


「さって、準備完了です! 入る前に一つ言いたいことがあるんですけど」

「なんだ、手短に話せ」


 モーノさん、メイジーさん、アリシアさん、三人に対して私は思ったことを話します。

 彼らは私が余所事をしている間にもモンスターと戦い、ハイドさんへの道を切り開いてくれました。その感謝の意を少しでも伝えたかったのです。


「モーノさん、貴方は私の異世界無双は遅すぎる。誰も待ってはくれないと言いましたよね?」

「ああ、そうだ。だから、世界平和なんて不可能なんだよ」


 こちらが平和を望んでも、相手がそうだとは限らない。早足でなければ、すべて失ってしまうという事情があるのかもしれません。

 それでも、この世界には私の気まぐれに付き合ってくれる人がいます。

 すぐ目の前に……


「でも、貴方たちは待ってくれました」


 一緒に遠回りの道を選んでくれましたし、宮廷道化師として働く私を見守ってくれました。文句は言っても、やめてしまえとは誰一人言っていません。

 あはは……私って、本当に周りに恵まれていますよ。皆さんがいないとダメダメで仕方ないですねー。

 

「だから、今度は私がモーノさんたちに歩幅を合わせます。殺しは嫌ですけどね!」

「そうか……ま、適当に期待しておくよ」


 素っ気ない態度で激白を流すモーノさん。それでも、彼が喜んでいるのは何となく分かります。これでも、兄妹ですから。

 これから戦うハイドさんは五人兄弟の二男坊。モーノさんと同じで私のお兄さんです。

 なんか、次男って少し性格が歪んでるって偏見がありますよね。あ、私は次女だった。今のなし。


 とにかく、何とかしてハイドさんの心を掴みましょう。

 だって、私は心の異世界転生者ですから!











 ダンジョンの一階層、モンスターの現れない開けた空間。

 使い古されたトロッコが廃棄され、いたるところに魔石を掘りつくされた跡があります。完全に死んだ鉱山ですが、ご丁寧にランプに火が灯っていました。

 中央には美しく、大きなクリスタルが輝いています。モーノさんはそれに手をかざし、何らかの情報を読み解いていきました。


「何してるんですか?」

「このクリスタルには攻略記録が記されてるんだ。これを使って、攻略済みの中間地点まで飛ぶんだよ」


 アリシアさんが解説してくれます。異世界には便利なものがあるんですねー。

 まあ、私の知らないこの世界の常識があるのは分かります。層の深いダンジョンを途中から再開するのに便利なのも分かります。

 問題なのは、そんな便利な装置がわざわざセットされているという事でした。


「うっわ、これはハイドさん遊んでますね……」

「ダンジョンマスターを気取ってんだろ。俺たちを待つと言ってたしな」


 どこまでもゲーム気分ってことですか。上等です。ゲームは失敗があるからこそ成立すると教えてあげちゃいます!

 ま、そうは言っても攪乱するだけですけどねー。私には攻撃する手段がないので、こればっかりは仕方ありません。

 全てはご主人様の操作にかかっています。今回は距離が近いので操作も正確に……


「って、ご主人様なにしてるんですか!」

「すまない。採掘道具の仕組みを研究させてもらっていた」


 ふらふらと勝手に動き、トロッコの残骸を漁るご主人様。協調性の欠片もありません。

 本当に大丈夫なんでしょうか……まあ、一応悪魔なので、やるときはやると思います。それに、操作させてもらってるので文句は言えませんね。


 少しすると、モーノさんが触っていたクリスタルが光り始めます。

 いよいよって奴ですね。私はご主人様の手を引っ張り、モーノさんたちの隣に付きました。

 光は徐々に大きくなり、やがて私たちを飲み込んでいきます。

 さあ、来るなら来やがれです! 私たちの異世界無双をハイドさんに魅せつけてやりましょう!

 

「さあ、イッツーショータイムです!」

「テンション高いわね……」


 メイジーさんに飽きられながらも、私は光の中から飛び出します。既に移動は完了していて、目に映った光景は大きく異なっていました。

 ここは……研究室ですね。

 本がぎっしり入った本棚に薬瓶の置かれた机。中央には大きな釜戸が設置されていて、何らかの調合を行っていたと分かります。

 部屋の隅を見てみると、試作段階のカップラーメンが放置されていますね。やっぱり、ハイドさんはここでアイテムを錬成したんでしょう。


「第一章:探求の始まり」


 やがて、私たちの沈黙を晴らすように部屋の主が現れます。

 シルクハットを頭に乗せ、コートをマントのように羽織った少年。右目には青いダイヤの紋章が輝き、半覚醒状態にあると分かります。

 キトロンの街に現れた怪人ハイド。二番、『知』の異世界転生者。

 私たちは彼に対して戦闘態勢を取ります。ですが、それでもハイドさんは余裕の表情でした。


「待ってたぜェ……ここは俺のアトリエ、物語の始まりを告げる場所だ」


 第一章って、これ段階踏んで語っていく奴ですかね……

 前に会った時も一方的に話しまくってましたし、彼はお喋りなんでしょうか。ま、こちらからして見れば情報を貰えるから良いんですけどー。

 モーノさんたちは武器を構えます。ここは敵陣、いつ攻撃されてもおかしくありません。


「ハイド……街に大臣と聖剣隊が来たことは知ってるよな。これ以上、行き過ぎた発明を世に流すのはやめろ。この街を戦場にしたいのか?」

「遅かれ早かれ、この国は戦場になる。あのミリヤ国のようになァ!」


 戦闘態勢の彼らに対し、ハイドさんは理によって責めます。

 その口から出た言葉はミリヤ国。スノウさんの生まれ故郷であり、魔王によって滅ぼされた国でもあります。どうやら、ハイドさんは何か知っているようですね。

 

「俺だって、初めから現代知識無双をしていたわけじゃねえ。これでもミリヤ国でコツコツ薬作って人助けしてたんだぜ? だがッ! そいつは全部ぶっ壊された! あの、魔王ペンタクルになァ!」


 魔王ペンタクル……反カルポス聖国を掲げ、魔族のトップとなった男。この世界の知識に疎い私でも、流石に彼の名前は知っています。

 ハイドさんは直接彼と接触し、ミリヤ国の崩壊に大きく関わっていた様子。そう言えば、ジェイさんは大きな魔力のぶつかり合いを感じたと言ってましたね……

 以前から、二番の転生者とミリヤ国は関係ありそうだと睨んでいました。ここはぐいぐい突っ込んでいきましょう!


「ハイドさんは魔王さんに会ったんですね。彼と直接戦ったんですか!」

「ああ、戦ったぜ。足手まといの住民どものせいで負けちまってよォ! あー糞がッ! 思い出すだけでイライラするぜェェェ!」


 まさか、まさかまさか! 異世界転生者が現地民に負けたんですか! そんな事ってあり得るんですか!

 いえいえ、待ってください。一つ、可能性があります。ハイドさんが魔王に負ける一つの可能性。

 現在発覚してる転生者は一番のモーノさん、二番のハイドさん、三番のトリシュさん、そして四番の私。合計四人です。


 もう分かりますよね?

 一人足りないんですよ!


「ペンタクル・スパシ。皇位の魔族であるスパシ一族の末裔。バカでも感づいてると思うがなあ。奴こそが五番、技の異世界転生者だ!」

「やっぱ、そういう事だわな……」


 そうです。ハイドさんは五番の異世界転生者、ペンタクル・スパシさんに負けたんです。

 恐らく、住民たちを必死に庇い、平和のために死力を尽くしたのでしょう。この時点で、彼は間違いなく正義の味方だったはずです。

 分かりますよ。分かりますとも。ハイドさんは孤児院に支援を贈りました。根は良い人のはず。


 どこかで、何かが歪んだんです。


「朦朧とする意識の中、俺は思ったぜ……正しい力なんざ糞の役にも立たねえ! 魔王の力は魔族たちによる国家の力! こっちも国家レベルで対抗しねえと潰されるだけだってな!」


 彼の怒りが増幅します。私が『楽』を体現するように、ハイドさんは『怒』を体現していました。

 その沸々と煮えたぎる心を表すかのように、部屋の中央に置かれた釜戸に火が灯ります。炎は燃え上がり、やがて釜戸の水はコポコポと音を立てます。


「だからッ! 俺の発明で信者を増やし! この街を拠点に魔王に対抗する国家を作り出す! それが! 巡り巡ってこの聖国を救う事にもなるんだよ!」

「なに言ってるのこいつ……頭おかしいんじゃないの!」


 叫ぶハイドさん、罵倒するメイジーさん。ですが、私とモーノさんは渋々ながらも納得していました。

 本当に魔王さんが五番の異世界転生者なら、カルポス聖国はいずれ滅ぼされます。勝ち目なんてありません。それほど、転生者という存在はチートなんですから。

 加えて、ペンタクルさんは魔族を指揮する王。国家レベルの力がなければ、対抗すら出来ないでしょう。


 紛れもない正論。ですが、ハイドさんの言うように対抗した場合、間違いなくこの世界は二分します。

 カルポス聖国とペンタクルさん率いる魔族。その両方が衝突する世界大戦に発展するかもしれません。

 そんなの嫌です! そんなの私は望まない!


「そのためにこの街を巻き込むんですか。人が死にますよ……孤児院のみんなはどうなるんですか!」

「続きは第二章だ。ここからはお楽しみのバトルだぜぇ」


 私から目を逸らすハイドさん。明らかに、都合の悪い言葉を無視しているという感じでした。

 ふっざけんな……それが貴方の異世界無双ですか……? 本当にそんな結果を望んでるんですか!

 違う……絶対違う! 彼はそんなこと望んでない!


 押しつけではありません。

 これは確信。なぜなら、私は心の異世界転生者……


 心を偽っても無駄なんですよ!



テトラ「甘いお菓子の家に騙されちゃダメ! 人生は辛くて苦くて酸っぱいのです!」

ハンス「おけおけー(もぐもぐ)」

マルガ「ちょーりょうかーい(むしゃむしゃ)」

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